街へ
翌朝
目が覚めると、あたりはすでに明るくなり始めていた。やはり起きたら自分の部屋にいて、異世界に来たのは夢だった、なんてことはなく寝る前と同じ屋根が広がっている。みんなも目をさまし、忘れ物がないことを確認し、村から出発した。昨日と同じように道に沿って進んでいく。途中いくつもの分かれ道があったが、地図もなく誰も道の先がどうなっているのか知らないので、適当に進んでいる。それでも道が途中で無くなっているということもないのは、日ごろの行いがいいおかげだろう。
やがて、前方に荷車の列を発見した。
「お、第一異世界人発見か」
俺がそういうと、
「そうね。盗賊とかじゃないといいけど」
と凛が冗談ぽくいった。
列の進む速さは俺たちの歩く速度より遅いので、あっという間に追いついた。見た感じ武器の類は持っておらず、地味な色のシンプルな服を着ている。荷車には木箱やら、袋やらが積み上げられている。
「こんにちは。これは何の集団ですか?」
俺は最後尾の男に尋ねた。言葉が通じるか多少の不安があったものの通じるようだ。
「ああ、実は炎龍が出てな、村を捨てて逃げ出してきたんだ。お前さんたちこそどこへ行く」
「えーと俺たちは、特に行く当てがあるわけではないんですけど。旅の途中なんです」
「へえ。噂には聞いたことはあるが流浪の民とかいうやつか」
特に大きく違うわけではないので訂正はしない。
「その村ってどのあたりにあったんのですか?炎龍ってどのあたりに出たのですか?」
凛が尋ねた。
「ああ向こうのほうだ。もう60キロは離れてるだろう。さすがに炎龍もここまではおってこないだろう」
男は進行方向、向かって左のほうを指差しながら答えた。
「これからどこへ向かうんですか?」
「ああ、この先にルト村に避難するのさ」
感じのいい人なので、凛はさらに話しかけた。
「へえそうなんですか。私たち実はお金が底をついちゃって。何かてっとり早く稼げる方法ってないですか」
うまい。確かにお金は稼がないといけない。この聞き方ならなんでお金がないかごまかせる。
「そんな方法があるならこっちが知りたいね。どうしてもすぐに金が要るなら、町の質屋で持ってるものを預けて金を借りるか、換金所へ行って金に換えてもらうんだね」
凛の馬鹿げた質問に呆れたように、男が答えた。
「へえ、そんなのがあるのですか。一番近くの町へはどういったらいいのですか?」
「なんだ、知らなかったのかい。この道をまっすぐ行って、一つ目の曲がり角を右へ曲がってまっすぐ行けばいい」
「ありがとうございます」
いったん俺たちは列から離れた。
「ねえ、私は教えてもらった町へ行ったほうがいいと思う。みんなはどうする」
「俺もそれでいいと思う」
「僕も賛成です」
「わたしもそれでいいです」
全員賛成で町へ向かうことになった。どうでもいい話をしながら道に沿って歩いた。だいたいだが俺は凛、亮太、詩乃の性格が分かってきた。凛は真面目なお姉さんタイプ、亮太は、空気の読めるサポートタイプ、詩乃は無口な子といったところか。特に自己中心的な人やなぜかわからないが合わない人もいないのでよかった。本来俺は人見知りだから。
避難民の集団から離れて約一時間、ようやく町が見えてきた。町の入口には門があって通行許可証がなければ入れないなんてことはなさそうだ。建物が道の両脇に並び、どこからが街だという明確な境界はなさそうだ。
「さて、まずは換金所を探してお金を稼ぎましょう。みんな何かお金になりそうなものある?」
凛の問いかけに、俺たちは目立たない場所に移動し、ポケットの中やカバンの中を探った。
俺はこんなこともあろうかとビーズを売るために持ってきていたが、俺以外はそういうのは持ってこなかったようだ。俺以外の人で持っていても仕方なさそうなのは、日本のお金だ。お札のほうはまあ綺麗な絵として売れるだろうし、小銭も珍しいものとして売れるだろう。やや楽観的すぎるかもしれないが、不安なことが多すぎて少しでも考え方を明るくしておかないと、精神的におかしくなりそうだ。
町の人に換金所の場所を聞き、町の中央あたりから少し外れにある、こじんまりとした換金所にやってきた。扉をくぐると、カウンターに座っているおじさんが声をかけてきた。
「いらっしゃい。何か用かね」
「えーっと、ちょっと売りたいものがあるんですけど」
俺がカウンターにとりあえずビー玉とビーズを数個置きながらいった。
「これいくらぐらいで買い取っていただけますか」
