四十六話
なんとか更新。
最近はちょいと忙しい……
蓬莱人。それは分類上人でありながらも、蓬莱の薬という妙薬を飲むことで不老不死を手に入れたもののことを示す。彼らに魂的な段階で死というものが存在せず、年は取らないし何度肉体が滅びたとしても甦ることができる。
そんな蓬莱人に故あってなってしまった(……)一人であるのが藤原妹紅。不老不死などという特殊な体をもつ、一見敵なしの蓬莱人だが―――――
「あはははっ、飲め飲め~~!」
「がっ、ぐぼがぼ、~~~~っ!」
盛大に飲まされ、そして苦しんでいた。
現在八雲家では飲めや騒げやの大宴会が行われている。本来は妹紅が帰ってきたことを祝うために催されたものであり、しかも約一年ぶりの帰還という妖怪にとっては非常に短い期間であったこともあって、極々小規模に酒を飲みかわす程度の予定であった。
ところが呼んでいた射命丸がそのことをうっかり周囲に喋ってしまい、結果として山中の住民に知れ渡ってしまったのだ。おかげで呼んでもいない鬼や天狗までくる始末であり、天魔はともかく葵はそれを煽るものだからこのような大宴会へと発展してしまった。
妹紅のことを知らない天狗や鬼もいたのだが、青の「娘のようなものだ」という紹介で集まった他それらの妖怪たちもすぐに妹紅と打ち解けた。これには若干人見知りの気がある妹紅も一安心した。
しかし打ち解けたら打ち解けたで彼女に酒という名の新たな試練が襲い掛かる。
「~~~っ、なにするんらよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。もこーも父さんの娘なんだろう?」
「む、娘!? あ、いや、そう……かもしれないけど……」
「だろう? じゃあまずは飲め! あははははっ!」
「ひゃっ、おいっ! それ関係ない、んんっ!」
いくらでも酒が湧いて出る自前の瓢箪から妹紅に酒を勧めている、というか無理やり飲ませているのは見た目幼女の二本角をもつ鬼、伊吹萃香。酒を妹紅に飲ませつつ自身も結構な頻度で瓢箪をあおっており、すでに足元がおぼつかないのか前後にフラフラと揺れている。傍目から見れば泥酔する幼女の絵という危険なものだが、本人は酒と宴の雰囲気で幸せそうな表情を浮かべている。
勧められている妹紅のほうはといえばすでに顔は赤くなり始めており、瓢箪を口元に押し付けてくる萃香に抵抗しきれないようだ。蓬莱人とはいえ病気になるし酔いもする。結局抵抗虚しく酒を流し込まれる妹紅。若干目が胡乱になってきた。
「おいおい、萃香。鬼のお前と同じ勢いで妹紅が飲めるわけないだろに……」
見かねた青がやってきて一言。彼がやってきたほうを見れば、そこには酔いつぶれたのか折り重なるように眠る天魔と藍と葵。その体には毛布がかけられており、近くにいた紫がスキマを使って一人ずつ彼女らを布団へと移動させている。おそらく飲み比べでもしたのだろうが、天魔や藍はともかく鬼の母である葵に飲み勝つのはさすが“喰らう”ことが本質の饕餮といったところか。
ちなみに彩音は碧と橙を寝かしつけてから酒宴には参加しないで台所に立っており、優はその手伝いをしている。弥彦は離れた場所で他の鬼と飲みながら喋っているようだ。
「大丈夫~、もこーって不老不死なんだよね? いくら飲んでも死なないならいくらでも飲めるじゃん」
「きゅう~~~~……」
「はあ……」
結局、この後倒れ伏した妹紅を介抱してやるために青は彼女を抱きかかえて部屋へと運んだ。余談だが酔った子鬼は新たな絡み相手を探して彷徨い始め、最終的にこの宴の発端である鴉天狗と酔いつぶれるまで飲み明かしたらしい。
さて無事に布団へと妹紅を横たえた青だったが、彼には一つ気にかかることがあった。
今日美鈴と二人でいたときに慌てふためきながら吐いた言葉の中にあった“かぐや”という単語から感じられた憎悪の感情。妹紅が不老不死になった経緯を話してくれた時に聞いた“月に帰った輝夜姫”のこと。そして月での戦いで彼が化けた永琳の中にあった“記録”。これは依姫の想像した永琳が持ちうる技術の知識や記憶に準じているわけだから、厳密には記憶というより記録と言うほうが正しいのだが問題はそこではない。
この3つの事柄から容易にわかること、それは妹紅は“かぐや”、いや、永琳の記録から彼が読み取った名前が正しければ“蓬莱山輝夜”にいまだ強い恨みを持っているのではないかということ、さらにその対象である輝夜は地球にとどまり、おそらく従者である永琳と一緒にこの幻想郷に住んでいるということだった。
実は、力を求める理由に関しては未だに妹紅は誰にも本心を語ってはいない。それこそ師匠である青や親友の慧音にも。
妹紅が力を求めている理由と絡んでいるのではないかという推測もできるしその線が濃厚だが、今の段階ではそれらの関係を断定するには材料が不足していた。あるいは果たす当てのない復讐のためか……なんにせよ彼女の口から聞かなければ青には断定は出来なかった。こういった事柄に予断を持ち込むのは危険だからだ。
そもそも彼が断定できたとして、どうするべきか決めかねるのは間違いないだろう。復讐をさせてやることは出来る、なにしろ復讐相手はすぐそばに居るのだから。しかし両者ともに不死者。文字通り終わることのない負の連鎖が始まる可能性が高いのだ。
