四十一話
反応が怖い……
捏造万歳、外道万歳のお話です。
あと青無双、多分こんなに強い青はこれが最後……
「化ける程度の能力」
饕餮である青の能力であるが、完全な人化はともかくとして化けるということ自体はさして難易度の高いことではない。
そもそも妖怪というのは何かから化けたものがほとんどである。動物、樹木、道具などと様々な例があり、一つ一つ挙げればきりがない。
ところで妖怪が人間によるおそれから生まれたというのは周知の事実であるだろう。人間が妖怪におそれを抱かなくなったときこそが妖怪にとっての最期であり、そういった事態を避けるために紫が幻想郷を創ったのだから。おそれを多く受けている妖怪は当然力も強大であるし、逆もまた然りだ。
つまりはおそれ=妖怪の力の源であって、それがなければ妖怪に成りえないわけだ。
そしてそのおそれを具現化して妖怪へと“化ける”。
長い間生きていた狐が化け狐になるのも、長い間狐が生きたら化けて出るのだろうという人間の空想があってこそ。長い間捨て置かれた人形が恨んで妖怪に化けるというのも、長い間人形を捨て置けば恨みをもって復讐をしにくるのではないかという人間の空想があってこそ。必ずそこにはおそれを受けた存在が化けて人間の恐怖の具現である妖怪になる、という関係がある。
つまりは化けるとはおそれの具現。
そこで青の能力である。通常化けるには自分の力量、つまり自分の受けているおそれの範疇でしかできないのだが彼は違う。簡単に言えば彼は対峙する相手が他者に対して抱くおそれをも感じることができ、そのおそれを自分が化けるための力へと流用出来るのだ。彼が化けるのは相手のイメージを利用しているのだからそのイメージ通りの者であり、その者に勝てるイメージが持てなければ当然勝てない。
ゆえにこの結果だ。
「くっ!!」
「さすがの天照も父神には勝てないかな」
天照を降ろした依姫は肩で息をしており、一方伊邪那岐に化けた青は右手には天沼矛、左手には十拳剣を持っており、まだまだ余裕があるように見える。
天照が隠遁した父に対してどのような思いを抱いていたかはわからないが、彼女のおそれを使って青は伊邪那岐へと化けた。
恐れではなく畏れ、しかも畏敬の類ではあろうが、自分よりも優れた存在として伊邪那岐命を見ていたであろうことはうかがえる。
結果的に青が化けた伊邪那岐に依姫、正確には天照は勝機を見出すことが出来ずにいた。
しかし依姫にも自分が月の防衛の要であるという自負があり、ここで引き下がるわけにはいかないという思いがあった。
「まだです!」
軽く息を整えた依姫は幾度となく繰り返したように青へと吶喊する。今や彼女から放たれているのは神力による光ではなく、純粋な太陽の力である炎の渦。
天照以上の神性をもつ伊邪那岐にたいして神力争いをしても勝ち目はないと踏んだ依姫と天照の判断だ。
しかし伊邪那岐が持つのは火の神を屠った十拳の剣。青が自らに向かってくる炎に向けて剣を一閃すればやすやすと炎は切り裂かれて霧散し、開けた視界に現れた依姫に向かって天沼矛を無造作に振るう。
「きゃっ!」
単純なリーチの違いから天沼矛を刀で受けるしかなかった依姫はその衝撃に吹き飛ばされる。上手く受け身をとって体勢を整えた依姫だったが、青の方を見据えようと視線を戻すとそこに映ったのは自分に向って飛来する天沼矛。
あわてて横に転がり何とかかわし、天沼矛はわずかな差ですぐ隣に突き刺さる。
武器を手放した今こそが好機、と再び青に切りかかろうと視線をさまよわす依姫だが見当たるのは不敵に笑ってこちらを見ているスキマ妖怪だけ。
あの笑いには腹が立つが、今はもう一人の方を……と気配を探るが、伊邪那岐の気配は感じられない。そう“伊邪那岐”の気配は。
「終わりだ」
「!? なっ」
“すぐ隣”で声がしてあわてて横を向こうとするが、急激に依姫の体から力が抜けていく。
「くっ……姉…さん……」
そう呟いてから依姫の意識は暗闇へと落ちていった……
「ふう……」
かなりの使い手だったな……一歩間違えれば負けていたのは俺の方だっただろう。
「殺したの?」
おずおずといった感じでこちらによってくる紫。
「いや、霊力と体力を吸った。弾幕では吸いきれないとふんで直接触れてやったんだが、あれだけの戦闘の後にも関わらずかなりの量があったぞ。全部は無理だったが当面意識は回復しないだろうし、しても攻撃する余力はないはずだ」
いや、かなりきわどかったと言わざるを得ない。殺すつもりで戦うのならば先ほどの神の力で押し切ればよかったのだろうが、彼女を殺してしまっては俺たちが家に帰る方法がなくなってしまう。
加減できずに殺してしまうおそれがあったからこその奇襲だった。単調なぶつかり合いが続いた後だったから成功したが、いきなり仕掛けても月の兔の武器を使ったときのようにあっさりとかわされてしまっただろう。
これを機にまた鍛え直すか……
「そう……色々聞きたいことはあるけど、この後はどうするつもりなのかしら? スキマは相変わらず駄目みたいだし……」
そう言っておもむろに紫がスキマを開く。確かにスキマの向こうに見える景色は我が家なんだが……
「ほらね」
さっとスキマに入った紫が再び月面に現れた。スキマの向こうの景色は月面に変わっているな。やはりか……この娘の力だったら万事解決だったんだがな……
「やっぱり戦闘要員以外の補助員がいたみたいだな。でもまあなんとかなる。
正直気の進むやり方じゃないが……おっと、ぐずぐずしていたから次の団体が来てしまったようだな」
「あらあら」
俺たちは暢気に会話しているが、辺りにはどこからわいてきたのか大量の月の兎。
全員手にはあの武器を持っているが……
「あれだけ怯えている様子を見せられると、弱いものいじめをしている気持ちになるわね」
「ま、事実月側からみれば俺たちは最悪の侵略者だろうからな」
突然妖怪の群れを率いて戦争を起こし、鎮圧しかけたと思えば新手がやってきて指揮官格を倒す……国が国なら「いたずらすると~が来るぞ」みたいな伝えかたをされかねない気がする。
兎の怯えようが半端ではないな……あの兎震えすぎて毛抜けてないか?
