#16 ロスガへ!!前編
「うへっ・・・沙耶、生きてるか?」
「な、なんとか・・・」
見上げた空は雲一つない澄み渡る青、地平線まで続く果てしない大海原、空を飛ぶカモメらしき鳥に海にいるのだと認識させられる。
だが、数日前までブカレスト王国の貿易船に乗ってサウス内海を渡った時とは話が違う。
「船・・・壊れちゃったね」
「ああ。木っ端微塵だ」
話は数時間前に戻る。
「トランス・アクセル!!」
「轟け――――雷鳴!!」
波に揺られながら、船上で魔法を放つ凌雅と沙耶。
凌雅の放った鉄球は沙耶の電気を浴びて、この船の航路に立ちふさがる艦隊に向かっていく。
「神教に背き抗う者たちよ。神の力を――――― 神 の 加 護 」
西バルティカ連合帝国のバルバロス帝国海上封鎖艦隊に乗船する11番目の地上代行者シエナは生まれ持った恐るべき神法技術と、地上代行者に与えられた無尽蔵の神力によってこの艦隊すべてを包み込む神の加護を発動させた。
「くそっ!!また防がれた」
「これじゃあ、レスティアにたどり着けないじゃない!!」
「一斉射撃用意!!放て!!」
俺たちに負けじと甲板から放たれた砲弾は敵艦隊へと放物線を描いて向かっていく。
「無駄です」
艦隊を包み込む神の加護は地上代行者が持つ無敵の盾とほぼ似たような効果を持つ。
故に、凌雅が飛ばした鉄球も沙耶の雷鳴も、そして大砲の砲弾もすべて無に消える。
「無益な殺生は好みません。即刻退散を願いたいのですが・・・」
シエナは自分たちが封鎖する海域を突破しようと試みるバルバロス帝国の船に対して警告をするもその声が届くはずもなく。
「敵艦隊を物理攻撃できないなら、あの艦隊を通り抜ければいいんじゃないのか?」
「えーと、つまりはどういうことなの?」
「ちょっと見てろ。トランス・アクセル!!」
凌雅は再び鉄球を作り上げると加速魔法で鉄球を飛ばした。
「どこに飛ばしてるの?」
鉄球は放物線を描かず。遥か彼方のお星様になりました。
「見ろよ。直接船に当たらなければ消滅していない。つまり、あれだけの高度を保ちながらこの船を飛ばす」
「・・・着水時はどうするの?」
「沙耶の重力で何とかしてくれ。みんな、しっかりと船にしがみつけ」
沙耶の了承を得た凌雅は船員全員に通達。もちろん船を飛ばすなどという絵空事をつたえてはいない。
「行くぞ。アクセル!!」
「おわっ!?」
「へっ?」
「ファッ!?」
突然感じた速度に声を出して焦らざるを得ない船員達。連絡したとおり、全員船にしがみついていたおかげで吹き飛ばされてはいないが、地獄にいるような、今にも悶絶しそうな顔をしている。
「・・・どういった原理で飛んでいるのでしょうか?」
数十メートルもの大きさの船が突然空を飛翔し、海上封鎖を突破されました。などと、どうやって伝えればいいのか?シエナは海上封鎖艦隊の上空を通り過ぎたバルバロス帝国の船を見て首をかしげるしかなかった。
が、
「とは言え、見過ごすわけにも行きません――――― 腕 力 ・ 強 化」
シエナは神法を詠唱すると、船の榴弾を手に取る。
「安らかに眠りなさい」
たった一言。そしてなんとシュールな光景なのだろうか?
か弱そうな少女が、その細腕で、人の頭以上の大きさの榴弾を遥か彼方へと投げ飛ばす。
言葉で並べただけでは到底信じられないことが目の前で起き、そして、榴弾は着水を始めたバルバロス帝国の船へと着弾し…..
「まさか、着水時を狙われるとはな」
ハハハ、と笑うしかないが、笑える話ではない。船員船舶物資共々海の藻屑だ。
「で、向こうに浜辺が見えるが、アレはバルバロス帝国の浜辺か?それとも西バルティカか?」
海上にプカプカ浮いているうちに地平線の先に見えた陸地。だが、それが西バルティカの陸地なのか、バルバロス帝国の浜辺なのか。
「取り敢えず、行ってみましょう」
「ああ。ちゃんと捕まってろよ」
加速魔法ですら手加減も、どこへ飛んでいくかもわからないというはっきり言ってオーバースペック過ぎて戦略核兵器と呼ぶ以外ポンコツな沙耶を抱えると
「アクセル」
加速魔法を詠唱した。
「で、ここどこだよ?」
砂漠に覆われた不毛の大地バルバロスとは少し違うが、いかにせ、場所が曖昧すぎる。
「私にわかるわけないでしょ?とりあえず、人を探しましょ?」
「まあ、妥当な意見だな」
二人は人を探すため、上陸した砂浜から眼前の森林へと向かう。
ポタポタ….ビシャビシャにずぶ濡れになった重い服からした垂れ落ちる水滴が、彼らの軌跡を残していく。
「いちおう、山道として整理されているけど…」
「血なまぐさいな」
浜辺から目の前に広がっていた森林へと入り、闇雲に歩き見つけた山道。
道という漢字の語源からすれば、これは道であっているのかもしれないが…
「死体ばっか。しかも、腐乱死体」
鼻腔を破壊するような強烈な腐乱臭に鼻をつまむ沙耶。
「鎧着ているってことは、ここらで戦争でもあったんだな」
腐乱死体に身につけられた鎧や武具。血で錆びてきた物もあれば、中古屋で売れるぐらい綺麗な武具もある。
「でも、あれだな。あのマントをつけていないところを見ると」
「バルバロス帝国…ではないわね。ここ」
確信を持って歩いて数分。
「あれ、馬車だよね?」
と、沙耶の指差す方向、前方数十メートル。
まあ、馬車だが、言うなら荷馬車だな。
「なんか、デジャブだが….」
もはや、この世界に迷い込んだ俺たちに権力者の庇護下はない。
新天地“ロスガ”を求めるには同じく旅をしているような人間に聞くのが一番だろう。
とはいえ
「俺たちに庇護下ってのが必要なものかどうか」
ポツリとつぶやく凌雅を背に、沙耶は馬車へと向かって走った。