告白パラドックス
SSバトル企画 参加作品です。
投票募集期間期間 :2009年 4月22日〜4月29日
企画の説明:
・読者参加型の企画です。参加作者は3000字以下のSSを書き、それに対して読者は投票をします。
・参加作者は六名。一対一の対戦カードが三試合、すべてタイマンとなります。参加読者の投票権は一組に対して一票。つまりひとりにつき全三票です。
・得点の計算は一票につき+2点。評価欄に書きこまれた時点で+1点。
つまり票を入れると、その時点で書き込んだ(1点)+一票(2点)で計3点となります。
また票を入れるほどじゃないけど気に入った、という作品があれば評価欄に書き込みを残してもらえれば点数に繋がる仕組みです。
・また、強制ではありませんが投票してくださる読者の方には、出来る限り点数(☆)を入れない感想の形で書き込みをしていただけるとありがたいです。
読み手を多く募集する企画として、ランキングに悪影響を与えてはならないだろう、とのご指摘がありましたので、このようなルールを追加しました。
・投票基準は
「SSとしてどちらの方が個人的に面白かった(好みだった)か」です。
◎投票は客観意見(批評等の観点)ではなく、主観意見(『自分にとってどれが一番良かった』)でお願いいたします。
・投票期間は作品発表から一週間です。
投票期間が終了しましたら、サイトで個人戦の勝者と全体の得票差による順位も発表したいと思っています。
・投票の形式上、事前の企画参加等の意思表示は必要ありません。
この小説の対戦相手は
「阿武都龍一」の『十字路にて』です。
作品検索は
「SSバトル企画」
「ノンジャンル」からどうぞ。
“――好きなんだ、南さんのことが!”
“――初めてあった日からずっと、君のことを見てたんだ”
“――そう……だけど、僕には南さん以上の人なんて考えられないんだ!”
“――ええと、うん…………そうだね”
“――でも、僕は君のことが好きなんだ。誰よりも、君だけが好きなんだ。だから――”
…
――どこかで耳障りな音がする。
雲一つ無いまさに晴天の空。吹き抜ける風が心地良いここは学校の屋上。
普段は生徒立ち入り禁止の場所だけれど、今日ぐらいは許されるだろう。
昂る高揚を抑制するように、努めて冷静に僕は自分の状況を独白してみたりする。
なぜ興奮を自己抑制しているのかと言えば、それはそのまま僕の高騰理由に繋がるのだ。
僕の感情が嘗て無いまでに昂り、それを抑えなければならない理由は――僕と向かい合う一人の少女だった。
「えっと……どうしたの、かな、南さん?」
転落防止のフェンスに指を絡める少女に僕は言った。常套句だと思うけど、一応これは言わなければならない。
綺麗な長髪を揺らし、小さな顔が僕へ向く。
「好きなの……あなたが」
真っ直ぐな瞳がそれを告げた。
その言葉に意識が飛びそうになる。
こんなシチュエーションだから、少しは期待していたけれど。……けれど、まさか本当に……本当に告白されるなんて……!
夢でも見ているのでは無いかと思った。いっそ真偽の確認に拳を喉へぶちこもうかと思った、が、しかし今はそんな道化を演じている場合ではない!
鏡が無いから実際どうか解らないけど、僕は冷静に普段の表情を保った。
「……その、そう……なんだ」
上手く言葉に出来ない。ああ! 何をやってるんだ僕は!
