四十二話
後日談……と見せかけて後日ではない罠
じんわりとPVが伸びて、60万になってました。
感謝感謝です。
「青様! 紫様!」
「ただいま、彩音」
スキマをくぐって家の近くに出れば、駆けよってくる彩音。紫を助けに行った時は抱き締める間もなかったので、今度こそしっかりと抱き締めてやる。
「良かったです……二人ともご無事で……」
「ああ、怪我もしてないから安心してくれ」
胸元から上目遣い+涙目で見上げてくる彩音。毎度思うがこれは反則だよな……
艶のある緑の髪を指を通してすいてやると、目を細めて気持ち良さそうにする。
しばらくそうしていると背後からため息が一つ。
「……そうやってすぐ人目を憚らず乳繰り合うのがあなたの欠点よね」
「ち、ちちち乳繰り合ってなんかいません!」
真っ赤になって叫ぶ彩音。何か言われるまで恥ずかしがりもしないで引っ付いてるのに、誰かに指摘された途端にこれだからな……可愛いなあ。
振り返ってみればやれやれとばかりに肩を竦める紫。
お前も最初は俺と藍を見ては顔を真っ赤にしていたくせによく言うよ……
「はいはい、全く、今日は予定外のことが起きすぎちゃってへとへとよ……
詳しい話はまた明日にして、今日はもう寝かせて頂戴……おやすみ~」
彩音に向かってひらひらと手をふってからスキマを開いて紫は消えてしまった。おそらく部屋に戻ってすぐさま寝るのだろう。
「もう……さ、中で藍様や葵さんたちも待ってますよ」
「子供たちとも久しぶりの対面だな」
彩音に手を引かれるままに家へと向かう。
そして居間へと踏み込んだ瞬間、目にも止まらぬ速さで突っ込んでくる影が二つ。俺はその影たち、碧と橙を片手ずつで抱き止める。続いて背後に重みを感じて首だけで後ろを見てみれば、背中に覆いかぶさるようにしている優。
「お父様!」「おとうさん!」「青しゃま~」
「ただいま、いい子にしてたか?」
「「「はい!」」」
「そうかそうか、よしよし」
「「「ん……」」」
三人とも年齢は三桁だが、見た目が見た目なのでついつい撫でてしまう。まあ気持ちよさそうにしているからよしとしよう。三人の頭を肩よりがないように順々になでまわす。
「久しぶりだな親父。元気そうで何よりだ」
「お前もな、弥彦」
声をかけられて顔を上げれば腕を組みながら壁に寄りかかっている弥彦。
「武者修行はもういいのか?」
「いんや、今日はたまたま戻って来たが、明日辺りにはまた出発だ」
「そうか、ならしっかり休んでおけ」
「おう」
短いやり取りのあと弥彦は居間から出ていく。
なんだか素っ気ないな……これが反抗期というやつだろうか……
弥彦の態度に微妙に寂しさを感じつつ碧たちの頭を撫でてていたら、今度は葵がにやにやしながら近寄ってきた。
「弥彦のやつ、ああ見えてあんたのこと心配してたんだよ。
ついさっきまで酒宴で騒いでたのに、あんたが月へ行ったと聞いた瞬間にそれを放っぽり出して帰ってきたんだから」
「……そうか」
思わずにやけそうになってしまうが、碧たちの前で醜態を晒したくないので耐えておく。
あとで弥彦にまた旨い酒でもおごってやろう。
「で、だ。あたしにも何かないのかい、旦那様?」
我に返ったら葵が肩にしだれかかっていた。というか子供たちの前でそんな妖艶な流し目をするな……
「……ただいま葵」
「ふふ、おかえり。本当ならこのまま閨へ直行したいけど、今夜は我慢するよ」
だからなぜ鬼の教育はそっち方面はあけっぴろげなんだ……見ろ、碧と橙は何を言っているか分からないのかきょとんとしているが、優のやつは顔が真っ赤になっているぞ……
そして優に閨などという単語を教えたやつ、山狩りをしてでも見つけ出してやる……
この時、某幼児体型の鬼が震え上がったのは余談である。
「彩音と葵は優たちを連れて先に寝ていてくれ、俺と藍は風呂に入ってから行くよ」
「はいよ、あんまり長湯はしないようにね」
俺の言葉に従って居間を出ていく葵たち。残ったのは俺と藍。
「腕輪を使う必要はなかったみたいだな。ともあれ怪我もなくて安心した……」
今回、藍には万が一に備えていつでも腕輪を使用できるように待機して貰っていた。まあ杞憂に終わった訳だが……
「ああ。紫も無事に連れてこれたからな。
しかし、久しぶりに緊張感のある戦闘をしたもんだから疲れたな……」
藍と共に居間から風呂場に向かって移動しながら今回のことを振り返ってみるが、ここまで緊張感のある戦闘は久しぶりだったかもしれん……能力の活用云々はともかく、普段の戦闘方法である素手で押されてしまっていてはまずいかもしれない。
