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英雄と戦犯は紙一重  作者: DISHONORED
第一章-西バルティカ編-
13/32

#12 VSバルトロマイI

「さあ、行くよ!!――――――腕 力 強 化アームズ・レインフォース!!」


地上で神の力の片鱗を振るう者―――――地上代行者。

地上代行者であるバルトロマイは、その名のとおり神のごとく天井を突き破り空に浮遊すると、神法を詠唱しながら急降下を始める。


「トランス!!」


凌雅はとっさの判断で、沙耶とアルフレート将軍をかばうように、巨大な鋼鉄の盾を創り上げる。


凌雅の創り上げた巨大な鋼鉄の盾と、バルトロマイの細い腕がぶつかる。


ただ、その場だけ見ていれば、細腕がポッキリ折れる鈍い骨折音が聞こえただけだろう。


だが、彼――――バルトロマイは人間ではない。人間と神の間に存在する中間種。本来あるはずのないミッシングリンクなのである。


「面白い手品を使うね。でもね、そんなの、僕の前では無意味だよ!!」


「なっ!?」


凌雅は柄にもなく、呆然とした声を上げた。


自身が創り出した巨大な鋼鉄の盾がボコッとへこみ、そして穴が空く。


「消えな!!――――――浄化(パージ)!!」


鋼鉄の盾は穴の空いた部分からみるみるうちに塵となって消えていく。


「何をした!!」


「ん?僕の目の前に立ちはだから目障りなものを浄化してあげたのさ!!」


鋼鉄の盾が消え去り、凌雅とバルトロマイ。両者が互いに目視確認できるようになるその時、凌雅は唱えた。


「トランス・アクセル!!」


凌雅が作り出した鉄塊は加速魔法により目にもとまらぬ速さで地上代行者バルトロマイに向かっていく。


「だーかーらー、そんなの僕には効かないよ!!」


バルトロマイの手前数十センチで、凌雅が作った鉄塊は見るも無残に消えた。まるで、もとから何もなかったように、塵となって。


「潰れなさい!!グラビティ!!」


「うおっ!?」


宙に浮いていたバルトロマイは足場を崩したときのような声を上げ、地面に墜落した。


「な、なにをした?」


沙耶の重力異常に、プルプルと震えながら抵抗する姿は、さながら生まれたばかりの子鹿である。


「そう、苦しいのね。いいわ。もっと苦しみなさい!!」


「ぐうっ!!」


床がメキメキ、ミシミシと音を立ててバルトロマイをめり込ませていく。


「・・・体を重くさせて僕の動きを封じようというのか。いいだろう」


「!?」


突如として白い光を放ったバルトロマイを怪訝顔で凝視する沙耶。


「―――――――身 体 強 化ボディ・レインフォース!!」


沙耶の重力異常をもろともしない。まさにそんな勝ち誇った顔でバルトロマイは立ち上がった。


「嘘でしょ!?」


そんな馬鹿な!!と、言わなくても伝わるような懐疑的な表情を浮かべる沙耶。

自分の十八番がいとも簡単に崩されたのだ。疑うのも無理はない。


ましてや、今までこの重力異常に打ち勝った者がいないという現実から考えれば尚更だ。


「地上代行者って何者だよ」


「僕は神に変わって地上で神の片鱗を振るう者。お分かり?」


「全然わかりません!!」


「凌君どいて!!雷鳴(ライトニング)!!」


沙耶の言葉に咄嗟の判断で横に倒れ込む凌雅。

倒れ込んだその刹那―――――


耳に鳴り響く轟音の発信源はバルトロマイへ向かっていく。


「へぇ、君は雷も扱うのかい。面白いね」


「くっ!!」


沙耶の放った雷撃はバルトロマイの手前数十センチ手前で消えた。


「なにか防壁でも貼ってあるのか?」


「――――――無敵の盾(アイギス)


無敵の盾(アイギス)?」


「ああ」


今まで黙っていたアルフレート将軍が口を開いた。


「地上代行者が神から与えられる物。空を自由にかける翼、人間を遥かに超越した肉体、神から無限の如く与えられた神力により振るわれる神法。そして自分が認識したあらゆる攻撃を防ぐ無敵の盾。だから言った。貴殿たちでも敵わないと」


