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聖盾の乙女  作者: 太極
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王の問い

「元十二聖騎士団、リデレ・スピーカアニア殿の息女、ルーナ・スピーカアニア殿入来。」


 父のかつての騎士団における地位と私の名前が呼ばれ、玉座ある謁見の間の扉開かれる。

 私は約10年ぶりに王都の姿を目にした。

 だが、私が久しぶりに目にした王都の姿にはかつての隆盛は存在しなかった。150年前程にはこの国には『黄金の20年』と呼ばれた平和で国力な盛んな時代が存在していた。その時代と比べれば、10年前の王都の繁栄は小さなものだと思えるかもしれないが、それでもやはり、いくらか活気が失われていた。

 私はそんな感慨を抱きながらも謁見の間に足を踏み入れた。そこはやはり、王都全体と同じように華やかさは感じられなかった。

 しかし、そこには


「……!」


 玉座に続く道を左右に侍り己が忠誠を誓った王国の象徴にして、その王国の頂点である王を守らんとする騎士たちが存在していた。


 ここが……お父様を始めとした……『十二聖騎士団』が集う場所……


 そう、そこには王国に忠義を誓った(つわもの)たちが放つ武威は色褪せずに存在した。

 私はその威光に圧されそうになるが、それでも我が父、リデレ・スピーカアニアの娘として父の名を穢さまいと、虚勢と呼ばれても構わずに胸を張ってなるべく堂々とした態度で玉座へと足を向けた。


「あれがあのリデレの娘か……?」


「ふん、聖騎士団の面汚しめ……」


「おとなしく田舎貴族の妾にでもなっておけばいいものを……」


「田舎貴族でもお断りであろう……商人か農夫の妻がお似合いだ……」


「田舎から来るだけあって、女の身だしなみもできないらしぞ」


 そんな私の歩みを迎えるのはひそひそと呟かれる『父の汚名』によって生まれる武官、文官問わない群臣たちの誹謗中傷の風だった。

 だけど、私はそんなこと馴れている。

 元々、私たち親子は追放された僻地においても騎士侯とは言え、貴族であり何よりも父の武名が知れ渡っていたこともあって、貴族へのやっかみを持つ農民たちからの迫害を受けていた。

 悪口に始まり、村の子どもたちからのいじめやどこから投げつけられたかわからない石、など子供の頃から受けていたことだ。

 そんな中でも父は決して、相手を憎むことはなかった。

 だから、父が耐えるのだから私も耐えようと心に決めた。

 こんなこと慣れっこだ。

 そんな誹謗中傷が飛び交う中、私は父を馬鹿にされたことに苛立ちを漢字ながらも歩みを止めずにいた。

 だが、そんな時


「……!」


 私はある異変を感じた。

 それは今まで感じていた私としてはとても腹立つことではあるが「リデレ・スピーカアニアの娘」として向けられてきた蔑みの眼差しではなかった。それは言葉にするのならば、「敵意」だった。それもただの敵意ではない。これは憎しみが込められたものであった。

 私はその敵意が向けられている場所を確認しようと横目でちらりと見て、その敵意を向ける者の正体を確認すると


 ……誰?


 黒い髪に黒目の私と年齢がそう変わらない年頃の青年の騎士だった。

 そして、彼が立っているのは玉座へと続く道の右側。かつて、私の父がその地位に在席していた『十二聖騎士団』の立ち位置であった。

 つまりは彼はこの国の騎士に頂点にその身を座している聖騎士なのだ。

 どうやら、王国を守らんとする騎士の頂点である『十二聖騎士団』には年齢も性別も意味を為さないらしい。

 見たところ、今、この場にいる私と同性の騎士は1人、私と同年代に見える騎士は2人らしい。

 だけど、私はそこに疑問を感じることはない。

 私の父も10年前に聖騎士の座を剥奪されたとは言え、それ以前には「最も清廉なる騎士」と言われ、私が生まれる前には既に『十二聖騎士団』の1人に数えられていた。当時、20歳だ。

 また、父は私に寝物語に聖騎士団には女性がいることも語っていた。

 私は彼の年齢などに別に戸惑いなど感じることはない。

 それに私は父の犯した過ち(絶対にありえないと思うが)から来る敵意や悪意などは既に村から旅立つ時に覚悟してきた。

 ただ私が訳が分からないのは今、私に敵意を向けている青年の目だ。

 確かに世間一般では騎士として恥ずべき行いをして、騎士であることを辞めさせられたとされる父の娘である私に侮蔑の目を向けられるのは理解できる。だが、憎しみが込められた敵意の眼差しを向けられる謂われなど私にはない。

  

 気になるわね……


 いささか、気になることはあるが、それを流石に王前で表に出すのは不敬だと考え、私は足を進めた。

 私は今まで感じたことのないタイプの悪意に違和感を感じつつもようやく玉座の前に辿り着き、そのまま跪き、臣下が王に対して取る作法で王の声を待った。

 私が顔を地に俯けていると


「そなたがリデレの娘のルーナか?」


 と穏やかではあるが、威厳が込められた声が私に向けられた。


「はい。」


 私はその声に対して、決して不遜なことが無い様にしつつもしっかりとした声で応えた。


「そうか……私がそなたをここに呼んだ用件を言う前に

 私はそなたに一つ、訊ねたいことがある……よいか?」


 すると、玉座から発せられる声に私は多少の緊張を覚えながらも


「はい、なんなりと。」


 戸惑いなくそう言った。

 すると、王は次にこう言った。


「よかろう……私がそなたに訊ねたいことはただ一つ……

 そなたの父のことだ。」


「……!」


 王がそれを口に出すと私だけではなく、この謁見の間にいる武官、文官問わず、全ての者がざわざわと騒ぎ出した。


「一つ訊きたい……

 そなたの父……リデレは――」


 しかし、王はそんな群臣たちの反応など意にきせずそのまま問いを続け


「私のことを恨んでいるか……?」


「……え?」


 王の口から出てきたのは答えに困る問いであった。

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