第四話 イヴとリブ
朝。普段なら、イヴが朝食を作っているのだが……
「あれっ?イヴ、どうしたの?」
イヴはソファーに座りうつむいていた。
「……何でもないです。ちょっと昔のことを思い出しただけで……」
……昔、ねぇ。
イヴが立ち上がり、台所に歩いていく。
「朝食、すぐ作りますね……」
イヴは淡々と野菜を切り、皿に盛り付け、卵をフライパンで焼き始める。
「……」
突然、手を止めて火元から離れるイヴ。
「イヴ?」
イヴの頭の中でメラメラと燃える森が浮かんだ。
―――森の中。
「さすがにまずくないですか?」
額から血を流し、肩を押さえるイヴ。
「ああ、非常にね」
彼らの目の前には、竜がいた。竜は、傷だらけのイヴを襲う。
「くっ……」
今のイヴには避けるすべなど無かった。
……こんなところで、私死ぬの?
イヴは諦めたかのように自分の死を悟る。
「イヴ、危ない!」
そう叫びながら、走ってきたのは薄めの青い髪の少女リブだった。
イヴの目の前まできたリブはイヴを突き飛ばす。
「リブ……?」
彼女は笑っていた。彼女は、竜の振った腕に吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。
「ぐっ……あ……」
リブの近くの木が何本か折れ、地面に落ちるリブの上に倒れる。
「リブ!」
ロゼが動き出そうとしたのと同時にイヴが動く。竜はロゼに向かって飛んでくる。
「……呪血魔術」
突然として、ロゼの目の前に赤い魔方陣が現れ、ロゼを通過して消える。
通過すると同時にロゼの姿が変わる。紅い髪に黒っぽい赤色の目に変わる。
「さぁ、決着をつけようぜ」
―――一方、イヴは―――
イヴは重い木をどかすため、木を持ち上げようとしている。しかし、重すぎてピクリとも動かない。
「イ……ヴ……」
弱々しくリブが呼び掛ける。リブの体は今、あちこちの骨が折れている状態だった。
「……リブ。……何で私を庇ったの?……何で……」
イヴは問う。涙を浮かべて。
「あなたには……生きて……ほしかったから。……お兄さんの前からあなたがいなくなったら、かなり悲しむと思うよ。……それに、あなただって……悲しんでる兄さんを見て、いい気分にはならないでしょ」
「でもッ……!」
「イヴ、あなたは、私の大切な人なんだよ。大切だから、私の分まで、生きて、ほしいの」
リブの上にある木に、火が燃え移る。
「イヴ、ここから、逃げて」
「嫌だよ……一緒に帰ろう……」
イヴのうしろから、巨大な赤い火の玉が飛んできた。火の玉は、運悪くリブに命中した。
「あ……ああ……」
誰かに手を引かれ、その場を去った。戦いが終わってからイヴはしばらく、泣いていた。
「……イヴ?」
ロゼに呼ばれ、過去から解放された。
「どうしたイヴ?何か悲しいことでも?」
「え……?」
ロゼの質問でやっと気づく。
……私、泣いてたんだ。
「ご飯食べて元気だそう」
小さい子供を慰めるように、ロゼが言う。
「……そう、ですね」
炎の中にあるイヴとリブの記憶。二人の最後の会話の記憶を見ていたイヴ。
いつの間にか卵は皿の上に乗っていた。