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東方饕餮記  作者: 待ち人
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三十一話

息子と父の会話の巻



後書きはちょいとネタバレ。

いや、まあ本編で丸わかりなんですが……

幻想郷作成を始めてから百年ほどがたっただろうか。今のところ計画は順調そのものだ。


この幻想郷は人里を囲うように円形になっている。

理由は簡単、結果を張る際に利用する霊脈の形が円であるためと何より人里と外界の交流を減らすためだ。


もともと山奥であるこの地は他里との交流すらほとんど行われておらず、俺たち妖怪の山を代表とする大妖怪が住み着くこの地では移民も少ない。


しかも紫が意図的に流した『幻想郷は妖怪の楽園である』という噂が広まり始めているため、以前は俺たちを恐れて住み着かなかった妖怪たちも集まり始めて余計に交流は途絶えがちになっている。

移民なんてあり得ない話だ。


こうすることで外の技術の流入はかなり少ない。

だが、ある人種はむしろこの地に飛び込んで来る。


それは陰陽師だ。


都では魑魅魍魎を打ち払い占星術によって政治を左右するほどの力を持つ陰陽師だが、それゆえに権力闘争に巻き込まれやすい。


そうした闘争に敗れた陰陽師や、実力不足で官位も貰えずにあぶれた陰陽師は功や生計をたてるために積極的に妖怪退治に乗り出す。


そこへ来て紫の流した幻想郷の噂。

まあ、食い付かない方がおかしいんだろうな。


それでも―――


「相手が悪かったな」


「ひぃっ!このっ妖怪風情がっ!」


「あまり騒ぐな。見苦しいぞ」


今俺の目の前にはそうして幻想郷に流れてきた陰陽師の集団がいる。

過半数は既に生き絶え、残りもほぼ瀕死であとは喚くばかり。


……全く、霊力はあっても中身がこれではお話にならん。


いい加減終わりにするか。


「…ふんっ」


「ぎゃあああっ!」


目の前の陰陽師たちに妖力による光線を乱射すれば、断末魔と共に奴らは跡形もなく消えていった。


「……ふう」


「ご苦労様」


かすかな徒労感を覚えてため息をつけば、後ろに控えていた藍が労いの言葉をかけてきてくれた。


基本的に直接戦闘するのは俺で、結界など補助術式に対処するのは藍の役割だ。


「……大丈夫か?」


「ああ、もう馴れたさ」


藍が気遣うようにこちらを覗きこんでくる。


俺が人間を殺したのはここ数十年が初めてだ。

今までは殺すのではなく驚かすことで妖怪としての畏れを集めてきたが、幻想郷に陰陽師が流れつくようになってから初めて人を殺した。


意外というかやはりというか、何の感慨も沸かなかった。

ただ敵対する者を排除した。俺が感じたのはその事実だけだった。


ところが藍や紫たちは俺の昔を知っているから何か変わった様子を見る度に気遣ってくれる。


何度大丈夫だと言ってもやめる気配はないから今はやりたいようにさせている。


「しかし、下手なことさえしなければ手を出さないと言うのにこいつらは……」


「仕方ないさ、妖怪を退治したくてここに来たんだ。

目の前に妖怪の巣窟を叩き潰したという名誉がぶら下がっていれば飛び付かざるを得ないんだろう」


陰陽師たちが先ほどまでいた場所を見て再度ため息をつく俺に諭すように語る藍。


そもそも幻想郷は陰陽師が流れつくこと自体は拒んではいない。というよりむしろ歓迎しているくらいだ。


陰陽師が居着くことで妖怪退治の方法が広まれば、勢力の均衡という面から見れば非常に有益なのだ。


妖怪は人間を食らい、人間は妖怪を退治する。


この関係の維持に役立っている内はいい。

だが往々にして彼らは徒党を組んで幻想郷の妖怪を全滅させんと企むことがある。


こうした場合は容赦はしない。


俺・葵・天魔・紫の誰かに藍・彩音のどちらかが支援として出張り、そうした輩を叩きのめす。


むやみに妖怪狩りをしてはいけない、という不文律が人里ではあるので、これにはそれを無視した者への制裁の意味もこめられている。


「難しいものだな。紫の流した噂には陰陽師を誘いこむ狙いもあったんだろうが、こういう輩ばかり居着いてしまうもんだから」


「それでも全部が全部ではないだろう。中には人格者もいるみたいだし、そうした人間だけが残ればむしろ好都合さ」


藍の言う通り、中には妖怪だらけの幻想郷に住まう人間を守るためにやって来た人格者もいる。


そうした連中は人里を守るために動くので、こちらから人里を襲ったりしない限り行動を起こさない。


妖怪側も人里に襲撃をかければ手痛い反撃を受けること、それと何より紫が恐ろしいので人里を襲うことはない。

何しろ人里を襲えば制裁すると紫自身が付近の妖怪たちに通達したのだ。

風見くらいの大妖怪ならまだしも中級以下の妖怪にとって紫の宣言は恐怖以外の何ものでもない。

まあ中には本能に負けて人里を襲おうとするものはいるが、そういった奴らの末路は決まってスキマだ。

よって馬鹿な陰陽師を除けば今のところ無用な人間と妖怪の争いはほとんど起きていない。


「それもそうか。

紫のことだからその辺まで計算済みなんだろうな」


「だろうな。私にも紫の考えの全貌は分からないさ」


「さすが妖怪の賢者といったところか」


紫の二つ名を思い出して苦笑する。

賢者にしてはやたらに胡散臭い仕草をするやつだがな。


「さて、仕事も終えたことだし我が家に帰るとしようか」


「そうだ、今日は私が夕食を作らせてもらうぞ。

最近は彩音にも太鼓判を押されるほどになったからな」


「へえ、彩音の太鼓判とは楽しみだな。だがあまり彩音の仕事をとってやるなよ?

