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不憫な子 人生をやり直す。  作者: 七味
不憫な子
6/20

不憫な子、引き取る。

男の名はタケチ、女の名はメグミといった。あの狭間の世界にいた9人の中にいた2人だった。2人は元々幼馴染で同じ高校に通っていたらしいが、中学途中に不良に絡まれた際に2人そろって電車にひかれたらしい。その時神様にチャンスをもらったらしい。この世界の魔王と呼ばれるものを全部倒すことを条件に、この世界に来たらしい。こんな話をのろけ話半分で聞かされた。まだまだ続きはあったようだが、そろそろ話を進めたいので、話題を変える。


「で、なんで俺を日本人だと分かったんだ?」

「この世界にそんな作業着ないよ。王道ゲームみたいな世界だからね。」

「そうよね、現代風な服はまずないわね。特にそういう化繊みたいのは特にないわね。と、いうよりそれはどうしたの?」

「あぁ、そういえば服を洗いたかったんだっけ?おーい、ニーナ」


最初に見た女性二人のうちのどちらかを呼んだタケチは、風呂に入ってくるように言う。最初に見た女性たちが部屋に入って来、俺を案内してくれた。風呂があるようで、俺は拾った少女を彼女たちに預け、風呂場に入る。中には日本と同じような洗い場と湯船があり、銭湯のような感じだった。体を洗い風呂に入ると、こちらに来てからの疲れがお湯に染み出してくるようだった。溺れ、痺れ、縛られ、斬り付けられ、走り逃げた。途中で拾いものをしたが、あれもどうしたものか。


最終的に風呂場で上着だけ洗った。その後、風呂場から出ると脱いだ服の隣に、別の服を置こうとしているメイドさんがいた。メイドさんは動じた素振りもなく衣類を置く。


「失礼いたしました。替えの衣類はこちらになります。着ていた服は私が洗っておきますので、そのままにしておいてください。」


一礼し、そのまま脱衣所を出て行った。こうなるのは3度目か、竹箱はしばらく開けない方がよさそうだ。置かれていた替えの服に着替え、荷物だけ持って行く。替えの服は多少小さいが十分着ることができる範囲だった。脱衣所を出ると先程のメイドさんが待っており、先程の部屋へ案内された。部屋の中では2人がクッキーのようなものを食べながら待っており、俺にも進めてきた。蜂蜜の香りの強いクッキーで、若干味が薄いような気もすると思いながら食べていると、女の方から話しかけてきた。


「で、あなたはなに何ができるようになったの?」

「剣に関する才能をもらってきた。メグミは治す才能をもらってきている。あんたはどんな才能なんだ?」

「…なんだそれ?漫画じゃないんだからあるまいし。この鉈と干菓子は餞別でもらったが他は特にないはずだが。」


竹箱のことは言いたくなかった。言うと見たがるだろうが、脱衣所の件で何が入っているかわからないし、まだ初対面の状態ですべてさらけ出すこともないだろう。だが、タケチとメグミは別のことに驚いていた。


「いやいやいや、何ももらわずに生きてきて、そんな状態であいつから逃げたのか?」

「いったいどうやってこの半年を生きてきたの?」

「なんだ?半年?俺が来たのは4日前で、あいつっていうやばい男からは必死に走って逃げてきたよ。来たばかりでよくわからないが、この世界はああいう頭の病気があるのか?」


どうもこの2人は半年ほど前にこの世界に来たらしい。もらった才能を生かして用心棒や害獣駆除、治療等を行いながら生きてきたらしい。こちらに来るにあたり、身体能力も増強されており、女であるメグミですらこの世界の男性より若干強いくらいの力がある。


「あの男は、あんたが来た方向に2、3日歩いたあたりで出没している。少なくとも1週間ほど前から確認されたが、そのときに初めて逃げ延びた人がいただけで、もっと前からいただろうってさ。」

「あなたもやられたと思うけど、火の魔術とあの腕力に素早さ。対話もできないから動きも読みにくい。あれだけ動けるならどこかの組合に登録されてると思ってたけど、さっぱりなのよねー。」

「それより、走って逃げれてったことは、それだけあれが近付いているんじゃないのか?そろそろ本格的に討伐隊が出てきそうだな。」


その後、この世界の話を色々と聞けた。この世界には魔法があり、初歩的な魔法ならば誰でも使えるが、それだけで身を立てられる人間は少ない。また、肉体と同じように魔法も自身の体調によって結果が左右されるため、使い過ぎによって死ぬこともある。ただ、実際は肉体と同じように脳に安全装置があるのか、死ぬ前に意識を失うので死んでしまうことはほとんどない。とか。

組合と呼ばれる業務斡旋組織があり、冒険者や傭兵などと困っている人の橋渡しをしているらしい。今いる町の国だと、エルグリム業務斡旋所というところが一番大きいらしい。国や、小規模の斡旋組織もあるらしいが、基本的にそういう斡旋組織は国の認可が必要だったり、信頼性だったりのせいでそれほど多くはないらしい。ギルドのようなものと言われたがよくわからなかったが、ハローワークのようなものだろう。やっていることが違うだけで、他にも様々な組織というか寄合というか組合というか、いろいろある。とか。

基本的に王政が多く、貴族やらもいてピンからキリまでいる。いわゆる傲慢な人間から、地球では絶滅を危惧されているほどの聖人君子までいる。地球、というか日本との違いはピンからキリまでの振れ幅が恐ろしいほどに広いので、だまされないように注意した方がよい。とか。

