三十四話
上白沢と白澤の巻
今回はかなり捏造してます。
原作好きな方は吐き気を催す危険があるので洗面器を持ってどうぞ……
「慧音! 体の調子はどうだ? 何ともないか?」
「妹紅……いや大丈夫だが、私は……」
今俺の目の前には目を覚ました上白沢とそれを慌てて介抱する妹紅がいる。
上白沢本人は自分の体の異変には気がついていないらしいが、時間が経てば自覚するだろう。
「目が覚めたか」
「……あなたは?」
甲斐甲斐しく上白沢の世話をする妹紅を見ていると口を挟むのは気が引けるが、あの調子ではいつまで待たされるか分からない。
「私は青、隣にいるのは妻の藍だ。君は最後に見た獣のことを覚えているか?」
俺の言葉に額に手を当てて考えこむ上白沢。
「……ああ、覚えている。あの容姿は……確か白澤……」
「白澤を知っているのか?
俺たちはその白澤を追ってきたんだ。そこで倒れている君とそれを守る妹紅に会った訳だ」
「あの後私は一体……?」
「これは推定なのだが―――」
その時のことを思い出そうと再び悩み始めた上白沢に、おそらく白澤の一部が魂で混ざりあって人間ではなく半獣になっているであろうこと、それによって身体能力や霊力が上がるが権力者に狙われるであろうことを説明した。
「―――ということだ」
「そうか白澤が……」
俺の説明を聞いて何か思うところがあったのか、その後上白沢は黙りこくってしまった。
「あなたたちは妖怪だな?」
「ああ。私は見ればすぐ分かるだろうが、青も立派な妖怪だぞ」
「なぜ白澤を? 復讐でもしたいのか?」
俺たちが白澤を追っていることが疑問なのか。
確かに白澤を知る者にとってみれば、妖怪である俺たちが人間側に近しい白澤を追っていればそう思っても仕方がないか。
「いや、違うさ。私たちは白澤の力が借りたかっただけだ」
上白沢の言葉を受けて藍が苦笑しながら答える。
「力?」
「まあこれも話せば長い話になってしまうのだがな―――」
藍が幻想郷の理念、人里と妖怪の関係、そしてその維持のために白澤の力を借りられないか考えていることを説明する。
「幻想郷……なるほどそのような場所だったのか」
「ほう、幻想郷についても知っていたのか」
どうやら幻想郷についても知っているようだ。
やはり教養があり氏持ちでもあることから考えても没落貴族なのかもしれないが……
「上白沢、君と白澤は何か縁があるのか?
白澤が偶然に君を選んだとは思えない。君の姓にしろ出来すぎだ」
とにかく気になったことを聞いてみる。すると上白沢は一瞬顔をしかめたがゆっくりと口を開いた。
「……確かにある。私が元々貴族の家系であったことは姓があることからも予想できただろう」
上白沢の言葉に頷く俺と藍。妹紅もあらかじめ聞いていたのか驚いてはいない。
「しかし私の祖先は昔からこの地に住んでいた訳ではなく唐土から渡ってきたものだ。
普通は新参者が貴族になるには莫大な献上物や功をあげるなどしなければいけないが、その祖先はすぐに帝の側につけられたらしい。
何故か分かるか?」
上白沢の言葉に、今度は一同揃って黙りこくる。
どうやらこの辺りは妹紅も聞いていないのか首を傾げている。
「私の家系はな、白澤の子孫だと言われているんだ」
白澤の子孫……
「もちろん人間の血の方が濃いから寿命も身体能力も普通の人間と変わりない。
だが私たちの一族には白澤の力の一部として能力が発現する。
それは大抵統治者を補佐することに長けているようなものだったらしい。
例えば『雨を呼ぶ程度の能力』や『道を示す程度の能力』などがあったと聞いている。
これがあるがために私の祖先は取り立てられて、そこらの貴族よりよっぽど力のある家系になったんだ。
そして今から何年か前に私も能力に目覚めた」
そこで上白沢は一旦息をつき、哀しげな表情を浮かべて再び語り始める。
「私が目覚めた能力は『歴史を食べる程度の能力』。“食べる”を“消す”に言い換えても今はいいかもしれないな。
その名の通りあったはずのものすらなかったと認識させることの出来る能力。
分かるだろう、この能力の危険性が」
それは……
優れた統治者のもとで使われたのなら、無用な民衆の混乱を避けたり出来るし、能力の規模次第では飢饉や流行り病すらなかったことに出来るのかもしれない。
しかし愚昧な統治者のもとなら……
「残念ながら私の代の帝は愚昧と言わざるを得なかった。
自分の使いたいように私に能力を使うように強制し、民衆のためになるようなことになどとすることは一度もなかった。
だから私は逃げ出した。
自分だけでなく“上白沢”という一門がかつて都にいたという歴史すらも消し、この村に流れ着いたんだ」
