三十八話
この辺りは原作なぞりだからちょっとつまらないっす。
「先ほどは取り乱してしまい申し訳ないです」
目の前には湯気をたてるお茶、そしてそれを差し出したのは先ほどの銀髪の少年。
今俺たちは西行寺の屋敷に上がっている。庭にはあの異様な力を納め、花を完全に散らした西行妖。
そして俺たちのいる部屋には今回の関係者が勢揃いしていた。
俺、藍、紫、銀髪の少年、そして西行寺幽々子。
彼女は未だ意識を失ってはいるが確かに“存在”している。“存在”と言って“生きている”と言わなかったのには理由がある。
彼女は霊体になっていた。
確かに彼女という個はそこに存在し、触れることさえ出来るのだが……
「とりあえず紫、今度こそ説明してくれるよな」
「ええ……少し長い話になるけれど――」
そこで紫から聞いた内容。
まず紫と幽々子は友達、いや親友と言っていい間柄だったらしい。
たまたま西行妖の妖気につられて紫はここを訪れたらしいのだが、そこで庭師の魂魄妖忌、先ほどの銀髪の少年だ、以外とは誰とも関わらおうとせずに暮らす幽々子に出会ったらしい。
魂魄少年は半霊であり彼女の能力の影響を受けにくいために側にいられたが、人間はおろか並の妖怪では彼女の側では長く生きられなかったからだ。
ところが紫は並の妖怪ではない。紫にかかれば幽々子の能力の影響を遮断するのはお手のものだったろう。
幽々子は自分の能力に影響されない知り合いを手に入れて喜んだ。
紫はもしかしたら初めは打算があって幽々子に近づいたのかもしれないが、幽々子と何回か話している内に親しみを覚えたらしい。
人間と妖怪、どちらも異常の中の異常の力を持った者たちだったが、だからこそだったのだろう。
ところがそんな日々に終止符を打つ出来事が起こる。
西行妖の暴走だ。
結果、誰よりも西行妖に長く接し、誰よりも死に近しい幽々子は西行妖の妖気にあてられ自刃した。
紫が言うにはその能力故に自分の生を疎んでいたらしいが、そう言った心理的な要因もあったのだろう。
そして紫の行った封印、それは幽々子の体を西行妖にくくりつけるようにして行われた。よって彼女は西行妖に縛られ、成仏も出来ずに輪廻から外れて亡霊となった、という訳だ。
「……紫、なぜ彼女を亡霊に? お前ならこうなるのはわかっていたのだろ?」
「それは幽々子は輪廻から外れないことには救われないからよ。いつどこに彼女が転生するかは分からない、けどおそらく彼女は同じような能力を持って転生するでしょうね。
そうすればまた幽々子は自分の能力に苦められてしまう……
ならば私のように対等な存在が側にいた方がいい。
幽々子は……やっぱり人として生きてはいけなかったのよ……」
悲痛な表情の紫を見て藍も押し黙る。自分の手で親友を人でなくしたということ。それが幽々子にとって最良の選択であるとしても、紫は罪悪感を感じるのだろう。
おそらく紫は幽々子に確認などとっていない。『あなたが死んだら亡霊にするわ』などと生きている人間には言えないだろう。いや、幽々子の生前を聞く限りでは違うかもしれないが、紫の様子からやはり確認していないだろうことが感じられる。
更に言えば、これが自分の幽々子に対する身勝手な思いなのではないかという悩み。これが紫の苦悩に拍車をかけているのだろう。
目を覚ました幽々子に罵られるのでは、と。
元々紫は他者との関係には一本線を引く。彼女の胡散臭い仕草などはその一線を維持するための手段だ。だから線の外側の存在が離れていっても大して気にしない。
だが一度線の内側に入った存在が離れていくのには酷く敏感だ。怯えているといってもいいくらいに。
「…ぅん……」
「っ!」
「あら、私は……」
そうこうしている内に幽々子の目が覚めた。辺りを見回しては首を傾げている。
紫は彼女がどう出るかを想像して強張っているようだ。
おずおずと言った感じで彼女に話しかける。
「幽々子……その……」
「?」
そんな紫を見て再び首を傾げる幽々子。しかし、反応が薄くないか?
話によれば自刃したようだから、生きていれば何かしらの反応があると思うのだが……
「どちら様?」
「……っ」
続く幽々子の言葉で再び場に沈黙が訪れた。
幽々子は紫のことを覚えていない。心配になって紫を見ると、ある程度予想していたのか思っていたより衝撃を受けてはいないようだ。それでも顔色は悪いが。
「私は八雲紫。幽々子、あなたは何か覚えていることはあるかしら?」
「うーん……さっぱり思い出せないわ。もしかして八雲さん?は知り合いだったのかしら?」
「幽々子様! 私のこともお忘れか!? 魂魄妖忌です!」
「ごめんなさい、分からないわ」
「そんな……」
どうやら幽々子は生前の記憶もなくしているようだ。
しかし、考えようによっては暗い生前との決別が出来たということで、彼女が新たな霊生(?)をおくるならば良かったのかもしれない。
紫や妖忌と言った生前の知人には酷かもしれないが……
紫と妖忌の表情は曇り、辺りには重い空気が漂う。
「紫……妖忌……うーん、やっぱりだめねえ。
でもなんとなく懐かしい気がするのよねえ……」
しかし幽々子の言葉を聞いて二人は表情を変えた。
まあ当然か。これで間違いなく幽々子は幽々子のままであり、彼女とのつながりが微かながらに残っていることが分かったのだから。
「そう……ねえ幽々子、私たち友達にならない?」
「友達?」
「そう、あなたは覚えてないかもしれないけど、もう一度最初から友達をやるのもいいんじゃないかしら?」
「そうなの?
