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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
1. 終わりなき旅

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1-12. ささやきと、祝祭のはじまり


「ふふふ……」


 にじり寄ってくる里帆(りほ)先輩。

 何やら企んでいそうにも見えるが、それ以上に、なんというか、その――。


「な、なんですか」


「人肌恋しい疑惑のある先輩に、後輩クンから何か無いの?」


 里帆先輩の、甘えるような視線に、甘えるような声色。破壊力抜群すぎるんですけど。


 吹奏楽部を引退してから改めて伸ばし始めた髪は、――具体的に何というのかよくわからないけれど、高校1年の男子からすればかなりオトナの雰囲気があった。

 先輩には間違いないのだが、何となく優しい姉のような雰囲気だった里帆先輩の、今まであまり見たことの無い雰囲気と相まって、これはちょっとマズい。


 何なんですか、いったい。

 こんなエグいモノを、ボクだけに見せてくる理由って何なんですか。


 冷静になるには一旦視線を里帆先輩から外せばいいだけのことなんだろうけど、なぜかそれができない。

 ――というか、今ここで視線を逸らしてしまうと、今度は両サイドから浴びせられているだろう視線を真正面から受けることになってしまう。

 破壊力に限って言えば、明らかにそちらの方がボクの精神に対する殺傷能力は高いはずだった。


「こら」


「ぅぇい」


 つん、と頬に指が触れる感触。

 その拍子におかしな声が漏れた。


 そしてすぐさま耳元にささやく声は――。


「せっかく、ハグする権利くらいは、あげようと思ったんだけどな」


「……え?」


 それはどういう意味ですか、なんて訊き返す間もなく、里帆先輩は甘やかな香りを残して他の後輩たちの元へと向かって行った。


「ちょっと。今、先輩、何て言ったのよ」


 ぐいぐいと制服の袖口を引っ張りながら、神流(かんな)が訊いてくる。

 コイツの耳には入らなかったらしい。心底から安心する。


「いや、特に何も」


「……って言うだろうなと思ったわよ。いいわ、ミズキには全然期待してなかったから」


 ちょっとだけムッとしてしまうが、その通りだったので押し黙る。

 ここで変に文句を言うと余計に痛い目に遭ってしまうことくらい、百も承知だった。


「ねー、ハルカ先輩?」


「なぁに~」


「後でリホ先輩に訊きに行きましょーねー」


「合点承知っ」


 ああ、時々神流が江戸っ子のような口調になるのは、この人の所為だったか。


 今日何度目になるのか、もう数える気も無いため息をこぼしつつ、3月の青空を見上げた。






 一度体育館に戻って楽器の片付けなどを行い、再び生徒玄関に戻ってきたときにはお昼を少し過ぎたくらいになっていた。

 朝早くから集まって、演奏を行った上で式典にも出席し、なんやかんやで動きっぱなし。

 いい加減、おなかの虫を無視できなくなるくらいには、部員たちの空腹がピークになってきている頃合いだった。


「……おなかすいたー!」


 ――たー!! たー! たー……! と、玄関前のホールに神流の声が反響する。

 まったく、相変わらずよく通る声だ。

 本当に腹が減っているのかと思えるくらいにパワフルなその声は、神流らしさを存分に表していると言っても全然過言ではないと思う。

 きっとこれは、部員たちほぼ全員に納得していただけるはずだ。


「はいはい、もうしばらくの辛抱だからなー」


「はーい」


 ぽんぽんと肩を叩いてやると、想定外に素直なリアクション。

 少し拍子抜けしてしまったが、さらに騒がれるよりは余程良い。

 既にボクらは周囲の視線を(イヤ)と言うほどに独占してしまっていた。


 靴を履き替えて外に出れば、さきほどよりもさらに空気は暖かくなっている。

 日差しも春そのもの。

 先輩たちの門出としては、これ以上無いほどに絶好だった。


「かんなちゃーん、みずきくーん! こっちこっちー!」


「リホせんぱーーーい!」


 玄関ドアをくぐり抜けた瞬間に、神流が猛ダッシュ。

 そのまま里帆先輩にタックルをするように抱きついた。

 直前でしっかりと減速しているあたりは、さすがに『空気を読んだ』と言うべきなのだろうか。

 それでも、受け止めた先輩が数歩後ろに下がったので、あまり勢いを殺せなかったらしい。


「あれ? はるかちゃんは?」


「え? もう来てると思ってたんですけど」


「まだ戻ってきてないよー?」


「やば……。置いてきちゃったかもですね」


 3年生の先輩たちだけでの卒業パーティーのようなものはまた後日開催される――恐らく、国公立大学前期日程の合否判定が出た後だろうけど――という話を聞いていた神流と春紅(はるか)先輩は、雪まつりのときと同じようにボクを加えたメンバーで慰労会を開くプランを立てていた。

