第1話「ココオレ男性の生活」
28歳 某年、某日、夜8時。
文面:『やっほー元気?』 コレを送ったのは昨日の昼間。
まぁまぁ、待て、まだある。
次の日、深夜0時過ぎ、着信を知らせる音。
ほらな、来ただろ。
文面:『すみません、どなたですか』
…、『?』とかないんだ。
その後、躊躇う事なく俺であることを名乗ったが「既読」と表示があってからは何も返事はなかった。
俺はベランダに出てタバコに火をつける。
遠くに見えるビルの明かりを眺めながら、物思いに耽る、耽けたかった。
俺がなんか悪い事したかよ…、なんで無視するんだよ…。
その前の別の子は、『今度いつか皆で行きましょう!きっと!』と。
念には念を押してやんわりハッキリ断られた。
別に、女にモテたいわけじゃない…。
女の子とただ、少しだけ、お話がしたいだけなんだ。
かつて、友人と呼んだ人達は、みんな家庭を築き、それぞれの人生を謳歌している。
家庭を持ちつつ、やれ飲み会だ、やれ子供が生まれたと、俺とは縁遠い人生を送っている。
もちろん、直接聞いたわけじゃない、申請してないSNSで名前検索した時に知った。
こんなはずじゃ…ないのに。
何度後悔したことか、俺は今まで何をしていたんだ。
生きてるか死んでいるかと言われれば、そりゃあ生きているけれど、生きている心地がしない
仕事はしているけれど、もう1週間ほど休んでいる。
居ても居なくても変わらない程度の仕事量
上司や先輩後輩に嘲られ、辛うじて出ていた愛想笑いも出なくなった頃
俺は朝、寝床から起き上がれなくなっていた。
職場での事を思い出す度、吐きそうになる。
ようやく、何か楽しいことをしたいと思い、SNSで知り合いの女の子に声をかけるも
先に言った通りの話だ。
職場を休むようになってから1週間経った朝、近くのコンビニに向かうと、小学生たちの登校時間だ。
そう、最近じゃ彼らがちょうど学校で勉強し始める頃に俺は眠る。
眠る為にかっくらっていた酒が切れ、こんな朝に外に出るなんて我ながら何を考えていたのか。
信号を渡れば、コンビニは目と鼻の先、周囲の視線に必死になって「なんともない」顔をしながら信号の赤を見ていた。
通勤中のスーツの人、制服の学生、周りは世の中に上手に溶け込み、素敵に生活しているように見える。
「おはよう」と声を掛け合う子どもたち、俺にもそんな昔があった。
彼らは楽しそうに昨日見たテレビの話、今やっているゲームの話をしながら、その声は一際耳に届く。
俺は横断歩道の縞模様を見ていた。幼い彼らの一人が何かを言って、視界の端に影がよぎる。
まだ赤の横断歩道に突っ込む子供、その子は足がもつれ、尻もちを着いた。
その視線の向こう、白い車。
「まずい」と思った時には身体が動いていた。
こんな非日常に直ぐに体が動くなんて、我ながらスゴイと思う。
この子を拾い上げて、乗用車を躱し、「こらボク達、ちゃんと周りを見ないとダメだろう」
そう言って背中で語り、そしてコンビニで酒買ってシコって寝る。
それがこれからの予定だ、そうなんだと思ったけど、路傍の石に躓いて、男の子を飛び越し、手をついて前転、その後車に跳ねられた。
-
『本日、男性が横断歩道に飛び出し、車に跳ねられられる事故がありました。
男性は撥ねられた後に電柱に衝突。全身を強く打ち、病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。
目撃者の情報によると男性は、道路に飛び出した小学生を庇おうと道路に侵入。
男性はバランスを崩し転倒。乗用車のブレーキが間に合わず男性が撥ねられたとのことです、小学生には大きな怪我は無いとのことです』
うぅ…暗い…
俺は…死んだのか…?
「はぁ…、ダメだったか」
誰だ?
「ふむ…せめて、手厚く葬ってやろう」
誰だ?
首元に触れられる手の感覚、何をしてるんだと疑問に思うくらいの頃に離れた。
目を開けると見知らぬ外国人男性が俺を見下ろしている
自然な金髪を短く整え、彫りの深い顔立ちに大きな青い瞳をキラキラさせつつ
「おい、ヴェス!」と、こちらとどこかを交互に見る。
男性が誰かを呼ぶともう一人、今度は白髪の初老の、これまた外国人男性だ。
伸びた白髪を後ろで結び、片方の瞳は斜めに入った傷で閉じられ、開いた瞼は下がっているが眼光は鋭く、厳しい。
「…なんとヒヤヒヤさせおって、乗り越えおったか」
なんだ?何を言ってる?俺はいつの間に海外に来たんだ。
「ハハ、混乱してるのか?おめでとう、お前はドラゴンハントになれる資格があるぞ」
イケメンは俺の頭を撫でながら言った。ドラ…?なんだって?
ヴェスと呼ばれた初老の男性は俺を起こし、目の下を引っ張り何かを確かめた。
「ふむ、意識ははっきりしとるようだの」
「ジェイディー、水を」
そう言われた短髪のイケメンは、木製の水差しから金属のコップに水を注ぎこちらに向けた。
それを受け取ろうとするも、腕が重い。
水の入ったコップは特に大きいわけでもないのに、それを持つことができず、落とした。
もう一つ、見慣れた腕ではない事に驚きを隠せなかった。
子供の腕だ、それもまだかなり幼い。
「うむ…少し休むがよい」
ヴェスはジェイディーに後を任せるとその場を後にした。
その背中を目で追い、そのついでに辺りを見渡す。
年季の入った石造りの建物、がらんと広く、大きい4本の支柱が荘厳な雰囲気を醸し出す。
何本も立てかけられた剣、西洋風な鎧、備品が入っていそうな木箱、金属製の檻。
俺が今座っているのは、動くたびに軋む粗雑な木製のベッド。
「まだ、寝ぼけてるみたいだな」
ジェイディーは俺の頭に優しく手を置き、柔らかく微笑んだ。
なんだんだ。ここは。




