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東方饕餮記  作者: 待ち人
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三話

旅立ちの巻

  視界いっぱいに広がる草原を並んで歩く影が二つ。

 饕餮になった元人間の青と九尾狐の藍である。彼らの出会いからおよそ二年経っている。

 なぜこうなったかというと………




 あの会話の後、ゆっくりと話すために二人は休める場所を探して岩山に出来た洞窟の中にいた。

 中は存外綺麗であまり湿気もなかったので藍の狐火で火をおこして二人は腰をおろして様々なことを語り合った。


 藍は恋人や友人といった人と人とのつながりがどういうものでどんな気持ちなのかと青に質問した。

 生憎浮いた話の一つもなかった青には恋人の関係がどういうものかは話せなかったが、友人が人にとって大事な存在の一つであることを実体験を交えながら説明した。

 ちなみにその時友人を思ってなのか、青の眼の端に光るものがあったが藍はそれには触れないでおいた。


 一通り話した後は青が妖怪について質問する番だった。

 まず驚いたのは妖怪の情報網だった。これも利益関係によるものではあるが、情報の伝達速度やその対象の広さなどはこの時代の人とは比べ物にならなかった。

 妖怪はある程度力があれば空を飛べるし根なし草が多いので、当然といえば当然だが。

 その情報網からの情報で一番青の興味を誘ったのは大陸、彼には分からないが正確には東アジア以外の地域にも人が住んでいると言うことだ。

 例えば砂漠を西へと越えて向かえば真っ白な人間が四方を水に囲まれた大地で繁栄を極めている。

更にそこから南へと向かえば目を疑うほど巨大な石造りの王の墓がある、などなど。


 どれもこれも情報がなかなか伝達しないこの時代においては初めて聞くことばかりであり、大陸一周が終わったあとにどうしようか考えていた青にとっては非常に興味深い話だった。


 妖力については藍の講義があったが、半年である程度のこつを掴んだ上、難易度の高い人などへの変化は能力の特性上、青には造作もないことだった。

 それでも空を飛べるようになったので青は藍に感謝していた。


 そうしているうちにお互いにある程度話したのか段々と言葉少なになり、ついにはパチパチと焚き火の音だけが響く。


「さて藍、知りたいことは他にはないか?」


「そうですね…今聞くようなことはないですね。」


「そうか、俺も妖力の扱いについて聞けて良かったよ。やはり年季がちがうな」


「えぇ、まあ…それにしても女性に随分と失礼じゃないですか?」


「………妖獣にも年の話題は禁句だったのかね?」


「いえ、人間がやっていたので真似してみましたが、とてもしっくりきました」


「……そうか、藍なら人と暮らしてもすぐに順応できそうだな」


「フフッ、誉め言葉として受け取っておきますね」


「…まぁ、それはともかく今回一番の収穫は藍がくれた情報、特に大陸の外の世界の情報は興味をそそるものだったな。この大陸一周もそう長くはかからないだろうし、そうなると次の目的が欲しかったが、ちょうど良くこの情報が手に入った。大陸を周り終えたら今度は砂漠を越えて西に向かうか」


「そうですか…私はどうしましょうか。このまま前のように都で人間観察をしていてもいいんですけど…」


 何かを思案するかのように考えこむ藍。

 ちなみに青はまだ見ぬ地に思いを馳せているので藍の様子に気づいていない。

 たった半年の妖怪生活だったが今まで仕事人間の堅物だった青の性格を順調に改変しているようだ。


「…よし決めました、青さん!」


「ん?あぁすまん、どうした?」


「私も貴方と一緒に旅がしたいのですが付いていっていいですか?」


「……すまん、どうしてそうなった?」


「あなたが西方に行くというので他の地の人間というのも見てみたいですし、せっかく名前までつけたのにすぐに別れるのも嫌ですから」


 そういって微笑む藍。


 青にしても一人旅を半年続けていると存外寂しいものであったし、藍との会話も楽しかったので結局は承諾した。


「じゃあこれからよろしくな、藍」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」





 このようなやりとりを経て二人は共に旅をしている。

 そして今二人は大陸一周を終えて再び西方へと向かっていた。


「とうとうだな、青」


「そうだな」


 草原を抜けて徐々に荒れた景色へと変わるなか、とうとう目の前に広大な砂漠が現れる。

 どこまでも続く砂、砂、砂の大地。


 ちなみに藍の敬語は青がやめさせた。そしたらいつの間にか青とそっくりの口調になっていた。本人曰くとてもしっくりくるそうだ。

 

「さて、どうやって砂漠を越えていこうか」


「飛んでいけば大丈夫じゃないか?」


「いや、情報によると砂嵐とかいうのが頻繁に起こるらしい。きちんと準備して越えないと砂まみれになってしまうぞ」


「……砂まみれですむのだからつくづく人間ではないな」


「まぁ風で飛ばされるかもしれないが。それに何を今さらなことを言ってるんだ、もう二年半たつんだろ?」


「いや、別に現実逃避しているわけではないから大丈夫だ。ちなみに対策はしてあるのか?」


「あぁ、もちろんだ。いざとなったら青が竜なりなんなり重みのあるのに化けてくれれば無問題さ」


「……まぁ別にいいけど俺の能力をあまり便利道具のように扱わないでくれ。これでも一応天下の大妖怪なのだが」


「いいじゃないか、助け合いは大事だぞ」


「藍には人間の話をしなかったほうがよかったかもしれないな…」


「フフッ、まぁ青が困ったら私が全力で助けるさ」


 ここ二年の旅で藍は随分と人間くさくなっていた。

 原因は青との会話にあるだろうが。

 藍にとっては青が初めての本当の意味での仲間であり友であるという認識だ。青は特に利益がなくても藍に話を聞かせてくれたり食料を分けてくれたりしてくれた。藍に初めて利害関係抜きに一緒にいたいと思わせた。

 青も青でこの二年ですっかり馴染んだ同伴者に少なからぬ親近感を持っている。結局お互いがお互いを思ういい関係になっているのだ。


「……まぁその時はな」


「あぁ、あと気温が激しく変動するみたいだな。私達なら特に問題はないとおもうが」


「そうか。食料は残念ながらないからしばらく抜きだな。砂漠に妖怪がいれば喰えるんだが…」


「それは青だけだろう。抜け駆けはずるいぞ」


 実は半年程前に弱る一方の妖力対策に、藍のすすめもあって青はとうとう妖怪を食べたのだ。

 味の感想は『……癖になりそうだからもう喰わん』。美味すぎて禁断症状が出そうなので、逆に喰うわけにはいかなくなった。

 それでも妖力対策で数ヶ月に一度はなるべく人に大きな被害を与える妖怪を狙っては食べている。ちなみに妖怪より人間は美味いらしいので、絶対に人間は食べないと決意を新たにしたらしい。


「まぁいるとも限らないのだからその辺は見つけてからいいだろ?

ともかくとりあえずの準備は出来てるようだな」


「あぁ、大丈夫だぞ」


「よし!じゃあ行こうか、藍」


「あぁ」


 その言葉とともに砂漠へと二人は踏み出し、そして先へと歩き出す。あとに残るのは彼らの足跡のみ。それすらも一陣の突風で消されていく。



 こうして二人は大陸を後にしたのだった。


第三話投稿です。


二人には西へと向かってもらいました。

5~6話は向こうが舞台になります。

だれこれ藍様な気がしますが許して下さい。

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