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第十話 迷わし神

 ちょっと神社に行ってスケッチでもしよう。

 そう思い立って出かけたのは数時間前のこと。

 二対の灯籠があるお社、大きなスタジイの神木、フェンスに囲まれた小さな祠、設置されている遊具など、ここには被写体がいっぱいある。

 時には立って、時には地べたに座り込んで、時にはベンチに座って、僕は夢中で描き続けた。

 何を描くにしても描いている最中は主に木陰で、だ。暑い日差しの下、何時間も絵を描くのは自殺行為だ。熱中症になどなりたくはない。それに、深緑の葉を生い茂らせている木々の下は思っていたよりも涼しかった。

 辺りでは蝉の声が鳴り響いており、それ以外の音は特にしない。

 人っ子ひとりいない夏の神社で、僕は黙々と絵を描き続けた。

 そして、気づけば時刻は正午近くになっていた。

「さて、キリもついたし帰るとするか」

 道具を鞄の中に片付ける。よいしょ、と腰を上げてぐぐっと背伸びを一つして、僕は家へと向かうために歩き出す。

 砂利道を歩いて境内出ると、とん、と背中に何かが当たった。

「何だ?」

 足を止めて後ろを振り向いたが何もない。辺りを見回しても何もない。

「気のせいか……」

 再び家へと向かって歩き出す。その距離は五分もかからない。歩けばすぐに辿りつける距離だ。


 ……そう、そのはずなのに。

「……何故だ!」

 道端で僕は叫んだ。だが気にすることはない。何故なら、周りに僕以外人などいないのだから。

 それにしても、おかしい。どう考えてもおかしい。さっきからずっと歩いているのだが全然家に着かない。どの道を歩けばいいのかわかっているはずなのに、ぐるぐると同じ場所を彷徨っている。

 スマホを取り出して位置情報を確認しながら歩こうとしても、何故か位置情報が反映されない。

「……使えねぇ」

 チッと舌打ちをする。自分の言葉遣いがいつもよりも悪くなっている気がしなくもないが今はしょうがない。

 ただでさえ家に辿り着けなくてイライラしているのに、この暑さがそれに拍車をかけているからだ。

 炎天下、一応帽子は被っているのだがそんなこと関係ないといわんばかりにギラつく太陽と灼熱のコンクリートの道は僕から体力を奪っていく。

「こんなことなら、水持ってこればよかったな……」

 そう思っても後の祭りだ。辺りを見回しても自販機なんてものはないし、そもそも財布を持ってきていない。このままでは本当に熱中症になってしまうかもしれない。

 ふらふらと覚束ない足取りで歩いていたが、限界を感じてついに地に手を付いた。

 ……うん、そろそろヤバいかも。

「斯くなる上は……」

 スマホを取り出してとある番号を打ち込んで電話を掛ける。

 この年になって迷子だなんて恥ずかしかったから家に電話をするのは憚れていた。だが、もうそうは言っていられない。家に電話してばあちゃんに迎えに来てもらうという最終手段を使うしか方法はなかった。……まあ、それも電話機能が使えればの話だけど。

 頼む、繋がってくれ!

 心の中で祈りながら電子音を聞いていると、ぷつりとコール音が切れた。

「もしもし?」

「つ、繋がった!」

 半分ぐらい繋がらないかもと思っていたから、実際に繋がって驚きのあまり叫んでしまった。いや、繋がらなかったら完全にアウトだったけど。

 よかったよかったと一人ほっと安堵の息を吐いていると、電話口で相手が「もしもし?」と戸惑い気味に聞いてきた。

 ……ん?あれ、ばあちゃんの声じゃない。

 一旦冷静になって考える。耳に聞こえてきたその声は、明らかに祖母のものではなかった。

 まさか……いやでもあの声は絶対……。ああ、ばあちゃんでも恥ずかしいというのに!

