三十三話
もこもこもこたんの巻
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今俺の目の前には震えながら刃物を突きつけてくる白髪の少女がいる。その奥にもう一人少女が横たわっているが、見たところ意識はなく、なぜか白澤に刺さっていたと思われる矢が近くに落ちているのが見えた。
藍もこの状況に混乱を隠せないようで、俺と同様対応がとれずにいる。
「妖怪! 私が相手してやる!」
困惑している俺たちをよそに、少女は再び叫んできた。
とりあえず彼女が握っている刃物に目をやると、なるほど魔除けの効果があるようで藍などは刃物に多少の嫌悪感を示しているみたいだ。
だが俺には無意味なもの。
「あっ!!」
おそらく少女には捉えられないであろう速度で刃物を弾く。
俺自身が魔除けの神でもあるのだ。神自身が直接鍛えて加護を与えたものならともかく、護身用に陰陽師たちが持っている程度のものならどうということはない。
目の前に妖怪がいれば少女の対応は当然なのだが、俺たちも混乱しているので情報が欲しい。
力ずくにはなってしまったが、動転している少女と話を可能にするには致し方なかっただろう。
「く、くそっ! 食うなら私だけにしてくれ! 頼む!」
「落ち着いてくれ。俺たちは少し聞きたいことがあるだけだ。危害は加えないよ」
俺たちの言葉にいまだ警戒は解かないものの、徐々に決死の覚悟のような表情が消えていく。
「本当か? 弄んで殺すつもりじゃないだろうな?
もしそうなら千年かけても復讐してやる!」
「嘘じゃない。信じてくれ」
まあ信じる云々より状況的に俺たちの話を聞くしか選択肢はないだろうがな。
しかし、千年とは……
彼女にとって奥にいる少女は家族なのだろうか?
余程大切な人なのだろう。
「……わかったよ」
「ありがとう。
じゃあ単刀直入に聞こう。額や胴に無数の目や角をもつ白澤という奴を見たか?」
「! あれは白澤って言うのか……
ああ、見たよ」
「やはりか。それで白澤は今何処に? あれは白澤に刺さっていた矢だろ。手当てでもしたのか」
「いや……」
先ほどまで冷静になっていた少女の表情が急に暗くなった。
「どうした?」
「それが……その白澤とか言うのが何処からともなく現れたと思ったら慧音の、あの子の前で急に立ち止まって……」
そう言っていまだ横たわって意識のない慧音というらしい少女を指さして語る。
「……それで?」
「すぐあとに一瞬光ったかと思ったらそいつは消えて、慧音は倒れたまま動かないんだ……」
そこまで言ってから白髪の少女はうつむいて拳を握りしめる。
しかし、困った……
白澤がここに現れた理由も、慧音という少女に何をしたのかもさっぱり分からないのだ。
本来は白澤は徳の高い統治者の前に姿を現すもので、道を誤ろうとしている統治者を諭しに現れることもあるが一農民の前に姿を現した例は聞いたことがない。また白澤が人を害したというのも聞いたことがないのだ。
「……藍、何か分かるか」
おそらく藍にも分からないだろうが一応聞いてみる。
「私にも白澤が現れた原因や何をしたのかは分からない」
やはりか……
「だが何か感じるな。勘のようなものだがこの慧音とかいう少女に白澤に似た気配を」
「なに?」
藍の言葉に思わず眉をひそめてしまう。
藍は勘だと言うが、藍の勘は実は野生の感覚に依っている場合が多いのでかなりあてになるのだ。
そしてそのような気配を感じるなら、何かを白澤は自分に由来するものをこの少女に託した可能性が高い。
「……わかった。少し思いついたから試してみたいことがある。
……そういえば君の名は?」
「……妹紅、藤原妹紅だ。こっちは上白沢慧音」
上白沢、あるいは上白澤……“白沢”と“白澤”か……
まず氏持ちがこんな場所にいるのがおかしい。上白沢に関しては出来すぎだろう。
「俺は八雲青、こっちは妻の藍だ。
妹紅、俺の推測が正しければ白澤の行動は上白沢に直接の危害はなかったはずだ」
「本当か?」
「ああ」
“直接”はな……
「とにかくまだ詳しく分からないから上白沢を調べさせてもらえるか?」
「……分かった」
何かしら上白沢について有用な情報を教えたのが良い印象を与えたのか割とすんなり了承してくれた。
「よし、では藍手伝ってもらっていいか?」
「ああ、任せろ」
何を、とは言わない。その程度は言わなくても分かる程度一緒に生きてるからな。
これから使うのは探知系の術。通常は憑き物に対して使い、一体何が憑いたのかを判断する術だ。
「陰陽術が使えるのか……」
正しくは陰陽道ではないがな。何しろ妖力で発動するように藍と二人で改良したのだから、意味合いは逆転している。
術も正常に作動して探知が始まった。
「さて、どんな感じかな……!? これは……」
思わず結果が分かると同時に藍と顔を見合せてしまった。
「……結果だけ言おう。上白沢には白澤が憑いている」
「な! 危害はないんじゃなかったのかよ!?」
今にも掴みかかって来そうな剣幕で妹紅が迫ってきた。
「落ちつけ。憑き物といっても呪いとかの類いとは別物だし、むしろ憑き物とは呼べないかもしれない」
「……どういうことだ?」
「確定ではないんだが、おそらく白澤の分霊のようなものと上白沢の魂が混ざりあっているんだ」
「は?」
ぽかんとだらしなく口を開けたまま固まる妹紅。
まあ無理もない、こんな例は他の憑き物でも聞いたことがない。白澤がいかなるものかを知っている俺たちにとっては更に驚きだ。
「白澤は本来霊獣であって人を害するようなことはしないし、むしろ人のために動く。そこから考えればこれは上白沢に害があるとはおもえないんだが、狐憑きのように祓えばいいような程度のことではないから分離は不可能だな」
それにしても何がここまで上白沢と白澤を結びつけたのだろうか?