「ずっと見てたんだ……。アハハ、それじゃまるでストーカーね」
内心で暴走する僕に南さんはそんな嘲笑染みた言葉で追い討ちを掛けてくる。
くすくすと笑う姿は言いようもなく、その、可愛い。
「そんなことないよ! その、嬉しいよ……少しでも僕のこと気にしてくれてたなんて」
顔が熱くなるのが自分でも解る。
こんな体験は初めてなものだから、自分の口から出る言葉が全部知らない誰かの言葉みたいだ。一度脳の中で整理する間もなく、直ぐに口をついてしまう。何だか臨死体験みたいだ。自分自身を他人の様に見ている気がする。
「そっか。そう言ってもらえるのは嬉しいわ」
微笑んで首を傾ける。
腰の後ろで組んだ腕、前屈みの姿勢と上目遣いで見上げてくる瞳。
そのどれもが僕から理性を奪い去っていくみたいで、自分の意識と体が別物みたいに感じられる。
青い空。流れる雲。
澄み切った空の色はまるで今の僕の心象を具現化している様。
そういえば僕はまだ返事もしていなかった……
「僕も、南さんのことは好きだよ……。うん、ずっと僕も好きだったんだ」
その言葉は届いたのだろうか。
そよぐ風に流れる前髪を押さえる南さん。
美人だけにそんな何でも無い仕草さえも今世紀ベストショットにノミネートされてしまいそうだ。今の僕の心境も少なからず関係しているのかもしれないけれど。
一陣の風が過ぎるほどの間。ややあって、
「――そういえば、まだ返事を言ってないよね、北くん」
閉じていた目を半開き、南さんは呟く。
その言葉から、先刻僕が口にした台詞が彼女に届いていなかったと思い知る。……まったく、ここ一番で腑抜けな自分が嫌になる。自分の気持ちくらい、はっきりと言わなきゃいけないと思うんだけどな……。
「ええと、うん……そうだね」
よもや、もうさっき言ってしまった、とは言えない。これは神様が僕に授けたやり直しの機会なんだろう。なら、その恩恵に与ることにしよう。
深呼吸を一つ。リハーサルなら済ませている。
――後は、この気持ちを言葉にするだけ。その何でもないことを実行するのが、何故か難しい。
なかなか言葉を紡がない僕に見切りをつけたように、南さんの視線はフェンス越しのグランドへと投下される。
「わたしはね、北くん。恋人には妥協したくないと思ってるの」
南さんの視線は空に向いていた。
今にも背中から羽を生やして人間の到達し得ない天上の世界へと旅立ってしまいそうな、そんな遠い姿。或いは、月へ帰らなければならないかぐや姫が夜空を見上げるような。
僕は一先ず口を閉じ、彼女の言葉を聞くことにした。
「――この意味、わかるでしょ? 北くん」
問いかけるように、諭すように。
優しい口調と柔らかな笑顔が僕にそう告げる。
その表情で、何となく僕は緊張が解けた気がしていた。
勿論自分が憧れていた少女に告白されたという欣喜や興奮は消えてくれないけれど、最初ここへやってきた時と比べれば、僕の精神は比較にならないほどに安定している。
どうして、気づかなかったんだろう。
……僕は南さんのことがずっと好きだった。ずっと憧れていた。
けれどそれでも――――だというのに、それだけ想っていた相手の気持ちに僕は気づけていなかった。憧れることに必死だったからかもしれない。ただひたすらに、遠くにある蜃気楼が綺麗だったから見つめていただけかもしれない。
嗚呼そうか。きっと僕は怖かったんだ。
蜃気楼、夢。それは実体が無く、決して触れられない存在。だから恋しいモノ。
僕は一人の少女に憧れて――幻想を見ていた。
その幻想を、守っていたかった。
触れてしまえば消えてしまいそうで、だからこそ手を伸ばすことを恐れた。その弱さを隠すために憧れ、なんて綺麗で都合のいい言葉を持ち出していたんだ……
でも、それでも、
――――僕はこの気持ちを、言葉にしなければならない。
「……うん。そうだね。南さんの言う通りだよ。ありがとう。でも、僕は君のことが好きなんだ。誰よりも、君だけが好きなんだ。だから――」
南さんは何も言わずに近づいてくる。
「――南さんさえ良かったら、僕と付き合ってください」
華奢な体は僕の前で歩みを止める。
どこまでも優しい笑顔を僕へ向け、
それだけでこれ以上必要な言葉が無いと理解するには充分だった。
本当に、夢みたいだ……
「――バカね。そんなの、あるわけ無いじゃない」
…
ぼんやりとした視界。まどろむ世界。
どこかで、ジリリリ、という耳障りな音が鳴っている。
ここは……どこだろう。
朧な思考で自分の置かれた状況を確かめる。左右に首を振って――ここが自分の部屋だと思い知る。
…………なるほど。
思い出したのは、さっきまで自分が見ていた景色。
学校の屋上。憧れの人を前にした――昨日の放課後。
「……そっか、思い出した」
ああ、そうだった。本当に告白したのは……僕の方なんだ。
自分の未練が嫌になる。こんな都合のいい夢を見てしまうなんて……。
一世一代の告白シーンその最後を明確に思い出す。
“――南さんさえ良かったら、僕と付き合ってください”
どこまでも優しい笑顔を僕へ向け、
“バカね。そんなの、あるわけ無いじゃない”
ぱあん、という音と共に僕の頬は痛みを訴えた。
「本当に……全部夢だったらよかったのに……」
在り得ない願いを呟いて、僕は目覚まし時計を黙らせた。
(告白パラドックス/了)
作者ブログにてあとがき公開予定です。(4月21日)