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東方饕餮記  作者: 待ち人
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四十五話

GW?連休?

そんなものはどこにもない……

 幻想郷には太陽の畑と呼ばれる一画がある。

 そこには美しい花畑と美しくも恐ろしい主がおり、人間はおろか滅多なことがなければ妖怪ですら寄りつかない。人妖問わずにひどい“弱い者いじめ”をされることになるからだ。


 そんな花畑を訪問する影が二つ。

 さんさんと降り注ぐ陽の光の方へと向日葵の向きを誘導していた主、風見幽香はその気配に気がつく。初めはどうでもよい新米妖怪が迷い込んだだけだろうと不機嫌な表情をしていた彼女だったが、二つの影の内の一つに目をやって凄みのある笑みを浮かべた。


 彼女の目を引いた影の正体は八雲青、そしてその隣にいるのは紅美鈴。


 二人が出会ったときから季節は一周してさらに夏になっている。何故彼女がいまだここにいるかと言えば簡単な話、ここの生活が気にいったからだ。

 何しろ飯は美味いし寝床は保証済み。当初の彼女の懸念事項だった周りの妖怪の規格外さも一月近くで暮らしてみればむしろ友好的なものだとわかった。さらに鍛錬相手も鬼や青と言った実力者がうようよしているので事欠かない。

 ちなみに天狗すらも友好的だったのは彼女の人当たりの良い性格のおかげであるのと同時に、天魔の教育という汗と涙の結晶であると言えるだろう。


 とにかく初対面こそあれではあったがこの場所が気に入った彼女は樹海の巡回警備をする代わりに八雲家に住み着くことになったのだ。巡回警備と言ってもやってる本人が迷っていたりするがそれも御愛嬌、今ではすっかり馴染んでいる。


 話を元に戻そう。


 幽香は笑みを浮かべたままつかつかと彼らに歩み寄る。

 

「あら、貴方の方からやってくるなんてどうしたのかしら? それにその子は?」


「なに、少し頼みたいことがあってな」


「頼み、ねえ……その子絡み?」


「ああ。彼女と仕合ってほしい」


「へえ……」


 辺り一面に殺気をふりまきながら楽しげに喋る幽香に対して、涼しい顔で答える青。そして美鈴はと言うと、意外にも怖気づくことなく横に控えている。この一年の成果というべきか。


 幽香も初めは頼みという言葉に対して訝しげだったが、そんな美鈴の様子を見て口角を上げる。


「貴方とやるのもいいけど、その子も面白そうね……殺してもいいのかしら?」


「……美鈴次第だな」


「青さん!?」


 ここまで来て初めて動揺をあらわにする美鈴。

 それもそのはず、今回は試合をしにいくのだと聞いていた彼女にとって死合いになるのは想定外。青にも意図があってやったことだが、おかげで今までの凛々しい雰囲気は台なしである。

 あわあわやっている美鈴を放っておいて話は進む。


「この子は貴方の弟子か何かなの?」


「まぁ……あながち間違ってはいないかな」


「ふーん……いいわ、楽しめたら殺さないであげるわ。その代わりもし期待外れだったら……」


 そこまで言って美鈴の方へと向き直り――――


「肥料になってもらうわね」


 ――――愛用の日傘を猛然と振るった。







「青さんのばか~~!!」


「あのな……」


 太陽の畑からの帰り道、ぼろぼろの美鈴は涙目で抗議をし続けていた。

 先ほどの突然の幽香の一撃、とっさの判断によって辛くも避けきった美鈴だったがそれがまずかった。いや、避けなければもっとまずかっただろうが、不意打ちともいえる一撃を避けた美鈴に対して幽香は笑みを深くした。要は目をつけられたということだ。




 その後はイイ笑顔をした幽香の猛攻が始まり、彼女が満足して手を止めるまで美鈴は必死に避け続けるはめになったのだった。


「あんなの聞いてないですよ!」


「あれは言ったら意味がないんだ。最近は鍛練ばっかりで命のやり取りがなかっただろう?美鈴がどれくらい成長したかを確認するついでにな」


 青や鬼などの実力者と手合わせ出来るとは言え、それはあくまで鍛練の域を出ない。


 だから一度格上と命のやり取りをさせようという青の考えだった。


 百の訓練をした兵士より一つの戦場を経験した兵士のが実戦では遥かに生き残りやすい。美鈴の話を聞く限りでは今まで格上との戦いは避けてきたようであったので、いざという時に備えて今のうちに慣れておけ、という事だ。


