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東方饕餮記  作者: 待ち人
29/51

二十七話

竹林の危機の巻


日もくれて暗くなり始めた迷いの竹林の一角。そこには二人の小さな影があった。


「うーん、ここどこだろう…もう暗くなっちゃったし」


「うぅ、らんしゃまぁ………」


それは意外にしっかりしている碧に泣きべそをかいている橙。妖獣と式である二人は暗闇でもある程度の夜目はきくのではあるが、竹林に住む妖怪の力が増すのはまた夜でもある。

そこかしこに気配を感じては、それを避けるように竹林を進む二人。


「ねぇ、橙。本当に藍お母様の位置が分からないの?お母様の式なのに」


「うぅ、だめでしゅ、強力な霊力につながりが乱しゃれているのでわかりましぇん…うぅ…」


「困ったなー。とにかく妖怪の気配を避けて先に進むしかないよ」


またしても本格的に泣きそうな橙をなだめて先に進む二人。遠くの妖力は感じられないが、目視出来るか出来ないかくらいの距離に近づけば相手の気配を感じられる。

二人は体も小さく原型が獣なので一応気配の消し方は自然と身に付けており、それを利用して相手に悟られないように進路を決めていた。


「やっぱりあの時大人しく山に戻れば良かったんですよぉ…」


「今さらそんなこといわないの!橙だってあの時は止めなかったし」


二人が竹林に入りこんだのは碧の一言が原因だった。


日も中天を過ぎたころ、二人は山の頂上にいた。

そこから眺める景色は素晴らしくこの辺りを一望できるのだが、今日に限って碧の目に止まったものがあった。

それが迷いの竹林。視界に入るギリギリの位置ではあったが、だからこそこの視界に入る場所を全て知っておきたいという好奇心が碧に沸き上がってきた。

ふもと近くの川や湖には行ったし、人里や森も間近で見たけど竹林には誰も連れていってはくれなかったのだ。


結局碧が橙を押しきる形で探索が開始された。


青たちに山を二人だけで降りてはいけないという言われていたにも関わらず。


結果、絶賛迷子中だ。


「…うぅ…帰ったら怒られる…」


「まずはおうちに帰らないと…」


小声で会話しながらも更に進む。

しかし進んでも進んでも二人の目に入るのは竹、竹、竹。


たまに光っている竹もあったが見るからに怪しいので二人は触らなかった。




完全に日も暮れ辺り一面が闇に包まれ始めた時、二人の行く手にある物が見え始めた。


「あれは…家?」


「ですね…でもなんでこんなとこに…」


そこにあったのは妖怪のいるこの竹林に似つかわしくない立派な屋敷。

二人が周りを見てみれば妖怪の気配は全くしない。


「とにかくここに住んでるってことはここの地理に詳しいんじゃない?行ってみよーよ」


「ええ?!危険ですよ!こんな場所に住んでるってことは強いってことじゃないですか!もし何かあったらどうするんですかぁ」


「でも動かなきゃ始まらないよ。さ、行こ!」


「うぅ…」


そして二つの影は突然現れた建物の中に吸い込まれていった…







「よりにもよってここか…」


二人が建物に向かう少し前、青たちは二人の妖力の痕跡を辿って迷いの竹林の前までやって来ていた。


「間違えないのかい?」


「ああ。だがこの先は竹林の霊力で妖力の痕跡も私と橙のつながりさえも乱されてしまっている。

いまだに中にいる可能性が高いことくらいしか…」


たずねる葵に当初より幾分か落ち着いた様子の藍が答える。

つながりは乱されていて感じられないが、逆に感じられないということは未だに竹林の中にいる可能性が高い。

或いはもう既に手遅れだった可能性もあるが、それは誰も口にしなかった。


「…それでどうするんですか?無闇矢鱈に竹林に入っては私たちまで二人の二の舞ですよ?」


「この竹林…上空にも霊障が発生してますから、飛んで上から探す訳にもいきませんね」


天魔の言葉に考えこんでしまう一同。


「…こういう時には一番単純に行くのが一番さね」


「単純にですか?」


「そうさ。要は何で迷うかって言えば、この霊力と竹林が合わさったせいなんだから、片っ端から竹をなぎ払ってやればいいのさ」


「な、なぎ払うって…」


頭を抱える天魔。

だが天魔以外からの反応がない。


「…父上、母上?