どうもあいつの生き甲斐は仕事みたいだからな」


「把握してるさ。

だが仕事と言うよりも、青に尽くすことを生き甲斐にしているんじゃないか?

全く幸せものだな」


何故かいたずらっぽい笑みを藍が浮かべているので頭を軽く小突いてやる。


その後も軽口を叩きながら二人で帰路についた。






「ごちそうさま」


「お粗末様でした」


いつも通り夕食を終えた俺は居間でしばし家族との憩いの一時を過ごす。


碧が橙や優を振り回している様を見ていると自然と笑みがうかんでしまう。


こういう時はふと旅に出ている弥彦のことが思い出される。元気にやっているだろうか……?


「なに、どうしたのそんな顔をして?」


「ん、紫か。なに、弥彦のことを思い出していただけさ」


「ああ、そういうことね。

確かに今回はちょっと長いわね。まあ大丈夫よ、彼らを倒せるなんて妖怪でも一握りよ。滅多なことはないでしょう」


「それでも心配になるのが親の心情というものさ。

そういえば例の術者は順調に育っているのか?」


「ええ、やっぱりあの土地の影響なのか優秀な術者が多いわ」


例の術主とは龍神に助言を貰って育てている術者のことだ。

やはり龍穴の影響で優秀に育つようだ。これならいつか俺たちの望む術者も現れるだろう。


「まだ結界を張れるほどじゃないけど実力は相当なものだから、人間側の勢力としても役に立っついるわ。


ただ最近は社が神社扱いになって博麗神社なんて呼ばれているけど」


「まあ社に霊力の高い巫女服姿の女性がいれば神社だと思うよな」



神社と言っても祭神はいない。場所的には龍神を祀るべきなのかもしれないが、龍神とは本来祀るべきではない神だ。


神というのは神としての名前と役割を貰った時点で力に制約がつく。

諏訪子や俺には祟り神や魔よけの神という縛りがあったように。同じ神力を使っても俺は諏訪子の真似は出来ないし逆もまた然りだ。


ところが龍神は違う。

龍神というのはあくまで種族が龍であるからの名前であって、神としての名前がついていない。

だから役割も定義されずに曖昧になっている。

霊脈も龍神が司っている一面に過ぎない。


そんな龍神にはっきりとした志向のある信仰などもたらしては逆効果だ。


だから俺も紫も龍神のことについては語っていない。


その結果として祭神不明という妙な神社が出来てしまったのだ。


「だがあそこは人里から遠すぎる。どうせ大した信仰にはならないさ」


「まあ、どちらにしろ関係ないのだけども。これをきっかけに博麗神社の跡継ぎ探しという名目で将来有望な人間をつれてくるのも手かもしれないわね」


その後も紫との会話はしばらく続いた。







風呂から上がりさっぱりしたところで部屋に戻ろうと思うと感じなれた気配が家に増えているのを感じた。


「これは…弥彦か!」


急いで居間に向かうとそこには久しぶりに見る息子の姿があった。


「おう、帰ったぜ親父」


「おかえり。何事もなかったか?」


久しぶりに息子の無事な姿を見ることが出来たのが嬉しく、とっておきの酒を出して杯を二つ持ってきた。

居間には俺たち二人しかいないし、ちょうど満月が望めるから月見酒にはもってこいだろう。


「お、旨そうな酒だな。

ちょっと面白いことがあったが、他は代わり映えしないいつもの旅だったよ」


「そうか。それと面白いこととは何だ?」


旨そうに酒を仰ぐ息子に思わず頬が緩む。


「ぷはっ、いやな、萃香のやつが面白いやつを拾ってきたんだ。なんでも人から鬼になったんだそうだが、確か親父も似たような経験してたよな?

鬼になった経緯とかは詳しく聞けなかったが面白いだろ?」


「それは……人から鬼にとは…」


まあ不可能ではない。

俺みたいに術で乗っ取ったり、禁術に手を出した結果鬼になったりする可能性はある。


あるいは鬼に近い本性を持ち、何かのきっかけで完全に鬼へと堕ちたのかもしれない。


「そいつはどんなやつだ?凶暴極まりないとか」


「いやいや、ちょっと変わり者だが普通にいい奴さ」


ならば術の方なのだろうか。まあ他人の過去を勝手に推測するのは誉められた行為じゃないからよしておこう。


「まあお前が無事で帰ってきてくれたならいいさ」


「全く……何歳だと思ってやがるんだか」


「ふっ、お前がいくつになろうが俺の息子であることは変わらない」


この後俺たちは夜が明けるまで飲みながら語り明かした。


我が家は男性比率が高いから息子との男の会話はとても楽しい。こうして息子と酒を酌み交わしながら語り明えるのが何より嬉しい。




ちなみに朝になってあまりに酒臭い俺に、碧が抱っこを嫌がったのが今世紀最大の衝撃だった。


第三十一話投稿でした。



今回はやたらあからさまに伏線(?)が張ってありましたが、先に言っておきましょう。



私は茨歌仙は読んでいない!


ならどうするか。


原作?その幻想をぶち壊す!



……ってことで原作ブレイクを本格的にしますのでご覚悟を。


そういえば茨歌仙って原作と言えたっけ?

まあこんなレベルです(汗)



最近は原作キャラを出す目処がつき始めて嬉しい限り。

でも他のキャラの影が……

そういえば橙の影が薄すぎるぜ……


まあいずれ出しますw



感想待ってまーす。

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