二十五話
信仰集めの巻
「優、諏訪子様たちに挨拶しなさい」
「初めまして、八雲優と申します」
「おお、彩音の子かい?可愛いなー、しかも彩音に似て礼儀正しいね」
今日は青と彩音が優を連れて諏訪子と神奈子のところにやって来ている。前々から一度優を見せに行こうとは思っていたが、なんだかんだで今まで延びてしまっていたのだ。
しかしやむにやまれぬ事情ができたために、今日こうして二人のもとを訪れている。
「しかし、なんだかこの子からは色んな力を感じるな」
「うーん、霊力に妖力、おまけに神力まで感じるね。持っていない力なんて魔力くらいじゃない?」
「えぇ、私たち二人共元人間で神、そして青は妖怪でしたのでこの子は色々な力を持っているようです」
神奈子と諏訪子の発言に彩音が答える。
「あれ、青って元人間だったのかい?」
「あぁ、話してなかったか。まぁ、この体になるには紆余曲折あったんだ」
「ふーん、青も大変だったんだね。それについてはまた詳しく聞くとして、この子の神力だけどどうするの?このままだとただ神性を持っているだけだから実際に奇跡を起こしたりは出来ないし、存在が不安定になるおそれもあるよ」
「そうなんだよ。それで何か神としての先輩たちに助言をもらいたくてな」
諏訪子の言葉に困った顔をする青と彩音。
優は彩音とは違って正しく神の子として生まれたため、信仰を集めなければ弱体化の一途を辿ることになる。半分が人と妖怪なので消滅することはないが不安定なのになるのは違いない。
もともと神が生まれるのは、信仰ありきで次に神が生まれる、といった順番なので、信仰の維持にのみ気を使えばいい。
また神と神の間に子が生まれた場合はそれを信者に知らせれば自然とある程度の信仰は子にも宿るため、自力で信仰を集めるまでの間に神力が尽きてしまうことはほとんどない。
しかしこの点優はいささか特殊だった。母親は信仰されない神という特殊な神であり、父は信仰されてはいるがそれは微々たるもの。しかも彼らの子であるということを知らせるのは、妖怪であることを知らせるのと同義であるため、青の信仰が少ない状態では逆効果の可能性もある。
これに弱りきった青と彩音が神としての経験が長い二人に相談しに来たのだ。
「何かいい案はないでしょうか?」
「うーん、そうだね…
他ならぬ彩音と青の頼みだしなんとかしてあげたいんだけど…神奈子、なんかいい考えないの?」
「あー、そうだな、ちょっとばかしずるをすればなんとかなるかもしれないよ」
「ずる?」
「本当はこういうのは私も好きじゃないんだけどね…」
ここは妖怪の山に一番近い人里。基本的に妖怪の山には近づかなければ危険はないので、たまにそれを無視して夜に村を出たり、山に山菜をとりに行く愚か物を除いて平和に暮らしていた。むしろ妖怪の山にすむ大妖怪たちを警戒して他所から妖怪がやって来ないため、妖怪に怯える他の村よりましかもしれない。
そんな平和な村は、ある日突然騒然とした雰囲気に包まれた。
きっかけはどこからともなく流れてきた噂。
その内容は村人たちを震え上がらせるのには十分だった。
「妖怪の山の天狗達が村を襲おうとしている」
冷静に考えればなぜ分かったのかと疑問も浮かぶはずだが、村人たちにそのような冷静な判断が下せる余裕があるはずもない。
すぐさま逃げれば良かったのだが、村人たちにとって先祖代々受け継いできた土地を手放しということはすなわち路頭に迷うことになるということだ。新たな土地を見つけて移住しても、一から土地を耕して作物が実るようになるにはかなりの時間がかかるのだ。その間の食べ物や衣服に関しては全く保証されない不安定な生活をおくれことになってしまう。
このことが村人たちの足を鈍くしてしまった。
そして…
「き、来たぞー!天狗だー!」
逃げおくれた村人たちの前には大量の天狗。数は20~30であり、とても村人たちのお粗末な武器で対抗できる相手ではなかった。
もはやこれまでかと思った村人たち。恋人や夫婦たちは今生の別れとばかりに抱きしめ合って、男たちはそれでも村の者を守ろうと農具を手にして構える。
「この村の村人の一人が我々の領域を侵した。これは野放しには出来ない。同胞らよ、我らの生活を妨げるものを討ち取れ!」
「「「「「おおー!」」」」」
一人の天狗が声を張り上げ、他の天狗たちがそれに気勢をあげる。
村人たちにとっては寝耳に水の話であり、口々に誤解だと叫ぶのだが、天狗たちが止まる様子がない。
今にも村人が殺されそうになったそのとき
「待ちなさい!」
天狗と村人の間に光輝く影が割ってはいった。
「なんだ貴様は!」
「双方ともに武器を納めなさい。今回のいさかいは誤解に過ぎません」
