第九話 竜と騎士
───ワイバーン討伐戦当日───
晴天の空を雲が流れていく。兵士たちは、戦闘の準備を黙々と済ませている。その中にはもちろん美空とイヴもいる。ロゼは空を見上げ、流れる雲を見送っていた。
「とうとうこのときが来たか」
ロゼの隣にゆっくりとリトニスがやって来た。
「心配か?」
「まぁ、うん。心配だよ」
視線を美空達に向ける。
「大丈夫だろう。とはいえ、確信はないが」
一方のイヴと美空は心配されていることに気づかないで、ずっと準備を済ませていた。イヴは刀が欠けてないか何度も確認した。確認を済ませると刀を磨いて鞘の中に納めた。美空は弓の弦がしっかりと張っているかどうか何度か確認した。矢の本数に関しては余ると思って本数の確認はしていない。
「兄さん、私たちを気にしてそう……」
独り言を呟いたつもりのイヴ。
「ロゼ、心配そうにしてるね」
美空はこちらを見ているロゼを見て呟く。
「戦闘に影響しなければいいのですが……」
「大丈夫だと思うよ。多分」
二人は馬に乗り、他の兵士達の集まっている門の前に向かった。ロゼ達もそのあとに続く。
門番の兵士が門を開けた。
「出陣!!」
リトニスの号令と共に一斉に門を出ていった。美空は号令を聞いた途端に吹き出しそうになった。
草原を駆け抜け、一同は森の中へ。リトニスとロゼの指示に従い、馬を歩かせる。意外なことに森の中ではセミが鳴いていた。時より吹く風は涼しく感じた。
「しかし、セミがうるさいね。夏でもないのに」
ロゼが困った表情を浮かべ、呟いた
「最近、この辺りでよく発生するらしい。理由は不明だそうだ」
「音が拾えなくて困る」
「飛んでいれば音は───」
リトニスの言葉を遮り、ロゼが全員に指示を出した。
「止まって!」
「どうした、ロゼ?」
「来た!」
ロゼの言葉通り音が聞こえてきた。その音は次第に大きくなる。やがて、大きな影が姿を表し、兵士全員を影が覆った。目の前の灰色の巨大な生き物がこちらを睨む。
「わぁ……」
美空は目の前にいる本物の竜を見て感嘆した。
「見とれてる場合じゃないですよ!」
兵士たちは馬から降りて武器を構えた。感嘆していた美空も少し遅れて弓を手に取った。
(作戦はまず、羽から落とす)
リトニスから教えられた通りに、翼に狙いを定め、弦を引き絞り、弓を構える。美空はすぐには射たなかった。
ロゼはワイバーンの足を狙う。ワイバーンの両足が作る輪をくぐり、内側から右足を斬りつけた。バランスを崩すことはできなかった。その後、リトニスが左足を斬りつける。それでもバランスを崩さないワイバーン。
弓を構えたままの美空は、二人の攻撃がすんだあとに矢を放った。矢は翼をかすっただけだった。それに続き他の兵士たちも弓を放った。しかし、どれもワイバーンの生み出した突風によって弾かれた。
今度はリトニス、ロゼ、イヴの三人が一斉に攻撃をしかけた。ワイバーンの両足を三人が斬っても、ふらつくことなく平然としている。
「なかなか倒れないな」
リトニスがそびえ立つ大きな影をみながら呟いた。
「かなり強力な武器があればよかったんだろうけど」
冗談を言うようにロゼが言った。しかし、場を和ませることのできるものではなかった。




