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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
1. 終わりなき旅

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1-15. またしても邂逅



 卒業式から3日が経った。

 カレンダー通りに、今日は高校受験の日。

 公立月雁(つきかり)高校は中学卒業を控えた受験生が集まっている頃合い、つまり在校生はお休みだ。

 今から1年前は自分がその場に居たのだと考えると、やっぱり時間が経つのは早いなと思う。

 あと1ヶ月もすれば、今度は自分もまた『先輩』と呼ばれる立場になるわけで。


「……はぁ」


 なんとなく、あの先輩や、あの同級生のようなタイプの子が入ってきそうな予感がして、ため息が出てしまった。


「まぁ、いいや」


 改めてスマホを見ようと思ったが、まだベッド脇の電源ケーブルに繋いだままだったことを思い出して、自分の部屋に戻る。

 現在時刻は9時少し前。

 待ち合わせの時間は昼前だったが、それまでの過ごし方に少し迷うところだった。


「お?」


 メッセージの着信がある。

 花村(はなむら)さんだ。


『朝ごはん食べた?』


「ん?」


 ちょっと意外な質問だった。

 まだ起きてから30分くらい。

 食事の準備もしていない。

 むしろ、これからどうしようかと考えていたところだった。

 そんな雰囲気のことをさらっと返せば、彼女からのリプライは先日と変わらずに早かった。


『だったらちょうどよかった』

『できたら控えめにしてきてね』


 それは別に構わない、のだが。


「……なんだろう」


 悪寒のようなモノを感じる。

 なんとなく、薄らと覚える、嫌な予感。


 たとえば何か、()()()()()()()()()()()をするような。


「いや、やめておこう」


 これ以上考えるのはやめておこう。

 できたらこれが余計な心配になって欲しいとかいう希望的観測を含めつつ、ケーブルからスマホを外す。


 とりあえず、食パンを薄く1枚だけ切って食べればいいか。


 それほど食べなくてもいいということならば、休日朝の食事レベルで充分だろう。

 そう思いながらキッチンへ向かった。


 ――このとき、もう少し野菜を食べておくべきだったと、後々悔やむことになるのだが。





             ○




 今回の待ち合わせ場所は地下鉄月雁駅。

 その改札口付近。

 ここまで来ることが苦になる人はいないだろうというアイディアに基づくらしい。

 ボクとしては、この後の予定が――大方予想は付いているのだけど、一応――確信できないので、ここが待ち合わせ場所になるのは少し怖かった。


 平日の昼だが、月雁駅は比較的乗降客が多い。

 区役所とか公的な施設が多い上に、区立の体育館もまあまあ近いところにあるせいだろう。

 ほぼ毎日登校している身とはいえ、平日のこの時間帯に来ることはほとんど無い。

 ちょっと新鮮な光景だった。


「ふう……」


 深呼吸、というかため息。

 だいぶ暖かくなってきた――と言っても、まだ気温はひと桁――空気を吸い込むと、少しだけ冷静になる。

 そのおかげで、あるひとつの疑問に辿り着くことが出来た。


「……花村さん以外に、誰がいるんだ?」


 完全に訊くのを忘れていたボクが悪いのだが、それすらも教えてくれなかった花村さんにも原因の一端はあると思う。

 あくまでも一端であって、大部分の原因はボクの不用心さなのだろうけど。


 仲條(なかじょう)さん経由でこの話が来たのだから、恐らく仲條さんはその中に含まれているはずだ。

 そうなると、硬式テニス部の集まりなのだろうか。

 仲條さんがいるのであれば、たとえテニス部単独の会であっても完全に孤立することはないはずだ。


 あるいは、1年2組の集まりだろうか。

 それに対して仲條さんが花村さんと仲が良いから呼ばれた、というパターンも無いこともない。

 しかしそうなると、いろいろと危ういところがある。

 前回の模擬試験終わりの打ち上げみたいな展開になりかねない。


 なんとなく胃がキリキリとしてくるような感覚に流されながらホームからの階段を上がって行くと、見知った人影を見つけた。


 ――仲條さんだ。


 幾分か春の装いになっている彼女は、その雰囲気に似合っている淡い色のコートにオフホワイトのパンツを合わせたコーディネート。

 穏やかな印象を持たせながらアグレッシブな雰囲気も纏う感じが絶妙だった。


 そして、彼女の横には花村さんがいる。


 目立つなぁ、というのがファーストインプレッション。

 通り過ぎていく男性は少なくともちらっとは視界に入れているのではないだろうか。そんな気がする。

 淡い色のジャケットは仲條さんとほぼ同じだが、こちらはロングスカート。

 以前教室でちらっと話したときの印象からすれば、ちょっと意外性がある装いのような気がした。


 他にも、恐らく同年代と思われる子たちの姿がある。


 ウチの硬式テニス部って、男子部員も居たよな。

 どう見てもあそこにいるの、全員女子なんだけれど。


 ――まさか、ボクが今から飛び込んでいくのは、あの集団なのか?


