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東方饕餮記  作者: 待ち人
34/51

三十二話

慮外の出会いの巻




照りつける太陽とうだるような暑さの下、俺は立ち尽くしていた。


「なあ藍」


「なんだ青?」


「俺はなんでこんな場所にいるんだ?」


そして今俺がいるのは妖怪の山ではない。

目の前にあるのは巨大な門と大路。

そう今俺は陰陽師の巣窟、平安京のすぐ前に立ち尽くしているのだ。


「紫の小粋な贈り物だろう」


「俺はもっとありきたりな贈り物が欲しかった……」


なぜ、こうなったかと言うと……





~~~以下、回想~~~

「ふう…」


最近は幻想郷内で無為に暴れる陰陽師たちもだんだんと減り、多少は暇になりつつある。

昔のように新たな趣味に走ってもいいかもしれないな。


「今暇かしら?」


そんなことを考えていると紫に声をかけられた。


「ん、暇だぞ。どうかしたか?」


「ちょっとあなたに贈り物があるのよ。最近頑張ってくれていたでしょう。

私なりに感謝の気持ちを伝えたかったのよ」


「なんだ、前もいったがこれは俺たちの意志なんだから気遣いは無用だぞ?」


「いいのよ、私がそうしたいんだから。あなたの気遣いも無用よ」


ふふっ、と微笑む紫。

その微笑みに何やら悪寒を覚えるが気のせいだろうと無視して話を進める。


「そうか、それならありがたく受け取っておこう」


「そう?嬉しいわ。それじゃあ……はい、これをどうぞ」


紫が手渡して来たのは半分に折られた小さな紙。

これは一体なんだろうかと首を傾げているとまたしても先ほどの悪寒を感じる。


視線を戻せば胡散臭い笑みを浮かべる紫。


「じゃあ、それは向こうで読んでね」


「は?」


「じゃあ、いってらっしゃ~い」


「うおっ!?」


紫の言葉に呆気にとられているといきなり足下にスキマが現れ、俺はなすすべもなくそれに飲み込まれていった……




