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イリデッセンス  作者: 枝条梢
泥沼、愛憎、悲喜劇。
9/14

9 アウトサイダー③



頭がガンガンする。


「なんでぇ桃ちゃん?!コンテスト出場しないってどういうこと〜?!桜、めちゃくちゃ楽しみにしてたのにぃ!」


一難去ってまた一難。生徒会連中が去ってようやく落ち着けると思ったら、今度は昼放課に桜が特攻を仕掛けてきた。

なんていう聞き耳の早さだ。桜が大声で騒ぐものだから、教室にいたほとんどのクラスメイトがこちらに注目していて居心地が悪い。


「うん、桜、ちょっと屋上行こうか」

「やったぁ!久しぶりに桃ちゃんと二人でお昼ご飯食べれるの?えへへ、嬉しいな」

「そうじゃない。あんたの頭はお花畑なの?」


とは言ったものの結果的には桜とお弁当を食べることになり「桃ちゃんのお弁当いいなぁ、桜のとおかず交換しよ?はい、あ〜ん♡」と食べさせ合うことを強要されもした。が、交換もなにもそもそも作ってるのあんたじゃん。あんたの弁当私と中身変らないじゃん!と、諸々ツッコミながら仲の良い友達同士のような恋人同士のようなランチタイムを過ごす羽目になった。

だってこの子、一度言い出したら聞かないんだもん。


「――で、コンテストの話だけど」


とにもかくにも弁当を食べ終えひと段落ついたのを見計らって、私は本題を切り出した。


「はっ!そうだった、忘れてたぁ〜。桃ちゃんと二人きりでお弁当を食べられることが嬉しくて、つい。えへへ。それで桃ちゃんは、なんでコンテストやめちゃったのぉ?」

「あのね、それ私の意思じゃなくて生徒会の連中が決めたことだから」

「えぇ〜?本当に?」

「嘘ついてどうすんの」

「うぅーん、おかしいなぁ」


納得がいかないのか首を傾げながら唸る桜。

私はあの連中に毛嫌いされているのだからこうなるのもさもありなん、一体何がおかしいというのか。


「だってー、鷹島先輩はそんなことするタイプじゃないよ、たぶん」

「たぶんって。私、あんたの爪の垢煎じて飲ませてもらえとまで言われたけど?」


あれ?これを言ったのは橘の方だったか。……まあどっちでもいい。


「ぼっち極めつつある桃ちゃんがどんな理由であれ学校行事に積極的なのは良いことだ、みたいな感じのこと前に言ってたの聞いたけどなあ」

「建前に決まってるでしょ、あんたの手前」

「そんなことないよぉ。桃ちゃん鷹島先輩に対する評価が低すぎ〜」

「桜が逆に高すぎなんだってば」


あいつは単なるストーカーだ。桜と外に出掛けると大抵出くわす。

その不自然なまでの頻度にいい加減あんたも気づいた方がいいと思うけど。


「とにかく!こうなったら桜、先輩に直談判してくるねっ。桃ちゃんがコンテストに出られないなんて納得いかない!」


頬を膨らませプンプンと効果音のつきそうな怒り方で喚く桜に、もう何もしてくれるなと切実に思う。あんたが動くとロクなことにならない。


「はあ……」


私は本日何度目になるか分からないため息をついた。


 ◇◆◇


「ねぇ聞いた?信じられないよねー、白石さん。自分から立候補しておいて途中で放棄するなんて」

「あれだけ辞退はできないって説明したのにね。有り得ないよね、人としてどうなのって感じ。ワガママが過ぎるっていうか」


桜と別れ教室に戻った直後、瞬く間に私がコンテストへの出場資格を取り下げられたことが広まり一部の女子から大変なクレームがやってきた。

私がコンテストに出場できなくなった事実はひどく歪曲されてクラスメイトたちに伝わったらしく、何故か私がワガママを言って辞退したということになっている。おかげで聞こえるように陰口を叩かれる始末。

いやいや生徒会のやつらの仕業だし。あいつら職権濫用して一生徒の尊厳を踏み躙ってるから。さらに言えば私は立候補したつもりもないし、桜が勝手に推薦しただけだ。ここまで言われてしまえばもはやクラスメイトたちの間に広がる誤った噂を訂正する気にもなれないけど、誰かが意図的に吹聴したとしか思えないほど悪く言われている。


まあ、仕方ないのかもしれない。私は嫌われ者になりたくてなってるわけだし、普段の言動がブーメランとして返ってきたってだけだ。生徒会連中の思惑通りってのが気に食わないけど下手にあいつらと争う気もない。

