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東方饕餮記  作者: 待ち人
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二十六話

迷子の巻


「ふぅ…」


俺は今一人軒先で茶をすすっている。この茶というものは最近大陸で仕入れたもので、大変高級なものらしいが故あって手にいれたものだ。


ここに住み始めて何年経っただろうか?少なくとも千五百年以上経っていると思う。

子供たちは未だに元気だ。弥彦は立派な一本角の鬼に成長。ただ、なぜか碧と優はある程度まで育つと成長しなくなってしまった。具体的に言えば碧は橙と同じくらいで、優は彩音より多少幼いくらいだろうか。

これに関しては一応推測は立っており、その一番の原因は精神だろう。


妖怪というのは精神に依った存在だ。ちなみに妖獣は肉体に依った存在である。


だから、妖怪は肉体的に滅ぼしても蘇ることが多く、有効打にするにはそれこそ妖怪並みの力がなければならない。

また人間や非力なものに出来る妖怪への有効的な攻撃手段は、概念的なものや妖怪の精神に痛手を与えるような一種儀式的な手段だ。


また、妖獣は肉体的な損傷に対して妖怪と比較すると弱い。

ただし、精神的な攻撃に対して強く、また自身も精神的攻撃に長けている場合が多い。藍の幻術がいい例だ。



ここで我が家の子供について考える。



まずは弥彦。

弥彦は他の子たちに比べて自立心が強く、あまり子供扱いされるのを好いているようではない。

親としては寂しいばかりだが、ちゃんと困った時、具体的には鍛練なんかで行き詰まった時などは頼りにしてくれているみたいだし、別段関係がこじれている訳でもないので仕方ないかと思っているがな…


話を戻すと、弥彦の精神年齢はもはや成熟した鬼のそれだ。強くあることに貪欲で酒を好む(昔十歳で呑もうとしたのでお仕置きしたことがある)が、認めた相手には寛容で嘘はつかない。


ついでに家族思いのいい息子だ。強くて見た目も性格もいいので最近は女性の鬼からの人気が高いらしい。


まぁ息子が欲しいなら俺より強くなければならんがな!

…普通娘のための言葉な気がするが気にしない。


次に優。

優はかなり特殊な場合であるので断言出来ないが、やはり精神的な成長に肉体が引っ張られているのかもしれない。


実は優はしっかりしているように見えてかなり甘えん坊だ。

俺と彩音と優しかいない時なんかは思う存分甘えてくる。父様、母様、なんて言って抱きついてくる。


その様の可愛さと言ったら…


まぁ姿が彩音と数歳差の妹にしか見えないので妙な光景ではあるが…


この様に成熟した個としての精神を持っている訳ではないのと、神として確固とした信仰を持ち始めたのが今の背丈になった頃だったのが影響し、結果的に成長は中途になってしまったのかと思われる。

本人は表向きは残念がっているが、内心いつまでも甘えられるから気にしてはいないようだ。


ふっ、父に隠し事など出来ると思うなよ。



最後に碧。

碧はおそらく幼い頃から橙と遊び続けた影響だろう。本来は妖獣の子である碧は年月と共に成長し、それに伴って精神も成長するのだが、橙と遊ぶことが大好きな碧は成長することを無意識に拒否している節がある。


そこへ来て俺の妖怪の血が、その強い意思に応じる形で成長を止めてしまったのかもしれない。


昔に比べて力の制御は出来るようになったが、やはり見た目相応の無邪気さが目立つ。

ちなみに碧の尻尾は四尾だ。

生きた年月を考えれば四尾は少ない気がするが、やはり精神の関係が原因なんだろう。

いささか残念な気持ちがするが、それでも着実に成長しているのであまり心配はしていない。


なんにせよ飛び込んでくる碧と橙を藍と二人で撫で回すのは変わらない。

最近は橙を引き連れて妖怪の山の周りを歩いてまわるのが楽しみらしい。

さすがに鬼たちも幼い二人に勝負はふっかけないし、天狗は微笑ましい目で二人を見守っていてくれるから安心だ。





そうそう鬼と言えば、最近鬼の中で武者修行が流行っている。諸国を回って強い者を探しては戦うらしい。

鬼より強い奴なんて極少数だと思うんだが、勝てなくても一定の強さや気概を見せた相手には褒美をやっているらしい。

つまりは酒宴に招待するということ。


…ふと思うがこれは褒美なのだろうか?


まぁ、ちょっと前に呑ませすぎて死にかけた奴がいたみたいだから、多少は加減している…と思う。さすがに認めた相手を殺すのは鬼の性分が許さないだろうから大丈夫だろう。


この武者修行は萃香たち鬼の四天王も行っており、これに弥彦も誘われていたりする。

弥彦も興味津々だったので行くのかもしれない。

あいつは十分大人と言えるから自分の世話くらいは自分で出来るだろう。


何?嫁だ?もちろん俺の許可が必須だ!



