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英雄と戦犯は紙一重  作者: DISHONORED
第一章-西バルティカ編-
22/32

#21 インプット

「これで、全部だ」


この都市を何年も前から牛耳る組織というのだから、さぞ大豪邸に住んでいるのだろう、と思って《無法金有》の本拠地へ向かったが、確かに広さ的に言えば大豪邸だが、たどり着いたのはボロボロになったロスガの市庁舎跡地だった。


まあ、誰がどこに住もうが俺らにとってどうでもいいことだが。


と、外面はともかく中は綺麗になっており、一番下の階で、ガルトマンはタンスにしまい込んでいた麻薬を机に広げる。


「オブラートに包まれた梱包剤タイプから粉末、吸引、錠剤からいろいろだ」


「・・・」


凌雅は一通り麻薬を品定めする。


「ガルトマン。この中で今どれが一番人気なんだ?」


「そうだな。吸引タイプは特殊なパイプが必要。粉末は水に溶かしたりするからで、水が貴重なこの地域じゃあまり人気はない。簡単に飲み込めるような錠剤だな」


「そうか」


凌雅はガルトマンの話に従い、錠剤タイプの麻薬を手に取る。


「さてと―――――[解析]」


錠剤タイプの麻薬が握られた凌雅の右腕は暗黒物質により漆黒に染まり、禍々しいオーラを漂わせていた。


「成程・・・」


成分は半分以上がリゼルグ酸やメスカリン。一部にイボテン酸が含まれている。


「ふむ、この錠剤・・・幻覚作用があるな」


「なっ!?お前どうしてそれを知っている?」


顔が歪むほど驚いたという言い回しがあるのか知らないが、直接言うならばそう表現する以外表しようのない表情のガルトマン。


ガルトマンからすれば、都市で出回っている麻薬の副作用をピタリと当てた凌雅は不気味なことこの上ないだろう。


「そんなことはどうでもいいだろう」


「さっき凌君の手が真っ黒に染まったよね?あれで、あの錠剤の成分を調べていたのよ」


許可もなく凌雅の秘密をペラペラと暴露する人間核兵器こと、南郷沙耶。

ガルトマンも沙耶の説明を受け納得の表情を浮かべる。“どうしてそのようなことができるのか?”という疑問を除けば。


「まあ、なんだ。この都市もかつては繁栄を誇った都市なんだろうな」


そうでもしなければ、この都市の住人が快楽を求める麻薬ではなく幻覚作用のある麻薬に手を出すとは思えない。


「そういう時代もあった。カスティリアの終わることのない国土回復運動によってロスガが荒廃するまでは・・・」


「カスティリア・・・そういえば、その地域で麦とか、もしくは特殊な産出物ってのはあるのか?」


「カスティリアは山が少ない割には川が多く海にも面してカスティリア北部の森林地帯ではきのこが有名で、後は穀倉地帯が多いはずだ」


「そうか」


と、意味深な質問をガルトマンにした凌雅は一人勝手に納得の表情。


(リゼルグ酸は主に麦から。イボテン酸はキノコ類からだな)


まあ、これだけではカスティリアから導入された麻薬と判断するには確固たる証拠にならない。が、参考程度にはなるだろう。


「じゃあ、もうひとつ。麻薬取引が多い場所はどこだ?」


ガルトマンはロスガの地図を引っ張り出すと、ある一角を指差した。


「西・南ロスガは主に俺たち無法金有の縄張りだ。東側はだいぶ縄張りが取られ、東側の検問所が奴らの縄張りだ」


「ふむ。なら俺はその周辺で麻薬やってるやつらにタダで配ればいい」


「敵地での諜報活動か・・・」


口をへの字に曲げて、どうも納得のいかない怪訝顔のガルトマン。俺の考えのどこに不満があるというのだ?


