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英雄と戦犯は紙一重  作者: DISHONORED
第一章-西バルティカ編-
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#9 バルグラード脱出II

「トランス・アクセル!!トランス・アクセル!!トランス・アクセル!!トラン....」


馬車が凹むのではないか?と思うほど巨大な鉄球を馬車上で作り上げては高速で城門向けて吹き飛ばす。


目視確認できる距離で、城門が破壊され崩れ落ちる様子をアルフレート将軍は見ていた。


「リョーガは人間大砲か、何かか?」


「ただの手品師よ」


「ふっ、そうだったな」


沙耶の皮肉に、鼻で笑うアルフレート将軍。


こわばった気持ちを軽いジョークで緩ませたアルフレート将軍は突撃銃を手に、覗き穴から、追ってきた騎兵達に射撃を開始する。


「動いている的はなかなか当たらんな」


先ほどの市庁舎の戦闘で相当数の弾薬を使い、補給源である凌雅は先頭の馬車にいるため、弾薬は節約せねばならず。


アルフレート将軍一行はフルオート射撃ではなくセミオート射撃に切り替えていた。


「動いている的を狙っちゃダメ。狙う的の動く先を予測しなさい」


「・・・成程」


アルフレート将軍は沙耶のアドバイスに感銘を受け、言われた通りに射撃を開始する。


「ふむ・・・やはり銃とやらは間接的に殺す武器だから・・・故に罪悪感を感じさせない。そして、直接ではないから殺しづらいな」


「アルには剣が似合っているわ。ブカレスト王国に帰ったら、剣の稽古させて」


「フッ、殿下もようやくその気になってくれましたか。我は嬉しい限りです」


「イチャイチャするのもいいけど、しっかり敵を倒してね」


「言われなくても!!」


“パァン”


「がっぐあ!!」


一人、騎馬から脱落していく。


胸に7.62mm弾の直撃を受け、血をこぼしながら地べたにキスをしていく敵の無様さをまじまじと見ていた。


「で、沙耶殿は何もしないと?」


「私は手加減できないの。本気になったらこの馬車ごと破壊しちゃうわ」


「そ、それはやめていただきたいな」


「でしょ?さあ、頑張ってくださいね」


「まったく、人使いが荒いご婦人だ」


“パァン”