 そうであってほしくないと現実逃避をしている間にも、その人は電話を切ることなく話しかけていた。

「もしもし?」

「……あ、ごめん、にきだけど。……つゆりさん、だよね?」

「はいそうですよ」

 頼むからそうでありませんように、と心の中で祈っていたが願い虚しく。本人にあっさり肯定されて「ああ、やっぱり」と項垂れた。そりゃそうか。願っても現実などそうそう変わるはずもないのだ。

 とまあ、現実逃避の時間が終了した僕のことは置いておくとして。

 向こうは向こうで「ああ、やっぱり」と何処か嬉しそうに言った。

「さっきの声を聞いて、にきくんかなって思ったんですけど……一瞬だったし、もし聞いて間違ってたら恥ずかしいなぁと思って聞けませんでした」

 電話越しでつゆりさんが恥ずかしそうに笑う。ああ、和む。……じゃなくて。

「えっと、因みに、僕が間違えてつゆりさんの家にかけたってわけじゃないよね?」

「いえ、違いますよ。今お婆様が料理の支度している最中でして……手が離せなくて出られなかったので私が電話に出たんです」

「……ああ、そうなんだ」

 よりにもよってつゆりさんが電話に出ると誰が予想できただろうか。少なくとも、僕には予想できなかった。

 男のプライドを捨てて助けを求めるべきか否か……。

 無言になった僕に「どうかしましたか?」と彼女が訊く。そんな風に優しく訊かれれば、「別に」などとそっけなく言えるはずもなく。

 それに何より男のプライドなんかよりも自分の命の方が大事だ。

 そう結論付けて、か細い声で僕は言う。

「実はさ……家に帰れなくて……」

「帰れない?」

「そう。何でかわかんないんだけど、同じところをずっと彷徨っちゃって……家に辿り着けないんだ。因みに、僕方向音痴じゃないから」

 誤解を招くのもあれなので、先に言っておいた。

「あ、そうなんですね。もしかしてにきくんって方向音痴なのかなぁと一瞬だけ思ってしまいました」

 ……既に招きかけていたようだ。

 あはは、と苦笑いをしつつ、気を取り直して僕は話を続ける。

「スマホの地図アプリも機能しないし……いったいどうなってるのかさっぱりで……。あの、悪いんだけど迎えに来てもらえるとありがたい……です」

「わかりました」

 つゆりさんは馬鹿にすることなく直ぐに快諾してくれた。彼女が優しい人でよかったとしみじみと思う。もし管狐に助けを求めようなら、絶対に馬鹿にされそうだけど。

「それで、今どこにいるかわかりますか?」

「場所は――」

 辺りを見回して場所を伝える。彼女に「直ぐ行きますからそこで待っててください」と言われて僕は電話を切った。

 頼む、つゆりさん。早く来てくれ。

 朦朧とする意識の中で祈る。

 ああ、今ならぶっ倒れていた河童の気持ちがわかる。……尤も、僕はまだぶっ倒れるところまではいっていないが。

 あの時に無視しようとしてごめんよ河童。

 僕は心の中で河童に謝りながら、彼女が来るのをじっと待っていた。


   *


「お待たせしました!」

 電話をして何分か経った頃、前方から彼女が走ってくる姿が見えた。その姿は後光がさして見えた。

「……女神だ」

「何か言いましたか?」

「何でもないです」

 掠れた声で呟いた言葉はつゆりさんには聞こえなかったらしい。彼女は小さく首を傾げた後、その後ろからひょっこりと何かが顔を出した。

「若、生きてるっすか?」

「河童……何でお前がここに?」

 それは、先程僕が懺悔した人物もとい妖怪だった。

「何でって、救助隊っすよ!ちょうど家に寄ったら、若が死にそうになってるってお嬢から聞いたんで一緒に来たんす」

