第七話 期間と時間
ロゼに呼ばれた美空は、会議の事についての説明を受けた。
「……ということなんだ」
説明を聞いて美空は、不安そうに呟く。
「いきなり竜退治……。大丈夫かな?色々と」
「大丈夫だよ。……多分」
大丈夫とは言い切れないロゼにますます、不安になってくる美空。
「とりあえず、馬術を覚えてもらはないとね」
「馬術?」
馬術と聞いて美空は、ちょっとした事故を思い出した。
祭りのとき、弓道部は必ず部員一人をやぶさめに参加させなくてはならない。参加した美空は、移動中に馬が暴れてしまい、振り落とされてしまった。
これの恐怖からか、美空はぶるりと震えた。
「僕たちは遠いところでの任務は基本的に馬に乗って移動するから、馬を乗りこなさないといけない」
「馬……かぁ……。あんまりいい思い出がないや」
馬が一頭、美空を見つめていた。この茶色い馬は、女王から渡されたものらしい。
「……なんか、怖い」
ぶるぶる震え始める美空。流鏑馬をしたのは中学一年の春。つまり約四年前の話だ。
「乗る前から見つめられてたら、……私でも怖いですよ」
イヴは美空の気持ちが分かるらしい。
「まるで昔のイヴみたいだね。ミソラ」
「……」
笑いながら二人を見るロゼ。美空は馬に乗り手綱を掴む。
「ミソラは、馬に乗ったことある?」
ロゼの質問に、凍りついたように固まる美空。
「いっ、一回だけ……」
涙声っぽい声になり、美空が答える。
「ミソラさん、もしかして馬に乗るのが怖いんですか?」
「こ、怖い、かも。暴れ馬に振り落とされたから……」
「暴れはしないだろう」
三人の様子を眺めるリトニスが音もなく現れる。
「じ、女王様。なぜここに?」
突然現れたリトニスに驚き、そして動揺する三人。
「様子を見に来ただけだ。何か、問題でも?」
首をかしげ、不思議そうに尋ねたリトニスに美空が言う。
「問題はないですよ‼別に‼」
そう言いながらロゼはリトニスに近づき、耳元で聞く。
「リトニス。外に出てきすぎだと思うけど……?」
「城にいても退屈なんだ。外を回りたくもなる」
「街中で女王様が騎士に話しかける時点で問題だよ。周りから不愉快に思われるかもしれないし」
「考えすぎだ。私は君だけは死なせたくないからな」
「だからって……」
低く、威厳のある声がロゼの言葉を遮った。
「こんなところにいられましたか女王様。さぁ戻りますぞ」
「あ、こら、ヴェルヴ‼私はまだ話終わってないぞ‼」
美空は異様な光景を目にしていた。騎士が女王様を無理矢理つれていく様子を、自分の馬と共に。
「ヴェルヴ元騎士長、連れていくならもう少し優しくしてください。我々は見慣れてますが、国民からすれば異常ですよ」
「こうでもしないとまた逃げられてしまうので仕方のないことです」
───どれだけアウトドア派なんだこの姫様は。
ロゼは心の中で突っ込む。
「失礼しましたな、それでは」
ヴェルヴはリトニスを担いで去っていった。担がれたリトニスはじたばたと暴れる。
「……さてと、ミソラに馬術を教えないとね」
「「切り替え早っ‼」」
いきなり、指導に戻るロゼに二人は同時に突っ込む。
そんなことがありながらも、乗馬はなんとかなりそうと言えるところまで覚えた美空。
―――ワイバーン討伐戦まであと二日―――