~~~回想終了~~~



それで気づけばこんな場所に…


ちなみに紫の手渡した紙には


『夫婦で旅行でも楽しんでいらっしゃい。ちなみに路銀は藍に持たせたわ。

じゃあ楽しんできてね~』


などと書かれていた。


聞けば藍も似たような経緯でスキマ送りにされたらしい。違うのは路銀も渡されていたことくらいか。


「いいじゃないか。突然で驚きはしたが、青と二人で旅行なんて二千年以上していなかったからな。

思う存分楽しもうじゃないか」


「だからと言ってこんな場所から始めなくてもいいだろうに……

まあ確かに久しぶりに旅行するのも悪くないし、情報集めなら都が一番なんだろうが」


「そうだぞ。それに今すぐ帰ってもどうせまたスキマ送りにされるだけだろう。しばらくゆっくりしても罰は当たらないさ」


「そうだな……」


楽しそうな藍を見ていたら燻っていた不満も消し飛んでしまった。

まあ突然なのは頂けないが……悪くない贈り物だぞ、紫。


「そうと決まれば話は早い、早速都で情報収集だ。私は呪符で妖力を隠していく、青も妖力をしまうのを忘れるなよ?」


「ああ、殷の時の二の舞は御免だしな」


藍の忠告に従って完全に人化する。霊力も十分だし格好さえ整えれば陰陽師で通るだろう。


「さて、じゃあ行くぞ!」


俺の手を引いて足早に進み始める藍を見て思わず頬が緩んでしまった。







羅城門と呼ばれる門をくぐり、朱雀大路と呼ばれる大通りを進む。

道を行き交う人々の職種は乞食から陰陽師や官位もちまで様々だ。


「ふむ、繁栄しているみたいだが格差が激しいな」


「ああ、上の者が下の者の面倒をしっかり見ていないのが原因だろう。さっきの羅城門から所々に物乞いがいるし、中には死んでいるのに放置されているものもいる。

門の外には死体も捨てられていたしな。あれでは死体を狙った妖怪が大量に集まってくる。ある意味陰陽師が幅を利かせているのは上の杜撰さのおかげなのかもしれないな」


藍が僅かに顔をしかめながら分析を口にする。

これを見ていると人間は本当に進歩しているのか疑わしくなってくる。


昔の夏王朝などは貧しくても農民まで活力があったし、上の人間も一本芯が通っているような印象を受けた。


いくら技術が進歩してもこの有り様ではな……


「下をないがしろにした国はいつでも滅ぶ。それに関しては身近に体験したからな。この国もいつか滅ぶのだろうさ」


かつての殷のように。

大陸の歴史もそれを証明している。


まあ妖怪になった俺には関係のない話だ。人間同士で揉めてくれれば準備をする期間が増えるだけの話。


「さて、どこか宿場でも探すとするか」


「そうだな……ん、何か感じないか?」


「?」


とりあえずは泊まれる場所を確保しようと思った矢先、藍が何かを感じ取ったようで立ち止まって辺りを警戒する。

いまだに気配などの察知に関しては元野生動物だった藍には敵わない。俺も気配を探るがなにもわからない。


「これは……妖怪、ではないな。非常に強い霊力を感じるが人間ではないぞ」


「霊力?都の守護獣でも現れたのか?」


霊力となると注意しなければならないか…


「藍方角は分かるか?」


「ここから北西にしばらく行った場所だな」


「そうか……様子を見にいっておかないか?もし守護獣あたりだったら都に入った段階でどうせ逃げられやしない、なら先手をうった方がいいだろう」


「……それも一つの手か。

ふふ、昔を段々思い出してきたよ」


「なんだか余裕だな」


「もちろん、私には神様の旦那がいるからな。二人でかかれば恐れるものなどないさ」


あくまで楽しんでいる様子の藍に思わず苦笑してしまう。


とりあえず藍に示された方角に向かうと、そこには大内裏に通じる朱雀門。


「さて、どうしたものか。

さすがに大内裏に昼間から無断では入れないしな」


「なら青だけ貴族に雇われた陰陽師として入り、その後腕輪の力で私を呼び出してくれ。それなら私が門で調べられるおそれもないだろう」


「なるほど、それならいけそうだな」


藍の提案に従い素早く変化して格好を陰陽師のものへと変える。


「さて、では…! 藍、お前の感じた気配とはこれか?何やらこちらに向かって来るのだが……」


「そうだ、まさか気づかれたか!?」



今にも朱雀門へと踏み出そうとした時にこちらへ近づいてくる巨大な霊力を感じて思わず身構える。


確かにこれは人間ではない。こちらへ近づいてくる速度は人間の出せるものではないだろう


「来るぞ!」


藍の言葉に大内裏の方を睨むと、その上空から巨大な一つの影が現れ、南に向かって消え去っていった。


「藍、今の影の正体わかったか?」


「ああ、見間違えかとも思ったがあれだけ特徴的なやつを間違えられるわけもないだろう」


「やっぱりあれは……」


はっきりと捉えた訳ではなかったが、俺が見たのは胴や顔に多数の目と角を生やした牛のような生き物。


俺の記憶が正しければその正体は白澤はくたく


大陸では皇帝の徳の証として龍と同様に好んで身の回りの装飾に用いられる。


かの伝説の黄帝に長々と妖魔について講釈し、更にはいかに政治をすればそれらを避けることが出来るかを更に長々と講釈したという話は有名だ。


