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聖盾の乙女  作者: 太極
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旅立ち

「お嬢様、お願いですから馬車をお使いください!」


 と私の家が没落した後も決して見捨てることのなかった使用人の爺やが私が鞍を馬に取り付けると慌てながら制止しようとするが


「もう、爺や。私は『お嬢様』として王都に向かう訳じゃないのよ?」


 私はそう言って、爺やの制止を遮った。


「で、ですが……」


 私が意地でも馬車を使わないことを理解すると爺やは心配そうな表情をした。

 この人は私の幼少時からこの家に仕えており、私のことをまるで孫の様に可愛がり育ててくれてこの家が没落した後もかつて父に救われた恩を感じたことから父の下から去ることがなく、今までのように態度を変えずに父と私の身の回りの世話をし続けてくれた。

 つまりは可愛い孫娘同然の私が王都にとある『王命』のために王都へと赴くことに不安と心配を感じているのだ。

 その『王命』とは


「大丈夫よ。それに私はこれから『騎士』として王都に向かうのよ?

 だから、馬車なんかでお上品に王都に向かったら、私だけでなくお父様まで馬鹿にされるわ。」


「うっ……!そ、それは……」


 私が馬車を使わない理由と王都に向かう理由、そして、父の名に泥を塗らないための配慮であることを伝えると、元から父への忠誠心が高い爺やは何も言えなくなった。

 それでも、やはり私への心配と私に苦労を掛けさせまいとする優しさから爺やは心配そうな顔を隠せずにしながら


「くっ……王様も酷です……

 旦那様をあんな謂われないの噂によって生まれた罪で追放しておきながら……

 今さらになって、平穏に生きるはずのお嬢様を……よりによって、『騎士』として呼ぶなんて……」


「爺……」


 陛下に対して、恨めしそうに私達一家への仕打ちを呟いた。


「あの噂さえなければ……

 旦那様も奥方様も別れることはなかったのに……お嬢様も……母親と一緒におられたのに……」


「………………」


 12年前、父はこの王国を守る騎士団の頂点に座する聖騎士として、名を馳せていた。

 『大盾の騎士』。それが父の異名であった。

 大人3人がかりでようやく持つことが出来る聖なる力を宿す大盾を持って、敵の矢玉から味方を守りながら戦う姿に人々は尊敬の目を向けていた。

 だが、父はとある事件で失脚し、父は王都から追放された。

 そして、母はその際に流れたとある噂を聞いてしまい、父と仲違いしてしまい、母は都に残った。母はその際に私も都に残るようにしようとしたが、父を尊敬し信じていた私は父から離れかった。

 思えば、母とあの時から別れてから会っていない。噂によると実家が名門の母はどこぞの貴族と再婚したらしいが、平穏に暮らしているのならそれはそれでいいと思っている。

 考えてみれば、私はかなりドライな性格で可愛げのない性格と思える。


「爺……陛下の命令だけど私はむしろ、これでいいと思っているわ。」


「お、お嬢様……?」


 私は爺やを安心させようと私の真意を伝えようとした。


「女の私がお父様の汚名を晴らせる……

 それだけでいいじゃない?

 むしろ、その機会を与えて下さった陛下に感謝しないと。」


「し、しかし……」


 女の身でありながら、騎士として戦える。

 それは思い上がりなのかもしれない。

 貴族とは言え、父やその先祖達によって武勲の積み重ねだけでなった騎士侯でしかなく、それも落ちぶれている我が家において、男子がいない中で名誉を取り戻すにはどこかの名家に私が嫁ぐしかない。

 でも、生来プライドの高くて可愛げのない私はどうしても『女』を武器にすることはできず、それに家計の足しになる畑仕事や尊敬する父や先祖の騎士の武勲を薄れさせたくないと思い、身体を鍛えることしかして来なかった私からすれば、自らの『女』を魅力的に出すことは苦手なのだ。

 そう考えると、私は有力な貴族に嫁ぐことなどどうしてもできない。

 それに他家に嫁いだとしても、父の汚名を晴らすには時間がかかり過ぎる。

 だから、私はこの機会を取りこぼす訳にはいかないのだ。


「ルナ。」


 私が決意を込めて馬に跨ろうとすると聞き慣れた優しくて人を包むような穏やかさを感じさせる声で名前を呼ばれた。


「お父様……」


「旦那様……」


 それは『大盾の騎士』と呼ばれ、多くの兵士や民を守り続けた強くも優しき守護者であり、私のことを大切にして、愛情を注いでくれた父の声であった。

 騎士であった時から変わらない温和で相手を決して威圧することはない誠実で穏やかな人。

 私はこの人の汚名を晴らすために王都へと向かうのだ。

 だが、その優しい父はきっと私が王都へ出向することに申し訳なさを感じているのだろう。

 だから、私は平然とこう言う。


「いってまいります。お父様、爺。」


 それは「自分は大丈夫だから、安心して。」と言う想いを込めての言葉だった。

 そして、その真意に父は


「ああ、いっておいで。」


 と応えてくれた。これが私の父なのだ。

 きっと、父は私が止まらないことを理解しているのだ。だからこそ、暖かく見送ってくれる。

 そんな優しくて強い人が私の父親であることに私は誇りを感じている。だからこそ、父に似合わない汚名など晴らさなくてはならないのだ。

 そして、私は馬に跨って10年間過ごしたこの地を旅立つことになる。


(ありがとう。お父様……爺……)


 最後まで愛してくれた二人に私は感謝しながら、私は馬を進めた。

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