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英雄と戦犯は紙一重  作者: DISHONORED
第一章-西バルティカ編-
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#7 誓い

「あなた・・・今の状況をわかっているのです?」


ナーフィアは眼前に立つ男――――伏根凌雅に問いかけた。


「ああ。お前が俺に殺されるんだろ?それぐらいわかってるよ」


「ふふふ、面白い男ですね。エリスティーナ王女殿下がどうなってもいいと?」


ナーフィアは隣の兵士と目を合わせる。


「ひっ!!」


ナーフィアの護衛である兵士はマスケット銃の銃口に付けられた銃剣をエリスティーナ殿下の首元に当てる。


ようは脅しだ。


「・・・でっ?」


「・・・いや、この状況を理解していますか?」


ナーフィアは首をかしげて、ことも当たり前かのように聞いてくる。


「俺・・・ブカレスト人じゃないし。その人がどうなろうか知ったことではない」


「「えっ!?」」


ナーフィアと、銃剣を首筋に当てられ人質にされているエリスティーナ。二人共アホみたいにポカンと口を開けて、凌雅を見た。


「いや、なんで俺があんたを助けるのが前提なんだ?俺は、人間の命を、生きる権利を蔑ろにして弄んでいるこのナーフィアって男に腹が立っているだけだ」


「じゃ、じゃあ、わ、私は?」


恐る恐る凌雅に尋ねるエリスティーナ。


「アルフレート将軍が助けに来るだろ」


その一言できっぱりと無視をする凌雅。


「ええい!!お前達!!あの男を始末しなさい!!」


「「「「「はっ!!」」」」」


ナーフィアは凌雅から距離を取り、兵士たちはナーフィアと凌雅の間に割って入った。


「トランス!!」


ナーフィアを護衛するバルグラード守備兵達は、マスケット銃を構え、剣を構え、弓を構え、それと同時に、凌雅は地面に手をつき呪文を詠唱する。


「はぁ~お前達、そんなんで俺に勝てるとでも?」


「はやく殺しなさい!!私を守るのです!!」


「そ、それが・・・あ、足が・・・う、腕が・・・」


「足?腕?」


兵士の言葉にナーフィアは兵士たちの足に視線を移す。


「ひっ、な、なにが、どうなっているのです!?」


ナーフィアは兵士たちの足と腕、そして体に絡みつく木々とツタを見て怯える。が、怯えている理由は、木々とツタではなく、それらを生み出した凌雅の謎の力に。


「だから、お前たちは俺と勝負する前から勝敗は決まっていたんだよ」


「なんで、こんなところに植物が!?」


「お前たちの自由を奪うのも、お前たちの命を奪うのも、全て俺に握られている」


木々に絡まり動けない兵士の頭を手に掴むと「アクセル」と一言、凌雅は言った。それが、どういう意味なのか。


「えっ?な、なんで、俺?」


なぜ、自分が空を飛んでいるのか?


「あ、あれ?お、俺の身体は…?」


なぜ、自分の身体が無いのか。


そして気がついた。


頭を吹き飛ばされたのだと。


魂と共に。


「こんな感じにな」


まるで人を殺したと感じさせない、その麻痺した感覚と感情に兵士は戦慄した。


「安心しな。もう殺すのは」


凌雅はナーフィアと瞳を合わした。


「このクソ汚い俗物で十分だ」


「き、貴様ああああ!!」


「アクセル!!」


自分の体に加速魔法をかけ、凌雅は離れたナーフィアの眼前に迫る。


「お前を浄化してやろう」


「ひ、い、いの、命だけはああああああ!!」


「トランス!!」


ナーフィアは、凌雅の手に握られた首から身体全てが水となり浄化した。


「貴様のような人間に殺すことすら生ぬるい。水という永遠の輪廻において、渇きをおぼえる人々を救え。それが、お前に課せられた罰だ」


凌雅は濡れた手の水を払い、エリスティーナの腕に付けられた枷を外す。


「エ、エリスティーナ殿下ああああ!!」


と、ちょうどいいタイミングで扉を蹴り破り、登場するアルフレート将軍一行。


「ア、アルウウウウウ!!アルウウウゥゥ!!」


エリスティーナはアルフレート将軍の姿を見るや、彼に再会できたこと、そして触れられる距離にいることが嬉しくて、心の奥底の、人の目には見えないところから込み上げる熱い思いを彼にぶつけるように抱きついた。


「で、殿下!?お、お戯れを!!ぶ、部下が見ています!!」


アルフレート将軍は突然の出来事に、体を硬直させ、震える手で彼女の肩に手を置いた。


「アル!!アル!!アルウウウウ!!こ、怖かった・・・辛かった・・・寂しかった・・・」


「殿下…」


彼女の泣き声に、冷静さを取り戻したアルフレート将軍は優しく…それは父が娘を抱くような、安らぎを与えるように、包み込むように抱きしめた。


「お疲れ様です、殿下。我は殿下を二度と・・・もう二度と、独りにはしません。必ずや、我がお側にいます」


「アルウウウゥゥゥ…絶対よ?絶対だからね?」


「はい。殿下」


エリスティーナは彼の、アルフレート・シュクラバルの心遣いがたまらなく嬉しかった。


彼の心音を感じながら瞳からこぼれ落ちる涙は、ナーフィアに監禁されている時に流した悲しく、苦しく、辛い涙ではないと。嬉しくて流れ落ちる涙があるということを初めて知った。







