不憫な子、舞台裏を垣間見る。
少女は黒い髪の毛をショートカットにしており、銀色の眼をしていた。年は13歳だという。ワンピースがやけにぴったりしていたのは、真っ黒な尻尾がピンと伸びていたためのようだ。耳も真っ黒な猫耳があり、人間の耳の位置には髪の毛が生えている。まじまじと見てもほとんど人間だった。
タケチ曰く、獣人も色々と種類があるうえ、人間度合というか、獣度合いが人それぞれで変わるらしく、中には何の獣人かわからない者もいるらしい。メグミ曰く、タケチは兎と牛の獣人が好みらしい。なお、タケチは頭を抱えていた。
少女の見た目から黒と名付けようとしたら、メグミから烈火のごとく怒られた。曰く、ペットじゃないのだと。曰く、女の子の名前をなんだと思っているのか。曰く、いい大人がそんな名前を付けないでください。後でなくのはその子なんです。と。
なんだかんだで、夕食までもらってからから、その日は泊めてもらった。
「で、何か言いたいことはないか?」
ぐっすり眠った夢の世界で、俺をこの世界に送り飛ばした少女に会った。少女から喋りだしてこないので、黙っていてみた。怒られる心当たりが多すぎて、何を言っても蛇が出てきそうだったからだが、しばらくすると少女が口を開いた。
「あの話…才能や身体能力の件は、俺はどうなっているんだ?」
「…」
「なぁ、俺にも何かしらの才能があって、それで生きていけるのか?それともこちらに来る前と…」
「…『剣』だけを扱う才能なんてそんな狭い才能があると思うのか?ましてやあちらにはない、『治癒』なんて才能もな。私はお前しか担当していないからなんといわれたか知らないが、大方そういわれたからそう思っているだけだろう。」
曰く、剣をふるうために必要な適性の何かが高く、それを伸ばしてやった結果、その才能と言わしめているだけらしい。才能だけあっても素人は素人。治癒の才能なんて、あちらで役に立たない才能がこちらでの技能適正として当てはまっただけらしい。
「それで、身体能力の件は?」
「…お前、狭間で私に気が付くまで何をしていた?」
「…筋トレ、ストレッチ、ヨガ、水泳?発声練習、ランニング、座禅、とか?」
「…あと、奇声を上げながら変な踊りや、卑猥なことを叫びながら下品な動きをしていただろう。」
「…あれは、剣道やボクシング的な何か動きをまねて遊んでいただけだ。」
「…某先生の必殺技は出せたかな?それとも某組の某隊長の必殺技かな?突きのできない鉈では使えんだろう。流石に激しく腰を振りながら奇声を上げる武道があるとは驚きだな。」
「…すみません。触れないでください、ごめんなさい。身体能力の件について教えてください、ごめんなさい。」
曰く、狭間で待たせている時間に管理神が、意識のない俺たちを勝手に動かして体を鍛えさせるらしい。その時に何かしらの適性が見られれば、後はそれについて鍛えるらしい。そんな一朝一夕で身につくものなのかと思ったが、年単位で寝る間もなく鍛えるらしい。結果として、『適性がある』というものが『才能がある』と言われるものまで鍛え上げられるらしい。中には、適性・才能に関係なく鍛えられる者もいるが、それぞれらしい。
「で、俺は何に適性があったんだ?」
「…悪運が強く、自身に非がない状態で全裸を晒す機会に恵まれる。しかし潜在的に同性愛の傾向が強くたいして得はなさそうだが、機会は男女ともにあるため、いつかあたりを引く可能性もあ―」
「嘘だよね。」
「うん。ほとんどがね。」
「…できればどの辺が本当なのか教えていただけないでしょうか?後、お怒りでしょうか?」
「激おこです。」
曰く、少女は基本放任主義らしい。体を鍛えることはしようかと思っていたが、勝手に鍛えはじめたため放置したらしい。適性と自意識が合致することなんて稀だし、そこらへんのずれに折り合いをつけられなければ、手を貸しても簡単に死ぬし。酷い時は、才能だけ伸ばしたが、行き先では全く生かしようがない職業だったりするらしい。
「お前が馬鹿みたいに1人遊びにふけってくれたおかげで楽だったよ。」
「…若干とげのある言い方ですが、結局私は何ができるのでしょうか?」
「…お前は、頭が、悪い、ですね。お前は何にもできないよ、一応調べたけど、これといった才能につながるものではなかったよ。」
「…救いはないのでしょうか?」
