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だんぢょんくえすと  作者: アッサムてー
8/8

 「あははは、いや、ごめんごめん。

 ほんとに知らないんだなぁって思ってさ」


 腹を抱えて、死ぬ寸前の無視みたいにピクピクしながら、小林はなんとか絞り出すようにしてそう言った。

 小林の言うことには、能力値などを表示してくれるチップ、そう俺たちが産まれる前に埋め込まれている、それのバージョンアップを行えば、ゲームで言うところのフレンド登録や簡単な情報の交換など、任意の人物とやりとりできるということだった。


 「神様たち(アヌンナキ)も、とっても勉強熱心でね。

 その国ごとで受け入れやすい仕様に細々と変えているんだ」


 「へぇ、どうすればいい?」


 「えっと、まずは――」


 そうして、小林の指導のもと俺と彼女は二人の間だけで情報のやりとりができるよう、設定を変更した。

 そして、このダンジョン地図をスクショしたようなものを彼女へ転送する。


 「ほとんど、携帯端末と変わらないな」


 「凄いよなー。でも、こっちは普通のネットとか出来ないし。

 情報交換のための掲示板もあるけど、それぞれ独立してるし。

 だから、やろうと思えば政府関係者に知られることなく、情報交換もできる。

 まぁ、神様たちには筒抜けだけどさ」


 それってかなり不味いんではないのか。

 それとも政府側は、神様たちが知ってるからいいや、という考えなのか。


 「へえ、掲示板」


 「そう、ダンジョンマスター向けというか専用の掲示板の一つは、悪質な挑戦者のブラックリスト化されてて、当然顔写真なんかも上がってるから便利なんだ。

 そう言えば、君も知ってるだろ?

 もう何年も前だが、悪質なバラバラ殺人事件があっただろう。

 それに関連したその後の痛ましい事件、それらを受けてダンジョン内でのそういった事件への対処というか対応に関して、ルールが変更された。

 さっき話した特殊部隊もそのひとつだ。

 俺は、法律については詳しくないが、要約すると日本国内で起きた事件はちゃんと捜査されるようになった。その時の捜査資料として、ダンジョン内に基本設置してあるカメラでの記録、その提供を義務付けられるようになった。

 まぁ、でも」


 そこで、小林は言葉を切った。


 「でも?」


 俺は先を促す。


 「裁判に正義は求めちゃいけないってことは、変わらなかったんだなぁ」


 「それって」


 「ま、今は司法の話より現状の打開だ。

 ついつい長話をしてしまった。

 神乃木、君もおじさんが心配だろう?

 乗っ取り犯への対応は、表から入ったプロに任せてこちらは巻き込まれた人達の避難誘導にあたろう」


 てっきり、ショートカットで乗っ取り犯の元へ行って、一網打尽にするのかと思えば、違った。


 「君も気づいているだろう?

 神乃木があの高橋という女性に指摘した通り、この資料には不備がある。

 作成した人には悪いが、この資料は信用できない」


 小林はキッパリと言った。

 そして、俺の目を真っ直ぐに見つめ、覗き込むようにしながら続けた。


 「そして、信用できないと言えばあの高橋という女性を含めた黒スーツのもの達だ」


 どうやら、俺と同じ違和感というか疑問を小林も持っていたようだ。

 

 「小林もやっぱり変だと思ったか?」


 「ということは、神乃木。

 君も怪しんでいたのか?」


 俺は首肯した。

 政府関係者だと言うわりに、あの人達は大切なことをしていなかった。

 自己紹介が口頭のみだったのだ。

 社会人で、さらに政府関係者というそれなりの地位がある人物達が、何故、名刺を渡してこなかったのか?

 そう、これはまだ父親が生きていた頃の記憶であり、そしてそれは両親が揃っていた頃の記憶でもあり。

 俺がダンジョン運営の手伝いをしていた頃の記憶だった。

 ダンジョンマスターがダンジョンを運営する場合、政府関係者からの接触から全ては始まる。

 その時、ステータスカードの簡略版とでも言うべき名刺が手渡されるのである。

 それが、少なくともいまの日本ではマナーであり、常識となっている。

 余談だが、政府関係者達はそれぞれが受け持つダンジョンマスターへ、税金を使ってそれぞれの名刺を作ってくれたりもする。

 その名刺を、俺は高橋と名乗ったあの女性から貰っていないのだ。


 「さて、何がどうなっているのやら。

 おお、そうだ。

 もうひとつ、面白いことを教えてあげようか神乃木?」

 

