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*)当方では、緊急避難的に、一時的にパラメータをあげるための数値の販売も致しております。
しかし販売しております数値で上がったパラメータは、あくまでも一時的なものとご了承ください。
パラメータは、ご本人様のたゆまぬ努力によってしか、本来は上昇いたしません。
それからは、ポイントを購入するのが日課になった。
学校帰りにコンビニによってネットマネーを買い込んで、帰ったらそれをBetter Life に振り込む。
もらったポイントは、翌朝起きてすぐにチェックしたパラメータ中で、減ったところに充てる。
おかげでパラメータは現状を維持できてるけれど、対照的にあたしのお財布は、見るも無残な状態だった。
1ポイント500円とはいえ、毎日2~3ポイントも購入していたら、お金はすぐに尽きる。
小学生のころから毎年こつこつお年玉をためてた貯金通帳も、あっという間に目減りしてって、11月も下旬にさしかかるころには、とうとう0になった。
「どうしよう……」
残高0になった通帳と、Better Life を起動したスマホの画面を机の上に並べたあたしは、絶望感に打ちのめされていた。
明日からは、パラメータを底上げできない。
じり底になってく数値を眺めることしかできないのだ。
そんなことになったら、周りはどう思うだろう。
成績が落ちて美人じゃなくなってゆくあたしを、みんな笑うだろう。バカにするだろう。
三瀬君も、きっとあたしのことを好きじゃなくなる…
「そんなのやだ!」
けど、あたしのお小遣いじゃあ、もうポイントは買えない。
涙が出てきた目で、じっと画面を見つめる。
意識して見ないようにしていたけど、ポイント購入画面には、ネットマネーのほか、実はもう二つ、支払方法の選択肢がある。
携帯の通話代金に購入代金をのせるのと、クレジットカードを使うものだ。
携帯の請求を使うのは、ダメだ。
お母さんは、あたしの通話料金をすごい厳しくチェックしてる。
夏休みにちょっとネット通信量が増えただけで、すごい怒られたんだから、ここからポイント購入なんかしたら、絶対すぐばれて叱られる。
残る手段は、…
お母さんは、普段ほとんどクレジットカードを使わない。
クレジット自体が嫌いなんだとか。
請求書だけ隠しておけば、しばらくは絶対ばれないはず。
カードの保管場所は知っている。
暗証番号も、たぶんわかる。
お母さんは、カードの暗証番号は皆共通にしてるから。
たぶん、クレジットカードもそれだ。
「……」
あたしは、家族が寝静まる深夜まで、じっと待った。
時間の過ぎるのが、すごい遅く感じられた。
…………………………
数か月後。
某グループラインにて。
麗愛「ねえねえ、舞華のアカウントが削除されてるみたいだけど、何か知らない?」
璃莉「舞華ね、親の貯金使い込んだとかで、スマホ取り上げられたらしいよ?」
麗愛「マジで!?」
璃莉「マジ。数百万?とか?
バカみたいな金額をゲームアプリにつぎ込んだらしくて、舞華ン家、今修羅場らしい」
麗愛「うわあ…」
璃莉「それが舞華、全然懲りてないらしくてさ。
スマホでびたー?べたー?そんな名前のゲームアプリさせろって、すごい暴れてるの。
あたしの家、舞華の近所じゃん?
血走った眼で舞華がきてさ、スマホにアプリダウンロードさせて使わせろって、暴れられた」
麗愛「何その修羅場」
璃莉「マジ迷惑。勘弁してほしいわ」
麗愛「もちろん断ったでしょ?」
璃莉「あたりまえ。
普通だって嫌なのに、ゲームアプリで制限なく課金するような奴に、あたしのスマホ貸せれるわけじゃいじゃん」
麗愛「あの子、勉強はそれなりにできるけど、ちょっとアレだったもんね。
親が心配してスマホ持たせなかったのも解るよ」
璃莉「ホント。
いつも親が厳しいとか親が理解ないとか愚痴こぼしてたけど、あんなの普通だよね」
麗愛「ふつうふつう(笑)
こっちは話し合わせて相づち打ったげてたのに、それにも気づかなかったしねー(笑)」
璃莉「何かあると、親が~って云い訳してたの、笑えたわ(笑)」
麗愛「ホント、笑えた(笑)
都合悪くなったり、ちょっと失敗したりするとすぐに親が~だったもんね。
いや親じゃなくてお前だろ、って突っ込みたかったわ(笑)」
璃莉「(笑)(笑)(笑)」
…………………………
適当なところで会話を切り上げた麗愛は、ホームに戻したスマホの画面に、見慣れないアイコンが出ていることに気が付いた。
「何、これ…?
べ――Better Life ……?」
ピンクのハートのなかに薄い黄色の小鳥が横向きに収まってるアイコンは、麗愛が首をかしげて見つめる中、小さく震え、ひよひよと、可愛らしい鳴き声を漏らした。