表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方饕餮記  作者: 待ち人
46/51

四十三話

あの人登場です。

このタイミングで予想出来た人は割とすごいw


 青は魔よけの神・饕餮として信仰を受けている。

 規模は同じ神である諏訪子や神奈子などとは比べものにならない少なさではあるがその信仰はしっかりと根付いており、きちんとした祈りであれば青へと届く。基本的に祈りが届けば青はさぼるようなこともなく信仰に報いているのだが、積極的に布教するつもりがないために土着信仰にとどまっているのだ。

元々、というか今も妖怪である饕餮を祀るのが中央には受け入れられてないというのも理由の一つではあるが。


 つまり青の元には時折祈りが届いており、それをこなすために大陸に渡ることもしばしばある訳だ。

 この話もそんな神としての仕事についてのお話。




~~~~~~~~~~~~~~~




 気持ちがいいほど晴れ渡った空の下、俺は縁側に腰かけて湯呑からゆっくりとお茶をすする。

 庭では碧と橙がじゃれあっており微笑ましい光景を作っている。


 昨日は月での出来事や紫の思惑、それとこれからどうするかについて話し合って半日、残りの半日は慧音の住む場所をどうするかで使い切ってしまった。


 紫にはなぜなにも相談しないで月に攻め入ったのか、と問い詰めてみたところ、どうも今回の月の戦争には俺たちを巻き込みたくなかったらしい。もともと負け戦を想定していたから戦力は必要なかったし、監視役の自分だけ行けばことは足りると思ったとのこと。わざわざ危険な場所に俺たちが付いてこないように、と決行直前で彩音に事情を話した以外はだれにも相談もせずに実行したらしい。


 天狗や鬼の長である葵や天魔に気づかれなかったのはどうしてだろうと思ったが、どうやらそのあたりには声をかけず、誘った妖怪たちにも他言無用だと緘口令をしいていたようだ。


 そして俺たちに持ちかけた旅行の話も紫の計画のうちだったらしい。なんでも俺たちは一番付き合いが長いから勘づかれる可能性が一番高いと思ったとのこと。俺たちが旅行に行ってる間に全て済ませてしまおうとしたのだ。


 とりあえず家族の拳が唸って紫が涙目になったのは言うまでもないだろう。


 これからについてだが、慧音という長寿の守護者を見いだせたので現状維持ということになった。本当に強い妖怪はまだ残っているし、今回の事でちょうど均衡がとれただろう。

 ちなみに慧音の住まいは割とすぐに決まった。特に半獣だからと迫害されることもなかったようで安心した。

 妹紅もしばらく慧音の所に滞在するそうで、こちらにもちょくちょく顔を出すようなことを言っていた。


「ふう……」


 そして一夜明けてやっと一息ついているところだ。なぜ一夜明けてなのかは……察してほしい。

 葵はともかく彩音があんなに乱れるとは思わなかった……若干幼児退行してすらいた気がする……


 何はともあれ平和で何より。口に広がる茶の香りと目の前の娘たちの笑い声を楽しみながら実に爺臭いことを考えていた時だった。


「む……」


 間が悪いという言うべきか良いというべきか……暇ではあるがなあ……


「どうしたのお父様?」


「せいさま?」


 突然宙を睨み始めた俺を心配してか、橙と碧がすぐそばまできてこちらを覗きこんでいた。とりあえず二人の頭をわしわしと撫でまわしてやる。


「いや、ちょっと仕事に行ってくるから母さんたちの言うことを聞くようにな」


「「はーい」」


 元気よく返事をする二人を確認した後、目を閉じて精神を集中する。まったく……信仰を貰っているとはいえ家族との一時を犠牲にしなければいけないとは……


 祈りの内容は単純に妖怪退治、魔除けの神などやっていれば別段珍しくもない、というかほとんどこのような内容だ。しかしその妖怪にとっては不幸なことに、今回俺は少し機嫌が悪い。


 申し訳ないが八つ当たりさせてもらおうか……







 とか思っていた時期が俺にもありました。


「きゅう~~」


 今俺の前には一人の女性が倒れている。緑の服に帽子を被り、その帽子の前側には星型の装飾がついている。赤髪ですらりとしつつも出るところは出た美女、男なら見惚れてしまう奴もいるのではないだろうか。


 まあこんな姿を見ればそんなことも言ってられないだろうが……おもわず溜息が出てくる。

 一体どこで間違えたのか……


 まず移動した後に祈りの内容を改めて確認した時からおかしかった。


 なんせ妖怪退治の理由が“食い逃げ”だったからだ。別に人を食い逃げしたとかではなく、饅頭を食い逃げされた、とかいう内容だ。なんでも尋常じゃない逃げ脚だったから不思議に思ってたら、旅の退治屋が妖怪だと気付いたとか。最初その退治屋がもぐりだと思った俺は悪くないはずだ……


 で、仕方がないので食い逃げの現場を直接押さえようと思った矢先にあたりを飛び交う怒号と視界の端に映った緑と赤の稲妻。小さいながら妖気が感じられたのでそのまま追跡。


 村からだいぶ離れたところでやっとその妖怪が立ち止まったので背後から手刀で一撃……しようと思ったら驚いたことにに反応され、大きく跳躍してかわされてしまった。

妖気の大きさに反して手ごわいやつかと身を引き締めた……ところでさらに予想外の事態が起こる。


 あろうことかその妖怪、盛大に転倒したのだ。跳躍した先にあった石ころに足元をとられて。そしてそのまま頭をぶつけて意識を失いこの有様。

 別に辺り一面岩だらけだった訳でもなく何もない平野でだ。


 さすがにこれには俺も唖然とし、今現在どうしようかと悩んでいるのだ。

 いや、このままぶっ放して終わりでもいいんだが……人を喰らったり驚かしたりするのではなく、食い逃げする妖怪なんて聞いてことがないからちょっと気になる。というか正直退治する気になれない。


 さてどうするか……


~~~~~~~~~~~~~~~


 頭が痛い……ずきずきする……


「ん……」


「お、気がついたか?」


 どこからか男の人の声が聞こえる……あれ、私は一体……たしかいつものように食べ物を失敬して追手も振り切ったと思っていたらいきなり背後に気配がして……!!