「……つゆりさん?」

「あ、あまりにも電話口の声が弱々しかったので、つい……」

 じとりと彼女を見遣れば、眉を下げて申し訳なさそうに顔を伏せた。

 ……うん、まあ、いいんだけどさ。

「でも、思ったよりも元気そうで安心したっす。人間はおいらたちよりも寿命も短いし、体も弱いっすからね。特に若はひょろっこいですし」

 ひょろっこいって何だよ。

 反論したかったがそんな元気なんてなかった。

 僕の反応を見てつゆりさんがさっと手に持っていた水筒の蓋を開けた。

 差し出された水筒を手に取り、ごくごくと飲んでいく。お茶かと思った中身は、スポーツドリンクだった。喉の渇きをそれで潤している間も、彼女は水で濡らしたタオルで首元を冷やしてくれて、河童はぱたぱたと団扇で仰いでいてくれた。

「……はあ、生き返ったー」

 ぷはっと水筒から口を離して、深く深く息を吐いた。僕の様子を見て、よかったよかったと彼女と河童がほっと胸を撫で下ろす。

 そんな二人を見ていてふと僕は気がついた。こんな暑い中走ってきてからか、彼女の前髪は汗ではり付いてしまっていたし、河童の頭の皿は少し水分がなくなっているようだった。

 迷惑をかけてしまったという思いが僕の心を占めた。

「二人とも、ごめん」

「どうして謝るんですか?」

「だって、迷惑かけたから」

 どうしてこうなってしまうのだろう。

 なるべく人に迷惑をかけないように生きていきたいと思っているのに、実際には上手くいかない。一人で何とかしたくでもどうすることもできなくて、結局他人を頼ることになってしまう自分が情けなくて仕方がない。

「本当にごめん」

 頭を下げると二人は慌てふためいた。

「そんな、謝らないでください」

「そうっすよ。ほらほら、顔を上げるっす!」

 言葉のみならず物理的に河童に顔を上げさせられた。水掻きのついた手はひんやりとしていて、何とも言えない感触だった。

 ……って、感想を言っている場合じゃなくて。

「痛い、痛いよ河童!」

 急に顔を上げさせられたせいか、首がぐきっと嫌な音を立てた。

 抗議すれば、河童は拗ねたように口をとんがらせた。……いや、奴の口は嘴だから元々とんがっているのだけど。

「いやあ、このままだと若が一生頭を下げる人生を生きていくことになるかもしれないと思ったんでつい。これはもう強制的に上を向かせるしかないかなぁと」

「いやいや、そんなことにはならない!というか、そんな人生御免だ!」

「はっはっは、そいつは失礼いたしやした。いやなに、若が水臭いこと言うんで、ちょっと揶揄いたくなってしまったんすよ。まあ、体臭的に水臭いのおいらの方なんすけどね」

 快活に河童が笑う。僕は首元をおさえながら、「お前なぁ……」と呆れた。その時、隣から包み隠すことなく笑い声が聞こえてきた。

「……つゆりさん?」

「あ、ごめんなさい。にきくんが元気になってよかったなぁと思いまして」

 ……まあ、確かにさっきは反論する元気もなかったけど。

 なんだかなぁと思っていると、つゆりさんが僕を真正面から見てきた。

「でも、河童さんの言う通りですよ」

「え?」

「迷惑をかけただなんてそんなこと気にしないでください。大切な人を心配するのは当然のことなんですから」 

 それに、とつゆりさんは続ける。

「迷惑をかけたことを悔やんでも仕方がありません。勿論、悔やむことも大事でしょうけど。でも、その後が大事なんです。迷惑をかけたと思うなら、心配をかけたと思うなら、そのことを悔やむよりも、その人が困っていた時にその人のために自分ができることは何か考えて行動すればいいんですよ」