「それでも死んじゃったらもともこもないじゃないですか……

はっ! もしや私なら大丈夫だと信頼してくれたんですか!?」


「死にそうになったら制止に入るつもりだった」


「うぅ……喜ぶべきなのか怒るべきなのか……」


 自分の身を案じてくれたことを喜ぶべきなのか、自分の腕前を信頼してくれなかったことを怒るべきなのか悩む美鈴。


(そりゃあ、避けるのに精一杯で、しかもぎりぎりでしたけど……少しくらい信じてくれてもいいじゃないですか)


 口を尖らせて道端の小石を蹴っ飛ばす美鈴。それを見て思わず苦笑を漏らす青だが、実際彼女の腕前の上達には感心していた。


 今まで不足していた格上との戦いもこなしている彼女なら、そんじょそこらの妖怪には勝てると青は踏んでいる。


 ただ今回はそんじょそこらで片付けられる相手ではなかった。何せ大妖怪・風見幽香だ。


 彼女の猛攻をかわし続けられる存在はそうそういない。だからこそ心の内では今回の美鈴の戦いに二重丸をあげている。次は攻撃を当てられれば花丸だな……などと考えてはいるが。



 とりあえず心の内だけではなく態度で労ってやろうと思い立つ。


「しかし、今回はよく頑張ったな」


「きゃっ!……えへへ~」


 突然頭に重みを感じた美鈴は思わず可愛らしい声を上げるが、その重みが青の手によるものであり、それが彼女の帽子を外して頭を撫でていることに気がつくと途端に心地良さそうな顔つきになる。喉元を撫でられた猫もかくや、というほどの反応を見て青の頬も弛む。


 ここ一年で青が発見したこと、それは美鈴は褒めて伸ばす子であるということだ。どこかの平行世界の門番がいまいち役に立たないのは叱られてばかりだからかもしれない……


 とにもかくにも二人の間に漂うのはそれはそれは和やかな雰囲気、端から見れば新婚夫婦……とまではいかないが、非常に親密な仲であると疑われかねない。


 そしてそんな勘違いをするものがここに一人―――


「師匠っ!?」


 突然の大声に二人が振り向けばそこにはぽかんと口を開けた妹紅。

 一年とちょっと前のあの日、結局彼女は再び旅に出た。と言ってもちょくちょく顔を出すという約束であり、彼女自身も満更ではない様子だった。


 片手に携えた徳利と出会した場所を見るにこれから八雲家に向かうと行った所か。いささか不老不死にしては一年というのは短い間隔だが、安らぎの場所が恋しくて帰ってきたのかもしれない。


 ちなみに今の場所は妖怪の樹海の入り口である。


「おお、妹紅。よく来たな」


「あ、どうも、お久しぶりです妹紅さん」


 歓迎の意を示す青に律儀にお辞儀をする美鈴。

 ちなみに美鈴と妹紅は一応面識がある。妹紅が旅立ちの挨拶に八雲家によった時の一回きりではあるがきちんと自己紹介も済ませているのだ。


「……」


「「?」」


 ところが妹紅は一向に反応を示さない。顔見知りの彼女ではあるが、青という父のように慕う相手がいるのにこの反応は不可解、美鈴と青は揃って疑問符を浮かべる。


 一方妹紅はしばらくするとうつむいてなにやらぶつぶつと呟き始めた。

 ますます困惑する二人。


そしてついに顔を上げた妹紅。その瞳にはなぜか水気が滲み、決意の炎が宿っている。彼女の放った言葉は―――


「師匠を誘惑するなっ!!」


「「は?」」


突然の言葉に完全に固まる二人だが、そんなのお構い無しにまくし立てる妹紅。


「最初に会ったときは優しそうなやつだとか思ってた私が腹がたつ!

お前も“かぐや”みたいに子持ちの男を誘惑する悪女だったなんて!

お前みたいな妖怪は塵に還してやる!!」


「へ!? わ、私!?