「…ただし、馬鹿みたいに鍛えたその体があれば何とかなる。お前の体は限界以上に鍛え上げられている。いつだって体は資本。頭は悪いが、直感的なものなら長と通じた際に鍛えられている。頭の悪い、お前にわかりやすく言うと、体はなんでも建てられるように、基礎工事だけ終わった後の状態。お前は頭が悪いので、手元になにかの完成図が山のようにあるが、知恵も知識もないのでうまく読み取れない。そこに風俗ビルを建てるのか、ストリップバーを建てるのか、はたまたストリートキング達のための街を建てるのかはお前次第だ。お前が、学び、考え、創造し、自分の可能性を信じ、それに見合う努力を怠らない限り、お前はなんだってできるんだ。これはお前だけじゃない、生き物なんてだいたいそんなものだ。」
「随分と熱が入っているが、それができるのは天才という人種じゃないのか?」
「卑屈な男だな。確かに天才という人種はいるが、それは自分の目的地に至る道の見極めが上手いだけだ。最短距離を突っ走ることができるだけで、隣の芝生が青いのと同レベルだ。結果が一緒なら最短距離がすべてなのは、結果だけを求めた時だけだ。」
「結果が出なければ、意味なんてないんじゃないのか?」
「なら、極端な話、生きることは死ぬことじゃないか。ん?どうなんだ?」
「…よくわからなくなってきた。」
「お前は、お前だ。よそはよそ、うちはうち。お前はお前のやりたいように、やりたいことのために、やればいいんだよ。そのために知恵や知識や経験を積み、死ぬまで生きればいいんだよ。理由や理屈なんて絶対必要でもないんだ、知っておいて損はあまりないが、絶対知っておくことでもない。」
少女は満足気にこちらを見ている。大分機嫌が直っているようだ。これが所謂ドヤ顔というものだろうか。煙に巻かれたような、客から『いい塩梅で』と言われたような、もやっとするような気もする。
「つまり俺はなんでもできるけど、頭が悪いので何もできない状態ということなんだな?」
「その通り。あと、異常なレベルで直感が働くかもしれないな。長とやり取りする際に、死なないようにそのあたりががばがばになっているからな。よく壊れなかったと長が感心していたよ。」
「…とりあえず才能の件はわかったんだが、いったい何を怒っていたんだ。」
話題を変えようとしたことを後悔した。
「…長はなるようになればいいと考えている。私も似たようなもので滅ぶときは滅べばいい。無理に救われても、別の方向からそういう課題はいつかは訪れるもので、それに耐えきれないようでは、いつかは滅びる。まぁ、そういう世界にお前のような者を送り込んで経過を見るんだがな、私以外にも送り込む管理神はいるんだよ。そういった連中の中には『勇者』とかいう立場で祭り上げること前提の送り込み方をする奴もいてな、定期連絡会なるものを開催し、それぞれの情報を持ち寄りより、より良い結果を、なんてことを言うんだよ。で、私の場合はな、お前しかいないからお前の行動を言うしかないんだよ。露出狂の話を伝えるんだよ。特に目立ったことがなければよかったのに、お前が全裸を披露する話が必ず入る。この前、あの子を助けた時の話がなければただの露出狂扱いだったよ。」
「…ちなみに、今の扱いは。」
「大半が露出狂扱いだが、人助けのできる変態という認識だ。よかったな。」
「…その話はどこまで伝わっているんだ。」
「知らんよ、各々がどこまで伝えているかなんて知らないしな。それはともかく、お前がそういうことしかしないと、私はそれ伝えるほかなくなってしまうんだよ。わかるか?大勢の前で、自分の手駒の醜態をさらけ出す恥ずかしさが。この穢れのない身で、いい大人の醜態を披露する気持ちが?ちなみに過激なやつだと、自分の手駒で討伐するとか言い出してたぞ。大変だな。」
「ごめんなさい。大変ご迷惑をおかけしております。」
「あと、食べるならきちんと食べろ。作る方の身にもなれ。食べないなら食べないで連絡しろ。あんまりいい加減なことをしてると2度と作らないぞ。わかったな。」
もうじき朝になるらしく、話は終わりだといわんばかりにまくしたて始める。最後の言動に友人の家のオカンを思い出すが、言うと怒りそうなのでやめた。
「…ちなみに、私も長ほどではないが考えていることがわかるぞ。」
「…それよりもどうしたら起きれるんだ?」
「…起こしてやるよ。ほら新しい朝が来た―――ぞ!」
少女の姿がいきなり消え、しゃがみこんだ体勢で目の前に現れる。そして少女のアッパーが俺の―――