 まあ、この言葉はお婆様からの受け売りなんですけどね。

 照れくさそうにつゆりさんが微笑む。彼女の言葉がすとんと僕の中に落ちてきた。

 僕は他人に迷惑をかけることが嫌だ。心配をかけることも、だ。

 でも、こうして心配してくれる人がいることが嬉しいと感じていることも事実で。

 ――まあ、生きているモノは皆、何処かで孤独を感じているものなんやろうけど。

 ばあちゃんの言う通りだ。何だかんだで僕も孤独を感じていたのかもしれない。だから、心配してくれる人たちがいてくれることが嬉しいと思うのだ。

 俯いていた僕は顔を上げる。真っ直ぐつゆりさんを見つめた。

「ありがとう」

 言葉を伝えると、彼女は蕾が綻ぶようにふんわりと笑った。その笑顔が眩しくて綺麗で、顔に熱が集まっていくのが自分でもよくわかる。

「あれ、にきくん。まだ顔赤いですけど大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫大丈夫」

 顔を覗き込んでくる彼女から逃げるようにふいと顔を逸らす。すると、視界に入った緑色がニヤニヤと笑みを浮かべていることに気がついた。僕は恥ずかしさを誤魔化すために付け足すようにその緑に声を掛けた。

「あ、あと河童もありがとう」

「いえいえ。いやー、よかったっすー。若がおいらのことも忘れないでいてくれてー」

 目を細めながら河童が大きな声で言った。


「それでは、にきくんが一息ついたところで。家に辿り着けない原因についてなのですが……」

 ……ああ、忘れていた。元々それが原因で熱中症になりかけていたというのに。まあ、それどころじゃなかったから仕方がないか。

「ちょっと失礼しますね」

 一言断りを入れて、つゆりさんは僕の背中の方に回った。そして、「ああ、やっぱり」と頷いた。

「ごめんなさい、この人から離れてください」

 彼女は突然僕の背中に向かって頭を下げた。

 すると、すとんと何かが背から飛び降りたのを感じた。

「え?何か付いてた?」

「付いていたと言いますか、憑いていたといいますか……」

 つゆりさんが困ったようにそれがいる方を見遣る。僕もその視線を追った。

 確かに、何かいた。でも、それは蜃気楼のように直ぐに消えてしまった。一瞬見えた小さな影は僕を見て笑っていたような気がする。

 何が何だかよくわからなくて首を傾げる僕に、つゆりさんが声をかけてきた。

「説明は後にして、そろそろ帰りましょう。お婆様も待っていますし」

「……そうだね」

 彼女の言葉に頷く。無駄に体力を使ったし、早く家に帰りたい。

 よいしょ、と立ち上がったら足元がふらついた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫」

 そうは言ったけど、覚束ない足取りで歩く姿は何処からどう見ても大丈夫じゃないだろう。

 困った様子で僕を見ていたつゆりさんが「そうだ!」と手を叩いた。そして、くるりと河童を振り返った。

「河童さん、お願いできますか?」

「任せるっす!」

「え……え?」

 理解できていないのは僕だけらしい。目配せをした二人を見つつ、いったい何が起こるんだろうと思っているとふいに浮遊感を感じた。

「うおっ!」

 突然のことで酷く情けない声が僕の口から零れ出た。

 いやでも仕方がないじゃないか。だって、河童が僕よりも短いその手で、僕を持ち上げたのだから。まるで重量挙げ選手がバーベルを持ち上げるかのように頭上に高々と。更に言えば、軽々と、だ。

 ……そう言えば、河童は力持ちだったなぁ。この前ばあちゃんに頼まれて重い荷物を運んでいたのを見たし。

 そう、河童が力持ちなだけだ。断じて僕がひょろっこいからではない。そう、断じて違うのだ!