「わあ!!」


「おお!」


 足元の何かのせいで転んだところまで思い出して思わず跳ね起きると、隣で私の声に少し驚いた様子の男の人がいた。看病してくれたのかな?


「ええっと~」


「ん?ああ、俺は八雲青という。君が転んで意識が戻らなかったから、何かないかと見ていたんだ」


「あ、やっぱりそうなんですか! 私は紅美鈴といいます、ありがとうございます!」


 こんな何もない場所で無防備に寝ていたら何をされるかわからない。この人がいなければどうなっていたか……

 とにかく深々と頭を下げて……ってあれ?


「……私が寝てる間に何かしたりしてませんよね?」


「馬鹿を言え、こう見えても俺は妻子持ちだ。それに見ず知らずの女性に欲情するほど飢えてもいない」


「そ、そうですよね~ごめんなさい!」


 そういえば衣服が乱れてる様子もないし……疑って悪いことしちゃったかも……

 改めて深々と頭を下げて……ってあれ?


「あの~~」


「なんだ?」


「あ、いえ……」


 いやいや、恩人を二度も疑うなんて恥知らずよ紅美鈴!

 大体ただの人間が私に気づかれず背後に忍び寄るなんて……あれ、神気?


「その、もしかして神様ですか」


「まあな。大した信仰は受けていないが」


 や、やっぱり。なら私の背後を取れても何の不思議もないはず。

 でもわざわざ神様が私を始末しにくる理由なんて……あった……


 いや、旅人を加護する神様が私を看病してくれたに違いないわ!

 恩人を何度も疑うなんて恥を知りなさい、紅美鈴!


 ……でも一応確認してみよう。


「つかぬことを聞きますが、八雲さんは何の神様でしょうか……?」


「魔除けだ」


 ま、魔除けってかなりやばいじゃないですか~~

 ど、どうしよう……信仰はあまり受けていないって言ってたけど身のこなしは相当のものだし……純粋な技術でも勝てないかも……


 いやこんな神様が私みたいな弱小妖怪に用はないはず……


「そ、そうですか。じゃあ私はこれで失礼しますね、どうもいろいろとありがとうございました!」


 自分に出来る最高の御辞儀をして最高速で逃げる!

 大丈夫、わざわざ私を追っかけてくるようなことなんてあるはずが――――


「ふむ、ちょっと話があるから待ってくれないかな?」


「―――え?」


 右腕を誰かに掴まれたような感覚を感じた直後、私の意に反して足が止まってしまう。

 思わず振り返ってみればやっぱりそこにいたのは八雲さん。

 身体能力には自信があったのに……


「あの~今さらですけど、あの時私に攻撃してきたのって……」


「俺だ」


 あ、終わった。


 まだ数十年しか生きてないのにここで死んじゃうのかなぁ……

 結局大した妖怪にもなれなかったなぁ……人間を食べるのを避けてたからあたりまえかあ。

 もしもっと人間を食べてたらこんな状態に陥っても何とかなったのかな? でも神様に目をつけられたら一緒だよね。ついてなかったなあ……


「おい、聞いてるのか?」


 私に人を驚かす才能も見た目もなかったし、せっかくの能力も『気を使う程度の能力』なんて微妙なものだったから戦闘もいまいちだったし……せめてと思って人間を装って習った拳法も強い妖怪相手じゃあまり意味ないし……よく考えたら今まで生きてこれたのが運がよかったのかなぁ……


「人の話を聞け!」


「あいたっ! な、何ですか!? やるならひと思いにやってくださいよ!」


 うぅ、さっきぶつけた部分がじんじんする……何も拳骨なんかしなくても……


「人の話を聞けというのに……俺は君の話が聞きたいと言っただけなんだが」


「え?」


 もしかして私……助かった?


「じゃあ話をしたら見逃してくれるんですか?」


「それとこれとは話は別だな」


「いやあああああああっ!!」






 何もない平野で似たような漫才がしばらく続いたという……


「話次第では見逃してやるから」


「ほ、本当ですか?」


「必ずしもではないがな」


「あぁ、神様でもなんでもいいから誰か助けてください!」


「呼んだか?」


「うわ~~~ん、貴方じゃないですよ~~!!」




第四十三話投稿でした。


この前やっと神霊廟の体験版をやりましたが、リシッドパラダイスが割と気に入ってよく聞いております。

……そのせいで執筆速度が落ちてる訳じゃないよ、ホントダヨ?



さて本編。

後日談をあっさり流して狙いが見え見えのめーりんさん登場です。

上海紅茶館と明治17年のアリスは私の作業BGMの中に入ってますね。

紅茶館をアイリッシュ楽器で弾いたニコニコの音源で日々の疲れをリフレッシュ!

どっちも名曲なんだよなぁ……弾幕は薄いけど(汗)


美鈴は自分を弱小妖怪だとか言ってますが割と強いです。

というか公式でも弾幕ごっこじゃなくて真剣勝負なら結構強い。少なくとも能力抜きの戦いなら。


地味に好きなキャラですね。




ということで次回

めーりんの運命や如何に!

をお届けします。




そういやまた天魔の出番が……ま、いっか(笑)

感想待ってまーす。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