俺の能力は相手を選ぶ。今回はよかったが、素手での格闘で負けなしになるくらいの強さがあった方がいい。
今度葵あたりと真剣に組み手でもするか。風見とやってもいいんだが……まあ、おいおい考えるとするか。
「ふう……癒されるな」
今俺がつかっているのは四,五人は楽々入れる大風呂。この国では蒸し風呂が主流のようだが、俺は温水浴の方が気に入っているので羅馬の浴場に近いものになっている。
足先までぐっと伸ばせば滞っていた血の流れが解消されるようでなんとも心地よい。蒸し風呂では味わえないものだな。
そんな俺に対して右隣から面白がるような視線。
「ふっ、言動が年寄りくさくなってないか?」
横を向けば俺と同じように一糸纏わない藍が浴槽にぐでっと寄りかかっている。
いつも被っている帽子がないので狐耳があらわになっており、ときおり気持ちが良いのかひょこひょこと動いているのが可愛らしい。
「まあ実年齢は十分爺だからな。それに旅先じゃせいぜい水浴び程度しか出来なかったんだから仕方ないだろ」
「そういえば温水浴は数ヶ月ぶりになるのか。
蒸し風呂や水浴びもいいが、やっぱりこれに限るな……」
またしてもぐでっ、と擬音がつきそうな勢いで体を伸ばす藍。その表情は緩みまくっており、とても子供たちの前で見せられたものではない。
まあ俺にとっては可愛いもの以外のなにものでもないが。
耳の付け根のあたりを掻いてやれば至福の表情を浮かべてくれる。
「そういえば妹紅たちはどうしてる?」
ふと気になったことを藍に尋ねる。
あの時は家に帰るなり彩音から事情を聞いて飛び出したものだから、人里に住まいを借りてどうこうなどとしている暇がなかった。一応藍に任せてはいたが……
「妹紅たちなら大部屋で休ませているところだ。
妹紅なんかはお前が帰ってくるまで待っているとは言っていたが、慧音が説得してくれたよ。大方、家族の時間に水を差すのは悪いとでも思ったのだろうよ。
年齢で言えば慧音より妹紅の方がかなり上だが、あれでは慧音が姉のようだったよ」
その光景を思い出してかくすくすと笑う藍。
確かに慧音のほうがしっかりしている時が多いな。それでもたまに妹紅が慧音を諭す場面もあったりする。たまに、だが。
「そうか、なら今頃は葵たちも一緒になって寝ているのか。起きたらあいつら驚くぞ」
「なに、一応顔合わせはしてあるから大丈夫さ」
「……まあいいか」
二人とも生い立ちが生い立ちだ。同じ部屋に大勢で寝泊まりするというのも良い経験になるだろう。
「それで、青は今回の旅行はどうだった?」
「そうだな……」
紫の突然の話から始まり、慧音や妹紅と出会って国中を旅し、西行妖の騒動で幽々子に出会ったりして、いざ帰ってくれば月から紫を連れてきて……となかなか波乱に富んでおり、しかし充実した内容だな。
「確かに穏やかな旅行とはいかなかったが、これはこれでよかったんじゃないか?」
「ふふっ、私もそう思うよ。
ただ改めて今度こそは二人きりで旅行に行きたいな」
藍は笑顔で頷き、俺の肩に自分の頭を預けて眼を閉じている。
「そうだな、そうしよう。これからまた忙しくなるだろうから、何時になるかは分からないが、時間が出来たら必ず」
「ああ」
この後、俺たちは他愛もない話をしてから風呂を上がって皆が寝ているであろう大部屋へ。
部屋の中には弥彦と天魔を除き、家族+妹紅と慧音が横になっていた、すでに寝息をたてていた。おそらく天魔は長の仕事でまだまだ帰って来れず、弥彦は酒宴に戻ったのだろう。
天魔にはまた明日会うとしよう……
倒れ伏すように寝ている紫、おそらくスキマを抜けた瞬間に寝始めたのだろう、をとりあえずきちんと布団に寝かせてから俺と藍も床につく。
「おやすみ、藍」
「おやすみ、青」
こうして今回の短いようで長かった旅は終わりを告げたのだった。
第四十二話投稿でした。
何が書きたかったて久しぶりに他のメンバーを書きたかった(ぇ
何話ぶりだよ……
そして相変わらず省られる天魔w 実は途中まで作者も本当に忘れてたという……ごめんよ~
ちなみに青たちが寝静まったころの天魔
「ふう……次の報告は……え!? 紫殿が月に妖怪を引き連れて戦争を仕掛けにいった!?
どういうことですかこれは……ともかく家に帰って……!」
「あれ? なんでみんな揃って寝てるんですか?
紫殿だけじゃなくて父上たちまでいるし……
誤報ですかね……やれやれ仕事に戻りますか……」
「……なになに、八雲青が月まで行って八雲紫を連れ戻した……ってなにやってるんですか父上!?」
書類漬けになっていたせいでタイムリーな情報を手に入れられなかった天魔さんでしたw