ざわめきの影絵。
ざわめくような漆黒の影絵。
誰もかれも手持ちの時間がない。
ほんの一瞬のすれ違い。
それだけで、寂しがり屋の心に染み込んでくる。
もう少しだけ、早く走れたら。
諦めるに足りる理由に鍵を掛けられたなら。
操れないのは現実と知ることができたなら。
人々の諦めの行進の道連れに、辛辣な歴史が延々と伸びている。
許されるなら、瞬きも永眠の畔まで伸ばして。
自由への飢餓を和らげて。
しかし、私には時間がない。
現実を操るなんて、傲慢にも程がある。
見るべきじゃなかった。
もっと早く走れたなら。
もう、私の心に乗り込んでいる。
ざわめくような影絵に、くり貫かれたような目が光る。
惨めな姿を見て、誇らしげな顔をした私を見た!
違う、私は知らない!
私には時間がない!
食い逃げされる死骸の最後の記憶。
私がもっと早く走れていたなら。
私のとびっきりの醜い顔が、最後の記憶。
もう、時間がない。
ざわめきの影絵を道連れに、暖かい家に帰っていく。