「なにか、問題でも?」


「いや、あんたらの命は心配していないが、あまり大事を起こさないでほしいというのが本音だ」


「・・・まあ、できる限り注意はするが、《浸蝕利疫》の麻薬商人が一人や二人死のうが痛くも痒くもないだろ?」


「いや、そういう話ではないんだよ。俺たち《無法金有》と《浸蝕利疫》の境界線上は長いこと緊張状態が続いていてね。あまり相手方に死者を出させたくはないんだよ」


「つまり、まだ戦うには早いと?」


「ああ。背後にカスティリア・・・現西バルティカ連合帝国がいると見ているからな。今度ロスガが戦場になったら今度こそ廃都だ」


ガルトマンは窓ガラスをあけて、葉巻タバコを吸い始める。


「麻薬はダメで、タバコはありか?」


少し皮肉る形で凌雅はガルトマンをおちょくった。


「麻薬がダメとは言ってねえ。こんな交流のない都市に麻薬がもたらされたとき、本当の意味で都市は荒廃する」


ガルトマンは窓から見える都市を見渡しながら、タバコの灰を外に落とした。









―――――――ロスガ東検問所

「こりゃひでえな」


凌雅と沙耶がロスガに入場したのはロスガ南検問所で、ロスガの二分する勢力の一つ《無法金有》の割拠地であり、麻薬は基本禁止であった。


だが、ここは《無法金有》と敵対する麻薬密売組織《浸蝕利疫》の縄張りである。


ウエスト人が中心となって作られた組織だけあって、《無法金有》の縄張りとは違い、ウエスト人と呼ばれる人種の特徴を持った人間がそれなりにいる。


そして麻薬に溺れ、路上に倒れているのはこの都市の先住民である亜人達である。


「まあ、誰が、麻薬商人かは見ればわかるが・・・」


手当たり次第麻薬をタダで配れば、口出しをしてくるはずだ。


凌雅はウエスト人達の目の前で床に倒れている亜人達に錠剤タイプの麻薬を無料で配る。

もちろん、麻薬を売って稼いでいる麻薬商人にとって目障りなことこの上ない。


「ちょっと、清華人の兄ちゃん」


ほら、食いついてきた。


「ここら辺は俺たち《浸蝕利疫》の縄張りなんだよ。まさか、それを知っていて薬を配っているわけじゃないよな?」


「もし、知っていて配っていたとしたら?」


凌雅は、手に持っていた薬を床に放り投げる。


床に倒れこんでいた亜人たちは我先にと薬に飛びつく。


「!!」


床にばらまかれた薬を見て、ウエスト人商人は目を丸くする。

自分たちしか手に入れていない錠剤タイプの麻薬と同じものがばらまかれていた事実に驚きを隠せない様子だ。


「・・・すこし、お話があるんだけど、来てくれないか?」


「どうして?」


手招きされて、人気のない路地裏へと入っていく凌雅。


「その薬、俺たちが売りさばいているのと同じでね。それ、どこで手に入れたん?」


「・・・それは俺が聞きたい質問だな!!」


人気がいないことを確認して、凌雅はトランスと一声。


地面から突如生えてきた木々は目の前の麻薬商人たちの体に絡みつき1ミリでさえ動けないほどホールドする。


「な、何だこりゃあ!!」


「少しおとなしくしてろ――――――[解析]」


凌雅は体全身を暗黒物質で覆うと、暗黒物質を触手のように、幾重にも張り巡らす。


「ひ、ひ、ひぎゃあああああああ!!」


触手のようにうねうね伸びた暗黒物質は麻薬商人の鼻、口、耳と、脳みそを目指して進んでいく。


「ひっ!!き、記憶が!!」


解析――――ある物質を暗黒物質により分解・再構築を行うことにより物質の構成物質を解析する方法だが、なにも対物質だけではない。


生命体の構成物質や、容姿、能力、そして記憶までも解析することが[解析]の本分である。


「――――――終了」


凌雅の脳裏に次々とインプットされていく麻薬商人達の記憶。


「―――――成程。殺すつもりはないが、麻薬組織撲滅のために消えろ!!」


身体全身が暗黒物質に包まれた麻薬商人達は風に舞う塵のように消えていった。


「・・・・」


まるで、人でもいたかのような形を残す木々と、元から何もなかったかのように空いた空洞の木々を背に凌雅は《無法金有》の本拠地へと向かった。


その後、彼ら麻薬商人達を見たものは誰もいない。


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