表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方饕餮記  作者: 待ち人
42/51

三十九話

微妙にスランプ


かなり難産だった……

満天の星空、僅かに欠けた月。縁側で酒の入った朱色の杯を手に持って月見酒。


本当ならこの季節の酒の肴は桜なのかもしれないけど、目に入るのは枯れた西行妖。さっきの一件で花見酒なんて気分じゃない。


なにより今の私の最大の関心時は月。あの欠けた月が満月になるとき―――



「紫~、なにしているの?」


「幽々子……」


突然後ろからかかった間延びした声がかかり振り向けば、ふわふわと浮遊しながらこちらにやって来る幽々子。

ちゃっかりお酒とおつまみを持っている。


そう言えばさっきも凄い量を食べてたわね。幽霊になると大食らいになるのかしら?

……いや、ないわね。真面目に考証しようとした私が馬鹿だったわ。


「幽々子も晩酌かしら?」


「紫が一人で飲んでいるのが見えたからおつまみ持ってきたのよ。私のお酒はついで」


そう言って私の隣に腰を降ろす幽々子。

お酒を飲んではつまみを口に運んでにこにこしている。正直ここまで生前と変わると戸惑うけれど、不思議と幽々子は幽々子のままだと断言できる。


私には幻想郷という大きな夢がある。

今でこそ形になりつつあるけど、数千年前は夢物語に等しかった。実際数えきれないほどの妖怪に説き、そのほとんどに一笑に付された。そうでない奴らは頭がいい反面、妖怪としての体裁を気にして動こうとはしなかった。


そんな時にあったのが青と藍の二人。彼らがいたから私は頑張ってこれた。

理解されなくても、なんて思ってた時期もあったけど誰だって理解者がいた方が気が楽なのだ。


そういう点では幽々子も同じ。初めて人間で私に賛同してくれた。

もっとも、妖怪となら仲良くできるという思いもあったんでしょうけど。


とにかくまずは幽々子について済まさなければいけない。青たちにはああ言ったけど相手は閻魔、嘘などつこうものならすぐさまバレてしまう。

幸い今回は無理に嘘をつく必要はないけれど、余計な推測を与えないようにしなければいけない。


そしてそれが終わったら―――


「紫大丈夫? なんだか怖い顔してしてるわよ?」


幽々子の一言でふっと思考を中断する。

視界一面に広がるのは幽々子の顔。どうやら考えこみすぎていた私を心配してか、幽々子が私の顔を覗きこんでいたようだ。


「……大丈夫、なんでもないわ」


そう言って幽々子の顔を軽く押しやり、杯を口へと運んで仰ぐ。

杯に収まる月を飲み干すように……







「青……」


ぼんやりと月を眺めていたら藍に声をかけられた。


紫と別れた後、妹紅たちと合流して俺たちは今宿場の部屋にいる。辺りはすっかり闇に包まれて妹紅と慧音はぐっすりと就寝中。

よほど昼間はしゃいだのか。妹紅だけでなく慧音も一緒に行かしたから店で門前払いをくらうこともなかったみたいだし、慧音も慧音で本音は市に興味があったに違いない。


そして二人が寝静まったあたりで藍と酒を飲み交わしていた。

明かり取りからちょうど月が見えることに気付き、なんとなく見ていたのだが……

放って置いたからか心なし藍の頬が膨れている。


「私を無視とは、いい度胸だな……ヒック」


あー、これは大分酔ってるな。あまり量は飲んでなかったんだが……


「すまんすまん、ちょっと月を見ていたんだ」


「ふん」


そっぽを向いて鼻をならす藍に思わず苦笑してしまう。

ちょっと面倒ではあるのだが、普段の藍はこんなに自己主張はしないからこれはこれで愛おしいと思ってしまう。


「ごめんってば。よっと」


「きゃっ!」


とりあえず機嫌とりのために杯を置いて藍を抱きかかえ、そのままくるっと回して胡座をかいた足の上にのせる。

今は尻尾は隠しているから尻尾の海に溺れることはないが、逆に藍の背から体温が伝わってきて心地よい。


「いきなり、何をするんだ……」


「まあまあ、ほら一杯どうだ?」


杯を持ち直して酒を注ぎ、いまだに拗ねている藍の口元に運んですすめる。


「むぅ……」


納得のいかないような呟きを漏らしていたが、なんだかんだで俺の手に自分の手を添えて杯を傾けて酒を飲み出した。


あとは藍が酒を飲み干したらすかさず充填。この繰り返しで藍は段々機嫌が良くなり、しばらくすると幸せそうな顔で眠ってしまった。


普段の凛とした雰囲気はそこにはなく、無防備な彼女に笑みがこぼれる。


この後俺は藍の寝顔を肴に明け方近くになるまで酒を飲んだ。

花や月なんかよりもよっぽどいい肴だったと言っておこう。





翌朝、俺たちは命蓮寺という寺に向かっていた。

原因は慧音が都で聞いた話。曰く「妖怪に密通する僧侶がいる寺がある」と。


気になった慧音が詳しく話を聞いてみれば、その僧侶の名を聖白蓮といい徳をつんだ慈悲深い僧侶だと評判だったらしい。

ところがある日寺に侵入する妖怪を付近の住民が発見。すわ聖様の危機だとつけてみれば、なんと寺の中ではその聖が妖怪を治療していたのを見つけたらしい。


慌てて帰ったその住民は周りの人間にこれを話し、ついにはこれを退治すべしと陰陽師たちまで集まりだしているとのこと。


正直その聖という僧侶が何を考えていることがわからないが、考えられる可能性はいくつかある。

聖が妖怪となんらかの取り引きをしている可能性もあるし、純粋に種族の隔てなしに救おうとしているのかもしれない。


ただ一つ分かっていること。それは彼女がすでに陰陽師たちに抗う気がないということ。


おかしいと思ったのは住民が慌てて逃げたくだりだ。普通の人間が慌てて逃げたのであれば、聖はともかく治療を受けていた妖怪は間違いなく気づいたはず。その妖怪は自分で命蓮寺に行けたのだから、周りに気を配れないにしても慌てている人間の気配くらいは分かるだろう。


