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小鳥は愛の檻に

「さて、アーシェちゃん」


「は、はい」


いきなり話を振られてアーシェはビックリして、どもった返事をした。


「こうして、この人はついてきちゃったわけだけど、どうしようか? もう会わないつもりだったんだよね? 君次第で僕は君をこの人と絶対に会わないようにする事も出来るよ」


竜真の覆面の目は真摯で誠実で、自分が望めば竜真はきっと本当にやってのけるだろう。だけど自分はバイツと離れて生きていられるだろうか。

アーシェはチラリとバイツを覗き見て一息ついた。


「わた」

「俺から離れられると思うなよ」


意を決したアーシェが口を開くと同時にバイツが座っていたアーシェを引き寄せ抱き締めた。

驚いたアーシェはバイツの厚い胸板を叩いて抵抗するも、すぐに取り押さえられた。

「ば、バイツさん、何をなさるんですか!」

「その他人行儀な言い回しは気に入らない」

「他人じゃないですか! 父娘とでも仰るんですか?」

「いいや、父娘なんかじゃない」

「じゃあ」

「父親でいるのはもう終わりだ。……ちっ――アーシェ、俺が育てた娘。お前は俺が俺好みにした女だ。お前以上に好みな女は他には居ない。お前がいなければ生きてもいられない。アーシェを愛している」


バイツは覚悟を決めると同時にそれを口に出して説明しなければならない。照れを隠すことは不利に繋がる。それはアーシェを一生そばに置けないと言うことで、途中で思わず舌打ちがでてしまった。だが、言うことは言った。アーシェを愛している。それだけが全てだ。

バイツに抱き締められ、その肩に額を当てた。バイツが好きだと自覚してから望んだバイツからの思い。アーシェの頬に涙が伝う。


「こんなおっさん相手だが俺についてきてくれないか?」

「バ」

「あっまーい。甘い! 体が痒くなるぅー。砂糖を口から吐くぅー」


食事処の中、周りにいる客や従業員、それに通行人と竜真が見守っていての告白。

女性はうっとりと男性はかなりの確率で耳を閉じている。

そして竜真はと言うと、服の上からガサガサと肌を擦りながらいい雰囲気の二人を止めにかかった。野次馬の中には何故止めるだの、早く止めてくれだのざわざわとしている。


「ここは往来です。告白の続きはお家に帰ってからにしてくれない? 周りのお兄さん方の腕の鳥肌が酷いこと。もうそろそろ皆揃って鳥になって店から飛び出そうですよ。アーシェちゃんも分かったでしょ? このダメ中年の溺愛な好意。僕も鳥になりそう。とりあえず、僕は盗賊団の後始末してゼレフに行くから、もう少し落ち着いたらきてよね」


竜真は首を回して店から出ていった。

店の中は突然区切られた男女の告白場面から日常へと戻っていき、バイツとアーシェは気まずい心境から目を合わせてから、照れも手伝い笑いあった。



***


ゼレフの町に鐘の音が響き、驚いた鳥が羽ばたく。

美しい赤毛を今日ばかりは清楚に結い上げ、化粧をしたアーシェが近所の女衆に身支度を整えられていた。

あの家出騒ぎから一年。

その間には二人でジグラスに行ったりベデノフに行ったりと忙しなく動いていた。

ジグラスの伯爵家で一悶着、ベデノフ王家で一悶着と騒ぎが起きたものの、晴れてこの日を迎えられたのには竜真の活躍があってのことだが、それは影ながらの活躍でバイツは勘づいていそうだが、アーシェは知らぬことだった。


アーシェのもとへ花婿が来たところで支度を手伝っていた女性達が部屋から出てきている。その中の一人が懐から覆面を出したところでゼレフのギルドマスターが引き止めた。


「アーシェちゃん、綺麗だったぁ。眼福」

「なぁ、1stのリウマか?」

「何かな? ゼレフのギルマス」

「何で女装してこんなところにいる?」

「何でって、花嫁さんの支度は女性じゃないとさせてくれないでしょ? ベデノフ王からの依頼でアーシェちゃんの花嫁姿を見るついでに化粧しにきたんだ。僕の腕はなかなかなものだからね」

「バイツは知っているのか?」

「まさかそんなヘマを僕がするとでも? 王妹がどれほど美人だったか報告にいかなきゃ」


次の瞬間に竜真はその場から立ち去っていた。


「全く人間技じゃねぇなぁ」


竜真の電光石火に頭を掻いてベルジオンは花嫁の父親役をすべく控え室に向かうのだった。



「バイツ、バイツ、さっきね、リウマさんがお化粧してくれたんだよ」

「は? 男が花嫁の支度できるわけないだろ?」

「だって、にい様のお使いって言ってたもの」

「……(あいつならやりかねないかもしれない)……アーシェ、あい」

「おら、花婿!! 先に行ってろ!! ベルジオンおじさんがエスコートしてやるからな」

「ば、バイツぅ!!」

「う、いったぁー」

「なんだ変な所に立ってんなよ」

「ベルジオン!!」

「後頭部にドアがぶつかったぐらいでなんだ。お前は町の若衆の敵だからな。このぐらい我慢しろ」


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