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東方饕餮記  作者: 待ち人
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四話

 青と藍が西方に向けて旅を始めてからおよそ一年がたった。

 旅を始めた頃は砂漠の不毛さに悩まされた。砂の上を歩くのは大変なために普段は飛んで移動した。飛んでいる間は微量に妖力を消耗していくがその反面流砂や砂丘の上り下りなどには悩まされなくてすむようになった。

 しかし微量とはいえ妖力を常時使い続けるのはそれなりに疲れる。

 藍は慣れたもので1日中飛び回っても目に見えて疲れていることはなかったが、青はまだまだ飛ぶようになって間もなかったので、1日中飛んだりすると妖力の運用に気を使いすぎて精神的疲労から休憩と同時に倒れ込むこともあった。

 そのおかげか今となっては藍と遜色ないほどに飛べるようになっている。


 食事は基本的に飲まず食わず。二人とも妖怪なのでなんとかなったが妖力を体力にしているだけなのでずっと飲まず食わずと言うわけにはいかない。

 そこで見つけたのが広大な砂漠にいきなり現れた緑の楽園、つまりはオアシス。 湖を中心として木が生い茂っており、中に砂が吹き込んだりするのを防いでいた。二人はこれ幸いとオアシスで休憩をとり自生していた果物や周辺にいた小動物をとって食べた。


 その後藍がいきなり水浴びを青の目の前で始めようとしたので青がおおいに慌てたりした(ちなみに青は藍を止めたことを若干後悔していた)


 夜は藍が狐火をだし、青は鳳の一種に化けて翼で藍を包んで寝た。道中砂嵐に遭遇することもあったが青の能力で無事にやり過ごすことが出来た。



 そして二人は砂漠を越え山を越えオリエント地方へとやって来ている。

 今はメソポタミアの辺り。

 この辺りまで来ると段々と集落が現れ始め、活気も出てくる。久方ぶりの人の気配に青は懐かしさを、藍は好奇心を抱く。




<青side>



 久方ぶりの人の気配と活気に自然と気分が高揚してくるのが分かる。

 この際自分が妖怪だとかは関係ない。旅の間は藍がいたので寂しくはなかったが、賑わいや騒がしさとは無縁の生活だったためこうして人々の賑わいを耳にするとほっとするものがあるのだ。


 藍は藍で尻尾を消しながら興味深そうに辺りを見回している。

 まず使われている言葉から違うみたいだな。ただし音が違うというのは分かるのだが意味がなんとなく分かってしまうのだ。

 藍に聞いてみると妖力の恩恵らしい。便利だな、霊力でもできるのだろうか?まぁ俺なら化ければ言葉も問題なく使えたと思うが。

 で、新たにわかった妖力の恩恵で住民と会話をして例の水に囲まれた国について聞き込みをした。こちらの髪や目の色が珍しかったのか色々と質問責めにあったが、答えたお礼に様々な情報を教えてもらった。


 まず広大な湖の事を海と呼び、目的地はその海に囲まれているらしい。

 名前はクレタ島。大きな舟を使って交易をして栄えているらしい。ここからさらに西に向かえば海に出るから、海岸線に沿って歩いていけばいつかクレタ島にいく舟が見つかるだろうとも言っていた。

 まぁこっちは飛んでいくつもりなので舟を探す必要はないが、飛んでいって目的地が見つからず疲れて墜落、なんて御免こうむりたい。一応目指す方角の星の位置を教えてもらう。


