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まるでテレビドラマの客間に置かれている大きな濃い茶色のソファーに、

俺と少女は腰かけた。

小花柄のカップの水面には、白い砂糖がまだら模様になってゆれている。


「どうもこんにちは、野々村タケシくん」

 そう俺に礼儀正しく挨拶した初老の男性は、どうやらレナという少女の父親らしい。

「こんにちは、…うまく状況は理解できないのですが、貴方様の娘さんと、貴方の敷地に

 お世話になっているようです」

 男性の琥珀色の瞳は、よく彼女に似ていた。


「まあ…こんな状況じゃ自分が今、どういう状態か到底理解はできないだろうな。

 長くなると思うが、説明させてもらってもいいかね」

 白いひげから口がもごもごと動いている姿を見て、4年前に亡くなってしまった祖父を 思い出す。

「はい」



「君が1980年代前半からやってきたことは私もよく知っているし、

 うちの娘が少し強引なことをしてしまったことを誠に申し訳ないと思っている。

 この子は小さいころから過剰なほどに英才教育、幼稚園の頃から物理を教えてきたもん でね。ちょっと変わった子に育ってしまったのだよ」

 彼は、数メートル先の水槽の中の金魚を興味深そうに眺めているレナを見ながら俺に言った。

「彼女は何が目的で、俺をここまでつれてきたんですか?」

 こんなにかしこ改まった言葉を使うのは久しぶりに思えてくる。

 最近はバイトでも現場に出て、鉄パイプをふる日々だったので、正しい言葉づかいがで

きていないと思う。


「それは、仲間を増やしたかったからのではないのかな」

 男性はそれから咳払いをして、言葉を続けた。

「仲間…」

 学校の生徒に怖がられ孤立していた俺が疎遠としていた言葉を、小さく復唱してみた。


「私たちは警察庁ネットワーク犯罪対策課として組織していて。

 係長である私が主に詐欺や金銭問題を基本したネットワーク犯罪の調査を行っている。

 娘であるレナが、ティーンエイジャーが被害および加害をする少年犯罪の、

 被害者のカウンセリングおよび保護を行っている」

 先程から難しい言葉ばかりが飛び交う。

 ここが警察ということはよくわかったが、ネットワーク犯罪、ティーンエイジャー、カウンセリング…聞いたこともない単語がわんさか会話の中から出てくる。


俺がきょとんとした顔をしていると、係長を名乗る男性は言葉をかみ砕くように言い直した。 

「簡単に一言で済ませると、君が思うよりこの時代、2025年はまばゆいほどの進化を 遂げた。 工業も産業もまるで、人が植えた小さな苗から雨風をしのいで懸命に育ち、 きびしい日光を覆うような大きな木が育つようにね。

 だが、この問題の相手は人間対人間だ。もちろん産業が進化したからにはよいことがた くさんあるが、その分弊害もたくさんあるのだ。」

 係長は少し眉毛を困らせるように下げ、考えるように唇に手を当てた。


「まあ、現時点ではうまく説明できないが、そのうち君も理解することになるだろう。」

 そう話を少々強引に締めくくろうとした時、かなり前から水槽にへばりついていたレナが、低いトーンの声で父を呼んだ。




「お父様、出動要請です。行ってまいります」

 彼女の声は先程といたずらっぽい調子と打って変わって、凛とした響きを部屋に残す。

「おお、行ってらしゃい。くれぐれも事件には直接まきこまれないようにようにするんだ ぞ」

 何かの事件現場に向かう娘を、係長は友達と遊びに出かける娘を見送るように扱う。


唖然と口を開けたままでいると、彼女は俺の服の袖を小さな手で引っ張った。

「はい、野々村くんも行こうね」

 俺は必死に腕を振り払おうとするが、10万馬力を超えるような強い力で俺の力を引っ張るもんだから、抵抗なんてできやしない。



結局のところ、この場所もここにいる理由も、

係長という男やレナが話すこともまったくもって理解できなかった。


まるで夢の中にいるような俺が唯一感じるのは、

会議室を出たよどんだ空気感だけであった。


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