上白沢の能力は諸刃の刃、悪用しようとすればいくらでも悪用出来る。
幸いだったのは上白沢が良心を持っていたことか。
妹紅もその話を聞いて呆気にとられている。流石にここまでは予想出来なかったようだ。
おそらく妹紅をあっさりと上白沢が受け入れたのも生い立ちが関係していたのだろう。
「都にいた頃の私にはまだ力が上手く扱えなかった。消す歴史の範囲も上手く制御出来ず、下手に使えば無関係のものまで巻き込むおそれがあったんだ。
だから無闇に力も使えず、いずれ自分を術で操られて悪用される可能性を考えたら逃げ出すしかなかった……」
「そういうことだったのか……
それなら今回のことの説明は多少はつくな。何を思って白澤がこんなことをしたのかは謎だが」
「さあ……あるいは民を導くことから逃げ出した私に対する何かの意思表示だったのかもしれないな……」
またしても自嘲気に笑う上白沢。自分の行為に自責の念を感じているのだろうか。
いかに愚昧な君主のもとであっても、帝を諌め続ける道もあったのだから上白沢の行為は民を見捨てたという考えも出来るだろう。
もちろん上白沢の判断が誤っていたとは言えないが。
「そんな……なんだよそれ! 慧音は悪くないじゃないか!
ただ単に生まれつき力があっただけで……そんなの私みたいな馬鹿と違ってどうしようもないことじゃないかよ……」
上白沢の様子に今まで黙っていた妹紅が叫び、最後は俯いて拳を握りしめながら消え入るように呟いた。
しかし“生まれつき”なんて言葉はこの世ではありふれている。
生まれつきが人生のほとんどを決めてしまうのだから、上白沢に関しては人と違って特殊だが生きているだけましだと思う。
「なあ上白沢、確かにお前は生まれに翻弄されたのだろうが、生きているのだからどうにでもなるだろう。
そうだな、君には教えておくが俺は元々人間だったんだよ」
「「えっ?」」
さすがに二人共驚くか。
「それも先祖に何がいるわけでもない純粋な人間だった。色々あったが今もこうして俺は生きている、割と充実してな。饕餮の体なんて人間には攻撃の的にしかならないのにも関わらずだ。
結局本人の心持ち次第。それに君に白澤の力があるなら今からでも民のために使えばいい」
「と、饕餮!? いや、それよりも今さら私に出来ることなんて……」
「さっき話した幻想郷の守護、やってみるつもりはないか?」
「……私が?」
興味はあるみたいだな。
「そうだ、君のような存在でも受け入れ、人間を守ることもできる。
今の君ならうってつけではないか?
白澤という大霊獣によって身体能力や寿命も大きく増加している今の君なら、大抵の妖怪には負けないだろうし長寿の守護者は貴重だから歓迎されるはずだ」
「……」
俺の話を聞いて考えこむ上白沢。
実際彼女が現時点でとれる最良の選択肢はこれだと俺は思う。
人間の欲望から逃れ続ける必要もなく暮らせ、彼女の後悔である民を守ることにもつながる。
「どうだ?」
「……わかった、その話受ける」
決心がついたのかしっかりとした眼差しでこちらを見ながら答える上白沢。
ふむ、こういう眼が出来るなら大丈夫だろう。生真面目な性格のようだし人里でもちゃんと生きていけそうだ。
少し前なら手柄欲しさに手を出そうとする陰陽師もいたかもしれんが、最近は幻想郷に向かった陰陽師が誰一人都に帰らないため、そういった輩はほとんど来ないようになった。
優あたりと友好関係でも結ばせておけば人里の守護者の位置で定着するだろう。
「そうか、なら里に入るために初めだけは私たちが手助けしよう。あまり表立って世話をしては逆効果だからある程度までになってしまうが。
まずは住む場所を見つけなければな」
藍の言葉に頷く。最悪優の時と同じように芝居をうてば里に住むきっかけは出来るから大丈夫だろう。
「……ありがとう」
「なに、気にするな。立場は違えど私たちは似た存在だからな。出来る手助けを惜しむつもりはないさ」
「そうか……そういえば妹紅はどうするんだ? 聞いた感じだと妹紅も幻想郷なら普通に暮らせそうじゃないか。私と一緒に来ないか?」
「……いや、私はやらなきゃいけない事があるんだ。だから一所に止まる訳にはいかないんだ」
「そうか……」
一瞬ためらいながらも妹紅の出した答えに少し気落ちした様子の上白沢。
「あ、でも、たまには顔を出しにいくよ。慧音の様子も気になるからさ」
上白沢の様子を見て慌てて付け加える妹紅。妹紅だけでなく慧音の方も相手を大事に思っているみたいだな。
上白沢もほっとしているようだ。
「それにもう一つ用事が出来たし……」
そこで何故か俺たちの方を見る妹紅。
何かしたか?