 などと、僕は頭の片隅で現実逃避をすることしかできない。絵面的にかっこ悪すぎるし、何よりつゆりさんの前でこんな姿を晒すなんて恥ずかし過ぎる。……まあ、醜態を晒すなんてこと、今更だと思わなくもないが。誰だって男としては女の子の前で情けない姿を晒したくはないだろう。好意を寄せている人なら尚更だ。

 尤も、当の彼女は僕のそんな葛藤など露ほども知らないのだろうけど。

「よっし、それじゃあ行くっすよ!」

「行きましょう!」

「うわあっ――!」

 高々と声を張り上げた河童が走り出し、彼女がそれに続いた。

 二つの掛け声の後に聞こえた叫び声が誰のものかなんて言うまでもない。


   *


 クーラーは偉大な発明品だと思う。だって、こんなにも涼しい空間を作り出すことができるのだから。

 そんなことをしみじみと思いながら、クーラーの効いた涼しい食卓で、皆で昼食を取っていた。

 家に帰れてよかったと一人で内心安堵しつつ、ばあちゃんお手製のきゅうりの漬け物を噛み締める。

 ずずず、とお茶を啜りながらばあちゃんがのんびりと説明し始めた。

「にきちゃんは迷わし神に憑かれてたんよ」

「まどわしがみ?」

「迷い神とか巡り神とも言うっすねぇ」

 ぽりぽりときゅうりをかじりながら河童が補足をする。

「え、神様が僕に憑いていたってこと?」

「神は神でも、人を迷わせる神だよ。普通は町境や村境の境界に現れるんやけどね」

「いや、町境までは行ってないんだけど……」

「うーん、神社のこっち側と向こう側ではやっぱり世界が違いますし……多分、その境界で憑かれたんじゃないでしょうか」

 つゆりさんの仮説を聞いてなるほどなぁと納得する。確かにそれまで何ともなかったはずなのに、神社を出た後に道に迷ったからだ。

「というか、そんな神様がいるのか……」

 仮にも神という名がついているのだから冒涜しちゃいけないのはわかっているけど、ここはあえて言わせてもらおう。

「迷惑な神様だなぁ」

 溜息を吐く僕を見て、ばあちゃんが「大変やったんやねぇ」と笑った。いや、笑い事じゃないんだけど。

「迷わし神は黄昏時に出るもんなんやけどねぇ。まさか昼間から出るとはねぇ」

「やったっすね若。レアケースっすよレアケース」

「……全然嬉しくない」

「でも、にきちゃんはまだいい方よ。つゆりちゃんなんて、小さい時に憑かれたんよ。勿論電話なんて持ってなかったし、しかも夕方に憑かれたせいで夜になってもずっと歩き回っとったんよ」

「え!」

 驚いてつゆりさんを見遣れば、当の本人は「そんなこともありましたねぇ」と他人事のようにご飯を頬張っていた。

「しかもその時はクダを家に置いてきてしまっていましたしね」

「だ、大丈夫だったの?」

「はい。迎えに来てくれた方がいたので。でも、どちらかと言えば、騒いだ父を静かにすることの方が大変でした」

「それはそれは……」

 当時のことを思い出したのか、つゆりさんが遠い目をした。

 どうやら彼女の父はかなりの親バカらしい。

 僕の父さんは親バカという訳ではないが、基本放任主義なくせに変に過保護なところがあるから彼女の気持ちがちょっとだけわかる。

 深く溜息を吐く僕たちを、ばあちゃんが苦笑いを浮かべながら窘める。

「まあまあ。それだけあんたたちが大切ってことさ。迷惑かけたり心配かけたりできる相手がいるのは幸せなことなんよ。まあ、迷惑をかけたり心配をかけたりしたら、その分恩返しして、相手が困っていたら同じように助けたらええんよ」

 わかったね?

 僕とつゆりさんをじっと見つめながら、確かめるようにばあちゃんが告げる。

「うん、わかってるよ」

「はい、わかってますよ」

 そう答えた後、チラリと僕とつゆりさんは顔を見合わせる。そして、二人してくすくすと笑い合った。

 なんせ、ばあちゃんが言った台詞はさっき聞いたばかりのものだったから。

 突然笑い出した僕たちをばあちゃんは不思議そうに見ていた。

「なんか、おんなじような言葉をさっき聞いたっすねぇ」

 ぽりぽりぽり。美味しそうに生のきゅうりを頬張りながら河童が独り言のように呟いた。

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