第三話 苦手と嫌い
ロゼの家の中。今は夜中。
そんな時間に、大慌てで階段を下りるイヴ。
「うん?どうしたイヴ?」
「へ、部屋に虫が……」
虫が苦手なイヴ。しかし、今まではここまで驚きはしなかった。
「分かった。虫を追い出せばいいんでしょ」
そう言って、ロゼはイヴと虫が出たと言う部屋に行く。ドアをそっと開けると同時に本並の虫が飛び出してきた。
「おわっ!?」
ロゼは慌てて避ける。イヴはロゼの後ろに隠れる。
「これはさすがに……」
ロゼは苦笑いしながら呟く。
「二人とも、どうしたの?」
階段を下りてきた美空が尋ねる。
「ああ……ミソラ。昨日ちょっと、ね……」
「さすがに、あんなものを見てしまっては……」
美空は首をかしげる。不思議に思う美空に、二人の代わりにリブが答えた。
「こーんなに大きな虫が出たんだって!」
両手を広げ、大きさを表現しながら言った。気持ち悪がる美空に追い討ちをかけるようにロゼは、
「そういえば、あちこちで普通より大きな虫を見たって言ってたような気がする」
と付け加えた。
「うぇえ……。気持ち悪いね……」
苦笑いしつつ、気味悪がる美空。
「もしかして兄さん、それを駆除するとか言いませんよね?……さすがに嫌ですよ」
嫌そうな顔をして、イヴは言う。
「言いたいことは分かるよイヴ。……でも、上司からの依頼だから」
「えぇ……」
ますます嫌そうな顔をするイヴ。
「上司ってどういうこと?」
美空が問う。
「機関だよ。機関が政治とか法律とかを決めるんだ。僕達騎士は機関の法律を破った人の取締りとか、獣退治とかする役職なんだ」
ロゼいわく、騎士は警察で、機関は内閣みたいなものらしい。
「それはそうと、虫の駆除ってどうするの?後からまた涌き出てくるんじゃ……」
「元々小さかった虫を元の大きさに戻すのが、今回の仕事。別に、いろんな所をまわって駆除するわけではないよ」
はぁ、とため息をつきイヴが言う。
「あれに出くわしたくないんですが……。仕方ないですね」
家を出て、少し歩いたところでイヴが問う。
「ところで、元凶がどこにいるか分かるんですか?」
「まあ、ある程度はね」
ロゼは、地図(端末)を取り出して言う。
「情報だと、あっちらしいよ」
ロゼが指を指すところには、森があった。
森の中に入り、ロゼの案内通りに進むと、洞窟が見えてきた。
「この中らしいよ」
「いかにもって感じですね」
イヴは洞窟を見て言う。
洞窟に入ると、すぐに明かりが見えた。
「何者だ?」
中にいた男は尋ねる。
「僕達は騎士です」
「お前らのような子供がか?」
ククク、と笑う男。
「お前らに私を捕まえられるかな?」
そう言って男は、魔方陣を書き何かを呼び出した。魔方陣から現れたのは全身が黒い人間のような姿をしたものだった。
「行け、我が下部達」
命令を受けた下部達は、こちらに向かって来た。片方の下部は刃を投げて、もう片方は、イヴに襲いかかった。投げられた刃は、ロゼが全て刀で打ち落とし、美空が頭部めがけて矢を放ち、倒す。イヴは下部の攻撃を避けて、胸部に刀を突き刺す。そして、刀を鞘に戻す。
「おのれぇ……」
男は、無数の氷柱をイヴに向けて放つ。イヴは刀を引き抜き氷柱を打ち落とす。目にも止まらぬ早さで刀を振るイヴ。放たれた全ての氷柱を打ち落とし、イヴは言い放つ。
「悪あがきしないでください。その両腕、切り落としますよ」
ロゼの家にて。
「イヴ、よくやったよ」
ロゼはイヴの頭を撫でる。
「すごかったな~。あれ」
「はぁ~。イヴの活躍したところ見たかったなぁ~」
リブはため息をついて呟く。
「仕方ないよ」
コップ片手にロゼが言う。
「恥ずかしいです……」
「そうかな?」
恥ずかしがるイヴの足元に蜘蛛がよってきて、イヴはロゼの後ろに隠れた。
あの夜以降、イヴの虫嫌いが悪化した。