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こうして意識を持ったのは、一体何十時間ぶりなんだろう?

身体が海底に沈んだ鉛のように重い。


俺は、鼓膜を突き刺すような突き刺すようなキンキン声で目を覚ました


「やあ、野々村タケシくん。2週間と半日もの時間を眠り、よく目を覚ました。

流石昔の人間は日を浴びていたからよく体力も持つんだな。

私はとっても関心した。」


少女は琥珀色の大きな目を動かして、

鉄パイプのベットに横たわる俺をまるでゲージの中のラッドを観察するように俺を扱う。

小さく薄い桜色の唇から流れ出す吐息、シルクのように透き通る肌と少し汗ばんだ肌、

左手を俺の胸元をまさぐり、右手で俺の眼球を開けたり閉じたりしている。

それは全身を震わせるようなひどい色気にも感じるが、人間離れした恐怖も帯びている。


「もうなんなんだあんたは…そしてここはどこなんだよ」

彼女は分厚い少年誌に登場する可憐なヒロインのような外見をしているが、

やっていることは大きく言えば度の過ぎた変態科学者さながらの行動だ。

そして俺が今彼女と居るこの部屋も、窓は一面ガラス張りで、どこかの高層ビルの数十階のようだ。まるで家族と3年前に小さな劇場で見たハリウッド映画の中に出てくるような光景が、目の前に広がる。


「私か!…こほん、改めてあいさつしよう」

 彼女は、淡いピンクを帯びた白衣の襟を整える。

「私は警察庁ネットワーク犯罪対策課、レナ・ブリトニッチ・田中と申します。

 生まれはアメリカ合衆国、最終学歴はマサチューセッツ工科大学卒業、ト―フル990点。

 ちなみに年齢は15歳…」


彼女が高い声で自分を何やら難しい言葉を使いを話し始めると、

医務室のようなこの部屋を何者かがノックする音が響いた。


「誰だ」

 彼女は二つ結びの髪を振りながら振り返ると、背広を着た細身の中年男性が立っていた。

「お嬢様、そして…お連れ様。係長がお呼びです」

 今まで黒いどぶのような社会で働いていた俺が言うのもおかしいのだが、彼はいかにもそっち方面の組織の組員に見える。


それでも自らをレナと名乗った少女は無垢な表情で彼に話しかける。

「了解、いつものカップにオレンジジュースをお願いする。彼は…どうする?」

 彼女はまたどこか無機質な琥珀色の瞳で俺の瞳をぎょっ、と見つめながら、

 俺に返事を求めてくる。

「俺は、アイスコーヒーで。砂糖は入れてくれ。牛乳は必要ない」

 ふぅん、というような表情を見せて、彼は背広男に注文する。

「アイスコーヒーで」


「ははっ、それでは失礼いたします」

 背広男は軽く俺たちに一礼すると、すり足で部屋を後にした。


彼女の様子を見ると、何かの財閥の令嬢のようなお金持ちオーラが漂っている。

だけれどその笑顔は、どこか実年齢より小さな幼稚園生ぐらいの女の子のようで。

彼女を漢字二文字で表すと、『矛盾』というような印象を受ける。


「ふーん、君はくまさんのようだな」

 蛇のようにするりと部屋を出て、てくてくと歩く彼女はそうつぶやいた。

「なっ」

 俺の驚いた声が、誰もいない長い長い廊下に響きわたる。


「私のお気に入りはうさぎさん、コードネームもうさぎ007だから、

 君はツキノワグマ0008にしよう。よし、これで決定」

 もちろん彼女がまるで自分の心を読んだような言葉を口走ったのも恐怖を受けたが、

彼女の異常なほど子供っぽい言動にもやはり狂気しか感じない。


これから先、俺の身にいったい何が起こるのだろうか?

今更になって心配になってきた。

今までヤクザの仕事をしてきたのがばれて、惨い処刑が待っているのか?

それとも、このまま彼女の人間ラッドとして監禁生活が待っているのか、

いや、戦闘ヒーローに扮して今までのバイトをし続けるとかそういうことか?


家族に被害が及ぶのか?

裏庭に飼っている猫も避難させたほうがいいか?


俺の頭の中で抱えきれない疑問や不安、恐怖がマーブル模様のように

ぐるぐると渦を巻き始める。



「何?何か文句でもあるなら言ってくれよ?」

 俺が彼女の目線をそらした先には、彼女が履いている赤いうさぎのスリッパが見える。

 灰色の中で赤く目立つそれは、俺の今の精神状態では血にすら見えてきた。


「いや…というか俺が見ず知らずの場所に見ず知らずの女の子といるという時点で」

 おかしいだろ、と続けようとした瞬間、ゆらめく赤いスリッパは突然歩みを止める。


「それは、君が選んだことだろう」

小柄な彼女が、俺に最初に出会った時の構図のように、上目づかいでじっと俺を見上げる。

さっきの一連の会話で、何回か俺を見つめた以上の一撃でやられてしまいそうなレーザービームのようなまなざしで。


それからしばらくの間、俺の口から言葉は出なかった。

かつての俺なら、口答えできない質問を返されたら、そいつを一度ぶん殴っていただろう。

だか、今俺の目の前にいる少女は、今までのいい年こいた悪い大人たちとは打って変わって真逆の外見やそぶりを見せているのだ。


もともと「弱い」母親や家族を守るために始めた仕事を積んできた俺には、

たとえ目の前の彼女が、悪魔であっても、テロリストであっても、独裁者であっても、新型化学兵器でも手を挙げることができないし、自分より飛びぬけて頭のいいこともなんとなくわかっているので、口答えすることもできない。



「なんてね!まあ、しばらくすればわかるから、会議室に向かおう」

 胃がズタズタになるような沈黙を、彼女は明るい声で一気に切り裂いた。

やはり彼女は、テロリストや化学兵器の類に値する人物ということを改めて認識した。



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