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Better Life  作者: killy
3/4

03


*)パラメータ数値は、あなた様固有ではありますが、固定ではございません。

あなた様の日々の暮らしぶりによって、微妙に変動します。

より良い暮らし、より良い人生を送るため、パラメータ数値の底上げを意識して日々お過ごしくださいますよう、ご助言申し上げます。





そのことに最初に気が付いたのは、……夏休みがあけた9月だったと思う。


「あれ?」


いつもみたいに、授業受ける用に賢さをあげようとしたんだけど、美しさを15削って賢さに投入しても、数値が130を超えなかった。


「どうしてだろう。レートが上がったかな?」


確認するけど、移行レートは1:2のまま。変わりなかった。


(???)


理由が判らなかったけど、とりあえず128あれば十分かなって思って、そのときは何も考えないで放っておいた。



違和感が確信に変わったのは、その3日後。

その日は物理の小テストがあったから、普段以上に賢さをあげたかったんだ。

うちの物理の先生は、小テストの点数も、成績にダイレクトに入れてくれる人だから。手は抜けないんだ。


だから美しさから15、健康から12削って賢さに投入した。


いままでだったらこれで140を余裕でこえたはずなのに。


「なんで…?」


Better Life が示した数値は131

こんなの、普段授業を受けてるのと同じ数値だよ。


…否、最近は130以上で受けることはなくなってたっけ。

あたしはここ数日の数値を思い出した。

たいてい128。

昨日は127だったっけ…



「数値が…落ちてる…?」



なんで?

なんでなんでなんで?


どうして数値が落ちてるわけ!?


パニくった。


けど、テストを受けないわけにはいかないので、あたしはあわてて、健康度をさらに30下げて賢さに充てた。

賢さと健康の交換レートは1:3。おかげでなんとか140を超えて、テストはそれなりに解けたけど、じっと座ってるだけでなんか気分が悪くなってきて、最後は問題文見る余裕もなくなってた。


まだ健康度は59あったから、体調崩すほどじゃないはず。だからこれはたぶん、あたしがとても混乱してたせいだったんだと思う。



だって、パラメータが下がってるんだよ?

なんで?って、思うよね。


なんとか小テストと授業を乗り切ったあたしは、顔色悪いよって心配してくれるクラスメイト達に適当なことを云ってごまかして、スマホ握ってトイレに駆け込んだ。


個室にこもって、Better Life を起動する。


テスト用に動かしていた数値をもとに戻したあたしは、心底、ぞっとした。




賢さ  ・・・ ▼  97 △


健康度 ・・・ ▼ 101 △


力   ・・・ ▼ 103 △


器用さ ・・・ ▼ 118 △


体力  ・・・ ▼ 107 △


運動能力・・・ ▼  88 △


運   ・・・ ▼  89 △


魅力  ・・・ ▼  95 △


美しさ ・・・ ▼ 125 △




全体的に、数値が下がってる。



「なんで…?」


本当に、理由が判らない。


ただわかるのは、あたしの能力が下がってるってこと。


あんなに高かった美しささえ、2ポイントも下がってる。


スマホを握り締める手に、ギュって力がこもった。


目に涙が浮かんで、視界がにじんでくる。


「こんなのひどい…!」


どうしろって云うんだろう。

どうしたらいいんだろう。



次の授業の開始を告げるチャイムが鳴るまで、あたしはスマホを握り締めて涙目でBetter Life を凝視した。




それから毎日、Better Life をこまめかつ必死にチェックして分かったのは、パラメータ数値は毎日夜24時に数値が下がるってこと。


そう。

あたしのパラメータは、それから毎日下がり続けた。


最初は他の欄から数値を引っ張ったけど、それもひと月も過ぎると誤魔化しきれなくなってきた。


「疲れてる?」


三瀬君にもそんな風に聞かれることが多くなってきた。


彼に会う時は美しさを、最低でも130近くまで引き上げたいんだけど、11月に入る頃にはそのために体力や健康度をぎりぎり最低ラインまで落とさなくちゃいけなくなってて、

けど実際にそうすると、ちょっと早足で駅まで歩くのも息切れするくらい、体が弱ってしまう、なんてことになっていた。


美しさと賢さを両方あげなくちゃいけない、一緒にテスト勉強する時なんて、最悪だ。




「どうしよう…」



明日からテスト週間に入るという前日の夜24時。

あたしはBetter Life のパラメータ画面を見つめて、ほとんど絶望していた。


あたしの数値はますます下がってて、もう見るも無残な状態だ。


美しさと賢さを今までと同じレベルでキープするために、他の項目は削れるだけ削ってて、それでやっと4月と同じ数値をなんとかキープしていると云う悲惨さなのだ。



テスト週間中は、部活が休みになる。

だからその間は三瀬君とふたりでテスト勉強をするのが、今までの約束だった。


放課後の教室で、二人っきりで過ごすのはすごい楽しいんだけど、三瀬君はかなり真面目で、自分がすごい集中して勉強するのはもちろんのこと、同じレベルのことをあたしにも求めてくる。


あたしが問題集を解かないで、ぼーっと三瀬君を見つめてると、どこか悪いのかとか、どうして勉強しないのかとか、解らないところがあるなら教えてあげるよとか、言ってくる。


あたしとしては、わけのわからない解説聞くよりも、もっと別の、いろんな楽しいお話したいんだけど、三瀬君はそれを許してくれない。


4時半すぎから1時間半みっちり勉強して、休憩時間は全然なし。

勉強に関係ない話は許されない。


帰るときに駅まで歩くときにちょっと話すくらいがせいぜい。

たった20分弱の楽しみのために、2時間我慢しなくちゃいけないんだけど、その価値は十分あると思ってる。


だから、この勉強会は絶対行きたいんだけど。


賢さが足りないと、何もできないんだよねぇ……



でも、もうあたしのパラメータはギリギリすぎて、これ以上どこも削れない。

あとは体調崩したり、いろいろ症状出てくるのを承知の上で、50より下に削るほかないか…



そんなことを半ば決意したそのとき。



パラメータ画面が、下にスライドできることに、気が付いた。


「…あれ?

こんなとこ、あったっけ…?」



出てきたのは、



ポイント販売ページへ



というリンクだった。



販売って、売ってるってことだよね?

パラメータの数値、買えちゃうの?

いくらで?



ドキドキしながらタップする。



ページが読み込まれるまでの数秒が、すごい長く感じられた。


いくらだろう。


ページが出てくるまで、不安で不安で、胸が苦しかった。


あたしのお小遣いで買えるくらいの値段だといいんだけど。


1ポイント1万円とか、そんな高いのだと、さすがに買えないし…



そうして、出てきた値段を見たあたしは、無意識のうちにひそめていた息を大きく吐いて、肩の力を抜いた。


「…やったぁ」



1ポイント500円



これくらいなら、なんとかなる。


しかも支払いは、クレジットカードや携帯支払のほか、ウェブマネーでも受け付けてる。

これなら、お母さんにばれずに買うこともできる。


あたしは、財布を握り締めて近くのコンビニに走った。



とりあえず12ポイント、6000円分買って、賢さに入れた。


これで勉強会は何とかなる。


ここしばらくずっと悩んでたことが解決できてほっとしたあたしは、その夜は心安らかにぐっすりと眠ることができた。



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