大陸だけではなくこんな場所まで来ているとは。


「しかし、何か様子がおかしかったな。まるで何かから逃げるような……」


確かに藍の言うとおりだ。

あの速度は尋常じゃなかった。

白澤ならば歓迎こそされるにしても逃げるような理由が思い付かない。

しかもかすかに角以外の何かが体から生えていたのが見えた。棒のようなものだったが先に羽のようなものが見えたからおそらく矢だろう。


「ん?今度は人の気配だな。しかも大量に」


藍に言われて再び朱雀門に視線を戻せば現れたのは50人前後の人間たち。

見れば数人の陰陽師とあとは矢筒と弓をかけた男たちだ。


なるほどな……


「一体何があったんだ?」


「……大体事情はわかった」


「?」


藍はまだわからないか。

だがこの状況と都の様子から大方予想がついた。


「……あの集団はおそらく白澤を生け捕りにするのが目的だろう」


「なに!?」


「おそらく為政者としての在り方を諭しにきた白澤を見て人間が邪心を沸かしたのだろうさ。

白澤は徳の象徴。帝の近くに白澤がいるだけで民から受ける印象はうなぎ登りだろう。大方自分たちの支配を磐石にしたかったに違いないさ」


「……腐ってるな」


全くだ、白澤は鳳凰や麒麟に並ぶ霊獣だ。その力を我が物にしようとするとは。


「本来は白澤は人間側の存在だから手出しは控えたいんだがな……」


「だが手出しするんだろ?」


「……ああ、ちょっと感情的になっているかもしれないが久しぶりに腹がたった。無駄なことかもしれないが見過ごせないな」


「私も同感だな。なにあれくらいの集団なら相手をしても大した問題にはならないから思うようにすればいいさ。白澤も助けた相手をいきなり襲うようなやつではないだろ」


藍も同意してくれたか。

たかだか陰陽師数人と普通の人間の混成集団では万全な俺たちをどうこう出来るはずもないし、都を出てから行動に移せば他の陰陽師にも気づかれないだろう。

それに少し思うところがあるしな……

藍も口には出さないがおそらく同じことを考えているはずだ。


白澤の幻想郷への勧誘。

むしろ人間側に回る存在だが、だからこそいい。

本来妖怪側である紫が人里側に回って初めて今の均衡が保たれているが、それは紫個人という妖怪にはあまりいいことではない。

ここで白澤を里の守護獣として勧誘出来れば紫もだいぶ楽になるだろう。


俺たちはさっそく隠行して奴らについていくことにした。







「ところでこいつらは白澤の居場所がわかっているのか?」


「おそらくな。明らかに目的地があるように移動している。多分さっきの矢のようなものが索敵補助具か何かだったのだろう」


二人でこそこそと奴らのあとをつける。どうもあいつらは白澤の居場所が分かるみたいだからな。


「お、ここ……なのか?」


奴らがやっと立ち止まったのは寂れた農村の片隅に建っている民家の前。


なぜだ? 白澤がこんな場所に立ち寄るとは思えないんだが……


「どうなっている……」


「わからん……! おい藍! あいつら火矢を持ち出したぞ」


いきなり火矢を放つつもりか。確かに霊獣である白澤はこれくらいで死なないだろうが、民家なのだから住人もいるだろうに……


「どうする?」


「……そうだな……もし白澤に何かあって、なぜ助けに入らなかった問い詰められたら面倒か。

よし、出るぞ藍」


「わかった」


次の瞬間には俺は龍に変化し、藍は幻術を用いて襲いかかった。


「!? なんだこいつら? しかも龍だと!?」


「うわああ! なんだよこの蜂の大群は! やめろ、近寄るな!」


一瞬で阿鼻叫喚の光景に変わる。

俺の尾の一撃で集団の大半を吹き飛ばし、残りは藍の幻術で正気ではなくなっている。


「こんなもんか……」


「そうだな。少なくともこの場に何があったか喋れる人間はもういない」


「よし、では白澤との対面といくとするか」


あいつらの索敵が正しいならばこのような民家に白澤がいる理由が気になる。

藍も頷きを返して共に民家へと向かう。


次第に強くなるあたりの霊気を感じながら家の中へと一歩を踏み出した瞬間―――


「来るな!」


一人の少女に刃物を向けられた。

少女の髪は年の割に珍しい白髪に赤い瞳、明らかに普通の人間ではない。こちらの存在感に気圧されたのか手が震えている。


ふと家の奥にもう一人の少女が横たわっていることに気がついた。

その横に落ちている矢にも。



これはどういうことだ……?




第三十二話投稿でした。



さて、この辺からオリジナルが多分に混ざります。その説明やらでなぜか三話分も今回の話を引きずることに……

平安京の頃の時代背景も今一掴めていませんが資料とにらめっこしてなんとか……


青の言っていることが薄情に見えるかもしれませんが、妖怪的な思考になっていることのだめ押しですかね。それでも元来いいやつではありますので誤解のないよう。



最近感想がめっきり減ったもので若干へこんでおります……

寄付するような気持ちで感想を書いてもらえると意欲が右肩上がりになる……かもしれないです(汗)



感想待ってまーす。

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