 卒業式当日に遊べるという先着1グループ限定の枠は、光速かと思えるくらいの素早さを見せたふたりが無事に確保。

 そんなわけで、今に至っていた。


 諸々のプランニングはすべて神流に一任している。

 こういうときに率先して動ける彼女を見るたびに、コイツが同級生で良かったなぁと再認識する。

 宴会部長ということではなく、この手の段取りをしっかりとしてくれる人というのは、ものすごく有り難みを感じるのだ。


「こらっ」


「痛っ」


 軽いスナップを効かせた平手がふわりとアタマに当たる感触。

 痛いと口から飛び出してきたものの、実際はほとんど痛くは無い。

 振り返れば春紅先輩が満面の笑みで仁王立ちしていた。

 案外機嫌は良さそうだった。


「先輩を置いていくとはけしからんヤツめ」


「すみませーん」


「ん、よろしい」


 間違いなく、機嫌は良い。

 置いて行かれたとも思っていなさそうだ。


「よーし、ハルカ先輩も来たところで、早速行きましょー!」


「おー!」「おーっ!」


「……ってどこへ?」


 右腕を高らかに掲げながら威勢良く返事をした先輩ふたりにつなげるように、神流へ質問を投げつける。

 ――ボクもふたりに合わせるように手を上げてしまっているのは、ちょっと恥ずかしいけれど。

 でも恐らくこれを無視すれば、神流か春紅先輩あたりが『ノリ悪い!』と怒鳴ってくるのだろうけれど。



「そりゃもう。こういう打ち上げと言ったら、あそこっしょ?」


「……あぁ」


 ――なるほど、そういうことか。


「さすが、段取りイイな?」


「でしょー」


「予約済み?」


「とーぜんっしょ? っていうか、ミズキもこれだけでよく察したわね」


「まぁな」


 ワンパターンだもの。


 それでも、とくに問題は無い。

 心の準備はし終わった。

 行き先さえわかってしまえば、あとは神流にくっついていくだけだ。




       ○




 地下鉄に乗り市内を南下すること5駅分。

 着いたのは、毎度おなじみと言ってしまってもいいかもしれない、三番街(さんばんがい)駅。

 その名前の通りに市内中心部に位置する星宮(ほしのみや)中央(ちゅうおう)駅とその周辺地域に並んで、この街有数のショッピングエリアだ。


 昨年のクリスマスはこの駅からほど近いところにある弓張(ゆみはり)公園(こうえん)内の音楽ホールで、吹奏楽部強豪校の定期演奏会を聴きに来たり、雪まつりも行われたりと、最近何かとお世話になっているエリアだった。


「カンナちゃん、次どっち?」


「こっちですっ」


 改札を出て、これまたいつも通りな地下街を歩いて行く。

 ボクらをしっかりと先導する神流の足取りはとても軽い。

 相当楽しみにしていたんだろうなぁ、なんて思ったりする。

 あるいは、高校生同士という立場ではもう遊ぶこともできないということを実感して、ちょっと張り切っているのかもしれなかった。

 生徒玄関から出てきた直後に里帆先輩の気持ちをダイレクトに聞かされては、さすがに少しはセンチメンタルな気分になったりもする。


「……いや。どうだろう」


「何が?」


「あぁ、いえいえ。ただの独り言ですよ」


「……気になるなぁ」


 危ない。春紅先輩が完全に聴き取れているとは思わなかったので、少し焦る。

 あまり巧くかわしきれていないような気もしたが、春紅先輩の意識は神流の後に付いていくことに向けられていて、これ以上の詮索はされなかった。


 ――本当に、助かった。


 こんなこと弁明しろ何て言われたら、里帆先輩はともかくとして、残りのふたりがそれはそれは清々しいほどにねっとりとした笑みを見せて追求してくるに決まっている。


「っていうか、もしかして今日の行き先ってさぁ」


「あ、気付きました?」


「一応ね。……ああ、やっぱり」


 里帆先輩と神流は知らない間にかなり前の方を歩いていたが、そのふたりがスッとビルに直結している入り口に入っていった。

 今月のアタマ、雪まつりの帰り。

 ディナータイムに立ち寄ったパフェのお店が入っているビルだ。


 そりゃあ、察しますよね、と言う話だった。


「……()()()()()()()()、って話は聞いてないんですよねぇ」


「え、ちょっと待って瑞希(みずき)くん。それどういうこと?」


 珍しく焦ったような声を出す春紅先輩。

 一本とまで行かなくても、その半分くらいは取れたような気がして、ボクは満足しながらふたりの後を追った。


 ――追いついてきた春紅先輩に、軽くヘッドロックのようなものを喰らったのは予想外だったが。






ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


わりといつもイイ反応をしてくれる後輩男子は、ついいじりたくなってしまう乙女心のようなもの。

そんな気持ちを察していただければ幸いです。

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