第六話 日常と兆し
ラグニクス王国第五支部の会議室。青白く光輝くこの部屋に、ロゼ・グリトニスとイヴ・グリトニスを含めた十五人がここに集まった。
「全員、集まったか」
青を貴重としたドレス姿の(美)少女は一人一人を見渡す。確認が済むと、少女は「よし」と呟く。この少女こそ、ラグニラス王国女王、リトニス・ラグニクスである。
「今回はどのようなご用件で?」
早速ロゼが呼ばれた理由を切り出す。
「君たちに、竜退治を依頼したい」
リトニスの一言に息を飲んだ。
「『バハムート』なら、ロゼ達が始末したのでは?」
白髪の五十歳を過ぎた顔立ちで黒服の男性が言う通り、リブが犠牲になってしまったが、『バハムート』なら、ロゼ達が倒した。……はずだ。
「それとは別だ、ヴェルヴ。今回君たちには『ワイバーン』を討伐してもらう」
火竜ワイバーン。ロゼの読んだことのある書物によると、王国レベルの国を丸々一つ焼き払う事ができる竜だと書かれていた。
「『王の予言』で、『ワイバーン』がこの国に災厄をもたらすと予言されたんですか?」
ロゼの隣に座る、イヴが問う。
「ああ。予言では、あと三日ほどでこの国に災いが訪れる」
「三日……」
ロゼがうつむき、呟く。
「どうかしたか?ロゼ」
「あ、いえ、何でもありません」
リトニスは首をかしげ、うつむいたロゼを気にしたが、ほっといて続ける。
「まあいい。それぞれ、対策を練ってくれ」
リトニスが「解散‼」と力強く言って、十五人は一礼して、部屋を出た。
屋上でロゼは、ベンチに座ってうつむいていた。
「はあ……」
ため息をつき、肩を落とすロゼ。
「疲れているようだな、ロゼ」
下を向いていたロゼに、リトニスが話しかける。
「疲れてる訳ではないですけど……。心配なんです」
周りに人がいると、変な噂が流れそうなので、敬語で話す。
「今は、誰もいないし、敬語じゃなくてもいいぞ。それで、何が心配なんだ?」
ロゼは念のため回りを確認して、いつも通りの口調で、幼馴染みのリトニスに自分が不安に思う事を語る。
「新人の女性騎士の事だよ」
女性、か。と、リトニスが繰り返す。
「腕は良いんだけど、まだ少ししか経ってないから」
「人を見る目がお前にはあるんだ。気にすることはない」
それは、いろんな人から言われるからいいだろうけど、問題はそこじゃない。
「まだ、馬術とか色々教えないといけないのに」
「……そうか」
こんなにも早く竜退治が始まるとは思ってもいなかったから、教えるのを後回しにしていた。今から三日で覚えられるものでもない。
「何もないといいけど」
ベンチから立ち上がり呟く。
誰一人として……犠牲を出したくない‼
リブの死後、ロゼはそれだけを望んでいる。
「そうだな」
屋上を去ろうとしたロゼを、リトニスが呼び止める。
「ところで、その新入りの女性とは誰の事だ?」
「青木美空。昨日僕と一緒にいた子だよ」
そうだったなと、思い出したような表情になりながら、リトニスは分厚い本を読み出す。その頃にはロゼはその場を去っていた。