まさか本当になぎ払うなんて言いませんよね!?」


「いや…案外いけるかもしれんな…」


「あぁ、事は一刻を争う。考えている時間が惜しい」


「ちょ、父上、母上!?

彩音さんも何か言って下さい!」


青と藍の言葉に慌てふためいて彩音に助けを求める天魔。

もしなぎ払いなどしたら立場上後処理は天魔の仕事になりかねない。

ちなみに葵は仕事を放棄するのであてにはならない。


「ええっと…時間がないし私も葵さんの案で…」


「あ、彩音さんまで…」


がくっと膝から崩れ落ちる天魔。元々葵の意見に藍に続いて賛成しようとしていた彩音だったが、天魔に割り込まれて少し気まずい思いをしながらもやはり葵側に回ったのだった。


「どうせ私は後処理係ですよ…」


「いじけるな天魔。父も手伝ってやるから」


「父上…」


「私はやんないけどね」


「黙ってて下さい!」


青の救いの一言に一筋の光明を見た覚えの天魔だったが、葵の茶々に思わず叫びかえす。


「ほら、ふざけてる場合じゃないぞ」


「…ふぅ、すみません。

結局こうするしかないんですか…」


「諦めろ。これしか思い付かん」


青の言葉に諦めがついたのかため息をついて竹林に向き合う天魔。


「とりあえず辺りに碧と橙がいないことを確認してからやってくれ」


「そうだね。巻き込んじまったら本末転倒だ。目視できる範囲で更地にしてやるよ」


妖力を拳に込めた葵がぐるぐると肩を回す。天魔は能力で雷雲を呼び出し、彩音と藍は弾幕を展開する。青はかつて諏訪大戦で使った極太の光線を放つ準備をする。


「辺りの確認はいいな?よしそれじゃ「あの、ちょっと待ってくれないかしら?」 !!」


一斉に攻撃を開始しようとしたところで竹林の奥から声がかかる。


不審に思った五人がそのまま待機していると竹林から飛び出してくる2つの影。


「お父様、お母様!」


「らんしゃまぁ~~、せいしゃま~~」


飛び出してきた影は藍と青に向かってくるとそれぞれ二人に抱きついた。


「碧!橙!」


「二人とも無事だったか!」


抱きついてきた碧と橙を抱き締める青と藍。


「なんで、二人とも竹林に入ったりしたんだ」


「…ごめんなさい、碧が全部悪いんです…」


「違うんです!私が止められなかったのがいけなかったんです!」


「…どういうことだ?」


それぞれに違う主張をする二人に戸惑う青と藍。


「その辺は後にしてもらっていいかしら?」


「!?」


そんな二人の戸惑いを遮るように話しかけてくる先ほど攻撃を止めた声。

青たちが再び竹林の方へ目を向ければ、そこには銀髪の女性が竹林の境界線の手前でたたずんでいる。服は青と赤の奇抜な配色をしたものだが、青たちには女性からは何か威厳のようなものが感じられた。


