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英雄と戦犯は紙一重  作者: DISHONORED
第一章-西バルティカ編-
16/32

#15 ソフィア・イグナーチェフ

「おい、クラウス!!私は帝国人と食事をする気はない!!」


「ここは彼のご厚意に甘えましょう」


と言って、凌雅達との食事を拒むソフィアにメニュー表を渡すクラウス。


「いい加減頼めよ。俺の奢りだ」


お姉さん、注文いい?と、快活な声で、メニューに書かれた読めない文字に指を指して注文する凌雅。


「でも、凌君は私とご飯食べるはずだったのに、どうしてロシア人連れてきてるの?」


「なんでかなぁ~」


首をかしげるしかない凌雅。特に理由もなく、なぜ、飯に誘ったのか。

まあ、簡単に言えば公衆の面前で土下座する二人を人目のつかない場所へと連れて行くための口実。ただそれだけだが・・・


「男の方はともかく、この東の黒い悪魔と仲良く食事など考えられない!!」


ビシッ、と沙耶に指を指すソフィア。


「ちょっと、黒い悪魔って誰のこと!?」


俺と差別されたのはどうでもいいんだな。


「大祖国戦争時第三帝国(ナチス)の“南部の黒い悪魔”エーリヒ・アルフレート・ハルトマンに例えてに決まっているだろ!!シベリア戦争北殻太戦線に突如現れた黒い服の悪魔。北殻太の駐屯軍を壊滅させたあんたの事よ!!」


成程。

黒く塗られた戦闘機と魔法軍の黒い軍服からか。そして、人類史上最高レベルのエースパイロットと肩を並べる存在。

第三帝国(ナチス)では英雄だが、ソ連では大祖国戦争の戦争犯罪者として25年の重労働を受けた彼だが、彼と同じく沙耶もソ連では...


英雄と戦犯は紙一重か…


「成程ね。黒い悪魔だから俺はてっきりゴキブリっぐはあああぁぁぁ!!」


突然右頬に感じた衝撃波。俺の首は90度回転し、席ごと吹っ飛んだ。


「何か言ったかしら?」


「・・・」


黙って首を横に振るしか選択肢はないようだ。


「で、さんざん私のこと言うだけあって、私のこと知ってるみたいだけど…あなたは誰なの?」


「私はソビエト科学アカデミー遺伝子研究所の培養液の中で生まれたソ連製魔法士ソフィア・イグナーチェフよ。覚えておけ!!」


「の、教育係兼科学者の端くれのクラウスです。お見知りおきを」


方やテンションマックス。方や物静かな、温度差有りすぎる自己紹介をどうもありがとう。


「で、ソ連製の魔法士だと!?」


魔法士育成技術は帝国の国家機密。万州人や朝仙人、大湾人等の準帝国人ですら輸出禁止で、国外逃亡する意外は出国禁止なはずだ。


「帝国人とのハーフを作ったところで、兵器として使い物になる魔法士なんて作れないだろ?」


「祖国の科学力を思い知ったか!!」


デデーンと効果音が聞こえそうなほどに胸を張って机の上に立ち上がるソフィア。無い胸を張るのをやめろという無粋なことは言わないが、飲食店の机に立ち上がるのはやめよう。


「はーなーせー!!」


「いいから降りろ」


「・・・」


と無理やり着席。


「で、ちゃんと魔法使えるのか?」


「いえ、それが、実はある意味成功で、ある意味で失敗なのです」


と、ソフィアに聞こえないぐらいの声で俺たちに語りかけるクラウス。


「超能力者としてなら、成功ですが、貴国のあなたがたのような魔法士としてみれば大失敗です」


「超能力者としてか・・・一つの元素しか扱えない。とか?」


「あたりです。火の元素だけなら、リョーガさんにも勝るとも劣らない実力はあるのですが、他は全く発動しなくて。あと、あなた達みたいに詠唱を必要としない。っていう利点があります」


「ほぅ、興味深いな」


「そうね。詠唱する際のトランスは科学・化学が米帝・英国から入ってきたから詠唱がそうなったけど、発音は“Trans”じゃなくて“Torannsu”和製英語だけど“Accel”じゃなくて“Akuseru”なのよ」


「はい?」


と首をかしげるクラウス。

仕方ない。沙耶の説明じゃ言語学者じゃない限りあまり理解してもらえないだろう。


「あ~、言っていいのかこれ?」


「帝国に帰れる保証なんてないし、いいんじゃないの?」


「国家機密なんだけど、帝国人の遺伝子引き継いでなくても、生まれが帝国本土で帝国語を生まれながら聞いて話している人ならある程度魔法を使えるようになるんだよ」


「・・・そ、その話は、ほ、本当なのですか?」


「うん」


「・・・」


ものすごい絶望した表情で俺たち二人を交互に見て、そしてクラウスは倒れた。


「ぼ、僕たちの努力は一体・・・」


「まあ、そんな絶望した顔しないで、帝国人の魔法の秘密の続き聞いてくれよ。水の音や、風の音。これをあなた達西洋人はどう判断するか?ここがポイント」


「自然の音・・・ですか?」


「まあ、それが普通だよな。音として認識する。つまりは右脳で認識しているわけだ。それがなぜかわかれば、すべてわかる」


「・・・」


流石に遺伝子研究者兼超能力研究者には難しい内容か?