 「なに?」


 「政府関係者を疑っていたのは、俺たちだけじゃない」


 「どういう事だ?」


 「まぁ、仲間がいるということだ」


 仲間。

 小林には、仲間がいるらしい。


 「それって」


 俺が、小林に仲間について訊こうとするが、当の彼女は俺が送ったマップデータのチェックに入っていた。


 「ふむ、なるほど。

 テナントの入ってる階が、ここから一番近いのか。

 真相も気になるが、俺たちの仕事は人質の救出だ。

 神乃木、君はいまここのマスターだ。

 誰がどこにいるかわかるだろ?

 確実に助けていこう」


 俺は息を吐き出して、それからダンジョンマスターとしての能力、いや機能を発動させた。

 

 「そうだな」


 言いつつ、このダンジョンの全体図を目の前の空間に浮かび上がらせる。

 出現した立体映像のそれを、小林は見た。


 「平面図よりこっちの方が分かりやすいな。

 取り残されてる挑戦者の現在地を出してくれ」


 俺は、立体映像の地図に触れる。

 そして、指を滑らせた。

 すると、それだけで地図上に赤い点と青い点が現れる。

 赤い点には【DEATH】の文字。

 つまり、ダンジョン内での死を表示していた。

 それを見た小林が鋭く叫んだ。

 

 「神乃木!! ダンジョン設定を確認!!

 挑戦者達に関する設定だ!! 早く!!」


 俺は、また指を滑らせる。

 現れたのは、初心者でも簡単に操作できるようになっているメニュー画面。

 

 「嘘だろ」


 確認して、俺は続く言葉を失くす。

 何故なら、挑戦者設定の項目が切られていたのだから。

 つまり、このダンジョン内にいる人物たちは、挑戦者ではなくただの一般人ということになる。

 このダンジョン内で死ねば復活はまずありえない、ということだ。

 俺はすぐに叔父さんの現在地を検索する。

 叔父さんは青で示された。

 つまり、生きているということだ。

 俺はホッと息を吐き出した。


 「全知全能、ダンジョンマスターのスキルでも把握は困難なのか?」


 先程の声の鋭さはどこへやら。

 小林が俺を見ながら、そんなことを言ってくる。

 確認しているようだ。

 俺は答えた。


 「例えになるけど、会社の経営者が社内のイジメを即座に観測できると思うか?」


 そう、ダンジョンを掌握、支配したとしても細かなところはチェックするまではわからない。

 このダンジョンの神様となったとしても、それは同じだ。

 完全無欠ではないのだ。

 そもそも、そんなことが出来るのならサポートキャラの存在など要らなくなる。

 人間の脳では処理が追いつかなくなる、という理由もある。

 

 「なるほど、把握するという点では俺と変わらないのか」


 彼女は理解してくれたようだ。

 小林はダンジョンマスターとカンストはしていない。

 しかし、経験はある。

 ダンジョンマスターとして、ダンジョンの全てを把握できるか否かを彼女は知っているはずだ。

 しかし、カンストしているわけではないので、俺の保有するスキルがどこまで万能なのか分からなかったのだろう。


 「死者は何人だ?」


 「……全部で、えっと、十二人」


 「詳細情報、だせるか?」


 「ち、ちょっと待って」


 死者のリストを出して、小林が絶望的な声を出した。


 「そんな、嘘だろ」


 俺も言葉が出なかった。

 何故なら、死者の十二人全員が先程正面入口から突入した人達だったのだから。

 彼らにいったい何が起こったのか、それはわからない。

 ただ、言えるのは、彼らはダンジョンの設定を直したとしても、もう生き返ることはない、ということだ。

 なぜなら、一般人として死んだのだから。

 そうして死んだ後に、いくらダンジョンの設定を直したところで、その過去は覆らない。

 何故なら、その時、その一瞬ではたしかに挑戦者では無かったのだから。

 俺は、この事実に恐怖しながら、震える指を滑らせて設定を変えようとする。

 取り残されてる人と、叔父さんと、そして俺たちが死なないように、設定をやり直そうとする。

 でも、その捜査を設定画面は受け付けてくれなかった。


 「なにが、どうなってるんだ」


 わけがわからなくて、俺はしらずそう零した。

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