アルフレート将軍が引き金を引くとほぼ同時に鳴る射撃音。


一人、また一人と脱落していくバルグラード騎兵。


そして、バルグラードの守備兵の命が次々と消えていくというこの現状の中、バルグラード検問所に待機しているだけで、全く動かないバルバロス帝国バルグラード駐屯軍。


「いざという時のために準備しておけと言われましたけど」


「それで?」


何が問題なの?とでも言いたげな表情で首をかしげる女性。


そんな彼女たちに迫る4台の装甲馬車。


「さあ、どけどけどけえええええええ!!」


“影の執行者”から“人間大砲”へ二つ名を変えた伏根凌雅は二つ名に負けない勢いで鉄球を飛ばし城門周辺の検問所も破壊していく。


「これだけ暴れているあいつらをほうっておくのですか?ソフィア様はバルグラードとの約束をお忘れですか?」


ソフィア呼ばれた金髪碧眼の明らか場違いな女性指揮官はため息を一つ。呆れかえるような声で言い返した。


「この都市の市長ナーフィアは死んだ。約束なんてもう時効、時効。放っておいてもいいのよ」


検問所に待機していた赤旗に黄色の鎌と槌、五芒星が描かれた旗

――――――バルバロス帝国軍は城門に迫る4台の馬車が通り過ぎ去るのをただ、傍観していた。


「本当にいいんですか?」


通り過ぎ去った馬車を見送ったバルグラード駐屯バルバロス帝国兵は指揮官であるソフィアに疑念の視線を送っていた。


「そうだな。バルグラードはともかく、あの敵軍の将軍とあの男女二人は重要だわ」


「では?」


「この先、ブカレスト王国に入国するには川を渡る必要がある。でも、残念だけどその橋・・・破壊させてもらった」


不気味に微笑むソフィア。


「奴らは川を渡れない。つまりブカレストに戻れない。逃げ道を塞いで、確実に獲る」


そう言うと、ソフィアは騎馬に乗る。


「さあ、あんた達、私についてきなさい。奴らに、自国の土を踏まさせるわけにはいかない!!」


バルグラード駐屯バルバロス帝国軍は、凌雅達向けて軍を動かした。






「おい、沙耶見ろよ!!あいつらの、俺の力に唖然呆然して自分の無力さを知り、打ちひしがれた阿呆面を!!無抵抗で俺たちを通してくれたぜ!!」


凌雅は脱出完了すると、沙耶、アルフレート将軍、エリスティーナ殿下の乗る馬車の上に乗っていた。


「わかったわよ。わかったから、そろそろ元に戻って」


急に子供みたいにはしゃぎだしたギャップには驚いたが、もうここまで来るとしつこい。沙耶は凌雅をたしなめる。


「わかったよ。で、ここから、どう帰るんだ?」


覗き穴からアルフレート将軍に話しかける凌雅。


「バルグラードからブカレスト王国に入国するには川を渡らなければならん。もちろん警備の兵もいるし、途中で橋を落とされたら話にならん」


確かに。アルフレート将軍の言葉に頷く凌雅は、閃いた。とでも言いたそうな顔で沙耶のかを見つめた。


「何かいい案でもあるの?」


「俺の顔で思考を読めるようになってきたな」


「あなた、いつも冷めた顔してるから、すぐにわかるのよ」


「成程。まあ、そんなことは置いておいて、危険を冒すぐらいなら、別のところに橋作ればいんじゃないか?」


「「はあ?」」


もはや、教養も糞もあったもんじゃない。アルフレート将軍だけならともかく、隣のエリスティーナ殿下まで軽蔑の眼差しと、バカを見たような表情で俺を見ていた。


いや、訂正しておこう。エリスティーナ殿下の教育係はアルフレート将軍であった。


「あの~、川と言ってもですね・・・幅がこの馬車数十台分ぐらいの」


「なんだ、それだけか。余裕だ」


「「・・・」」


規格外。


いや、川じゃなくて、この人が。


アルフレート将軍とエリスティーナ殿下は顔を見合わせて、ため息をついた。


「もう、この色惚けの清華人夫婦にはついていけません」


「で、殿下。わ、我も同じ想いです」


「ねぇ、俺たちがおかしいの?」


首をかしげる凌雅。


「う~ん。まあ、私たち、この世界だけでなく、地球でも結構ブッ飛んだ存在なのよね」


ちゃっかり、自分たちがおかしいと認めた反面、「あなたと一緒に行動していたから、神経ずれてきたのよね」と、人のせいにする沙耶。


まるで俺が悪い言い草だな。


「まあ、一理あるな。俺も人間があんなスプラッターになるシーン初めて見たよ。感覚も狂うわけだ」


ハハハと笑う凌雅にかかる、睨む視線。

年甲斐なく魚みたいにふくれる沙耶。


「で、川とやらが見えてきたんだが?」


沙耶の仕草など、微塵も気にせず華麗にスルー。


新たに視界に映った川を見て凌雅はアルフレート将軍に「架けるならどこでもいいのか?」と尋ねる。


「ああ。この川さえ、渡ればブカレスト王国に必ずたどり着けるからな」


「了解。はぁ~」


深呼吸を一回。


「トランス!!!!!」


この流れる水を巨大な鉄橋へと変えていくその光景に、先程までは呆れて言葉も出ていなかったアルフレート将軍と、エリスティーナ殿下も、別の意味で言葉が出なかった。


素晴らしい。ただ、その一言。


この世界の技術・芸術ではない橋のデザインに、素材、設計。何もかもが異質だった。


「大鳴門橋の設計を下に作り上げたんだけどな。川幅が狭いだけあって、本家に比べると劣るな」


「橋の設計なんてやってたの?」


あのなぁ・・・


ため息を一付き。凌雅は口を開いた。


「魔法軍事学理論ってのがあってな。戦場に立ったら、軍隊を進めるため、国家魔法士は道を開拓することや、橋を架けること等のインフラは基本なんだよ。やってないのか?」


「私、白魔法しかまともに使えないから」


「そうだったああああああ」


せめて、使えることは鉄の塊飛ばすことぐらいだな。


「さっさと渡ってブカレスト王国に行こうじゃないか」


アルフレート将軍にガッツポーズをとる凌雅は珍しく満面の笑みを浮かべていた。


「ああ。そうだな。ブカレスト王国の我が所領に着いたら貴殿たちを盛大に迎えてやろう。もちろん拒否権は無しだ」


「なら、たっぷりと贅沢を尽くさせてもらおう」


「言っておけ。さあ、進め!!我らは帰ってきた!!ブカレストの地に!!」


アルフレート将軍一行は橋を渡り、祖国ブカレストの地を踏んだ。異邦人二人を交えて。







「な、なななな、な、なんでこんなところに橋ができているのよおおおおおおお!!」


大鳴門橋モドキを見て発狂するのはバルバロス帝国軍バルグラード駐屯部隊の指揮官であるソフィア。


「そ、そんなこと言われましても、こ、こんな橋、どこの国の仕様とも違います」


「はっ!!そういえば・・・」


「なにか、思い出したのですか?」


忘れ物をした学生のような呆然とした表情のソフィアは地面を拳で叩きながらうずくまった。


「帝国の魔法士はこれぐらい余裕でできたんだった!!くぅ~やられた」


「帝国の魔法士?」


何の話をしているのかついてこれないバルバロス兵。


「いいわ、見てなさい、帝国人。最後に勝利するのは我らがソヴィエトよ!!」


バルバロス帝国軍指揮官は声を高らかにして宣言した。


敗北したのにも関わらず。


そして、側近の兵士はまったく理解されていなかった。というのも、当たり前と言えば当たり前であるが…


こうして、波乱を呼んだバルグラード市庁舎襲撃事件は市長ナーフィアの死亡及び首謀者達の脱出によって幕を閉じたのであった。



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