誘惑なんかしてませんよぉ! 青さんもなんとか言ってくださいよ!」


 妹紅の激しい口調に押されながらも美鈴は青に助けを求めるが、肝心の青はとある単語が引っ掛かって思考の海に沈んでいる。


「問答無用! 喰らえぇっ!」


「きゃあああっ!」


 妹紅の手から拳大の火の玉が次々と現れて美鈴に迫る。いずれ彼女の代名詞となる不死鳥の如く自由自在に火を扱うことこそ出来てはいないが、僅かな期間でここまで使いこなす妹紅にはやはり才能があるようだ。


 一方、美鈴は先ほどまで幽香と死と隣合わせの戦いをしていたので疲労困憊しているためか余裕がない。


 結局炎を打ち出す妹紅が逃げ惑う美鈴を追い回す光景が出来上がったのだ。


「死ねええええっ!」


「誤解ですって、うひゃあああっ!」


「……あ」


 やっと思考の海から上がってきた青の目の前に飛び込んできたのは燃え上がり始めた妖怪の樹海の入り口。幸い燃え始めたのは二、三本だけであったので、その部分だけ思いっきり吹き飛ばす。


 やれやれ、とばかりに二人の喧嘩を眺めていると山の方から凄まじい速さで迫る妖気を感じる青。


 思わず振り向けばそこに現れたのは見た目十代半ばの黒髪赤目の少女。黒のスカートに白の半袖シャツ、手には八手の葉の団扇を持っており足には下駄というなんとも奇妙な取り合わせ。

更に彼女の背中からはその髪と同じ色の翼が生えており、いわゆる鴉天狗であることが分かる。


 その少女は颯爽と青の前に降り立つと開口一番―――


「あやややや、これは痴情のもつれですか?」


 彼女らしい一言を放った。


「どうしてそうなる、文……」


「男一人と女二人、争うのが女同士となれば痴情のもつれと決まっています!」


 何故か自慢気に胸を張るこの天狗、名を射名丸文という。

今まで各地を旅し、つい最近幻想郷にやってきた天狗だ。

年の割に力があり天魔も目をつけているのだが多少性格に難がある。


 知識欲、と言うのはずれているかもしれないが、知りたがりで喋りたがりなのだ。仕事など締める場所では締めるので問題ないと言えばないのだが、いわゆる大天狗に必要な威厳というやつがない。


 天魔は時が解決してくれるだろうと踏んではいるが、いずれ河童の技術によって文の趣味が決定的になるのを彼女は知らなかった……


 閑話休題


「で、なんで文がここにいるんだ?」


「あやや、忘れてました、先ほどこの辺りで煙が上がっていたらしいので駆けつけたのですが……対処済みみたいですね」


 気を取り直して青が質問をすると、文ははっとして辺りを見回すが打ち捨てられた黒焦げの木を見て胸を撫で下ろす。


 『風を操る程度の能力』

 この能力を持つ彼女は天狗の中でも随一の速さを誇る。火急の用なら彼女が最適だろう。


「いい加減に観念しろぉぉっ!」


「いい加減にして欲しいのはこっちですよぉ!」


「……あれは対処済みではないみたいですが」


「ふぅ……なんとかするか」


 未だに追いかけっこを続ける二人にさすがに呆れた眼差しを向ける文。


「そうだ、この後だが文も家に寄るか?」


「んー、そうですね。今日は本来非番のはずでしたし、上がらせてもらいます」


 青の提案に一瞬思案してから頷く文。天狗の頭の天魔、その父である青に対し何故こんなに気安いのかと言えば紆余曲折あったのだがここでは語るまい。

 紆余曲折を無理やり簡単にしてしまえば、文を侵入者だと思って美鈴が攻撃をしかけ、その詫びに家に招待したら慣れ親しんでしまったということだが。


「そうか、じゃあ今日は酒宴だな。葵や萃香たちも呼んでおくとしよう。それよりまずは……」


 この後、八雲家に向かう4つの影のうち、二つの頭の上に大きなたんこぶがあったのだった。



第四十五話投稿でした。


世間ではGWだとかほざいてますが、休み?なにそれおいしいの?状態なのです。


さて、そんな状態で絞り出した四十五話でしたが、なんだか思った以上に盛り沢山にw 幽香に美鈴に妹紅に文に……あれ、藍は?


そう言えば美鈴ですが、取り敢えずキャッチでございます。紅魔館の門番は……おいおいどうなるか分かるかと。


にしても今回はめーりんはひどいとばっちりw

前半はともかく後半は妹紅の過去と被ってしまった不幸です。

そして最後の拳骨も、まさかの喧嘩両成敗w

どうしても彼女は理不尽な対応になるなぁ……順調に強くしていってるのに……



そしてあやややや登場。

このタイミングを逃すと色々と不味い気がしたんで無理やり投入。



更にもこたん昔話フラグが立ちました。

もこたんかわいいよもこたん。




さて次回の更新はいつになるのか……なるべく頑張ります(汗)


感想待ってまーす。


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