聖が敵視されるようになるのは分かりきっているのにも関わらず住民を殺さず見逃したということは、陰陽師たちに封印、あるいは殺されることも覚悟の上なのかもしれない。


実際に会って人となりを見てみなければなんとも言えないが、話次第では俺は聖を幻想郷に誘ってもいいと考えている。

彼女が何を思って妖怪を助けるのか。是非一度聞いてみたい。






「さてこれが命蓮寺らしいが……」


「「「……」」」


歩き続けた俺たちの前に現れた命蓮寺は明らかに普通ではなかった。

別に瘴気が漂っているとかいうことではなく、具体的に言えば山門は焼け落ち、寺のあちこちが壊れていたり水浸しだったり。


「少し遅かったか……」


取り敢えず中に誰かいないか探すために皆で寺に入っていく。

入ってみて気づいたが、外はあれほど荒れていたのに寺の中はほとんど荒れていない。


「だれだ!?」


うろうろと中を見ていたら、黄色と黒色の混じった髪の女性、というか妖怪が現れた。


「ここの聖という僧侶に会いにきたのだが……」


「聖に? 聖なら封印された……この上寺まで荒らすと言うなら私が相手になってやる!」


おお、中々の妖気だな。


「ちょっ、師匠! なんか誤解されてますよ?」


「うるさい! 人間なんか……あれ妖気?

え、でも霊力も……」


おっと、妖気を隠したままだったか。とりあえず一度変化をし直して妖気を出す。


「よ、妖怪?」


「この子、慧音は霊力持ちだが半獸だ」


「じゃ、じゃあ皆さん人間じゃないってことですか?」


「そうだ」


「一応私人間なんだけどなぁ……」


話がややこしくなるので妹紅の呟きは今はおいておこう。



「じゃ、じゃあどうしてここへ?」


「妖怪を助ける僧侶がいると聞いて一度話を聞いてみようと思って来たのだが……」


「外の様子を見てきたが、やはり陰陽師が来たのか?」


「はい……でも聖は抵抗しなくって……他の皆と一緒に封印されて……私は何も出来なくて……」


やはり聖は抵抗しなかったのか。

一体何がそこまで彼女を突き動かしたのだろう……


「そうか……聖はどうして妖怪を助けていたんだ?」


「聖は人も神も妖怪も平等であるべきという考えでした。だから妖怪であれ人間であれ困っていれば手を差しのべていたんです。同じ平等に生まれたもの同士、手と手を取り合えると信じて……」


なるほど……

俺たちの理想とする人間と妖怪の関係とは逆、退治する側と退治される側、食う側と食われる側という関係ではなく対等な立場での共存。


正直聖の理想に頷くことはできない。目指してきたものが違いすぎる。


それでも自らの全てを失うことも覚悟の上で信念を貫いたというのは、そこら辺にいる理想主義者との圧倒的な違いだろう。

一度腹を割って話してみたかったな……


「そうか……一度直に話してみたかったんだが……

聖はどこに封印されたんだ?」


「魔界のどこかに封印されたはずです」


魔界と言えば確か紫が話していたな。神綺とかいう魔界の神が統治している世界。

今度紫に魔界について詳しく聞いてみるか。


「わかった、色々ありがとう。君の名前は?」


「寅丸星です。毘沙門天様の代理で信仰集めをしています」


「俺は八雲青、こっちは妻の藍だ。でこの子は藤原妹紅で、隣にいるのが上白沢慧音。

生憎旅の途中だから何が出来るという訳ではないが、困ったら幻想郷という場所を尋ねてくるといい。俺たちはそこに住んでる。

あと聖の封印が解けたら教えてくれ、一度話してみたいからな」


「……わかりました」






あの後軽い雑談をして命蓮寺を後にした。寅丸によれば他にもナズーリンというものがいるそうだが、ちょうど留守にしていたらしい。


結局聖とは会うことは出来なかったが、それは仕方ない。

俺自身が魔界まで行って封印を解くのもいいが、情報が少なくて何が起きるかわからない上に封印が解ける保証もない。

あまり危険を冒して藍たちをまた心配させるのは嫌だしな。



「さて、じゃあ家に帰るとするか」


「やっとか……まあ旅もためになったから特に文句はないな」


「私は旅慣れてるから気にしないよ。強くなれたしね」


「帰りに諏訪子たちのところにも寄っていこうか。最近会ってないからな」


俺の帰宅発言で妹紅たちがわいわいと喋り始める。

葵や彩音、子供たちは元気にしているだろうか?

藍の式で何日かおきに家の様子は伝わってくるが、やはりちゃんと直に会って確認したいものだ……




このとき俺はまだ幻想郷で何が起こっているのか知らなかった。


第三十九話投稿でした。



命蓮寺組……白蓮はかなり好きなキャラクターなんですが話がややこしくなるんで封印済に。

ナズーリンは……ごめんよ;


ちなみにナズーリンは嫌いじゃないよ? ニコニコの某MADでくらっときた……


とりあえずフラグっぽいものを立てたので星蓮は多分原作通りにはなりません。




前回でとうとう感想がこなくなった……

だが私はくじけぬ……



しかし感想は欲しい(殴

感想待ってまーす。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