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東方饕餮記  作者: 待ち人
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三十五話

ドーマンセーマンの巻




後書きはオマケつきです。

妹紅と慧音と出会ってから二月ほどがたった。

あれから二人を引き連れてしばらく旅をしている訳だが、妹紅はともかく慧音も旅に順応して多少は楽しんでいる節がある。まあたまに藍と話していると妹紅と一緒に辟易した顔をするが、あれは何だろうか?

聞いても教えてくれないので少し不安だ。


あれから分かったのだが、慧音の霊力や身体能力は格段に上がったが満月の夜を除いて人間と変わりないみたいだ。満月の夜にはハクタク化するようだが体中に角やら目が現れたりはしなかったので慧音は心底安堵していた。

気持ちは分かるが先祖に失礼だろ……


妹紅への陰陽道の指導も平行して行っている。


陰陽道とはそもそも俺の出身の夏王朝から始まった思想なのだが、こちらにそれが渡ってきた時に五行思想以外にも神道などと混じりあったためになかなか面白い発展をとげている。

どうもこちらでは妖怪退治より占星術などの方に力を入れているようで、そっちの方面では俺も舌を巻くようなことがある。

俺の時代は魑魅魍魎がそこら中を闊歩していたから、まず必要なのはそれらを退治する力だった。

その点をおさえて今の陰陽道の在り方を考えると、政治との繋がりが強くなったのもあるだろうがやはり妖怪の力が徐々に下がってきているということなのだろう。こうして旅をしていても妖怪より物盗りに出くわすことのが多いからな。

まあ言っているのが俺では説得力がない気がするが。


とにかく妹紅は着々と実力を伸ばしつつある。特に火の気との相性がいいようで、自身が蓬莱人であることと合わさっていい感じだ。

ちなみに妹紅の過去については旅を始めて一ヶ月程で向こうから教えてくれた。岩傘を突き落とした下りを話した時には俺たちに、特に立場上慧音になんと言われるかと身を縮めていたが、慧音の言葉で救われたようだ。

曰く、『確かに妹紅のした事は罰を受けて然るべきなのかもしれない。なら三百年の孤独がその罰だったのだろうよ。

だから…もういいんじゃないか?』だそうだ。


まあ俺もそう思う。これからも妹紅は永遠と生きていくわけで、必ずそこには別れと孤独がついて回る。妖怪である俺たちも不老に近いが不死ではない。

だからその上自分を責めることまでしなくてもいいと思うわけだ。


結局この件は慧音の言葉に泣き出した妹紅を俺と藍で抱きしめながら慰めてやっておしまいとなった。みっともなく泣いたと思ったのか妹紅は顔を真っ赤にしていたが、その表情が少女の見た目相応でひどく庇護欲を掻き立てられてしまった。


それ以降は大分態度も柔らかくなってきて、陰陽道の指導の時以外の会話も大分増えてきた。どうにも俺や藍と話していると父や母を思い出すらしい。見た目のせいで迫害されてきたのと三百歳という年のせいで目上の者に優しくされたことは久しくなかったみたいだからだろうか。

まあ妹紅にも目的があるらしいしとりあえずは一緒にいる間はそう思って接していいぞ、と言うとやはり喜んでいた。


ちなみにちょっと聞いてみたら慧音は姉や妹と言うより親友らしい。まあそれが普通か。


旅自体も伊勢の藍が四国の辺りで狸爺と一触即発になったりと色々あったが概ね充実したものだった。

狸爺は八百八狸なんて呼ばれていたが、藍とは出会い頭ににらみ合いになるもんだから焦ってしまった。

まあ最終的には酒を酌み交わすほどに仲良くなったが。



そんなことがあって今は西の方を回り終えて都の辺りまで戻ってきたところだ。

あいも変わらず都の外はひどい有り様だ。死体が放棄され夜には追い剥ぎが横行する。


そんな状況に顔をしかめていたので藍が服の裾を引っ張っているのに気がつかなかった。


「なあ、青。なんか妙な気配がしないか?」


「ん?」


言われてみれば確かにそんな気がする。この辺りには瘴気が立ち込めているのだが、ある一帯だけはそれが薄い。まるで何かで中和したかのようになっているのだ。


「確かに。ちょっと不自然だな」


「ああ。それになんだか無性に気にかかるんだ」


「ふむ」


何やら違和感を感じる辺りを仕切りに気にしている風の藍。


「なら式を飛ばしてみたらどうだ?

いきなり行くのも危ないだろ?」


「そうだな、じゃあちょっと待っててくれ」


藍が慧音の言葉に頷き、懐から式用の紙を一枚取り出す。

自分の意思を持った高度な式を作る場合には橙のようにさらに式の原型となる媒体が必要だが、偵察用のものならそれも必要ない。


その紙を藍は子狐の姿にすると偵察をしてくるように指示を出して放つ。



しばらくして子狐は無事に帰ってきた。藍はその子狐の報告を黙って聞いていたが途中で驚いた顔をすると得心がいったと言った感じの顔つきになった。


「何か分かったのか?」


「ああ、どうやら私の同族がいるようだ。誘われたようだしちょっと顔を出しても構わないか?」


「ほお、俺は構わないぞ。慧音と妹紅はどうする?」



藍と同族、つまりは化け狐の類いなんだろうか?一応二人にも確認をとる。


「私もいいよ。どうせ師匠たちと一緒なら大丈夫だろうし」


「私も」


「よし、じゃあ早速向かうとするか」








「母上に何のようだ……」


今俺たちの目の前には一人の男が立ち塞がっている。年のほどは二十歳に届くか届かないかか。手には陰陽師が使う呪符があり、あからさまな敵意を向けてくる。

慧音と妹紅はおろおろしているし藍は困ったような顔をしている。

なぜこのような事になったかというと―――






「ここか……」


藍の式の先導でたどり着いたのは都から少し離れた場所に立つ、小屋とでも言うような大きさの家。


「何が瘴気を和らげているのかと思ったら、微かに神気を感じるな」


「神気? だ、大丈夫なの?」


「多分大丈夫だろ。式が伝えてくれたのも好意的な感情だったからな」


「そっか……」


少しほっとした様子の妹紅。そういえば富士山の一件でコノハナサクヤヒメに殺された人達を見たせいか神様に苦手意識持ってたな。最近は俺自身が神であるから多少は慣れてきたみたいだが、まだまだ緊張してしまうみたいだ。


それにしても神気持ちの狐となると……空孤だろうか?