「ええっと、青…さん?」
「慣れないなら青でいいぞ」
「んんっ、じゃあ青。
頼む弟子にしてくれ!」
「……はあ?」
何を言ってるんだこいつは? 妖怪に弟子入りしてどうするつもりだ?
「さっき陰陽術を使ってただろう? あれを私に教えて欲しいんだ。こんなだからまともに教わることも出来ないし、さっきみたいに魔除け程度じゃ倒せない相手にあったら困る」
「正確には陰陽術とは違うのだが……ふむ……」
妹紅からは何やら確固とした意志を感じる。まあ大したものでもないし、これからも一人旅をするというなら教えといた方が良いかもしれん。
「俺は構わないが藍はどう思う?」
「私も構わないぞ」
「ならっ!」
「決まりだな。我流が混じっても良いなら教えてやるよ」
「ありがとう…ございます」
慌てて敬語で言い直す妹紅に俺と藍は思わず笑ってしまった。
「いや、無理に敬語にしなくてもいいんだぞ」
「うーん、じゃあ呼び方だけでも、これからは師匠と呼ぶ」
師匠……また懐かしい響きだな。彩音にお師匠様なんて呼ばれていた時代を思い出してしまった。
「藍は……先生でいいかな?」
「好きによんでくれ。
にしても私が先生で青が師匠か……まあ確かにそんな感じか。
さて、それじゃあそろそろ出発しないか?」
「そうだな、上白沢「慧音でいい」そうか、じゃあ慧音に妹紅は何か持っていくものはないか?」
「そうだな……今はこの家にも大したものはないし、すぐにでも出れるぞ」
「私は元々旅暮らしだから大丈夫だよ」
二人とも大した荷物はないようだな。
「よし、ならば行こう」
「「はい!」」
「観光旅行へ!」
「「はい?」」
「もともと俺たちは休暇をもらって旅行をしようとしていたんだ。その矢先に今回のことがあったからろくに楽しんでもいないんだよ」
「楽しみにしていたことをやらずじまいにするのは気分が悪いからな。
すまないがしばらく付き合ってもらってもいいか?」
「まあ……そういうことなら……」
「私も無駄な時間にはならなそうだし構わないよ」
よろしい、拒否すれば紫あたりに送って貰おうかと思ったが、二人とも構わないならわざわざ紫を呼び出すこともないか。
「では改めて行くとしよう」
俺の言葉に頷く妹紅たちを見てから慧音の家を出て都とは真逆に進む。
「さて、どこへ行こうか藍?」
「ふふっ、青が一緒なら何処でもいいさ」
問いかけに対して、俺の腕に自分の腕を絡ませながら微笑んで答える藍。
可愛いなぁ……
後に妹紅たちは、なぜあの時同行を拒否しなかったのかと激しく悩むことになった。
第三十四話投稿でした。
……うん、捏造八割の回だね。とりあえず原作通りなのは、妹紅の妖怪退治開始フラグときもけーね誕生くらいかな? あとは捏造w
反省はしている、後悔はしていな(ry
上白沢が後付けの姓という事にするか、元々付いていた姓という事にするかで悩みましたが、結局は前者を起用。
白澤の子孫と言っても諏訪子がやったみたいに出来た子孫ですね。
あ、上白沢は日本についてから日本風に着けた姓です。いくらなんでも三文字姓は大陸にないからなぁ。
元は白沢か白と言うことで。どうでも良いから書けなかった……orz
あと、今回から更新が不定期になります。
今回はギリギリ書き終えましたがストックもないし、明日からは引っ越しの準備やらでろくに時間がとれそうにないのです……
まあ停止ではないのでちょくちょく更新しますから見捨てず待っていて下さい。
感想待ってまーす。