ブカレスト王国第四王女―――――エリスティーナ・ブカレストはブカレスト王国南部最大の都市[グラーゼ]で生まれた。


先王アウグストゥス・ブカレストと、名も無き娼婦との間に出来た、望まれぬ、愛の無い子供だった。


ブカレスト家内では立場は低く、“妾の子”“穢れた血”と、いつも罵られる日々。


愛の無い交わりで生まれた、とは言え、黄金の髪に黄金の瞳。誰が何を言おう、王家の証を受け継いだ王族だった。


多少なりとも罪悪感を感じた先王アウグストゥスは自身の右腕でもあるブカレスト王国の若き将軍アルフレート・シュクラバルを幼いエリスティーナの教育係として命じた。


「わ、私を王女の教育係にですか!?」


「ああ。ワシがエリスに愛情を注げば他の王族や貴族たちからの反発を生む。ただでさえ、まだ22のお前を将軍に登用しただけでこれだ」


14歳で軍人になり、ラウレノヴァ合州国との戦争で初陣を飾り、その功績が認められ下士官からわずか一年で士官となったアルフレート・シュクラバルは、4年にわたって続いたラウレノヴァ合州国との戦争で数々の功績を残し18歳で師団長にまで上り詰める。


貴族たちからの反発は大きくも、平民出身という肩書きはラウレノヴァ合州国との戦争中、体の良いプロパガンダ、ガス抜きとなり、戦後は国土の半分を失う敗戦を喫したが、彼はブカレスト王国の英雄として君臨。平民に与えた希望は大きく、貴族たちも無視できぬ存在となった。


また、その後疲弊したブカレスト内で起こった地方貴族の内乱を最小限の被害で食い止め、内乱をおこした地方貴族に変わって新領主となった。


平民から英雄、そして貴族に上り詰めた男として、平民でも実力次第では貴族の列席に座れる。と証明した。


彼は指揮官としてだけでなく、内政手腕にも優れ、疲弊した国土は、彼が治めている地方から広がるように景気回復の余波を広げた。


22歳の誕生日に彼はブカレスト王の右腕とも言える大公の爵位を与えられた。

それと同時に彼は、周りから左遷とまで呼ばれる“ブカレスト第四王女の教育係”に任命されるのであった。


「わしはエリスに直接の愛情を送れぬ。わしに変わってお主がエリスに愛情を教えてやってはくれぬか?」


「・・・アウグストゥス様の命ならば!!」


「わしも長くは持たない。わしが亡くなったら本当の意味でエリスは孤立する。それだけは。ワシの最後の頼みを聞いてくれ」


「私にできることならば!!」


「あの娘を、あの娘の負った深い傷を癒してはくれぬか?深く閉ざされた心を解放させてはくれぬか?」


彼をエリスティーナの教育係に命じた先王アウグストゥスはまもなく亡くなり、ブカレスト第一王子ベルトラム・ブカレストがブカレスト王になり、エリスティーナの居場所は無いに等しく。


ただ、唯一の寄る辺がブカレストの英雄――――アルフレート・シュクラバルであった。


ベルトラムは、平民出身の彼を妬んでいたものの、彼自身アルフレートに害されたことや政治に介入されたこともなく、言うならば無害であった。また、国民の9割をこえる平民の反発を恐れたベルトラムはアルフレートを現状維持で乗り切ろうとした。そして当のアルフレートも首都から離れた地方領主として、そしてエリスティーナとの暮らしに満足していた。


この娘のためだけに生きよう。この娘の亡き父に代わり、自分が父となろう。


生まれてきた時から忌み嫌われ、罵られ続けた結果、当時6歳の彼女の心に残した深い傷は大きなものだった。そして、もう二度と心が傷つかぬようにと、閉ざされた心の扉は固く、厚く、幾重にも鎖に縛れていた。


でも、その傷が例え癒えなくても、それを埋め尽くすほどの優しさと愛情を深く注いであげよう。その深く傷ついた心を忘れさせるほどの、海の底に沈めるほどの、たくさんの思い出を作ってあげよう。


それが、亡き先王からいただいた大恩に報いる唯一の方法だと。


そして10年の月日が経った。


悲しく、苦しく、辛い涙しか流したことのない彼女は、人生で初めて、心からの嬉しさの涙を知った。


「で、殿下・・・!?」


アルフレート将軍はエリスティーナの瞳からこぼれ落ちる涙を見た。


その涙を流す彼女の表情や声色が悲しみや苦しみではないと伝わった。

なら、彼女は何故涙を流す?


答えは簡単だった。


(我が心が殿下と会えたことを嬉しく思うように、殿下も)


彼女が流す嬉しい涙を見て、アルフレート・シュクラバルは先王から与えられた大恩に報いることができた、と。


そして、これからも、殿下の側にいて、彼女を守る盾と矛になろうと誓った。


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