#4 約束
「来てくれたか」
アルフレート将軍から渡された一枚の紙にしるされていた一軒の居酒屋。
そこにはアルフレート将軍以外にもたくさんの屈強な戦士が立ち並んでいた。
「この人たちは?」
「我らの同胞だ。殿下を救うためなら命すらも厭わない屈強の戦士だ」
「馬鹿か?命散らしたら誰が姫様を救う?命を粗末に扱うやつが命を救うとは片腹痛い」
上から目線、馬鹿にするような挑発口調、そして嫌味っぽく、それでも何かを訴えかけるような正論に屈強な戦士達はプライドを傷つけられた。
「き、貴様!!」
「セレナ!!」
セレナと呼ばれる若き女性兵士は既に抜刀をしていた。
それに続くように、ほかの兵士も剣の柄を握りしめていた。
そんな彼らが手を出す前に止めたのは屈強な戦士達のリーダーであるアルフレート将軍。
「しょ、将軍!!で、ですが」
なぜ止めたのです!!と、目で訴えていたセレナを眼光で黙らせる。
「確かに、貴殿の言うとおりだ。命を粗末に扱うのは人間を奴隷として扱うバルバロスと同じであった。貴殿の言葉、然と受け止めておこう」
「わかればいい。で、どんな武器が欲しいんだ?俺が持っている範囲でくれてやろう」
「ということは?」
「ああ。お前たちの語る正義とやらを知りたくなった。ただそれだけだ」
「あ、ありがたい!!」
地面に頭がつくのではないかと思うほど頭を下げるアルフレート将軍を見ていて恥ずかしくなった凌雅は
「いいから頭を上げろ。で、とっとと注文しろ。何が欲しい?」
強く当たる口調で問いかけた。
「古代兵器」
「古代兵器?」
なんだそりゃ?
首をかしげて問いかける凌雅は隣に立つ沙耶と目を合わせる。
「かつて、人は空を、地を、星間を駆け巡っていた黄金の時代があった。だが、行き過ぎた技術はその文明を破壊するまでに至った。今ではかつて文明を破壊した武器・兵器を古代兵器と呼んでおります」
「「・・・」」
そんな、神話上の武器言われてもなあ・・・
顔を見合わせる沙耶と凌雅。
帝国で天叢雲劍をくれとか、英国でエクスカリバー出してくれとか、言っているようなことだろ?
そんなの神様に頼んでくれ。呆れかえる凌雅。
「・・・んで、欲しい武器の特徴は?」
まあ、取り敢えずこいつらの要望に応えられるか知らんが、自分なりに作ってやろう。と思ったのは凌雅なりの敬意の払い方だ。
「刹那の刻で、数多の鉄の雨を降らし、金属の盾を打ち抜き、鋼鉄の壁をも破壊する」
「「・・・」」
二人は唖然とした。
沙耶は何夢物語を語っているの?と言った表情。
一方凌雅は思考を巡らしていた。
刹那の刻で鉄の雨を降らす?