桜さえ変に動かなければどうせ数日でほとぼりも冷めるだろう。あの桜が大人しくしてくれるなんて微塵も思わないけど……。


ああ頭が痛い。


「桃?」


気がつくと目の前にはこちらを覗き込む真澄の顔があった。放課後になって下校しようと門を出たら案の定捕まった。

真澄の学校は近いとはいえ距離があるわけだし、私がさっさと帰ってしまえば会うこともないだろうと安易に考えたのが間違いだったようだ。


「……真澄あんたさぁ、部活は?そもそもこの時間にここに来られるのっておかしくない?」

「まあ、HRサボったからなあ。あとチャリ盛りコギしてきた。部活はこの後夜練があって……あ、桃見に来る?」

「行かないし。てゆーか、拓真とのことはちゃんと説明するからHRサボってまで来ないでよ」

「じゃあ今度からは待ち合わせにするか」

「は?」


今度?何でそうなる。


「ハハ、お前、すっげー変な顔。冗談に決まってるだろ。俺は部活があるし、桃だって委員会とか何かと予定があったりするじゃん。小学生の頃みたいに桃と桜、それに兄貴、みんな一緒にってのは難しいよなー」

「……」

「あの頃は楽しかったなあ。いつの間にかバラバラになっちゃったけどさ。桃がまだ、俺たちと遊んでくれてた頃。あの頃は本当に―――」


懐かしむようにそう言って真澄は口を閉ざした。いつも真っ直ぐに私を見つめるその瞳に翳りが見えて何だか妙な気分になる。


「なぁ桃、覚えてる?昔、みんなでよく行っていた近所の公園のでかい桜。あの木の下にタイムカプセルを埋めたのを」

「……覚えてない」

「あの時は確か、前の日に兄貴と桃が喧嘩しててさ。桜なんかそれ見て泣いちゃって。ギクシャクした雰囲気の中でみんな無言で土掘ってたよな」


そういえばそんなこともあった気がする。もうずっと昔の記憶なのに真澄もよく覚えているものだ。

会ってもほとんど口を聞かない今の関係より少しだけマシとはいえ、小さい頃から私は拓真に嫌われてきた。もちろん幼い私に受け流すだけの余裕があるわけもなく会う度に喧嘩をしていた気がする。その時も些細なことで言い争いにでもなったのだろう。


「昔から兄貴はやたらと桃に突っかかってただろ。なんでそんなに桃を嫌うんだろうって思って聞いてみたら、別に嫌いじゃないって言うんだよ。ただムカつく、って」


それは嫌いと同義語だろう。真澄も同じことを思ったのか「意味分かんないだろ?どっちも似たようなもんなのに」と続けた。


「だけどさ、タイムカプセルを埋める日、兄貴がどんな物を埋めるのか気になってこっそり中身見たら、もうびっくり」

「何が」

「兄貴、桃宛にメッセージ書いてたわけ。一言ごめん、って」

「は……?」


何だそれ。

“ごめん”?


「笑っちゃうだろ。悪かったと思うなら直接言えばいいじゃん?しかもタイムカプセルって明日明後日に見るもんでもないし、掘り起こすの何年後だと思ってるんだよ!もう本当バカ」

「……」

「だから、兄貴はただ不器用なだけで桃を嫌ってるわけじゃない。何があったか知らないけど、きっと桃は兄貴を誤解してる」


誤解ではなく事実だ。拓真は私を嫌っている。現に昨日、俺たち兄弟に近づくなと牽制されたのだから。

あれを誤解だと解釈するほど私も馬鹿ではない。


「……なぁ桃、昨日兄貴と何があったんだよ?」


気づかわしげな真澄の声色に拓真との間にあった出来事を赤裸々に話してしまいたい気持ちに駆られるが、私は口を固く結んで黙り込むことにした。真澄に伝えたらきっと余計な火種にしかならない。


「兄貴に変なことでも言われた?例えば俺と関わるな、とか」

「……」

「その顔ビンゴだな」


火種を生みたくないがために口を真一文字にして結んでいたのに何故か言い当てられてしまう。おまけに私の顔を見て確信を得ているし。

……なんで分かったんだこいつ。

よく何を考えているのか分からないと言われるポーカーフェイスなはずの私だけど、意外と顔に出やすいのだろうか。


「とにかく!真澄、私はもうあんたに関わる気はないから。別に拓真に言われたからとかじゃなくて、もともとそう思ってた。塾の送り迎えも来なくていいよ」

「桃、俺は」

「ばいばい」


真澄の言葉に重ねるようにして別れを告げた。


“俺は、誰が何と言おうと、お前の幼馴染みだよ”―――なんて、真澄らしいくさいセリフだ。




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