或いは少し前に出来た伏見大社縁の者だろうか?


そんなことを考えていたからだろうか、背後から近づく気配に気がつけなかった。


「青!」


藍の呼び掛けで我に返って後ろを振り向くと、そこには一人の男が険しい顔で立っていた。

身なりは一般的な庶民のものだがどことなく気品のようなものを感じるし、何より感じる霊力が凄まじい。下手をすると俺の妖力の量に迫っているかもしれない。


「お前たち、このような場所で何をしている?」


男の霊力の量に驚いていると向こうから声をかけてきた。


「いや、ここの住人に少し用があってな」


男の問いに藍が代表して答えると更に顔を険しくする。すると何やらぶつぶつと呟きだし、それに警戒していた俺たちの目の前で男は突然消えた。


「えっ!?」


妹紅と慧音の驚いた声が聞こえるがこれはおそらく転移術。しかも陣も張らずに単独で行うというのはかなりの技術と霊力を要するはずだ。

具体的に言えば人間では不可能なくらい。


すぐさま周りを見回してみると俺たちと小屋の間に立ち塞がるように男が立ち、手には呪符を持ってこちらを睨んでいる。


「母上に何のようだ……」




―――という一連の流れがあったのだ。


「いや、私たちはむしろ誘われた側なのだが……」


「母上がお前たちのような危険な輩を誘う訳がないだろう!」


藍の取りなすような言葉にも吠えるように叫び返す男。

しかし危険な輩とは失礼な……


「師匠、知らない人が見たら危険にしか見えないよ」


「ふむ……なんで分かった?」


「顔に書いてあったし。

それに狐の尻尾を顕現してないのがいけないんじゃないの?」


「「あっ」」


藍と二人で間抜けな声を上げてしまう。そういえば旅をするために藍は尻尾を隠したままだった。

これでは接点なしと疑われるだろう。

すぐさま藍が尻尾を顕現すると男の顔つきが変わった。


「九尾……まさか」


そこまで男が言いかけた所で後ろの小屋から女性の声らしきものがかかった。


「あら、よく来てく……晴明、貴方は何をやっているのですか」


「は、母上? い、いえこれは、その……」


「私の客人に喧嘩をうっていたのですか」


「うっ……」


声の持ち主である女性の咎めるような目線に男―――晴明はたじろぐ。





これが都で最強と謳われる陰陽師、安倍晴明とその母、葛の葉との出会いだった。

おまけ


青たちが妹紅たちを旅の仲間に加えた夜。


「藍、これを式に載せて子供たちに伝えてくれないか」


「ん? ……ふふっ、なるほど面白そうだな」


「だろ?」


どこぞの悪役のように顔を歪める二人に、密かにそれを見ていた妹紅たちは体を震わせた。




そしてあくる日の朝、場所は変わって妖怪の山。そこの麓にある家で妖怪の賢者は来る計画のため思案を巡らせていた。


(慎重にことを運ばなければ……そう言えば藍たちは上手くやってるかしら?)


ちなみに今回の白澤の件に関しては紫は関与していない。たまたま偶然が重なったために青たちは巻き込まれたのだが、それは紫にとって最大の受難を運んできた。


「ん? あら碧に橙、もう起きたのね。おはよう」


ふと紫が我に返ると目の前には碧と橙。ぴこぴこと動く耳とつぶらな瞳が大変可愛い。

そんなことを考えていた紫だったが、次の碧の一言で凍りついた。


「おはようございます、紫“おばあさん”」


「え……ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。

挨拶は大きな声でしなきゃいけないわ、もう一度してごらんなさい?」


「はい、紫“おばあさん”!おはようございます!」


より大音量で紫おばあさんと叫ぶ橙。おばさんは叔母さんと解釈出来るがおばあさんはおばあさん以外の何物でもない。

奇しくも自ら首をしめた結果になった紫は頭を抱える。

そこへ現れたのは優、その第一声は


「おはようございます、紫おばあさん」


「な……」


結局この後もおばあさん呼ばわりはしばらく続き、3日後に青と藍の指示であることが判明。

すぐさまスキマを使って殴り込みに行った。


「私が何をしたああぁぁっ!?」


彼らの和解はそれから更に3日後だった。







第三十五話投稿でした。



何だか本編は久しぶりな気が……しかも尻切れとんぼ。


オマケは……まあ忘れて下さい。かっとなっとやった。反省はしてるが後悔はしてない。



ある意味オリキャラの晴明君。まあ本当なら葛の葉は晴明が幼少時代に姿を消してしまうのですが、うちでは残留で。

ほら、某ジャンプ漫画でも都の外に残留しt(ry


力はかなりのものがありますが、若干ヘタレでマザコン。


……どーしてこうなった。


ちなみに彼らが現れたのはただ単に葛の葉つながりで出したかっただけw

だって折角藍さまいるんだし有効利用しなきゃね(ぇ



感想待ってまーす。



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