わずか数秒の間に鉄を降らす。鉄とは銃弾と考えれば、それは自動小銃や機関銃のことだろう。
金属の盾を打ち抜く。どう考えても対物ライフルだろう。
鋼鉄の壁を破壊するは、対戦車ロケットとかだろう。
成程。古代兵器とやらは、それらの兵器の総称か。
「・・・成程。いいだろう。今から見してやる」
「本当か?・・・って、どこに隠してあるんだ?」
アルフレート将軍は喜びと同時に、手ぶらの凌雅・沙耶の二人を見る。
どう考えても武器の一つすら持っていない。
「ここだよ、ここ」
右手の人差し指で自分の頭をつつく凌雅に、アルフレート将軍は首をかしげた。
「ハハッ、まさか、今から作るとかいうのではないだろうな?」
冗談混じりで凌雅に聞いたアルフレート将軍。
「おお、よくわかったな。あんたは天才だ」
凌雅から返ってきた返答はもはや冗談で済むものではない。
「・・・貴様、よもや、我をからかっているのではないだろうな?」
先程までの緩やかな表情から一転、口調は濁り、アルフレート将軍の表情は今にも眼光で殺人を犯せそうな、鬼神と化した。
「からかう?冗談よしてくれよ。俺は至って大真面目だ」
軽い口調で話す凌雅から言動を感じなかったのか、アルフレート将軍と彼の部下は目を合わせていた。
「貴様の返答しだいでは、生かして返さん」
セレナは一人先走って剣の柄を握ったが、アルフレート将軍も誰一人として止めはしない。
「だってよ。俺たち殺されちゃうみたいだけど、生きて帰れる自信ある?」
周りの視線は冷酷無情、今にも殺す雰囲気を立てているというのに二人はいたって普通だ。いや、普通という言い方はおかしいかもしれない。
「そうね。5秒あれば大丈夫よ」
「そうだな。俺も5秒あれば大丈夫だ」
もともと頭のネジどころか、人間として体のいろいろなところがぶっ飛んでいる魔法士なのだから。
「5秒?5秒でこの数の精鋭たちを抜けると言うのか!?」
アルフレート将軍の右手は殺意に満ち溢れ、今にも剣を抜く勢いである。
アルフレート将軍だけではない。周りの精鋭たちもいつ殺すかと頃合を見計らっている。
「いいや、殺す方だ」
シャキン。金属がふれあい、奏でる音響。
彼らの利き手からさし抜かれた剣先は凌雅と沙耶の方へ向いた。
「貴様は我らを侮辱しているのかああああ!!」
アルフレート将軍の声と同時に凌雅も叫んだ。トランスと。
“パパパパパ”
突然凌雅の右手に現れた“それ”はカランカランと空薬莢を地面に落とし、天井には無数の穴を空けた。
「5秒もあれば貴様らはこの天井と同じ蜂の巣となるだろう。どうだ?お前たちが欲した物はこれではないのか?」
「・・・そ、それは?」
「突撃銃。貴様らが扱うマスケット銃とは比べ物にならない威力の殺戮兵器だ」
まあ、俺の隣に立つ女に比べれば優しいものだ。
口では流石に言えない凌雅はこっそりの心の中で言う。
「さあ、これで、貴様らの正義とやらを語ってこい」
と、帝国陸軍正式採用の89式小銃をアルフレート将軍に渡す。
「はやとちりしてしまった事に謝罪したい」
「ああ?揶揄っただけだ。おあいこさ」
「なかなか辛口な揶揄いっぷりだった。だが、たった一つしかないのだが、銃というのだ。弾丸に限りがあるのだろう?」
「誰が一つしかないなんて言った?」
再びトランスと詠唱し、あたり一面に大量の89式小銃と7.62mm弾をばらまく凌雅。
「ど、どこから、これだけの武器を?」
「あ、俺たち“手品師”だからな」
フッと鼻で笑う凌雅。
「ああ、そうだったな。清華人は手品師だったな」
アルフレート将軍は転がった小銃と弾薬を手に取る。
「弾がなくなったらこうすればいいんだな?」
先ほど凌雅がしていたことをものの見事に真似たアルフレート将軍に言うことはなかった。
「決行はいつだ?」
「明日の早朝。バルグラード市庁舎及び官庁を襲撃し、姫様を救い出す」
「そうか。楽しみに見ているよ」
「ああ。この恩、いつか必ず返そう!!」
アルフレート将軍は地面に膝をつき、深く頭を下げた。
「興味ねえよ。まあ、言うならば必ず勝ってこい。それが約束だ」
素っ気なく言葉を返した凌雅は、沙耶とともに颯爽と居酒屋を出ていった。
「あれが・・・清華人か」
アルフレート将軍は銃のグリップに残るほのかな温もりと、鼻にかけず、天狗にならず、静かに背を向けて消えていく姿を残した二人を思い浮かべていた。
「残虐非道な侵略民族と聞いていましたが」
セレナは散らばった銃弾と89式小銃を回収する。
「なかなか個性的な人間ではないか」
明日のためにも寝るぞ。アルフレート将軍はロウソクの火を消すと、静かに寝床に腰を下ろす。
「我々は勝つ。絶対にだ!!」
拳を握り締めたアルフレート・シュクラバルは静かに瞳を閉じた。
明日のために。