#6 バルグラード市庁舎襲撃
「陣形を乱すな!!敵は突然の襲撃に対応できていない。確実に殲滅せよ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
89式小銃を構えたアルフレート将軍率いるブカレスト精鋭部隊はマスケット銃や刀剣類しか持ち合わせていないバルグラード守備兵達を読んで字の如く、蜂の巣にしていた。
「容赦はするな。人の命や権利を弄ぶような輩に慈悲は無用!!情けはいらぬ。情けをかけたが最後、敵は我らを襲うぞ!!情けを殺し、敵を殺すのだ!!」
もはや力の差は歴然。小銃を持った兵隊に求められる散兵としての機能を果たしてはいないが、もはや数とスピードの暴力で、数の暴力を蹂躙している。
敵兵は逃げるが、敵兵を追うのは人間ではない。
銃という武器から放たれた鉄の塊“弾丸”が彼らの背中を襲う。
「がっぐあ!!」
「ひ、ひいいいいいい!!」
「貴様らが弄んだ人の命、貴様らの命で償わせてもらうぞ!!」
まるで、ドミノ倒し。
強力な殺傷力。圧倒的な制圧力。
この区画にいた兵士は一人残らず駆逐され、地べたは赤く染まり、漂うは地肉の香り、鉄の臭い。
散らばるのは、元は人間であった肉塊。糞の詰まった肉袋を晒し、消化途中の汚物が詰まった胃袋を破裂させ、精肉工場と思われてもおかしくない惨状だ。
「このエリアのバルグラード兵は一掃した。我らが目指すのは、眠れる豚、いや、犬畜生にも劣る糞袋が居座る市庁舎だ」
「将軍!!我が軍の死者ゼロです」
側近であるセレナの報告と、自分の背中についてきて、生き残った精鋭たちの姿を見てアルフレート将軍は目を驚かせた。
「一度しか扱ったことがなかったが、実践に投入したら、こうも戦況がひっくり返るものなのだな」
凌雅から受け取った89式小銃もとい、古代兵器を手に取り、アルフレート将軍は思う。
彼らがこの都市に来なければ我々はどうなっていたか。
感謝してもしきれないほどだ。
「我々はエリスティーナ殿下を救い、全員生き残ってこの都市から脱出する!!さあ、行くぞ!!」
アルフレート将軍とその一行は勢いよく、市庁舎の扉を開けた。
一面緑色の地が広がり、中央に位置する盛大な噴水。
―――――綺麗だ。
アルフレート将軍は一瞬自分がどこにいるのか、わからなくなった。
「――――――ご機嫌いかがですかな?アルフレート・シュクラバル将軍」
そんな、彼を目覚めさせた一言。
そして、彼は理解した。
扉を開き、自分たちの目に映った光景は
―――――――地獄だ。
「ナーフィア!?」
「言ったはずですよ?王女の所有者は私だと!!」
市庁舎中央に作られた広大な庭園。見晴らしのいいところにまんまとおびき出されたアルフレート将軍一行。
そんな彼らを見下ろす位置にいるナーフィア。
「か、囲まれた!!」
中央に位置する広大な庭園。だが、周りは全て市庁舎である建物に囲まれ、庭園に侵入したアルフレート将軍達を見下ろす位置にいるのはナーフィア率いるバルグラード守備兵。
「さあ、彼らは袋の鼠です!!狙い撃ちなさい」
「「「「「はっ!!」」」」」
マスケット銃を構えた兵士は一斉にアルフレート将軍一行を狙い撃ちする。
「くっ、そんな武器で我々に敵うとでも!?」
パパパパパパパ
幾重もの弾丸が上層階にいるナーフィアと、バルグラード守備兵を襲う。
「彼らは古代兵器を使っていましたか・・・どうやって持ち込んだかは知りませんが」
ナーフィアは地の利はあろうと、その利など関係なしにパワーバランスを崩壊させる古代兵器相手に、未だに落ち着いた表情であった。
「ふふ、アルフレート将軍・・・これを見ても貴方はその銃で私たちを撃てますか!?」
ナーフィアの前に立たされたひとりの少女。
「エ、エリスティーナ殿下!!」
黄金に輝く長髪に、王家の証とでも言える黄金色の瞳。白い肌に、細長い美しい腕に触れるは、肉油と欲にまみれた醜悪な男の手。
「ア、ア、アル!!アル!!アルウウウウゥゥ!!」
エリスティーナは、アルフレート将軍の愛称を上層階―――――ナーフィアの隣で叫んだ。
今すぐにでも、この穢らわしい汚物から逃げて、彼のもとへ行きたい。でも、この状況。自身が彼の弱点になっていることぐらいわかっていた。