危険な野生動物のほかに魔獣と呼ばれる強い生き物がいる。そういった生物が普通に生きている世界なので、町以外には多くの危険がある。見ての通り、魔法があるせいで理的な研究があまり進んでおらず、医療というのも薬のほかは魔法頼りとのこと。なので、そういった魔法が使える人は重宝されている。そういった人材がいない土地では、簡単に人が死んでいくらしい。


「お話し中失礼いたします。」


などなど、いろいろ話し込んでいるとメイドさん2人が1人の少女を連れてきた。


「お連れ様が目を覚まされたので、ご案内いたしました。」


と言うと、そのまま少女を残して出て行ってしまった。

1人残された少女に3人の視線が集まり、それが恥ずかしいのか俯いてしまった。

俯いたその頭には猫科の耳があった。少女は灰色のワンピースにサンダルを履いていたが、ワンピースは長い袋の底に穴を三つ開けてかぶったような感じだった。流石に肩のあたりは尖っていなかったので違うだろうが、『簡素』としか言いようがなかった。そのワンピースは後ろから引っ張られているか、腰から下が体にぴったりとくっついていた。また、風呂に入れられたのか、あれの臭いもなくなっていた。


「コータさん、それでこの子は?」

「いや、例の男のところで逃げる際に拾ってきた。」

「どうするの?コータローさんが引き取るの?」


どうしたものか考えてしまう。育児の経験などない、わけではない。金がなくてひもじい、わけでもないな、あの少女の機嫌さえよければ。あれ、理由がなくなっていく。


「俺は来たばかりで家も何もないし、これくらいの子供に野宿はつらいだろう。それに親がいるだろう。まさかこの世界の子供は生えてくるのか?」


後、俺は彼女もいない上に魔法使いも近い。同僚だったカミロ曰く、男は経験のないまま30歳を迎えると魔法を使えるようになる、という言葉があるらしい。同じく健二曰く、使える魔法は精神強化魔法で、社会からの視線に強くなるらしい。


「コータさん、この世界に畑のキャベツの娘はいないけど、樹木から生まれる娘ならいますよ。」

「は?」

「地球じゃないからねー。でもこの子は獣人だから違うんじゃない?あなた、とりあえずこっちに来て座って。」


いるのか。木から生まれる娘って何製なんだ。っというかどうやってできるんだ。などと呆然としていると、メグミに呼ばれた少女が近づいてくる。しかし、座る気配もなければ、何かをしゃべる気配もなく、近くで立っている。


「…どうした。」

「助けてくれた。感謝している。ありがとう。」


そう言ったきり、また黙ってしまった。


「ねぇ、あなたもしかして奴隷?大森林出身の。」


少女は何も言わずにうなずく。3人で色々聞くと、昨年勃発した獣人の多い大森林と人間の国との戦争により、少なくない数の死人が出たらしい。その際に捕虜となってそのまま奴隷になる者が多かったらしい。少女は成人の儀式の途中に襲われ、成人になってから名乗る名前をもらう前に奴隷になってしまったらしい。大人全員で神様の付き人と子供を守ろうとしたが、全滅したらしい。かわりにつかまった子供は何人もいなかったらしい。この子は奴隷としてこの町に売られに来ていたが、人目に付きたくなかったため、あの道を通ったところ…といった次第らしい。


「その名前は自分で勝手に名乗っちゃだめなのか?」

「だめ。名前はつけてもらわないといけないの。じゃないと神様?に怒られる。」

「今疑問符が入ってけどこれはなんでかしら?」

「他人からもらうんならコータさんでいいんじゃない?」


少女は、黙って首を振る。その眼には否定の意志が見える。気がする。


「ふぅん。じゃぁ、通り名でも駄目なの?仮の名前でもないとあなたは何者でもなくなっちゃうわよ。」

「…それは、少し困る。何者でもないまま死んでしまうと、死後に父祖の霊に会えなくなる―――あなたが付けて。」

「断る。」


そんな、後々まで禍根が残りそうなものに関わりたくない。俺は『No!!!』と言える日本人なのだ。無茶ではなく無理を言う顧客を断らなければこちらが死んでしまう。だから、俺は言う人間なのだ。


「コータさん、即答したね。」

「コータローさん。少なくとも、しばらくはあなたの傍にいることになるんだから、貴方が付けてよ。」

「嫌だ。」

「コータローさん。なんで頑なに断るの?猫耳娘なんて男の夢じゃないの?」

「ちょ、メグ。なにを…」

「タケチだってたまにそうお店ですごい楽しそうにしてるわよ。」

「え、なんで知って…」

「…お断りします。」

「それとも何か?その子に責任を持ったり、情が移ってしまいそうだから駄目だっていうの?すぐにその子の両親を迎えに来てくれるから、名前なんか付ける必要がないっていうの?この世界はそこまで甘くないわよ!死にはしない、なんてことはないし。かといって漫画みたいにヒーローや勇者が助けに来てくれる世界でもないのよ!」

「…メグさん、なにもコータさんが引き取らなくてもうちで…」

「タケチ!その子は来て座ってって言ったときに、コータローさんの隣に来たし、コータローさんにしか声を出して答えてないのに気が付いてないの?」

「…わかった、わかったから。俺が引き取るから。」


俺は『No』と言えた日本人です。結局引き取る流れになったが、名前はまだ付けない。しばらく一緒に暮らして、この子のことをもう少しわかってからつけるということで納得してもらった。


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