おじさんは、無言でそれらを手に取ると棚からルーペのようなものを取出し、調べ始めた。
「うーむ、これはどこで手に入れたのかね?」
「えーっと、秘密じゃだめですか」
「まあいいだろ。合計6万Kってところでどうだ」
K(ケルビン)というのは、この世界のお金の単位だ。町に入ってからここへ来るまでの間の露店を見た限りでは、日本円とほぼ同じぐらいの価値だと予想された。
「もう少し何とかなりませんか。10万ぐらい」
「馬鹿を言うな。7万でどうだ」
「8万」
「7万2000これ以上は無理だ」
「わかりましたそれでお願いします。ちなみにこれどこに売るんですか」
「なんだ、知らんのか。町の競売所で競売にかけるのさ。それなりに有名な話だろ。まあこれはおれも初めて見たから、首都のほうの競売にかけるかも知らねえけどな。売らねえってなら今のうちだぞ。後で返せって言っても無駄だからな」
日本ならあり得ないぐらいの値段だが、この世界ではこれくらいだろうか。それとも、これでもぼったくられてるのかもしれないが欲の出しすぎはよくないな。
その後、俺のほかの人たちも換金を終え、店を後にした。
「さてこれからどうする?」
凛の問いかけに俺は、
「俺はとりあえず、飯にしようと思う。腹が減った」
と答えた。
その時グーと亮太の腹が鳴った。
「あはは。僕もそろそろ昼ごはんにしたい」
大通りに戻り、食堂を探すとさすがに昼時なので、どこも混んでいるがとりあえず目に入った食堂に入ってみることにした。さほど待たされることもなく席に案内される。店の中は活気にあふれ、いい匂いが漂っている。メニューには日本のように写真がいっぱいついているわけではなく、どんな料理かいまいち想像できないので、全員日替わり定食を注文した。
どんな料理が出てくるのか等のたわいもない話をしていると、店員が料理を運んできた。
運ばれてきた料理は、パンにスープ、野菜サラダに何かのジュース、ソースのたっぷりかかった肉の香草焼き、湯気を上げとてもうまそうだ。
実際食べてみると匂いもいいし、味もとてもおいしい。いい店を選んだようだ。ジュースはさっぱりしていて飲みやすいが、ぬるい。
「おいしいね。これ何の肉かしら」
「さあ、あとで市場をのぞいてみよう」
食事を終えると、勘定を済まし、荷物を下ろすために宿を探し始めた。腹が膨れると、周りを気にする余裕が出てきた。店には小さな看板が掛けられており、何を売っているのかわかるようになっているようだ。宿の看板はベッドのマークのようだ。大通りからいくつかの角を曲がり適当に進んでいると、何軒もの宿屋が並んでいる区画にたどり着いた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
扉をくぐると、店員さんらしき女の子が元気よく声をかけてきた。
「ええ。予約してないけれど、4人泊まれるかしら」
凛が代表して店員と話をする。
「はい、大丈夫です。一人部屋は1泊3500K、二人部屋は1泊5000K、大部屋の方は1泊10000Kとなっておりますがどうなさいますか」
「どうする。私は二人部屋でもいいけど」
「俺は一人部屋がいい」
「僕は別に。どっちでもいいです」
「わたしも二人部屋でもいいです」
そこで男子は一人部屋、女子は二人部屋に泊まることとなった。料金は前払いで半分、後払いでもう半分払うそうだ。料金を払うと、二階の部屋に案内された。部屋にはベッドと小さな机と椅子、机の上に水差しとコップがあるだけだ。当たり前といえば当たり前だが、テレビなどの電化製品は一切ない。まずは荷物をおろしベッドに腰掛けこれからどうするか考えた。
しばらくすると、扉をノックされた。「はーい。どうぞ」やってきたのは凛だった。
「本貸してほしいのだけど」
そういえば、魔術書を貸す約束をしていたっけ。荷物の中から魔術書を出して、凛に手渡す。
「今日これからどうするの」
「私はこれからこの本読んで、夜にまた街へ出かけて情報収集でもしようと思っていたんだけど」
「そう。俺はこれからまた街にでも行ってくるよ。もう少しいろいろ街を見てみたい」
凛が部屋から出ていくと、街へ出かける準備をした。現金はなくすといけないので服のあちこちのポケットに分けて入れ、かばんや部屋にも幾らかおいておく。まあ、必要なものができたら取りに戻ればいいか。とりあえず、出かけよう。
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