第一話 出会いと決断
これは学校帰りのある日のこと。その日は雨の降る日だった。
少女は雨に濡れながら走る。黒いショートヘアの少女は、傘を忘れて家に急いで帰る途中だった。
───そんな彼女に悲劇が襲いかかる。
信号が青に変わり、横断歩道を走り抜けようとしたとき、横から光る物体が見えた。
その物体の正体はトラックだった。
クラクションをあげながら、それが近づいてきた。
「…え?」
という声を出してすぐに、それとぶつかった。少女はそこから飛ばされる。
数メートルほど飛ばされた少女は、頭から血を流し、通行人が悲鳴をあげる。
(わ……たし、死ぬの……?)
事故に遭った少女は、若いながら人生の幕を閉じた。
───はずだった。
見慣れない町、見慣れない人っぽいモノ、見慣れない生き物…。
いろんなものが目の前にいる。
「ここ…どこ……?」
自分が今どこにいるのか、生きているのか、死んでいるのか。分からないことがたくさんある。
今わかるのは、財布と圏外のケータイを持っているということくらいだ。
「ねぇ、どうしたの?」
白い服の少年が訪ねてきた。ほかの人達よりかなり目立つ服装。見たところ、美空と同い年くらいの少年だ。
「どこから来たの?」
答えずらい質問に少し戸惑う美空。確か、こう言うときは……
「かなり遠い国から来たんだ」
一番妥当な答えだ。どこかわからない上に、日本がどこら辺なのか分からない。
「へぇ~。そうなんだ」
言葉が通じるのがありがたい。
「僕はロゼ。こう見えても騎士団長だよ」
「私は青木美空。よろしく」
ロゼは、問う。
「何でまた、こんなところに来たの?」
「……分からない。気がついたらここにいたから」
車に引かれてすぐここに立っていた美空は、何で自分がここにいるのかは知らない。
「兄さん。そろそろ帰りましょう……。お腹空きました……」
ロゼの隣にいた妹(?)はお腹をさすりながら言う。
「そっか」
「今すぐにでも何かほしいです……」
───自由だな。
美空とロゼは心の中で思う。
「じゃあイヴ、先に帰ってて。先に食べててもいいよ」
大人しかったイヴはロゼからの命令を受けて、急に明るくなる。
「リョーカイです!先に帰ってご飯作っておきます」
ロゼの妹(?)は、楽しそうに去っていった。
直後にロゼは、ため息をついて呟く。
「それにしても、騒がしいね。何事かな?」
美空には騒いでいるようには聞こえない。しかし、直後に悲鳴があがる。
「何か……こっちに来る……?」
何かが砂ぼこりをあげてこちらに向かって来る。
「ミソラ。下がってて」
ロゼは美空に言う。腰につけた刀に手をつけて、構える。
「どけぇぇぇ!」
ロゼは刀を抜いて、突進してきたそれを切りつける。
鬼のようなそれは、突進の勢いで少し遠くで倒れた。
「安心して。峰打ちだから」
「……すごい」
美空は感嘆の声をあげていた。
場所は変わりロゼの家の中。
「ロゼ。私、騎士団に入ろうと思うんだけど」
突然の美空の発言に動揺するロゼ。
「いきなりどうしたの?ミソラ」
国を守る騎士に憧れていた美空は白銀の騎士団に入ることに決めていた。
「私も強くならないと、ロゼ達に迷惑かけるかもしれないし。……それに……その……」
途中で口ごもる美空。
「今日のロゼがかっこよかったから……」
「見たかったなー。ロゼさんの活躍ぶり」
リブの言葉を流して、ロゼは尋ねる。
「国のため、その魂を捧げる覚悟はある?」
「あるよ」
即答だった。警察官だった父親みたいに人を助ける仕事をするのが美空の夢だ。
「……分かった」
「兄さん?」
不安そうな顔でロゼを見つめるイヴ。
「青木 美空。君の入隊を認めるよ」
笑顔で答えるロゼ。
「改めて名乗らせてもらうよ。僕はラグニラス騎士団団長ロゼ。よろしく」
「同じく副団長のイヴと言います。これからよろしくお願いします」
イヴが名乗ったとたんイヴの性格がガラッと変わる。
「私はリブ。イヴの親友にして、イヴのもうひとつの人格ってところかな。よろしくねミソラ」
こうして美空の新たな(異世界)生活が始まった。