成程。

神法とかはよくわからないが、多分最初の急降下してきたやつだろう。

そして、“無敵の盾(アイギス)”とやらのせいで俺たちの攻撃が防がれていたわけだ。


「自分で認識できない攻撃はどうなるんだ?」


「いや、人間をはるかに超越した肉体だ。たとえどれだけ速い攻撃でも、認識できるはず」


そう言う意味ではないのだが…


「例えばだ。向こうに攻撃は効かないが、俺たちの声や、空気は伝わっているだろう?」


現に沙耶の重力異常は防いだわけではない。克服しただけである。


「そ、それはそうだな。一応人間の肉体であるから」


俺たちと会話もできているし、何より人間を超越したというが、元の肉体は人間。空気を摂取しなければ死ぬだろう。


ふっ、と軽く鼻で笑う凌雅に


「なにか面白いことでもあったか?」


と、アルフレート将軍は食いついてきた。


「ああ。とっても、とっても面白いことだ」


凌雅の指差す向こう、6人目の地上代行者バルトロマイ。

無敵ぶっている、事実これまで誰かにやられた経験などおそらくないであろう、地上代行者であるあいつを倒す方法が。


「そろそろいいかな?僕も退屈になってきたよ」


「ああ、これから退屈させないようにしてやるよ」


にやりと、不気味な笑みを浮かべる凌雅。


「トランス」


凌雅はその場で帝国陸軍正式採用のガスマスクを3つ創る。


「二人共、これをつけておいてくれ」


「な、何考えているの凌君!?」


「多分お前の思っているとおりだ」


流石は帝国人。沙耶は俺が何をしようとしているのか8割わかっているだろう。


そして分かっていない二名。


「こんなもの付けてどうしろと?」


ふざけているのか?とでも言いたそうな顔で渋々付けるアルフレート将軍の内心は至極もっともだろう。


だが、これをつけていなければ俺たちまで巻き沿いになってしまう。

そう、肉体は人間だと言った。


いくら人間を超越した肉体といえど、内蔵や基本的な構造は人間なはずだ。


考えろ。地上代行者に対して最も強力な“毒”を。


「―――――――――トランス!!」


凌雅のかざした腕から広がるように拡散していく毒。


「・・・何をしたのか知らないが、僕に何をしても…む、無駄だ、よ」


鼻や喉に手を当てるその姿で言うこのセリフは正に強がり以外の何ものでもない。


「第一次世界大戦、ドイツが使用した窒息剤ホスゲン。沸点は8度。これだけの高濃度ホスゲンを体内に摂取したんだ。目、口、鼻、咽喉。体中の粘膜に刺激が出ているだろう」


「ち、窒息剤?」


顔色を青くして、フラフラになりつつも、そこは地上代行者としてもプライドか。苦しみながら立ち続ける姿に俺は感服。敵ながらあっぱれ。拍手の喝采で迎えてやりたいところだ。


だが、これから死に逝く者に、意味も分からず死ぬのはいかにせ可哀想であろう。


そこは拍手の喝采の代わりに、窒息剤という聞きなれない言葉に首をかしげるバルトロマイに、今置かれている状況を説明してやる。


「ああ。目に見えないこの空気。この中に人間が吸うと体内で炎症が起こる空気がある。お前はそれを吸って、苦しんでいる。まあ、このまま苦しんで空気に殺されるのと、俺に殺されるの。どちらがいい?」


呼吸困難の苦しみに耐え切れず地面にひれ伏すバルトロマイ。堕天使とはまさにこのことか!!


意味違うよ。というツッコミがどこからともなく聞こえた気がする凌雅は、一歩一歩とバルトロマイに近づく。


「―――――浄化(パージ)!!」


「!!」


吐き出すような声で神法を発動させたバルトロマイ。

その言葉で瞬時に毒がこの空間から消え去ったことを感じる凌雅。


それに続くように「治癒(ヒール)!!」と詠唱を始めたバルトロマイ。


「――――――ふぅ、まさかこんなことまで出来るなんて。やっぱり異聖人は滅するべきだね!!」


「しまった!!」


時すでに遅し。


この空間からすべてのホスゲンを消し去ったバルトロマイは自身に治癒を施し、先程までの劣勢をひっくり返した。


神法がどんなものか知らない凌雅は、弱りきったバルトロマイに油断どころではない。完全に毒牙を抜いた状態で近づいてしまった。


「ここまで僕を楽しませてくれたのは君が初めてだ!!君は僕が丁重に葬ってあげるよ」


バルトロマイの女のような細腕が凌雅の首を握り、身体を持ち上げる。


「どうだい?さっきまで僕もこんな苦しみを味わっていたんだ。同じ苦しみを味わえ」


バルトロマイのその顔は笑顔。敵と認めた相手を葬る喜びと悦に浸っている。

だが、そんなことも凌雅にとっては想定内だった。


「へっ、かかったな」


「なに?」


「ホスゲンは囮。本当の毒はこれだ!!」


バルトロマイの細腕を両の手で握ると、凌雅はバルトロマイの右腕にある物質を流し込む。


「喰らえよ――――――暗黒物質(ダークマター)!!」


「な、なんなんだこれは!?」


バルトロマイの細腕に絡みつく暗黒物質。


「ハハハ。お前の葬儀は俺が仕切ってやるよ!!」


凌雅の本当の逆襲が始まった。

*7/20編集。沙耶とバルトロマイの戦闘を追加しました。

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