 朝以来のぼんやりとした嫌な予感を覚えつつ、そんな光景を遠目にふんわりと眺めながら近付いていくと、声を掛けようとするよりも早く、仲條さんと花村さんがほぼ同時にこちらに気付いて手を振ってきた。


「あ、()()()()()()!」


 ――ん?


「こっちだよー」


 ちょっとした違和感のようなものに気が付くと同時、向こう側でも動きがある。

 花村さんが仲條さんの脇腹を肘で小突きながら何かを耳元で囁いた。

 ぎょっとした顔を一瞬だけ見せた仲條さんは、まるで『ちょっと! 何言い出すの!』みたいな雰囲気で花村さんを小突き返そうとしたが、すべての攻撃を(かわ)される。


 ああ、なるほど。

 どちらかと言えば、花村さんの方が運動神経的には上位なのか。


 そんなことを考えつつも歩を進めれば、何やら咳払いをしたような仲條さんがこちらを向いて――。


「こっちだよー、……()()()()()()!」


 ――え?


 あ、もしかして、そういうこと?


 少しだけ歩く速度を上げてふたりに近付く。

 花村さんは実に楽しそうに笑っているし、仲條さんはちょっとだけ苦みを含めた雰囲気で笑っている。


「なにきょろきょろしてんのー!? こっちだってばー!」


 ああ、もう。

 元気な人だな。


 それでも、顔見知りがいるだけマシな状況なのだろうか。


 ここまで男子比率が低い場所に放り込まれるなんて思っていなかった。


「どもども」


 ジャブのように、軽い雰囲気で挨拶。


「ありがとねー、みずきくん」


「ごめんね、その……迷惑じゃ無かった?」


「それは全然。暇してたからね」


 実際、暇だったのは確かだった。

 最終的に予定が無ければ、工藤(くどう)さんのところに行って演奏を聴いてもらうか、あるいはヒトカラを装って家の近くのカラオケボックスで練習をしようかと思っていたところだった。


「これで全員?」


「や、まだ。もうちょっと来るよ」


「そっか」


 だからどうという話ではないけれど。


「ところでさ」


「うん?」


「今日って、何の集まりなのか、って訊いていい?」


 花村さんにそう問いかけると、絵に描いたように『あっ!』という顔をした。


「え。ちょっと、すみれ。もしかして海江田(かいえだ)くんに」


「んんっ!」


 セリフを遮断するような咳払いをする花村さん。


「……ミズキくんに言ってなかったの?」


「忘れてた!」


 ――いや、わざとでしょ、絶対。


 何となくそんな雰囲気を感じていると、ボクの視線に気が付いた花村さんは苦笑いを浮かべる。

 もはや、それこそが『答え』だと言わんばかりの顔つきだった。


「で?」


「えーっとね、この会は『ジャンボパフェ会』ですっ!」


「……やっぱりか」


 夢見が悪かったような感覚は、やはりこの予感だったか。


「っていうかさ、ボク、卒業式の日に行ったばっかりなんだよね」


「え、ホント?」


 申し訳なさそうに仲條さんが訊いてくる。が、花村さんは。


「でもさー。今ここにいる子たちの中だと、それってみずきくんだけっしょ?」


 これでもかと言うくらいに、聞く耳を持ってくれていなかった。


「ってかさー、ってかさー。経験者でしょ、みずきくん」


「……まぁ、一応」


 そういえば、そんな話を彼女にしたような気はする。


「だったら経験者らしく、引っ張ってよ」


「えー……」


 なかなかの無茶を押しつけてくる。

 他人の胃袋と根気はどうやったら牽引できるのか、誰かその方法を教えてほしい。

 いろんな意味で早くも疲れてきたような気がする。


「まぁ、他にも経験者は呼んでるから安心してよ」


「……え? それって」


「おーーい!!」


 そんな倦怠感と疑問を吹き飛ばし、それでも視線は独り占めにするような大音量で、男子の声が響いてきた。


「あ、来た」


「……来たかぁ」


 ふたりの反応を見る限り、残りのメンバーなのだろう。花村さんが苦い顔をして見せたのには若干気になるが、まぁいい。


 声のする方を振り向けば、比較的小柄な男子が改札を抜けて元気にこちらにやってくるところだった。

 どこかで見た覚えがあるような気もするのだが、どこだっただろうか。


「……え?」


 その答えは、彼の後ろから階段を上がってきた人の姿で判明した。

 判明してしまった。


 何だろう。

 どうしてこうも、あんなに離れていたはずの糸がいつのまにか絡みついたように、重なり合うのだろう。


 やってきたのは、花村さんのクラスメイトで吹奏楽部員の大政(おおまさ)歌織(かおり)と、同じく花村さんと同じクラスの御薗(みその)聖歌(せいか)だった。





ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


好きだねえ、この子たち。

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