第十話 竜と騎士2
遠くから様子を見て、どのように動くのかを考えていた美空は、ワイバーンとの距離を詰めた。
(どうしようかな)
距離を詰めただけではなにも変わらない。弓だけが美空の武器としてあるだけではどこにいてもほとんど状況を変えることは不可能。
(動いた?)
美空は、わずかながらワイバーンの翼が動いたように見えた。しばらく観察していると、また翼がピクリと動いたのを見た。
(ちょっとずつ、動いてる?)
確信はない。しかし、放っておくわけにもいかない。そこで、美空は馬に乗り弧を描くように走らせた。
「さて、どうしようか?」
いまだに動く気配のないワイバーンを尻目に作戦を練り直そうとするロゼ。
「なぜ反撃しないのでしょうか?」
これだけ攻撃を仕掛けても、興味がないかのようにその場にとどまっているだけ。
「わからないな」
リトニスの言葉にロゼは頷く。二人にもわからないらしい。
「ところで、ミソラは何しにここに?」
ロゼが言うと、小さな何かがこちらに向かってきた。数秒ほどたったころには、馬に乗った少女がやって来た。
「どうしたの、ミソラ?」
美空に尋ねると、不思議そうな表情になった。
「さっき、ワイバーンがちょっとだけ動いたんじゃないかなって思って」
ロゼは首をかしげた。
「音はしなかったよ。それに動いたようには……」
ロゼの回答を遮り、今度はリトニスが尋ねてきた。
「ロゼ、若干だがワイバーンの羽があがってないか?」
二人の疑問がさらにロゼを悩ませる。
「変わってないような気もするけど?」
振り返り、指摘されたワイバーンの翼を見た。やはり、変化がないように見える。
「動いてないよ。見間違えたんじゃ……」
三人の目の前でワイバーンが翼を動かしている。それも勢いよく。
(まずい……!)
「逃げてッ!」
イヴが大声で兵士たちに言った。兵士たちはあちこちに散らばり、その場から逃げ出した。
ワイバーンが翼を振った。その瞬間、強風が吹いた。兵士たちは何人も風に飛ばされ、近くの木々が吹き飛んだ。次は竜巻が発生した。それはゆっくりとまっすぐ進んでいく。発生した竜巻は逃げ遅れた兵士たちを次々飲み込んでいく。その中では兵士が風に裂かれ、跡形もなく細かい肉片になって、地面に散らばった。四人も強風に耐えている。
ほんの数分の間で、陣営が崩れた。すでに負傷者や死者もでた。
「全員無事か?」
「どうにかね」
「びっくりした……」
リトニス、ロゼ、美空は幸い無傷だった。
「イヴ?」
返事が遅れたイヴを心配してロゼが尋ねた。
「すいません……。足に木の破片が……」
片ひざをついて木片を取り除くイヴ。ロゼはふと目を閉じて考える。
「ロゼ?」
「作戦変更」
と呟いたあと、ロゼはリトニスに質問した。
「女王様、魔術の使用許可を承諾していただきたいのですが」
突然、丁寧な口調になった。
「よかろう。魔術の使用を許可する」
リトニスはフッと笑みを浮かべた。
「きっちりとワイバーンを仕留め、我々のところに戻ってこい」
ロゼはイヴの足に刺さった木片を拾い、滴る血を人差し指に垂らした。その血で目の前で空気をなぞった。すると、何もないところから赤い魔方陣が現れた。魔方陣をくぐって、現れたのは赤い髪に、手と首筋に赤い線の入ったロゼ。
「五分以内に仕留める!」
ロゼは力のある声でそう宣言した。