じゃあ私たちは今から友達ね! 何だかわくわくするわぁ」
「ふふっ、そうね」
「わ、私は幽々子様にお仕えします!」
何故だか友達と聞いて目を輝かせて喜ぶ幽々子を見てやって紫の表情も和らぐ。
この辺りは生前の影響がまだ出ているのだろう。
しかし彼女の性格は聞いていたものとは変わったようだ。記憶が消えたせいだと思うが、ほわほわとした柔らかな雰囲気を出している。
この後妖忌が幽々子に仕えることが改めて決まったり紫が幽々子に現状の説明をしたりしたが、幽々子は終始慌てることなく『んー、じゃあとりあえずご飯よろしくー』とか『私幽霊なの? わっ、すごーい! 私浮いてるわぁ』などと、周りの緊張など意に介さず振る舞っていた。
まあおかげで重苦しい雰囲気は完全に取り払われたが。
そんなことを考えていたら、さっきまではしゃいでいた幽々子がこちらを向いていた。
「そう言えばあなたたちはやっぱり知り合いだったのかしら?」
そう言って何やら期待に満ちた目で尋ねてくる幽々子。
「いや、そういう訳ではないが……」
「そうなの? 残念ねえ、友達が増えたかと思ったのに……」
あからさまに肩を落として落ち込む幽々子を見て、俺と藍は思わずふっと笑ってしまった。
これではどう見ても先ほどまで自殺志願者だったとは思えない。
「なに、今から友達になればいいだろう、なあ青」
「ああ、幽々子さえ良ければな」
「本当? 嬉しいわ~」
俺たちの言葉を聞いて持ち直した幽々子は笑顔になり、そのまま『妖忌~、ご飯まだ~?』と言いながらふよふよどこかへ行ってしまった。
なぜさっき会ったばかりの人物をそこまでスムーズにこき使える……
彼女の後ろ姿を見送った俺は紫に向き直る。
「さて、紫。こんな時に言うのもなんだが幽々子をどうするんだ。
閻魔達に何を言われるか分からないぞ?」
そう、輪廻から外れた存在など正直閻魔達にとっては目障り以外の何ものでもない。輪廻を乱すというのは彼らにとって重大な業務妨害、幽々子だけでなく実行犯の紫まで何をされるかわかったものじゃない。
「考えがなかった訳じゃないわ。幽々子が幽々子として亡霊になるなら当然生前の能力も引き継がれるはず。彼女には『死霊を操る程度の能力』という能力もあったし、それを閻魔達に売り込むつもりよ。彼らは何時だって人手不足だし悪い話じゃないはず」
ふむ、紫の口振りだと閻魔に知り合いでもいるのかな? とにかく人手不足だと言うのが本当なら上手くいくかもしれないな。
「しかし、本当に大丈夫なのか?」
思考に耽っていると藍が不安そうな顔で紫に尋ねていた。
まあ如何に紫でも相手が相手だからな……
こんな場所で数千年来の友はなくしたくないのは藍も俺も同じだ。
「大丈夫よ。私の最大の武器は妖力でも能力でもなく“これ”なのよ」
そう言って自分の口を指差して、ふふんと笑う紫。
……まあそうなんだろうが、正直胡散臭いぞ、その仕草。
「そうか、まあ紫の胡散臭さは私と青のお墨付きだからな。上手く交渉してきてくれ」
「……複雑だけど頑張るわ」
藍も切り替えたのか紫をからかうことにしたようだ。
何か紫も言いたそうな表情をしていたが反論できないと思ったのか渋々頷いていた。
自業自得だろうに……
「それじゃあ俺たちはそろそろ行く。妹紅たちとの待ち合わせに遅れたくないしな」
「そう言えば連れがいたわね。なに、また娘でも捕まえてきたの?」
「またとはなんだ、またとは。天魔だけだろうそれは」
「はいはい、また今度聞かせて頂戴」
紫の言葉に思わず文句を言ったが、明らかに聞く気のない紫によってスキマに押し出されてしまった。
……というより自分で歩けるから背中を押すな!
「それじゃあね。今度は幽々子たちも入れて皆で花見でもしましょう」
「花見か……そうだな楽しみにしておこう」
そのまま俺たちはスキマをくぐり西行寺邸を後にした。
「そう、皆で……」
賢者の呟きを拾うことが出来た者は居なかった。
第三十八話投稿でした。
なんだか久しぶりですいません; この辺りは割と設定もごちゃごちゃしてるのでどうするか悩んでたらこんなに遅く……
まあこれからも更新は続けますんでご容赦をm(_ _)m
今回は……特になし(ぇ
感想待ってまーす。