普通はここまで混じり合うのは不可能だ。何かしらの強い因縁があったと考えるのが自然だろう。
「な……害がないって言っても影響はあるんだろう!?」
やっと我に返った妹紅が声を荒げる。
「ああ、ある。具体的にいえば上白沢はすでに純粋な人ではない。いわゆる半獣というやつになっている」
「え!?」
再び固まる妹紅。まあ無理もないだろうな、いきなり大切な人間が人外になってしまったのだから。
「さっき直接上白沢には害がないと言ったように、悪霊などに憑かれた訳ではないからこのこと自体は上白沢に悪影響はない。むしろ身体能力・霊力は相当あがるはずだ。
だが白澤の力を宿しているのはまずいかもしれない」
「……なぜ?」
「白澤は優れた統治者の前に姿を現す。逆に白澤が近くにいればその統治者は優れている証になるわけだ。
そこへきて上白沢が白澤の力を持っているなどと朝廷にばれてみろ。権力の渦に巻き込まれ、おそらくは二度と自由には生きられないだろうな」
実際にその現場だと思われるものを俺たちは見てきた訳だからまず間違いくそうなるだろう。
そういうことをする輩が求めているのが政治の助言だとは思えない。おそらくは自らの地位を確固としたものにするためだけに白澤を欲したのであって、それならば白澤の力を宿した上白沢の意思など不要。最悪なにかしらの術で意思のない人形にされかねない。
白澤の力がほしいという点では同じなのかもしれないがそこまで悪辣だと反吐が出る。
「そんな……」
「なあ妹紅、私にはお前と上白沢の関係が分からないのだが、一体どんな関係なんだ?
性も違うしそもそも藤原といえば都の中枢にいる貴族の名のはず。そんなお前がなぜこんな場所にいるんだ?」
妹紅のあまりの落ち込み具合に思わず藍が質問をする。確かにそれは気になってはいた。
藤原の氏は幻想郷で倒した陰陽師たちの最後の恨み言でよく耳にしたからある程度の情報は仕入れてあるが、都で権勢をふるった貴族の一門のはずだ。
「それは……」
なにやら話すのをためらっているようだが、やはり訳ありなのだろうか。白髪紅眼という見た目の奇異さが目立つがそれが原因なのかもしれない。
「一応お前らには慧音を見てもらった恩があるしな……
わかった、まず初めに言わなきゃいけないけど私は不老不死なんだ」
「「!?」」
不老不死!? そんなことが可能なのか!?
「まあ信じられないよな……これを見てくれ」
「おい、なにを!?」
固まる俺たちをよそに、妹紅は先ほど俺がはじいた刃物を拾い自分の腕に当てていた。
あわてて制止しようとしたが実にあっさりと妹紅は刃を引きそのまま腕を斬り落とした。
顔を少ししかめただけで平然としている妹紅に再び呆然としていると、驚いたことにすぐさま切り落とした腕は灰に、切り口には霧状の血が集まってきたかと思うと新たに腕が復元されていた。
「どう?なんなら頭でも心の臓でもつぶすよ」
「いや、いい……お前が不老不死なのは信じよう」
「よかった、一応痛みはあるからさ。不老不死になった理由は聞かないでくれ、あまり気持ちのいい話じゃないんだ。
で、話を戻すと私はもう三百年近く生きてる。不老不死になった時の出来事で都にいられなくなった私はその時から放浪を続けているんだけど、こんな髪と目の色だからどこに行っても迫害されるし、たまに受け入れてもらえても、何かの拍子で怪我をすれば、一瞬で治る私を気味悪がって最後にはみんな化け物呼ばわりさ」
そう言って自嘲気味に笑う妹紅。不老不死になった理由も気になるが聞かないほうがいいだろう。
不老になった苦悩ならばはるか昔に俺も経験しているから気持ちは多少わかる。だが俺は早い段階で藍という人生の伴侶を得られたから割と苦痛は少なかった。
その点妹紅は三百年一人という生き地獄だったのだろう。
「でも慧音は違った。他の村人たちは受け入れてくれなかったけど、慧音だけはそんな私を気にかけて家に泊めてくれた。
他の人たちが私のことを呪われた娘だと言っても、珍しい髪と目だなと言って少ない食料を分けてくれた。
私はそんな慧音に隠し事をするのが辛くなって、不老不死のことも喋ったけど以前と変わらず接してくれた。
だから私にとって慧音はかけがえのない存在なんだ」
なるほど……
妹紅にとって上白沢は三百年の孤独を癒してくれた大切な人間だったということか。
普段から非常識に接しているから思い至らなかったが、白髪に赤い眼は呪われていると見られてもおかしくない。いや、不老不死になる過程で実際に呪われたのかもしれない。
それを受け入れた上白沢の度量が大きかったのか、それとも似たような体験でもあったのか……
「…ん、うぅん…」
「慧音!」
目覚めた本人に聞くとしようか。
第三十三話投稿でした。
まあ今回からオリジナル設定が多くなること。
とりあえず慧音がワーハクタクになった主な原因はこれだということになってます。
まあそれに至る経緯の理由などは次回。
あ、はっきり言っておきますが光源氏の真似事はしませんよw
あと、けねもこなんてパパは許しません!って青が言ってた(ぇ
まあ別段拒否するわけではありませんが、うちは友情みたいな感じで。
何はともあれ明日な回も説明が多くなりそうだ……はぁ。
感想待ってまーす。