 一通り情報集めを済ましたところで藍を探すと、住民たちと普通に喋っていた。

 そういえば藍の髪の色もこの辺りの人間と同じだ。だからなのか違和感がない。


「おーい、藍。ちょっといいか?」


「あぁ、わかった」


 そう言って話を切り上げてこちらにやってくる。

 ……藍を見つめる男の視線がなにやら熱い気がする。


「どうだ、こっちの人間は?」


「向こうと違って陽気なのが多いな。まぁまともに話したのは今まで青ぐらいだったが」


「む、それは俺が陰気だということかな?」


「では陽気なのか?」


「…まぁ陽気ではないだろうが」


「そんなことはいいじゃないか。それより目的地の情報は集まったのか?」


「あぁ、名前はクレタ島というらしい。交易で栄えているらしいが、それなら俺のような異民族の姿でも気にする必要はないだろう」


「私も色々と聞いたよ。なんでもイルカという大きな魚がいたり果物を大量に栽培していたりするらしい。

中でも一番興味深かったのは宮殿に閉じ込められた化け物の話だ」


「化け物?」


「そうだ。しかもその化け物はクレタの王の息子。宮殿の奥深くの迷宮に閉じ込められているから詳しくはわからないが牛の頭をした怪人らしい」


「なかなか面白そうな話だな。こっちに来てからめっきり妖怪を見なくなっていたがもしかしたらそいつは半妖かもな。一度見に行ってみたいかな」


「でもどうやって行くんだ?宮殿なら見張りは厳しそうだし迷宮もあるんだぞ?」


「大丈夫だ、俺の能力でなんとかしよう」


 こんな面白そうな話を逃すわけにはいかないだろ?



 あの会話のあとすぐに海まで最高速で飛ばし、一晩ぐっすりと眠ってから再び飛んで海を渡りクレタ島へと無事にたどり着いた。

 クレタ島の賑わいは予想以上だった。舟がひっきりなしにやって来ては積み荷を下ろしたり受け取ったりしている。

 物売りの品も充実している。藍と二人でそれらを見て歩き、気になるものがあれば旅の途中で見つけた砂金と交換した。砂金は割りと沢山あったので良かったが、これだけのものがあると目移りしてあっという間に交換する物がなくなってしまいそうだ。

 藍も楽しんでいたらしく終始笑顔だった。なんどか尻尾が出そうになっていたので冷や冷やしたが。


 こうして日が高いうちはクレタ島見物を楽しんだ。



 そして夜。

 俺たちは今宮殿の目の前まで来ている。当然見張りにも気づかれているが問題はない。さっき一人でのこのこ門から出て巡回にやってきた兵を気絶させてその兵士に化けているからだ。

 藍には小さな狐になってもらい胸当ての隙間に潜り込んでもらった。もこもこして非常に気持ちよいが、そんなことを考えていたら引っ掛かれてしまった。……これが終わったらおもいっきり狐状態で抱き締めてみたいな。


 見張りの目を欺いて無事に侵入したあと、詰所に向かうふりをして迷宮への道を探り、迷宮へね入り口を見つけて二人で変化をといてから迷宮へと向かった。

 入り口には見張りが二人いたがすこし休んでもらった。俺は手刀で一撃だったが、藍の相手の見張りは目を閉じて魘されていた。何をしたのか聞けば『ちょっと悪夢をみてもらった』と笑顔で答えてくれた。

……藍は怒らせないようにしよう。


 見張りを倒して迷宮に入ったが辺りは暗く、所々においてある松明だけがたよりの暗闇。

 見えづらくてしょうがないので藍に狐火をだしてもらい辺りを照らしてもらい進む。分かれ道対策には昼に手に入れた糸を使った。入り口に結びつけておいたので、分かれ道もこれを辿ればもどれるだろう。


所々で行き止まりや罠に出くわしながらも着々と進むとだんだんと禍々しい気配が強くなっていく。ただこれは妖気ではない。妖気とは全く別の何かだ。


「藍、これは…」


「あぁ、これは妖怪でも半妖でもないな」


「…とりあえずここまで来たんだから見るだけ見ていこうか」


 再び歩き始めてからしばらくすると巨大な扉が目の前に現れた。その扉をそっと開き藍と一緒に中を覗く。


途端に目の前に広がる大きな空間。しかしそれは広さがあるだけで地下牢のように寒々とした空間、さらに恐ろしいことに床一面に転がっているのは大量のしゃれこうべ、おそらく宮殿に連れ去られたという生け贄だろう。