横たわる妹紅の髪を撫でつけながら青はどうしたものかともの思いにふけっていた。
「うぅん……お父さん……?」
「!……起こしてしまったか?」
突然身じろぎして呻きうっすらと目を開ける妹紅を見て起こしてしまったかと固まる青だったが、彼を見てお父さんと発言する辺り、まだ寝ぼけているのだろうと判断して彼女を完全に起こしてしまわないように口を閉じて身動きを止める。
しばらくすると妹紅は再び眠りに落ちたのか完全に目を閉じて寝息を立て始めた。その様子にほっとした青は彼女の髪に触れていた自分の手をどかす。それはまたしても彼女を起こしてしまっては悪いだろうという配慮によるもの。
ところが――――
「……ん……いやだぁ……」
突如として伸びてきた妹紅の手によってその動作はさえぎられてしまい――――
「……置いてかないでよ……おとうさぁん……」
「……妹紅」
続く彼女の寝言で青も手を退かす気が失せてしまった。
過ごした年月とは裏腹に彼女の小ぶりな両手。握られた自分の手に力を入れて握り返す青。
心なしかこの時妹紅の表情が和らいだように見えた……
翌朝。八雲家は今日も今日とて平常運行、既に居間にはいつもの面子がそろって着席しており、とても昨日酒宴があったとは思えない。片づけなどは青や彩音や優がさっとしてしまったし、酒宴に参加していた妖怪は皆酒に強い種族ばかり。一時的に酔い潰れたとしても、朝からきりきりと家事をする藍や更に酒を飲もうとする葵のようにけろっとしている者が多い。天魔など早朝に起きて朝飯前の書類仕事をこなしてきたばかりだ。文字通り朝飯前とは言い難い量ではあったが……
ところが今朝の八雲家は一人の人間が二日酔いに苦しんでいた。
「うっ、頭がいたい……」
その言葉通りに頭を押さえて顔を引き攣らせながら居間へとあらわれる妹紅。
「なんだい、近頃の若いのはだらしないねえ。この程度で二日酔いかい?」
「若いのって、歳三百はいってるんだけど……頼むから私の前で朝から酒を呷らないで……うっ、見てるだけで気持ち悪くなる……」
葵のおちょくりに対してもあまり反論する気が起きないのか、少し喋っただけで彼女の飲んでいる酒を見て思わず口に手を当てる妹紅。
「三百なんてあたしから見たらまだまだ小娘さ。あと酒はやめないよ」
「……なるべく視界に入れないようにしよう……」
この後の食事は概ねいつも通りに行われた。葵がお茶代わりに酒を飲んでいたり、橙が言うことを聞かせ損ねた猫が彼女の焼き魚を強奪していったりしたが、それでも概ねいつも通りだった。
「師匠……ちょっといい?」
「どうした?」
食べ終えて席を離れた青を呼び止める妹紅。何やら後ろに手をまわしつつもじもじし、明後日の方向を向きながら喋る彼女に違和感を感じて青は首を傾げる。
「あのさ……あの宴会の後記憶がはっきりしてないんだけど……私なんか変なこと言ってなかった?」
「? そんなことはないと思うぞ。酔いつぶれてすぐに俺が部屋に運んだからな」
いまいち要領を得ない彼女の質問に答える青だったが、なぜかいまだにもじもじし続ける妹紅。
「うぅ……その……寝ぼけてたから師匠に思わずお父さんって言っちゃった気が……」
「! ああ、あの時起きていたのか。いや、気にしなくていいし、そもそもそう呼んでもらっても一向に構わないんだぞ?」
どうやら意を決して放ったらしい彼女の言葉に、青はようやく合点がいく。といっても、父のように思ってくれとは以前から言っていたことなので、今さら父と呼ばれて喜びこそすれ文句を言う気などさらさら彼にはない。
「いや……今さら呼ぶのはなんだか小っ恥ずかしくって……」
などと言いつつも若干頬を緩ませているのが隠しきれていない彼女に思わず笑みがこぼれる。
そこでふと青は思ったことを口にする。
「妹紅」
「?」
「今幸せか?」
「へ? ……ん、まあ師匠や慧音に会う前に比べたら……うん、幸せなんじゃないかな」
「そうか……」
唐突な青の質問に面喰らいながらも、やや考える素振りを見せてから笑顔で答える妹紅。その笑顔に自身の笑みを深くする青。結局妹紅に輝夜について教えるのを彼はやめにした。妹紅の中でいまだに暗い復讐の炎が灯っているにしても、今が幸せだというならそれによってその炎をかき消してしまえばいいのだから。
「? 変な師匠」
「……師匠じゃなくて“お父さん”でもいいんだぞ?」
「うっ、それは……」
血縁もなく、種族すら違う二人。しかし、この時確かに彼らは親子と言って差し支えのない様相を呈していたのであった。
第四十六話投稿でした。
前回から間が空いてしまってすいません(汗) 時間がない+納得のいくものが書けないでこんなに遅くなってしまいました……
大学の勉強やら人付き合いで時間と金とライフがガリガリと削れていく……
そして最近プロットをちょっと見直してます。次回はプロット見直し+大学に慣れるまで時間がかかると思うので、若干間が空くかもしれません……
が! 失踪はしませんので待っていていただけると有り難いです。
感想待ってまーす。