「全く誰かと思えば子供が二人やって来るものだから驚いちゃったわ。しかも片方は四尾だし」


「貴女が二人を助けてくれたのか?」


やれやれとばかりに肩を竦める女性に訊ねる藍。


「ええ。まぁ道案内をしただけだけど」


「そうだったのか、それはすまなかったな。ところで貴女はなぜこんな場所に?見た所人間のようだが…」


銀髪の女性の返答に藍は感謝と共に疑問を投げかえす。

それもそうだろう。

確かに女性から感じられる力があればこの竹林でも生きていけるだろうが、誰がわざわざ好き好んで妖怪の住みかに住み着こうと言うのだろうか。


「そこらへんは聞かないでくれるとありがたいわね。色々と訳ありなのよ」


「訳あり?」


「ええ。まぁ無理にでも聞こうというのなら…」


「言うのなら?」


「…本当は力に訴えるとか言いたいんだけど、さすがの私でもあなたたち全員を相手にするのは避けたいわ。だからお願いするしかないんだけど…」


「いや、そんなことはしないさ。二人を助けてもらった恩もあるしな」


青の言葉にほっとした様子の女性。


「そう…助かるわ。

あなたたちって一つにまとまっているのが不思議なくらいに力が強いから…

差し障りのない程度に事情だけ教えておくわ。

私の名前は八意永琳。私はある人を守るために逃げてきて追っ手から身を隠してるの。だから私たちのことは誰にも喋らないでくれると助かるわ」


「そうか。分かった約束しよう。私は藍、こっちが夫の青でこの二人が碧と橙。あとこちらから葵、彩音、天魔だ。

しかし竹林の中だけではその守りたい人とやらも退屈ではないのか?」


お互いに自己紹介を済ませたところで、藍の突然の疑問に永琳は苦笑を漏らす。


「あの人はニートだから…」


「にーと?」


「あぁ、何もしないで1日中ごろごろしているだけの人ってことよ。

何度注意しても聞く耳もたないし…」


はぁ、とばかりにため息をつく永琳に同情する一同。

特に天魔はちらっと葵に目をやってから同じようにため息をつく。


「貴女も苦労しているのですね…」


「ええ、全くよ…」


「うちは動き過ぎて困ってますが…」


「どちらにせよ極端なのは面倒なのよね…」


「? 二人ともどうしたのさ?」


「あなたのせいですよ、葵!」


お互いの環境に共感している二人。そこにまるで何も分かっていない葵が話しかけるがそれに天魔がキレる。

あまりの天魔の剣幕に珍しく冷や汗を流す葵。新たな味方を見つけた今日の天魔は強かった。


「ま、まあとにかくあたしらが黙ってればいいんだろ?」


「ええ、よろしくお願い。お礼と言ってはなんだけど、何か困ったら竹林の端に書き付けを置いてちょうだい。私これでも薬師だから薬くらいなら調合するわよ」


「そうだったのか。だが二人を助けってもらったのにそこまでしてもらう訳には…」


「いいのよ。それにあなたたちみたいなのには恩を売っておくのが利口なのよ」


ふふっといたずらをする少女のように微笑む永琳。

大人びた容姿との落差が激しい。


「ふっ、なら遠慮なく頼らせてもらうとしよう。まあ何か困ったら言ってくれ」


「ええ、それじゃあ」


青の言葉に満足したのか踵を返して竹林に消えて行く永琳。


「これにて一件落着だな」


「ああ、さて…」


和やかな雰囲気に包まれる一同の中、青と藍は胸元に顔を埋める碧と橙に視線を向ける。


「皆に迷惑をかけたんだ、詳しく説明して貰うぞ」


「は、はい…」


「うぅ…」


再会の興奮が冷めた碧と橙は両親と主人の視線に縮こまるのだった。


第二十七話投稿でした。



今回は竹林“が”滅亡の危機でした。危うくもこたんの起こした火事なんて目じゃない感じになったかも……

まああそこは竹の成長速度がおかしいみたいですがね。



永琳との邂逅。

以後あまり交流はないので出番はしばらくありませんが一応布石。

ニートはやっぱりニートでした。

姫(笑)ですからねぇ……



さて、次回は本格的に幻想郷作成に向けて話を動かす予定です。神霊廟で龍神の設定が掘り下げられないかガクブルしてますが…


感想待ってまーす。

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