 そしてそのしゃれこうべの上に佇む牛頭の怪人。

 ……こいつが噂のミノタウロスか。


「藍、もしかしてあれは……」


「あぁ、呪いだな。しかもとびっきり強力なやつだ。私ではかけることも解呪することもできないな」


 やはりそうか。

 昔の経験に似たような気配があったので思い当たったが……


「藍でも手出し出来ない呪いなんて一体誰が……」


 そう、藍はこの手の呪いや幻術に関しては飛び抜けている。以前大陸を二人で旅している途中に俺ではどうにもならない呪いをかけられた人がいたが、藍はそれを簡単に片付けてしまった。

 そんな藍にそこまで言わしめる使い手とは……


「おそらくこれは神の仕業だな」


「神?」


「あぁ、この辺でまつられているやつだろう。神と私たち妖怪じゃ地力が違う。神力で呪われたんならどうにもならないな。それよりも神に呪われるなんて何をしたのか気になるが。

信仰を削る覚悟でやったんだろうから余程のことがあったんだろう」


「神か……こちらにもいるならば注意しなければな。一応こっちは神とは逆の存在だ。この辺に強大な妖怪はいなさそうだから目立つだろうし、目をつけられたらかなわん」


「ああ、この辺りの神については後で調べよう。それより今は……」


 そう、目の前の牛頭をどうするかだ。

 どうも目に理性の光が見られない。噂では生まれた時からこの状態だったらしいからずっと迷宮に放置だったかもしれない。

 だとしたら理性など生まれるはずもないだろう。そう思うと哀れだしなんとかしてやりたいという気持ちもあるが、俺たちの手に負える呪いではないからどうしようもない。


「これは話も出来そうにないな。本能だけで生きてるんだろう」


「そうだな。せっかくだがここまでにするか」


 藍の言葉に同意を示して引き上げる。

 あんな状態なら殺してやった方が良かったかもしれないが騒ぎになったら面倒だから手出しはしなかった。


 糸をたぐってもと来た道を通って入り口で糸を回収、再び俺は兵士、藍は子狐に化けて宮殿をあとにする。


「今回の収穫は微妙だったな」


「まぁ神の存在の確認と話の種くらいにはなるだろう。ところでこの後はどうするんだ」


「そうだな、せっかくだし数年くらいここに住み着いてみようか」


「面白そうだが大丈夫なのか?」


「土地柄もあるし大丈夫だろう。藍もだいぶ人間らしくなってきたし数年くらいなら歳をとらなくても怪しまれはしないさ」


「そうか、それも面白そうだな」


……尻尾出てるよ藍。

 嬉しそうに微笑みながら尻尾を揺らしている。しかし一緒に住むとなったらこの尻尾の誘惑に耐えきれるのだろうか心配だ。もふもふしてみたくなる……


「(もふもふ)…っひゃあ!せ、青!」


 い、いかん!ついついもふもふしてしまった。

 しかしこの感覚はたまらないな。魔性の魅力があるようでついつい手がのびてしまう。


「(もふもふもふもふ)っ!お、おい青!?んっ!やめて!ぁん!他なら構わないから!」


……今最後に妙な言葉があったがこの際無視だ。


 この後藍が腰砕けになるまでもふもふし続けた。宿場に入って横になると藍が抗議してきたが幻術は免れた。しかもあまり我慢させては逆効果だと思ったのか、藍が狐の姿になり一緒の床で寝るようになった。非常にふかふかで寝心地は最高だ。

 俺は今生涯で一番幸せな一時を味わっているのだ……


 あとで何かに気づいたのか藍が赤くなっていたが、何故だ?



第四話投稿でした。

今回は筆が進んだので早めに投稿。


ミノタウロスさんが登場しましたが、彼は親父さんのとばっちり食らった可哀想な子だったりします。

この後いつの間にかやってきた勇者さんに退治されていたり…



それより次回が問題作なんだよなぁ…



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