…ごほんっ。まぁそんなこともあって今妖怪の山は多少は静かである。


おかげで鬼がはめを外し過ぎないように監視しなくても良くなり、葵も時間的にだいぶ余裕が出来ている。


そして俺は最近ちょっと忙しい。


原因は信仰だ。

ある日諏訪子たちを訪ねた時だが、談笑している最中にふと神奈子が思い付いたように言ったことが発端だった。






「そういえば青は信仰集めはしてるのかい?」


「ん?そういえば何もしてないな」


「何も?何もって信仰に報いることも?」


「そうだな…すっかり忘れていた」


俺の言葉にあきれた顔をする諏訪子と神奈子。


「あんたねぇ…仮にも神様なんだから貰った信仰に報いないとばちが当たるよ」


「…神様なのにか?」


「上手いことを言ってる場合じゃないでしょ。確かにもともと妖怪として強大な青にとっては死活問題じゃないかもしれないけど、同じ神様としてはね…」


「それに神力はかなり便利だからねぇ。

私たちは名前と信仰によってある程度力の縛りを受けているけど、応用すればかなり万能な力だよ。例えば私が巫女を生み出した時も、大地という生み出すものを操る私の能力を神力で強化した結果だからね」


真剣に神としての在り方について考える神奈子と、神力を便利な道具扱いする諏訪子に思わず苦笑がもれる。


「まぁ、俺はだからこそ神力は使いたくない部分もあるのだがな…

しかし、信仰に応えてやらないのも悪い気がするしなぁ…」








このような会話があった後、結局は可能な限り信仰に応えることにしている。

やり方は至って簡単。

誰かの祈りを感じたらそこに移動して妖怪を叩きのめし、藍に札で合図を送って腕輪を使ってもらうだけだ。


祈りを捧げる木彫りや偶像の類いが置いてあれば、祈りを感じてその付近に移動出来るので紫の手を煩わすことがない。

今のところ大した妖怪に会うこともなく順調に仕事をこなしている。


今啜っているお茶は供物として供えられていたものの一つであり家族にも好評だった。いつか大量に手に入れるつもりだ。


「おーい、青。ちょっといいか?」


そんな思考を遮ったのは倉庫の方から聞こえてくる声。


そこへ向かえばほくほく顔の一人の小男。その手には最近鍛え上げた妖力入りの鉄を抱えている。


「これを加工して欲しいんだけどさ」


「またお前は…遠慮を知らないのか」


「なに言ってんの。遠慮なんかしても技術は進歩しないぞ」


「はぁ…分かった分かった」


相も変わらず図々しいというか…


この男、実は河童である。名前は河城こうた。



出会いのきっかけはひょんなことであり、河原まで碧たちが遊びに連れて行った時にたまたま出会ったのだ。最初はこっちの妖力に怖じ気づいていたかのかろくに会話も出来なかったが、無邪気に話しかける碧たちに警戒心を薄くしたのか最後には談笑するようにまでなった。


その会話でわかったのだが、河童はものづくりを好むようだ。こうたも例に漏れず自分の作品を自慢してきたが、いまいち用途がわからないものから革新的なものまで様々だった。


ただ気になったのが金属類を使ったものがないこと。

事情を聞いてみれば河童は金気が苦手らしく、金属類を加工出来ないそうだ。


金属加工さえ出来れば人間にも後れをとらないのに、と悔しがっているこうたを見て思い出したのは俺の作っている妖力を込めた鉄だ。


妖力で鉄のまわりを覆っているからあるいは河童も金気に当てられることがないのではと思い、試しに翌日手渡してみたら予想が当たった。

これにはこうたは文字通り飛び上がって喜び、制止を振り切って河童の里にそれを持ち帰ってしまった。


それからは定期的に俺が河童の里に鉄を加工して渡す代わりにそれで生まれた技術の恩恵にあずかっている。

最近は電気なるものを発見し、発電機という電気を蓄えるものと、電気で動く機器を色々ともらった。


これがなかなか便利で、温度が調整出来たり夜でも簡単に明るくなったりとなんでもありだ。


明かりの方は月見酒の風情がないという鬼の苦情で使ってはいないがな…



「おお、ありがとう!」


「まぁこっちもいい思いはさせて貰ってるからな」


この後二人で日が暮れるまで会話した。



夕食時になったのでこうたと別れて居間に向かおうとするとなにやら落ち着きのない藍が目に入った。


「どうした藍?やけに落ち着きがないじゃないか」


「青!碧と橙が帰って来てないんだ!

おかしいと思ったら、天狗や鬼も昼過ぎから二人を見ていないみたいで…」


「なに!?」


「最後に見かけた辺りから考えてふもとに降りてしまったと考えれば霧の湖がある方角だ。その先は人里、そしてあの竹林が…」


「なに…?湖や人里もまずいことはまずいがあの竹林は…」


この辺りで言う竹林。

それはこの辺り一帯でもかなり強い霊地に入り、その霊力故に入りこめば迷い、最後には竹林を住みかにする妖怪の餌食になる。


通称迷いの竹林。


「今は時間が惜しい。いくら力があっても心は子供だ、霧の湖で迷うかもしれないし人里で迫害されるかもしれない。最悪迷いの竹林にまで行ったらあの子たちに何があるかわからない。

とにかく行くぞ!」


あたふたする藍の手を取り、居間にいた彩音、天魔、葵にも事情を説明してついてきてもらい家を飛び出す。




無事でいてくれよ…

第二十六話投稿でした。



やっと次は久しぶりの原作キャラ登場でしょうか。

しかしあからさまに迷いの竹林に踏み込んでますフラグが立ってますが、ニート姫は出ないかも……

だってニートだし(笑)


しかし面子が面子だから、竹林が邪魔だとか言って消しとばしかねないな……

ま、ご冥福を…



そういえば竹林は妖精たちの伝承では幻想入りしたみたいな話でしたが、あくまで妖精の伝承なのでこの作品では最初からあったと言うことでいきます。

異論はあるかと思いますが、平にご容赦をば…



さりげなく出た河童のこうた。いや、最初は大栄(だいえー)にしようかと思いましたがなんかアレだったので普通にしちゃいました。


これで変態的な河童技術に……




感想待ってまーす。

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