「来たら・・・これ以上来たら駄目!!」
だから、彼女は彼に来て欲しくなかった。
そして、彼を拒絶した。
「殿下!!我は必ずや、あなた様を救います!!」
「アル…」
「その言葉、果たせますかな?」
薄汚い笑みをこぼしたナーフィア。彼の気色悪い独り言と同時に、アルフレート将軍は部隊に命令をかけた。
「―――――っ!!密集陣形用意!!」
アルフレート将軍の命令に、一斉に四角形の方陣を組む。
「一斉射撃用意!!放て!!」
パパパパパ
乾いた連続射撃音が続き、その音に続くように、金属と金属が触れ合うような甲高い音が戦場を奏でる。
「あ、あの盾は何なんだ?」
彼らが見たのは、あらゆる通路から、厚さ数センチ、横幅数メートル、高さ2メートルの巨大な装甲盾を装備し、突撃銃の幾重の銃撃をもろともしない装甲兵の集団。
「と、突撃銃の銃撃が効かない!?」
巨大な装甲盾を手にした装甲兵にジリジリと迫られる中、アルフレート将軍一行がとった手段は密集陣形。
見晴らしのいいところにおびき出されただけでなく、当てる的を増やすため密集陣形さえも、彼らにとっては選ばざるを得なかった。
市庁舎の上の階層から密集陣形になったアルフレート将軍を狙い撃ちにしていく狙撃兵。これだけの距離で、密集している彼らにマスケット銃ですら十分すぎる兵器だった。
「上だ!!上の階層の奴らを狙え!!」
「し、しかし、装甲兵が」
もう、目と鼻の先まで来ている装甲兵。
いずれ、ゼロ距離まで近づかれて、装甲により圧殺されるか、白兵戦で千切りにされるか、二つに一つしか、答えはなかった。
たった二人のイレギュラーを除いて。
「諦めるのはまだ早いわよ」
「―――――なっ!?」
アルフレート将軍は市庁舎最上階から飛び降りてきた二人の男女。色惚けの清華人夫婦を目の当たりにした。
「さあ、潰れなさい!!グラビティ!!」
沙耶の一言で、下にいた装甲兵達は、突然立てなくなり、地面にひれ伏す。
「驚いたわ。私がおこした重力異常に耐えるなんて。ご褒美をあげるわ。自身の引力で圧縮されなさい!!」
どう、言葉で説明すればいいやら。
先程まで、美しい翠緑の大地が、今となっては真紅に染まり、自然の匂いは鉄錆の匂いに変わった。
「う、うわぁ...ス、スプラッター」
その凄惨な光景を見てドン引きする凌雅。
沙耶の白魔法の一部である重力・引力操作は、下にいた装甲兵の血だけを残して、彼らは自身の引力と、異常なほどの重力異常に押しつぶされ、圧死してしまった。
いや、圧死と言っていいのかどうかすら怪しい死に様だ。
「こ、これは・・・」
突然ぐちゃぐちゃに潰れた敵兵を哀れに思うも、なぜこんなことになったのかという疑問が頭の中をうずめく。
「き、貴殿たちが、やったのか?」
アルフレート将軍は恐る恐る、庭園に舞い降りた色惚けの清華人夫婦(仮)に聞いた。
「ああ。助太刀に馳せ参じた。話している暇はないだろう?」
「かたじけない!!」
「謝礼なら、ここから出たあとにもらおう。アクセル!!」
凌雅は加速魔法を自身にかけ、ナーフィアのいる上層階へと上がった。
「沙耶!!下層の奴らはお前に任した」
「ええ。そっちに行ったら、私じゃ手加減できないからね」
沙耶は凌雅の言葉に頷くと、残った装甲兵の前に立つ。
「アルフレート将軍、ここは私が抑えます。あなた達は、お姫様を!!」
「恩に着る!!」
沙耶に一礼したアルフレート将軍とその一行は二手に別れ、上層階への階段を探す。
「さて、私は―――――」
彼女は後ろを振り返る。
「「「「―――――――っ!?」」」」
ビクッと震える装甲兵達。
沙耶の、純粋無垢な、そして、何を考えているかわからない虚無な瞳に、7.62mm弾の攻撃をもろともしない装甲盾を持つ装甲兵ですら、恐怖を覚えた。
ベチャ
沙耶が一歩一歩と装甲兵達に近づく。
「ひ、ひぃ!!」
彼女の地べたに広がる深紅に染まった緑。彼女が地を踏みしめるたびに飛び散る血飛沫。
「安心なさい」
沙耶は怯える兵士をなだめるように、微笑んだ。
それは、女神の笑顔からかけ離れた―――――女神の嘲笑
「苦しめないで――――――殺すから」
「「「「ひ、ひぎゃああああああああああ!!」」」」
彼女はわずかな時間で、緑の庭園を、血飛沫公園へと変えた。
彼らの断末魔と共に――――――