「……なんか今さら罪悪感がわいてくるわね」
「それをお前が言うか……
そう言えば紫、この娘は何者だ? 指揮官格で割と地位があるのはさっきの様子から分かるが……」
「ああ、綿月依姫、月の軍事を司る綿月家姉妹の妹よ」
「ほお」
これは行幸だな。指揮官格なら上手くいくだろうとは思っていたが、軍事の最高責任者ならまず大丈夫か。
「それよりどうするの? こんなに沢山の玉兎を相手にするのは勘弁願いたいのだけれど……」
「なに、悪役なら悪役らしくいくだけさ」
紫にそう言い放って依姫を小脇に抱える。そして辺り一帯に響きわたるように話す。
「綿月依姫は預かった!
この娘の命が惜しければ手を出さずに我々が帰るのを見守れ!」
途端にざわつく月面。
「……青、あなた今素晴らしく悪役やってるわよ」
「人生何事も是経験也さ。紫の方が上手くこなすと思うがね」
「失礼ね……」
何はともあれこれで動きがあるだろう。
普通の人間の軍隊なら上官が人質になろうと強行する可能性が高いが、遥かに長い時を生きる月人にとっては一人一人の命の重みが違うはずだ。
端から要求を飲むつもりでいるか、飲む振りをして途中で行動を起こすかは分からないが、この娘の命を無視して特攻をかけてくることはないはずだ。
「紫、そろそろいいはずだ。スキマを開いてみてくれ……ただし幻想郷から離れた場所にな」
依姫を倒してから玉兎が来るまでの早さを考えると、何か遠見を行える技術でもあるはずだ。さっきの俺の要求もすぐに伝わっているだろう。
「開いたわよ」
さっきと同じようにスキマの向こうには地上の景色が広がっているが……
さて念には念を入れるか……紫の耳元に口をやって声が漏れないように注意しながら話す。
「いいか、とりあえず向こうに着いたらこのスキマを閉じて、改めて幻想郷に向かうぞ。
相手もおそらく空間系か概念に働きかける能力を使う。下手をして幻想郷の居場所を嗅ぎ付けられたら色々と厄介だからな」
今回の戦いで八意永琳に化けたときに分かったこともあるが……まあ彼女らが大人しくしているなら大丈夫だろう。
「ええ、分かってるわ」
「よし、じゃあ行くか」
ゆっくりと小脇に抱えていた依姫をおろす。
そして依姫の周り中に弾幕を配置する。今は空中で停止しているが、俺の合図一つで依姫に弾幕が殺到する。
月側もこれを無視出来ないだろう。
「外道ここに極まれり、ね」
「殺すつもりはないんだ、これくらいは許されるだろうさ。大体原因はお前だろうに……」
「それはそうだけど……」
とりあえずまだぶつぶつ言っている紫の首根っこを引っ付かんで「きゃっ!」スキマへと放りなげる
「きゃあああっ!」
ずいぶんと可愛らしい悲鳴をあげることで……
「いきなり何するのよ、全く……」
ひょこっとスキマから頭だけ出して文句を言う紫だが、その辺の愚痴は後で聞くことにして今はスキマへと潜り込む。
「それではさようならだ、月人の諸君」
依姫の周りに展開していた弾幕が消えたのはスキマが完全に消えたあと。
そして彼らが月面に戻ることはなかった。
第四十一話投稿でした。
今回は爆弾しかないな(笑)
まあ設定についてはあまりとやかく言いません。頭の中の考えが上手く文字に出来なかった、つまり私の表現力不足なんで……
ちなみに青無双してますが、前書きにある通り多分最後(汗)
他者を尊敬するだとか、恐れるとかは幻想郷の連中、特にラスボス級はしませんから。まあボスにたどり着くまでは楽かもしれませんが、そもそもの基礎能力が青は高いのであまり化けても……
まあ次に本領発揮するのは……もしかしたら最後のほうかも(汗)
あと青が卑怯ですが、状況が状況なので合理的にいきました。
何しろ彼の能力と相性がいいのは奇襲とかの類いですから……
そして紫、てめえはメインヒロインの座を奪うつもりか!
さて今回ばっかりは感想がこわいな……