「そうはいかん!いきなり現れた貴様の言うことなど信じられるか!」
そう言って先ほど喋っていた天狗が人には反応出来ない速度で光に向かってうちかかる。
が、天狗と光がぶつかり合った瞬間辺りは閃光に包まれて誰もが目をつむり、再び目をあければそこにいたのは変わらずにいる光と倒れ伏す天狗。
「他の方々もああなりたいのですか?もしそうならばいくらでもお相手しましょう」
「くっ!」
光の挑発に天狗たちは顔を歪めるが、不利だと思ったのか先ほどの天狗を回収して立ち去っていった。
「あなたは…」
それを見ておずおずと光に声をかける村人たち。
「以後このようなことが再びあったならば私を呼びなさい。必ずや駆けつけましょう」
光はそう告げ、次の瞬間には消えてしまった。
これには村人たちも驚き、村の守護神様だと光が消えた場所を拝みはじめる。
一方村のはずれでは…
「みんなご苦労だったな」
「いえ、いつも八雲家の皆さんにはお世話になっているので、これくらい訳ないですよ」
「ふぅ、緊張しました…」
「よしよし、よく頑張ったな。もっとも彩音の方が緊張していたようだが…」
「ら、藍様!」
青と彩音と藍と優、そして先ほどの天狗達が集結していた。
なぜこうなったかと言うと………
「猿芝居をうつのさ」
「猿芝居?」
神奈子の発言に疑問符を浮かべる一同。
「そうさ。たとえば妖怪に襲われる村を神秘的な何かが救ったとなれば、必然的にそれは神だと村人たちは考えて奉るだろう。襲う側の妖怪ならあんたたちの仲間にいっぱいいるだろうし、村はどこか近くのものを選べばいいだろ?」
「なるほど…まぁ、確かにずるだな」
「えぇ、しかしこの際それもやむを得ないかと」
「そうだね。うちと信仰が被らない場所でやってくれれば何も言わないよ」
その場にいた大人たちが次々と神奈子の案に賛成の意を示す。
「優、出来るか?」
「はい!やってみせます!」
「しかし予想以上に上手くいったな」
「あぁ。幻術の方も問題なく効いていたようだし大丈夫だろう」
青と藍が結果に満足した様子で話し合う。
今回の作戦は天狗達と優本人の他に、幻術で優の姿を見せないようにするために藍が協力していた。
優は見た目は人間の少女なので、よしんば見た目でなめられなくても妖怪退治屋程度に思われてしまう可能性があった。それを藍の幻術で村人たちには光に包まれているように見せることで解消したのである。
「これでしばらくは一安心だな。村人たちのほうには山への不可侵を約束すれば、今回の件は水に流すとでも言っておけばいい。向こうも優が抑止力になっていると判断するだろうから、よりいっそう信仰するだろう」
「なんだか青が腹黒いな」
「そう言うな。娘の幸せを願うのが父親の役目ってやつさ」
何やら黒い考えの青に苦笑する藍。娘を思ってのことだし、自分もそうしようと思っていたので何も言わないが。
「皆さん、今日は私のためにありがとうございました!」
「娘のためにありがとうございます」
「いいんですよ、気にしなくて。また困ったら言ってください。
あぁ、報酬は新作の漬物でお願いします。他の奴らより先に食べられるなんて…」
じゅるり、と一人の天狗が涎を慌てて飲んだ音が響き、それを聞いた周りの天狗たちが一斉に笑い始める。
かくして優の信仰は無事に得られ、道中の安全を保証する神として祠に奉られるようになったのだった。
第二十五話投稿でした。
これ書き始めたのが先月の7日だからもう1ヶ月ですか。
早いものですね~ 意外に続くもんだ……
さて今回は優の信仰集めでした。
今回は信仰を集めなければやばいみたいになっていましたが、信仰集めをしなくても妖怪になるだけじゃ?と思う人もいますでしょうね。
神仏が信仰されなくなったものが妖怪になる。よく言われる話ですからね。
私もそう考えたんですが、そうすると信仰がなければ諏訪子たちが消えるって表現がおかしい気がしたので、東方世界では神仏の人格と妖怪に墜ちた人格は別物になってしまうという脳内妄想設定に基づいて書きました。
だからあのまま神力がなくなれば半分だけと言えども神の優が優でなくなる可能性があったということです。
それがつまり存在が不安定になるということです。
まぁ逆は?と言われると弱いですが…
……後書きでぐだぐだと説明してすんません。
話の途中で入れると長くなりそうで嫌だったんですよ。
そして猿芝居をうつ。
いやぁ神奈子さまの出番が欲しいなぁって思ったらなにやら黒幕みたいになっちゃいましたw
ガンキャノン打たれちまう……
さて次回は1ヶ月たってオリキャラもだいぶ増えたのでキャラ紹介+おまけでいきたいと思います。
感想待ってまーす。