「西洋人いや、ほぼ全世界の言語が子音を中心としているからだ」


トランスの元のTransはt.r.n.sで子音は4つ。アクセルの元もAccelは3つ。

だが、帝国ではこれがTorannsuとAkuseruになるわけだ。子音が一気に減る。日本語の“ん”はnnで子音だが、発音的には限りなく母音に近い。


「帝国語は母音が中心となっている。虫の音も風の音も母音を中心とした音だ。つまり、帝国人は母音を中心とした言語故に自然の音をただの雑音ではなく言葉として処理できる」


と、ここまで説明したんだが、未だに少し理解できていない様子のクラウス氏。


「簡単に言えば、あなたたちは人間界と自然界を完全に分離しちゃったから自然現象を扱う魔法を使えない。ってのが、帝国魔法協会が定めた魔法が使える理由。同じように母音を中心とするポリネシア系住民も使えたわ」


「・・・そんな単純なことが。で、では?」


クラウスは借りてきた猫のようにおとなしくなったソフィアを見る。


「火は自然現象ではないのですか?」


「いや、だから、多分彼女はオカルトの領域を超えなかった超能力をリアルに発現させた者。そう考えなければ詠唱なしで魔法を発言できるとは考えられない。つまりは、ソビエト科学アカデミーは世界的な大発見をしたことになるな」


「そのとおりだ!!お前リョーガとか言っていたわね。なかなか見所のあるやつだわ」


こんなクソガキに言われてもな。


「で、そんなあんたらはここに来て何をしているんだ?」


「この世界に社会主義革命を起こす!!」


「・・・・本気で言ってるの?」


予想だにしない発言に、唖然呆然の沙耶。本気と書いてマジと読む。

社会主義革命を起こすなどという妄言を、凛々しくも儚い夢として語ったソフィア・イグナーチェフは宣言した内容とは裏腹に本気らしい。


「というよりも、既に成功しちゃいまして・・・」


「「・・・」」


クラウスのたった一言にピクリとも動かない沙耶と凌雅。

もはや何を言えばいいのか、言葉が見つからない。


「このマントを見ればわかるだろう?この国はソヴェト教という社会主義宗教に改宗したのだ!!」


成程。だから赤の背景色に黄色の鎌と槌と五芒星。

まんまソ連だ。


「そして、ソヴェト教の教皇様になってしまいました」


もう、どこから突っ込めばいいのやら。


「じゃあ、ブカレスト王国との戦争は?」


「バルバロス帝国の社会主義宗教革命の余波を受けると思ったのか、向こうから宣戦布告してきた」


「成程な」


それでブカレスト王国はあっさり負けたと…


「で、今となっては、ブカレスト王国は神教の名の下の西バルティカ連合帝国の一部となったが戦争はどうなったんだ?」


形式的には戦争が続いていると見ていいのか?


「形上はね。神教国家は我が国に対し非常に警戒心を強めている。だから、バルバロス帝国帝都バルダス防衛のために私はここに来たのよ」


つまりは、バルバロス帝国と西バルティカ連合帝国の宗教戦争は続いているのか。


「ふーん」


まあ、俺たちにはもう関係のないことだ。アルフレート将軍達には悪いが、既に西バルティカ連合帝国と俺たちは敵対関係だ。

敵の敵は味方。昨日の敵は今日の友。昨日の友は今日の敵。

ことわざに例えるならブカレスト王国は今や敵。バルバロス帝国は友になるな。


「で、お前達はどこに向かっているのだ?一国の王女を救ったのだ。ここに来たのはワケがあるのだろう?」


「まあな。異聖人認定されて西バルティカ連合帝国では指名手配中」


「で、バルダスから出ているインフェリア劣島国レスティア行きの船に乗り換える途中なのよ」


「成程。なら、早めにしたほうがいい。西バルティカ連合帝国の最西端カスティリアは亜人の国インフェリア劣島国を国土回復運動(レコンキスタ)という名で戦争をふっかけているからな。それに付け加えて我が国とも戦争中。海上封鎖もしてあると見ていい」


そこまでは考えていなかったな。

つまりは、バルダスに行くまでのような海戦があるのか。


「ご忠告感謝しよう。なら、善は急げだな」


トランス。と、軽くつぶやく凌雅の右手のひらは一瞬黒い光に包まれた。


「代金はこれで」


机の上におそらくお釣りが十分出るであろうと思われるほどの額。1万トルク金貨十枚を置いた。


「じゃあな。達者で」


と、凌雅と沙耶はレスティア行きの船に乗るため二人は店を出た。

そして、店内に残されたソフィアとクラウスの二人は凌雅の置いていった通貨を見て目を疑った。


だが、彼らが疑ったのは彼の能力でもなければ、金貨でもない。


「西バルティカの通貨を渡されても・・・」


「我が国の通貨は違うのだぞ・・・」


はぁ、とため息をつく二人であった。


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